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第五十一話『カミダミナトは嘆かない〜異常性癖詰め合わせの主人公はケモショタロリの夢を見るか?〜


 【そうですねぇ〜、ハーヴェスを簡単に登り切れるスキル。 ちょっと待ってください。 えっと……】


 「ん? ミナト氏、どうしたんじゃ? 急に黙り込んで……」


 「しっ! 黙って見てな爺さんっ。 ありゃあな、うちの親分(ミナト)が〝儀式〟をする前触れの精神統一……。 言わばルーティン、ってやつなんだぜ。 あの状態に入ったら、後はミナトの独壇場だ。 とんでもねぇスキルでどんな困難も——」


 「いや……。 というかお主は一体何様なんじゃ? 」


 「えっ? 」


 「本当にミナト氏やチロル様の仲間なのか? そこらの凡夫にしか見えないんじゃが」


 「え、あぁ……。いや、ししゃり出てすまん。 あの……。 でもよ、普通、知り合ったばかりの他人に『凡夫』とか言うか? ちょっと傷ついたんだが」


 【んふふっ! 】


 「おいお前らちょっと静かにしろ。 (リアの)気が散るだろうが」

 

 「あ、すまねぇミナトっ! 」


 「悪いなミナト氏」


 「みなとくぅん。 ハーヴェスの葉っぱなぁ、結構甘くてなぁ、食えん事もないわぁ」


 【あっ、ミナトさんこんなのいかがです? マジカルスキルハンターを使って、現世からロッククライマーのスキルをトレースするっていうのは】


 それじゃ時間がかかるし、俺一人しか登れないと顰蹙(ひんしゅく)を買いそうだろ。


 【え〜……。 じゃあ……。 木彫り職人のスキルをトレースしては? 】


 それはどういう意味だ? ハーヴェスを彫って何か作るのか?


 【はい。 ハーヴェスの真ん中の幹を削って、てっぺんまで続く螺旋階段を作るんです 】


 お前本気で言ってるのか? てっぺんまで階段を削り切る頃には髪が腰まで伸びて悟りの境地に達してしまうだろ。 いいかリア。 どうでもいい時しっかりサポートするくせに、こういう大事な局面で——


 【チッ、っせーな……】


 ……今なんと言った?


 【チッ。 うるせぇな童貞、人使いが粗いんだよ。と言いました】


 絶対に言ってなかっただろ。

 ほら早くしろ、貴重なショタが逃げる。


 【えーっと、もうここから飛び降りて死ぬスキルしかないですね】


 \ズドォォォオンッ!!/


 「うぉお! び、ビビった! どうしたミナトっ! どうしてハーヴェスを殴ったんだ!? 」


 「驚かせてすまないなチョリス。 昔から俺は、家族と揉めると壁を殴っちまう癖があるんだ」

 

 「ぅぅぁぁぁぁぁあああああ!! 」


 ——はっ。 まさか、この声は——。


 「ミナト氏ぃぃ! 上じゃ! 上じゃあーっ! 」


 【親方ぁ! 空から金髪ショタが! 】


 ——俺が(ハーヴェス)殴っちまった衝撃で?


 「ヨシッ! 」


 安全確認と共に魔力で脚力を強化。 跳び上がる。 四本もの枝を渡り、落下してくるショタを空中で見事キャッチ。

 俺の腕に包まれて、ショタが一瞬だけ安堵の表情を浮かべた。 その辺りの機微を見逃さないのが令和のショタハンターミナトだ。


 「もう大丈夫だショタ……。 俺はミナト。 ショタハンターミナト。 お前と出会うためこのハーヴェスに降り立った、世界最強のイリーガル——」


 「ミナトォーっ! 上ーっ! もっと上ーっ! 」


 「何ぃっ!? まだショタが落ちてくるのかッ! 」


 【親方っ! 次はショタかロリか判別がつかない子がっ! 】


 ——これは……! 例のハヴェドラだ、ハヴェドラが羽ばたきながら下降してくる。 異様な光景はその足元。 さっきまでチョリスがいたポジションに、ショタかロリか判別がつかない子供がいる。 ハヴェドラに()()()()()()のではなく、()()()()降りてくる。


