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第五十三話『天空の国・スナッピィ』


 「もしかして、お父さんなの……? 」


 完全にミステイクだ。 聞きたい事が山積みなのに面倒な事になってしまった。

 ちょっと頭の中で状況の整理を試みたが、かなり拗れてしまったと言える。


 ①湊一家が農民の生命線であり信仰の対象になっていたハーヴェス・ドラゴンをノリで殺害、捕食してしまう(神の味)


 ②食ったドラゴンの子供が親を追って地上に舞い降りるも、ゴリラみたいな魔物の襲撃を受けて殺されそうになっていた。


 ③ハーヴェス・ドラゴンに娘を喰われ、恨みを募らせていたジジイが登場。ちろるがゴリラの魔物を残虐に殺し、その強さを目の当たりにしたジジイがドラゴン殺しを依頼してくる。


 ④依頼は断ったものの、ドラゴンの子供がすり減った体力と魔力を補うためにチョリスを誘拐。 湊一家総出で追いかける事になったので、ドラゴンに詳しそうなジジイに利用価値を見出した俺は(ノリで)同行させる。


 ⑤ドラゴンの巣があると噂されていた巨大樹ハーヴェスの頂上付近で何故か激かわショタを発見。その友人(?)である半獣人に襲われるも知能の低さにつけ込んで、なんとか和解にもっていく。


 ⑥巨大樹・ハーヴェスの人が住めるはずのない高度には古城が埋め込まれていて、その中では数人の人間と、大昔にハヴェドラに喰われたはずのオバサン(ジジイの娘)が暮らしていた。


 「うぉ〜ん! うぉ〜ん! 」


 ジジイが娘の腰に縋り付いて泣いている。 みっともないったりゃありゃしない。 本当に連れてこなければ良かった。 死後の世界だと思ってるようだが、コイツと娘の感動の再会など誰も望んじゃいないし、湊一家にとって

は全くの無駄な要素だと言える。


 「なにがなんだか……。 ひとつ、お尋ねしてもよろしいでしょうか。 あなた方はどうして、このスナッピィまで辿り着く事ができたのですか? 」


 「それはこっちのセリフだ。 どうしてお前らはこんな所で生きていられる」


 婆さん(ジジイの娘)は下を向いたままモゴモゴと何かを言っている。


 「……我々は、『(アルヴォル)』の賢龍に仕える〝龍の民〟です。 ルーガー……地上ではハーヴェス・ドラゴンと呼ばれている賢龍によって選定され、このスナッピィに召喚されました」


 「説明が必要な単語を説明抜きで連発するなと両親から教えられなかったかお嬢ちゃんよ。 ……親の顔が見てみたいと思ったが、そこにいるハゲジジイが親らしいな」


 「キェーーーーエイ! 」


 後ろにいた若い男が奇声を上げながら斬りかかってきた。 懐にナイフを隠していたようだな。


 \ギィン! /


 ふむ、チョリスがかっこよく止めてくれた。 さすが俺の相棒だ。


 「確かにウチのボスは口がワリィが、いきなり刃物を向けるなんてあんまりだろう。 こちらに敵意はないと言ったよな? ……信じられないのなら、この場で裸踊りでもして見せようか? 」


 ナイフを振り上げた男が膝から崩れ落ちた。 人にナイフを向けるのが初めてだったのだろう、腕の震えを懸命に抑えようとしている。


 「おぉ……。 ちょりっさんかっこええなぁ」


 「……チョリス、悪いな。 じゃあ裸踊りを頼む」


 「……え? 」


 「絵じゃない。 自分で言っただろう、実際に踊っているところをコイツらに見せてやってくれ」


 「あ、いや……。 なんつうか、今のは、言葉のあやというか……」


 「早く踊ってくれ。 男に二言はないと言っていただろうが」


 「そんなこと言ったっけか……? 」

 

