第五十話『カミダミナトは揺るがない〜異常性癖詰め合わせ主人公はケモロリショタの夢を見るか?〜』
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ジジイ、チョリス、ちろるの人間組は体育座りをして、目の前に開いたステータスウィンドウをじっと見つめている。 ちろるの精霊・ピッケはハーヴェスの巨大な葉っぱをトランポリンみたいにして遊んでいて、まりもは俺の腕の中で治癒魔法を浴びながらぐったり中だ。
「いいかお前ら。 各々ステータスウィンドウを見て分かる通り、今の俺たちには特殊効果〝聖獣の加護〟が発動している。 これはまず間違いなく、まりもから齎された無敵状態だ」
「なぁ、みなとくんのステータスウィンドウも見してや」
「あぁ、すまん。 ちょっと下に置いてきてしまったんだ。 後で取りに行かないといけない」
「そんな仕様やったっけ」
「その話は後だ。 とにかく、俺たち人間が本来生きてられない高度で普通にしていられるのは……。 このまりも坊っちゃまのお陰と言うわけだ。 拍手」
まばらな拍手にチョリスが指笛を合わせた。 まりもがハタと頭を上げて、俺の顔を覗き込んでくる。
「さすが俺の一番弟子だ。 誇らしいぞ」
「み、みなとしゃまぁ……」
「というわけでな、今回の〝巨大樹ハーヴェスを踏破せよ〟ミッションは、このまりも坊っちゃまの身の安全を最優先にして進む事になる。 みんな気を引き締めてかかるようにな」
「ほーい」
「オーケー、ミナト」
「了解じゃ」
「返事は〝イエッサー〟だろうが。 何千回言ったらわかるんだ? 」
「「「イエッ、サーッ! 」」」
「よし、ではとりあえずまりもの回復を待ちたいと思うのだが、何かあるか。 意見のある者は挙手しろ」
「はぁい」
「はい、ちろちゃん」
「あんなぁ、なんやこの木が大きすぎてな、ウチらが小人になってしまったように錯覚してまうねんなぁ。 ……なぁそう思わん? 身体がアリンコさんみたいにちっちゃなったらぁ、ただの木登りもなぁ、大冒険やんかぁ」
「はい。 他に何かあるか」
「あ。 ミナト」
「はい、そこのメガネ」
「えっと……。 まずみんな。 助けてくれて本当にありがとう。 ぶっちゃけた話、起きては気絶するを繰り返していたせいか、まるで状況が飲み込めなかったんだが……。 やっとなんとなくわかった。ここは〝巨大樹・ハーヴェス〟なんだろ!? そうだろ正解だろ!? くぅ〜っ! ただの御伽話だと思ってたぜぇ〜っ! 」
「お前はこの場において人生が二時間遅延している。 きっちり追いついてから発言しろノロマ野郎」
「あ、ミナトとやら。 ワシもちょっといいかの」
「いいと思うか? 外した入れ歯で腹話術でもやってろ」
「みなとくんちょっとお爺ちゃんに辛辣すぎひん? 前世でなんかされたん? 」
「……あー、聞いておるとミナト氏はハーヴェスの果実を狙っているようじゃが、それこそ御伽話じゃぞ」
ジジイが入れ歯を外し、腹話術で喋り始めた。
「なんだと? 」
「ハーヴェスの実、というのは確認されてない筈じゃ。 ハヴェドラが人間以外を捕食している目撃例がない。 その事から、人が到達できない高度にハーヴェスの実が成っており、それを主食にしているのではないかという『人間の空想』に過ぎんのじゃ」
「えぇ……。 ほならデザート食われへんのぉ……」
「入れ歯がカタカタうるさくて内容が入ってこないぞ。 腹話術なんて余計なことをするなアホが」
【腹話術プロ級でワロタ】
「あ、ちょっと、ちょっと待ってくれみんなっ! ……隣の枝に何か落ちてきたぞ! 」
「ん? なんだ」
チョリスが示した隣の枝。 5、6メートル先の枝に、黄色と黒が交互に入った柄の布が落ちていた。 明らかに自然物でないことはわかる。
「ウチ団地やったんやけどな、ようあるよ。 飛ばされた洗濯物が木に引っかかっとんねんな」
ここは団地と一番対極にあるはずの天空だ。
「ミナト氏、上じゃ……」
……ジジイの視線の先。 上から何かが降りてくる。 蓑虫のように、縄の先に吊るされている何かがゆっくりと降りてくる。
「あっ、あったあった! オーラァ〜イ! ……もー、なーんでいっつも落としちゃうかなぁ。 はぁ、こんなドジじゃいつかハーヴェスからも真っ逆さまに落ちちゃうよなぁ」
——吊るされている『何か』は、独り言を喋りながら隣の枝に着地し、上を向いて何度か縄を引いた。
……降りてきたのは金髪でおかっぱの少年だ。 白い襟付きのシャツの上に、ドラゴンの刺繍が入った臙脂色のチョッキを着ている。 貴族の子と言われても頷ける上半身だが、下半身の方は短パンに裸足なのがアンバランスで、それが逆に可愛らしくもある。
ショタは落ちている柄付きの布を拾い上げて、首から下げている小さなカバンに突っ込んだ。