 「おまえるぁー。 なに者だぁーん? 」


 体には左肩にだけ袖がある布を纏っている。 頭には黒っぽい毛皮の被り物と、犬のような耳が二つ。 もふもふの手袋して、もふもふの長靴を履いているように見える。 太い眉毛と一直線に揃った前髪は、腕の中のショタと同じ綺麗な金髪だ。


 「おいらの国になんの用だぁーーーっ! 」


 声は高くて女の子っぽいな。 しかし魔力の圧が少女どころか人間とは全然違う。こっちもまた可愛いぞ! パォーン! それに俺の推測が正しければ……。


 「う、うぉおおお! ミナトっ! ありゃ獣人だっ! ……いや獣人か? しかしなんでだ!? なんでこんな所に!? 」


 獣人なのか……? ちょっと人間成分が強すぎないか……?


 「……違うっ! ありゃただの獣人じゃないぞい! 半獣人(クォーティア)じゃーっ! 」


 何故こんなところに、という疑問は後回しだ。 とにかくまずは迅速に捕獲する。 ——さすらいのケモロリショタハンター・カミダミナトの名に懸けて。


 「どっかぁ〜〜〜ん! 」


 何事だ?


 「どっかぁ〜ん! ……どっ、かぁ〜んっ! ……どぉーん! ……あれ? どっがぁーーーんんん! どがぐぅーん! 」


 ん、なんだ……? 獣人っぽい子供はハヴェドラの足にぶら下がったまま、ずっと『どっかーん』みたいな爆発のオノマトペを繰り返しているな。


 「んなぁ……! おまえらこわくないのかっ……!? これは『ばくだん』の『ばくはつ』の音だぞっ…!? 『ばくだん』の『ばくはつ』の音をやっているんだぞっ……? 」


 シンプルに知能が低い。

 ただそれだけに、この魔力の質と量は厄介かもしれんな。 知能が低いとバーストレクイエムの脅しが効かない可能性がある。 この子と同じのが十匹くらい降りてきたら相当面倒臭いだろう。


 「リ、リク〜ッ! はやく、はやく助けてくれぇ〜! 」


 「情けないぞぉ、ケイ! そんな間抜けそうなヤツに捕まりおってぇ! 」


 ハヴェドラの足に掴まって『どか〜ん』してる間抜けそうな獣人がリク。 こっちの激かわショタがケイか。


 「みなとくぅーん。 上で騒いでるワンちゃんかわええなぁ〜」


 「そうか? まだ可愛いというには早計だろう。 一人称の『おいら』と言葉遣いが気にくわん」


 「意外と選り好みすんねんな」


 【性別はお構いなしの癖にな】


 「おいショタ、危害は加えないから大人しくしていろ。 一体どうなってるんだ? どうしてこんな所に金髪のショタや中性的なアホ獣人のガキがいる」


 「み、見てろぉ。 リクを怒らせると……。 怖いんだぞっ」


 「待っておれよケイッ! 今たすけてやるからなぁ〜っ! 」


 「む、ワンコのリク坊や ……。 何かする気だな? チョリス、全員連れてなるべく遠くの枝に避難しろ。 あのワンコ相当強いぞ」


 「わかるぞミナトっ! そのワンワンから今まで感じたことのない魔力を感じる! ほらチロル、爺さん、みんなで向こうの枝へ逃げよう! ミナトが暴れそうだ」


 「ワンワンワンワンうるさいぞぉっ! 行っけぇっ! ()()()()()ッ! 」


 ハヴェドラが飛び上がり、俺に向かって急下降中にワンコを切り離す。 俺の元に投下されたワンコは空中でくるんと一回転し、手袋みたいなもふもふの手を振りかぶる。 ちょっと生意気だがかわいいな……。ぬいぐるみみたいだ。


 「おいらはなぁっ! ワンコじゃねぇーんじゃっ」


 鋭利な爪がちらっと見えたから、俺の愛刀・天羽々斬で受けてみよう。


 \ギギィィィインッ!/


 【おぉ……! ほんとに強いですね! 】


 剣の側面で止めたは良いが、ワンコの力をまともに受けたせいで地面の枝に右足がめり込んでしまった。 メリメリ、とかメキメキ、みたいな地鳴りとも違う、聞いたことのない不吉な音が響き始めた。 きっとハーヴェスの枝がしなって、折れかけている音だろう。


