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ハンティング:クロ  作者: ロッカ
1/1

これでいいんだ

 ――― ピチャン

ピチャン

―― ピチャン


どこからか水が滴る音がする。


男は深くフードを被った頭を、暗く淀む通路の奥へと向けた。


フーッ・・フーッ・・フーッ


・・人間ではない獣の様な、それでいて粘つくような息の洩れる音がする。

男はソレと目が合うと、幅広の両刃の剣をしっかりと片手で持ち直した。もう片方の手にはマシンガンを構える。

ソレが強烈な殺気を男に向かって放った。間を置かず咆哮が上がる。

男は向かって来たソレの鉤爪を一重でかわすとソレの背にマシンガンを打ち込んだ・・・・


随分集まったな。

ピクピクと繰り返し反射的痙攣をしている化け物。その死にゆく化け物の目を男はザックリと抉り取り、似たような目がギュウギュウに収められているケースに入れる。それを腰の魔道具入れに突っ込んだ時の事だ。微かな声を聞いた。


人の声・・・・か?


まさか。

こんな所に・・・居るわけが・・・

男は全身を耳にしてじっと待った。静寂が広がるばかり。何も男には届かない。

聞き違いか・・・

そう思った時。


「・・あ・・・さ・・・・」


・・・!


男は俊敏な動作でさっきとは反対側の通路を曲がった。


子供だ。

何かの・・・恐らく以前は人だった肉塊の横にぺたんと座っている。


「・・・おかあさん・・・おかあさん・・・おき・・て・・・おなかすいた。」


か細い、今にも消えてしまいそうな声で、母親だったのだろう今は腐臭すら漂わせている死体を揺すっていた。

男は子供に近寄り側にしゃがんだ。

子供が男の存在に気付き、のろのろと顔を上げて男を見た。水色の硝子玉の様な眼。その眼に男の姿はどう写っているのか。


「おかあさん・・・うごかない。もうずっと・・・・・・・おなかすいた。」


そしてまた揺すり始める。


「おかあさん・・・おかあさん・・・・」


男は黙って手を差し出した。


「・・・・おかあさん・・・」


男は首を振って子供の体に手を回すと、抱えて立ち上がった。


「・・・・おかあさんが・・・じゃ、なきゃ・・・ぁ・・」


子供の意識がそこで途絶える。



男は子供が気絶しただけなのを確かめると、一度冷たいコンクリートの床に降ろした。そしてため息をつくと道具入れから黒い布を取り出し肉塊を出来るだけ掻き集め、背負うと片手で器用に子供を抱き上げ人のすむ世界への・・・通路の出口へと向かった。


「おうおう、久し振りだなブラウ!半月ぶりの地上はどうだ!」


剥げた頭を脂でてからせた中年の男が親しげに男に声を掛ける。

男はそれに曖昧に頷いてみせてから5個のケースを放る様にして乱雑に散らかるデスクに置いた。


「こりゃまた稼いできたな!しかもこりゃ・・・全部上位の化けモンだらけじゃねぇか。相変わらず腕は逸品だな、お前は。」


半分呆れるように中年が言うのをまた頷いてからデスクの前の椅子にどさりと座る。そしてもう何も話しかけるなという様に顎を胸に落とした。

愛想の方も相変わらずだな。


「じゃ、ちょっくら換算してくるからな。」


中年の男の名はイダレンと言った。

ブラウと呼ばれた男とはもう長年の付き合いになる。

男の本名が果たして「ブラウ」と言うのかはわからない。誰かがそう呼んでいたのを聞いて彼も口にしているにすぎない。本当の名かどうかはどうでもいい、偽名を使う者なんざごまんといる。ブラウは半月に一度こうやって化け物を駆除してここへ換金しに来るハンターでしかない。


ブラウは凄腕のハンターだ。

もう10年以上の付き合いになるが、彼が並み以下の化け物の目を持ってきたことはない。

大体が上級、最上級の化け物だ。

イダレンはケースの蓋をスライドさせて、ギッチリと詰め込まれた化け物共の目を一つ一つ丁寧に取り出す。気持ちのいい代物ではないがケースの中に入れると自動的に防腐処理されるので匂いはない。

細かい仕切りの付いた別のケースに次々と目玉を移していく。全部で58個。大型の冷凍庫に入れ、保管は完了だ。

イダレンは目玉をしまうと同時に出てきた蒼いカード・・・ハンターの最高金額を示す色だ・・・コイツ以外お目にかかった事はない・・・を取るとブラウが待つカウンターへと戻った。

テーブルに放り投げるとブラウが身じろぎして立ち上がった。


「次の仕事はな、」

「少し間を置く。」


イダレンが驚いて顔を上げた。ブラウは報酬を受け取るとすぐ次の仕事を受け取って帰る。

それは生まれた頃からこの生臭いギルドにいたイダレンが初めて聞いたブラウの言葉だった。


「・・・・・・・・・あ?・・・・え?・・・」


呆けたように意味をなさない声を出すイダレンに、ブラウは一言一言区切るように言い置いた。


「・・・仕事、を、休む。」


それでもまだ啞然としているイダレンを横目にブラウは出入り口へと向かった。


「・・・・連絡する。」


そう言い置くとドアを潜った。


外に出た途端刺さる様にした陽光に男はフードの下の目を顰めた。

普通の人間にしたら弱い日の光でも人生の大半を暗い穴で過ごしてきた男には強く感じる。

男は鬱蒼と茂った森を見上げた。

100年前はこうではなかった。

旧時代的な建築物に、まるで覆い尽くす様に茂る緑の繁殖者に男はため息をついて借りの寝床へと還った。

寝室の扉を開けると小さなふくらみが穏やかに呼吸していた。



その半年――― 子供を施設に送った。



それまで何の感情も見せなかった子供が泣いて彼の膝に縋った。だが彼は。


「此処じゃない。お前の場所は」


――― たったの一言で下らせた。

何度も何度も振り返る。これ以上泣いてる顔を見ていたくなかった男は静かにドアを閉めた。

それが何の感情かもわからない間々。



あれから10年が経った。

相変わらずハンターをしている。

肌を焼くような太陽と


「・・・俺だ。1196ポイントに弾薬、エアー、食料を。4日に到達予定だ。」

『ブラウ、まだ飛ぶのか?もう1年だ、そろそろ地上に』

「以上だ」

『待て!』


ブラウは地下を制覇し、次は天空に住まうモンスターを駆除を始めていた。

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