「いいよぉーーー! 上げてぇーーー! ……あれっ、聞こえないかな」
上を向きながら、掴んでいる縄を力一杯振る。 俺はすぐに後ろを振り返り、人差し指を口の前に立てて『クワイエットプリーズ』のサインを湊一家のメンバーに出した。 ショタの身振りがあまりにも可愛すぎて、新たな性癖のドアを悪魔がノックしているからだ。
「とー! れー! たー! よぉーう! 」
ショタは大きく息を吸い込みなおして、再び上を向いた。
「ねぇーっ、てばぁ〜〜〜っ! あー、げー……!? て。 ……え? 」
『げー』で俺たちの存在に気付いた。 二度見、三度見を経て、前傾姿勢でこっちを凝視したまま固まったな。
「……だれ。 どうして、こんなところに……? 」
こっちのセリフだが、かなり高い〝さいかわポイント〟を持って生まれたタイプのショタだ。 目をまん丸くして、鼻水を垂らしている。
——よし。 まずは敵意が無いこと、丸腰であることを示す為に服を脱ごう。 パンツは……。 どうせなら脱いでおいた方がいいか。股間に超国家級のグレネードランチャーを装備しているとバレてしまうが、臨戦態勢でないことを伝える方が優先だ。
「おいみんな。 ホールドアップだ、あのショタに向かって両手を上げろ」
「なんで裸になったん」
「敵意が無いこと示している」
「変態であることを示しとんちゃうんか」
「お、俺たちも脱いだ方がいいか……? 」
「チョリスお前が脱いだら意味が変わってくるだろうが。 ……まさかお前のぶら下げている『かわいそうな ゾウ』が臨戦態勢に入っているんじゃないだろうな? 」
全裸になった俺の後ろに全員を並ばせる。 人外のピッケを含め、みんなホールドアップした。 ここからだ、一言目はどうするか……。 ここまでの冒険で学んだが、ナンパに大事なのは一言目だ。 これまでは相手に恵まれて良い方に転がってくれたが、もう少し慎重にならなくてはと考えていた。
怯えさせないよう、明るく元気に、裏表のない実直なイメージを持ってもらえるように……。 よし。
「オッス、おらミナトッ! すっげぇーワクワクしてっぞぉ! 」
「上げてぇぇえー! 上げてぇぇぇえ! はやく上げてェェェエエーーーっ!」
やはり俺はあまり考えちゃいけないタイプみたいだな。 上げてと叫びながらもロープを自力で登っていく根性を見せてくれるショタ。 火事場の馬鹿力というのか、あっという間に十メートルくらいよじ登った所で俺たちの方を振り返ってきた。 よし、むこうがそう来るなら、こっちは……。
「え……? 何やってんだ、ミナト」
「見てわからんか。 可愛いショタが警戒心を剥き出しにしているんだぞ? 笑顔でダンスを踊るのが一番に決まっているだろうが。 お前もやれチョリス」
狙い通り金髪ショタは俺の切れ味鋭いダンスの実力に呆然としているようだ。 上で操ってる奴が気付いたのか、身体を吊っているロープがゆっくり巻き上げられていく。
これでひとまず、こちらに敵意がないことは伝わったはずだ。
「みなとくん、そのダンスなんなん」
「むっ、知らんのかちろる。 『地球侵略! 魔女っ娘カラマリちゃん♡』のEDでカラマリちゃんが踊ってるダンスだろうが」
「みなとくんて子供おったん? 園児が見るアニメやろそれ」
「あの……。 一体なんだ今の子は。 もしかしてハーヴェスの妖精かなんかか? 」
「に、にわかには信じられんのじゃが……。 ワシらは幻覚でも見とったんじゃないかの? 」
【共通の幻覚だとしたら面白いですね。 私も確認したのでその線は薄い気がしますが】
さて……と。 ハーヴェスのショタ妖精か、悪くない。 しかしまだ新たな性癖に目覚めた訳じゃないぞ。 大体ショタ趣味路線なんて一歩踏み外すだけで懲役30年コースに弾き出される異常特殊性癖なんだ。 そのレールに乗ってしまったら人としておしまいと言える。
「ミナトっ、追ってみよう! なぁ早く登ろうぜっ」
「何が起こるんじゃ……。 どう見ても悪意のない幼子のように見えたが……」
でもどうだろうな。 仮にさっきのショタがこのハーヴェスという大木に二千年前から宿っている妖精だとしたら? ふむ、彼は二千歳のショタということになる。 ショタどころか老害も良いところだな。
ヨシッ! となるとこれは合法ショタだ。合法ショタであり、どれだけキメても法に触れない完全脱法ショタに化ける。 やれやれ、これが目から鱗ってやつかね。
「野郎ども。 まりもは休息中だが、のんびり休んでいる暇はなくなった。 チョリス、ちろる、ジジイ。 準備はいいか? 」
「「「イエッ、サー! 」」」
「〝完全脱法ショタを確保せよ〟ミッション、スタートだっ……! 」
【ミッション変わっとるやないかい】
リア。 まりもは休ませておきたいが一刻も早くこのハーヴェスを登り切りたい。 何が良いアイディアないか? スキル検索を頼むぞ。
【イエッサー! 】