 「ワンコじゃなければなんだ? ぼうや」


 「どっからどーみてもぉ! (ウルフ)に決まってるだろうがぁぁぁあっ! 」


 ほう、オオカミか。 まぁほぼワンコだろ。



 ◇ ◇ ◇



 ——二十分ほど戦ったか。

 肉弾戦に付き合うのが楽しくて、ダンスを踊るように時を忘れて戯れていた。 しかし俺がリク坊の攻撃を避けると、足場にしている立派な枝がすぐに折れて落下してしまうので、ずいぶん枝が少なくなってしまった。 幹の方もズタズタだ。


 「……ハァ、はぁ、あれぇ、お前……。 なんか強くねーかぁ……? あっるえぇ。 おっかしーなぁ! っかしーなぁ……。 全っ然倒せないじゃんかよぉーっ!もぉぉぉお! 」


 ワンコ涙目だ。


 「おい泣き虫ワンコちゃん。 楽しかったけどな、これ以上暴れるとハーヴェスの木が丸裸になってしまう。 それに向こうを見ろ。 ケイも俺の仲間たちも最初は盛り上がっていたが、完全に飽きているだろ」


 チョリスは剣の手入れ。 ジジイは入れ歯で腹話術の練習。 ケイはその様子を興味深げに眺めていた。 ちろるに至ってはピッケの上に寝転がりながら、ハーヴェスの樹液を十分以上舐め続けている。


 「うるせぇーっ! ケイを返せよぅ! 」


 「ダメだ。 あのショタは俺が拾ったんだから俺のものだ。 返して欲しければ代わりのショタかドSのムチムチお姉さんを出せ」


 「なぁーにわけわっかんねーこと言ってやがんでぇーっ! ……へへん。 そろそろなぁ、魔力をねりねりし終わったからなぁ、おいらの本気ってやつを見せてやんよっ……! 」


 「最初から本気でやれアホが。 俺じゃなかったら殺されてるぞ」


 「魔力をねりねりするのに時間がかかんだよぉー! あーあーやったらぁ! 知らんぞぉ、知らんぞぉ? こうかいすんなよぉ………。 あーあーやったらぁ! 知らんぞ知らんぞぉ、こうかいすん」


 「まだ練り終わってなかったのか。 手を出さずに待ってやるから、早くとっておきのやつを俺に見せろ」


 「んだぁーっ! 」


 おぉ……。 凄い魔力だ! さっきのちろるもそうだったが、魔力って膨大だと可視化するのだろうか? ちろるは青色で水のように柔らかそうな光だったが、このアホ獣人のは薄黄色で、電気のように四方へ散っている。


 「獣真(じゅーしん)我拳(がけん)狼狼雷来(ろーろーらいらい)っ! 」


 四足歩行スタイルになった。 爪が伸びた。 目が光った。 鼻から下がワンちゃんになった。 跳んできた。

 おぉ……。 速い。 いや違うな……。 (はや)いッ! この異世界に来てから最速の動きを見ているなこれは。


 「〝ちろちゃんねる・五連闇深水銃(ごれんちろるガン)〟」


 ふむ、間に牽制のちろるガンを撃たないと攻撃をモロに食らってしまう。 リク坊の攻撃までの軌道が鋭角で、残像が雷のように見えるな。 なかなかカッコいい。


 「ふはははは」


 「んなぁーに笑ってるだぁー! がるるーっ! 」


 【すっごい楽しそう】


 「楽しいぞリア! 」


 【二人の動きを目で追えてるのはピッケだけですね】


 おっと? リク坊が強くなる術みたいなのを解いた。 顔面の獣成分が三割増になっていたが、元の人間成分多めに戻ったな。


 「どうしたリク坊。 もう終わりか」


 「おい水のまほー使い! ……どーしてワザと魔法を外すんだっ!? 」


 「当たったら痛いからだろうが」


 「……おいらのためにか? おいらのために当てないのか? 」


 「あぁ。 当たったらお前も痛いだろ」


 「……おいらも? 」


 「俺がお前に魔法を当てたとして、一番痛いのは俺の心だ。 二番目がお前」


 「……お、おまえまさか、すげーいい奴か……? すげーいい奴なんか? ()()()()を狩りにきた、密猟者(みつりょーしゃ)ってやつじゃねーんかよ? 」


 「おっと、もうバレてしまったか。 俺はこの世で一番いい奴だ。 蚊も殺せない男だからな」


 ドラゴンは殺して食ったけどな。

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