 「ちょりっさぁん。 ウチもなぁ、ワンちゃん達となかよぉしたいねやんか」


 「姫もそう仰っている。 チョリス頼む」


 「……わかった。 うまくやれるかわからねェが」


 タンスから黒と赤のマジックペンを取り出し、チョリスの腹に顔を書いてやった。 チョリスは「サンキュー」と呟き、意を決した様子で踊り出す。


 「みなとくんはそろそろ服着た方がええんちゃうか……? 」


 「ん? 何故だ。 俺も敵意がない事を示したい」


 「いや……。 あれやねん、みなとくんの全裸はあかんねん。 なんかな、ポップさが足りないねんな。 変態感が上回ってしまうというかやな……」


 「はははっ! どうしたちろる、ここにきてよく喋るな。 お前もこの天空の城にテンションが上がっている事が見て取れる」


 「あの、いいでしょうか? つい先刻……。 ルーガーに異変があったのか、コルーガーが突然ここから飛び立ちました。 私がここに来て40年。 初めての事です」


 イレーナ……。 親父がギャン泣きしてる割に冷静過ぎるだろう。 まず中に通して貰って茶でも飲みたいのだが。


 「イレーナ婆さん、ちょっと非常識だろう。 ウチは総大将自ら全裸になって、副大将が裸踊りまでさせられているんだぞ? 中に案内して茶の一杯でも出したらどうだ? 」


 「コルーガーが戻ると同時にあなた方がここへ現れました。 親のルーガーがいまだ帰らない理由と何か関係があるのですか」


 無視か……。 客の方にお茶を出してくれなんて言わせておいてとんでもない奴だ。 40年も雲の上で生活しているとここまで浮世離れしてしまうものか? まぁしかたないか。


 「お前らはここでドラゴンと共存しているんだな」


 「はい。 賢龍様に仕え、共生しております。 タグチ、説明を」


 若い男のうちの一人、丸メガネを掛けた細身の男が一歩前に出た。


 「話していいのかイレーナさん。 言っちゃあ悪いがまだ得体の知れない方々だ」


 メガネをかけているくせに、わざわざメガネをずらして肉眼で俺の顔を睨み付けてくる。 なかなか生意気そうな男だが、歳は俺より10くらい上だろう。


 「構いません。 どの道私たちは抵抗する術を持たないのですから。 誠実に、嘘偽りなく対応させていただくしかありません」


 「……そうかい。 えぇと、総大将さん、僕はタグチ・エイスケだ。 主にルーガーの健康管理を担当している」


 タグチはメガネのくせに生意気にも握手を求めてきた。 こんなところに住んでるような奴だから変な菌でも持ってそうだが仕方ない、握手くらいはしてやらんとな。


 「ふむ、俺はミナト。 カミダミナトだ。 ……ん? なんだタグチ、腕にタトゥーなんか彫りやがって。 メガネの癖にイキるなよ」


 「これは龍擲(りゅうてき)の紋章というんだ。 君たちに説明するにはまずここから。 スナッピィの住人は身体のどこかに必ずこの紋章を持っている」


 「ふむ、ちょっと待て」


 ちろるが生きてるかわからないくらい退屈そうにしているな。


 「ちろる、説明は俺とアホで聞くから城の中で遊んでなさい」


 「んえっ。 ……ええの? スナッピィの人たちに怒られん? 」


 「おいらの国をみたいのか? そんなら案内してやるよっ! えっとー、きろるだっけか? おまえの乗ってる水のおばけに、おいらも乗らせろっ」


 「だっ、だめだろリクっ! そんなこと」


 白旗を持ったデブやら他の奴らが「おやめくださいリク様」とか必死に止めようとしている。 リクはここでは結構偉い奴なのか。


 「構いません! アマンダとデールは城内を回るリク様と湊一家のお方に付きなさい。 ……チロルさんと仰いましたか、何かありましたらその二人になんなりと」


 イレーナの指示に従った二人が、ちろる、リク、ケイの後に続いた。


 「気遣いありがとな。 ……おいジイさんいつまで泣いてるんだ、そろそろ目を覚まして話を聞けよ。 これは現実で、お前の娘は生きていた。 タグチ続きを聞かせてくれ」


 「あぁ。 僕たちスナッピィの住人は——」


 「ちょっと待て、お前らが客人にお茶どころか椅子の一つも出せない世間知らずだから俺が用意する。 ……俺が優しくするのはここまでだからなボンクラども」


 タンスを現世の原宿に繋げ、タピオカミルクティーをスティール。 思いの外強めにギャル店員の抵抗に合ったため一撃離脱。 協力的なタグチとイレーナにはタピオカミルクティーを渡し、残りの奴らにはコンビニからコーラとメントスをスティールして振る舞う。


 「おぉっ!? なんだそれは! まさか地球に繋がっているのかそのタンス!? ミナトさん、僕もコーラがいい! コーラをくれるか! 」

 

 「なんだタグチ、わがままな奴だな。 ほら、お前には特別に2リットルをやろう。 嘘偽りなくスナッピィについて語れよ」

 

 タグチはウキウキで一度城の中に戻っていくと、コップを持って帰ってきた。 コップで飲まないとうまくない、などと謎のこだわりを語ったが心の底からどうでもいい。

 ゴクゴクとうまそうにコーラを煽り、一息ついた。


 「世間的に、ハーヴェス・ドラゴンは人間を捕食するとされているが、そうじゃない。 たしかに彼らは人間を丸呑みする。 けどね、食われた後の行き先は胃袋ではないんだ」


 「ほう、どうなるんだ? 」


 「ハーヴェス・ドラゴンは人間を飲み込むと、食道の弁を切り替えて特殊な臓器の中に閉じ込める。 僕らはその臓器を『ゆりかご』と呼ぶが、本当にゆりかごの中で揺られているように心地良い場所なんだ。 そこで人間は三日三晩、〝龍の記憶〟を見せられる」


 「ふむ。 龍の記憶……。 そのゆりかごの中ではハーヴェスドラゴンの記憶が上映されているとでも言うのか? 」


 「上手いことを言うね。 心地よいぼんやりした意識の中で、スライドショーみたいに〝ルーガーが見てきたであろう風景〟が流れていく。 ……しかしそれはある意味、副産物的なものかもしれない。 大事なもう一方だ。 僕の場合はルーガーの身体構造、臓器器官、組織、ルーガーの病や外傷を治療する治癒魔法の基礎をインストールされた」


 【はぇー、なるほど】


 「俺もなんとなくわかった。 僕の場合は、と言ったよな。 他の奴らは? 」


 「私は特殊な結界魔法です」


 イレーナが割り込んでくる。

 あろうことか俺のやったタピオカミルクティーに全く口を付けていなかった。


 「紋章を刻印された人間のみを対象として、ルーガーの生活圏で生存していける結界を展開しています」


 なるほど。 俺たちが受けているまりもの【聖獣の加護】的な効果を、結界内限定で付与できるのか。


 「紋章はゆりかごに入った者に現れるのか」


 「その通り。 ここでの生活と、ルーガーを支える為に必要な『役割』をインストールされているんだ。 あ、インストールという言葉は適切じゃないかもな。 無機質で血の通わない言葉に聞こえてしまう」


 「いや、わかりやすいし、俺くらいの世代にとって〝インストール〟は血の通った言葉だ」


 「……案外頭が柔らかいな、ミナトさん。 とにかくこの国の民は地上でルーガーに選ばれ、ゆりかごに揺られながら天空に導かれる。 〝龍の記憶〟を受け継ぎ、特殊能力(ギフト)を与えられ、このスナッピィに召喚され、賢龍と共に生きていく。 誰も追うことは出来ないし、誰一人として帰る者もいない。 地上に残された人間は、『食べられた』と考える他ない」


 「……ふむ」


 「まだピンとこないでしょう。 ……そっちのお爺さんは本当にイレーナの親なのかな? 」


 タグチは無表情のまま踵を返し「こちらへどうぞ、僕らの国をご案内しますよ」と振り返って言った。


 「おい、タグチ」


 「……何か? 」


 「初めての外交の割には落ち着いてるな」


 「落ち着いて対応できるのが僕しかいない。 それだけさ」

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