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第四十二話『ハーヴェス・ドラゴンと愉快な湊一家たち』


 殺したドラゴンの上に乗って遊んでいたら、戻ってくるチョリスのシルエットが遠くに見えた。 何やら荷物を山ほど抱えて戻ってきたな……。 暑苦しいので極上の炎魔法で灰塵(かいじん)()してやるか。

 ちろるはといえばドラゴンの死体を滑り台にして、のそのそと登っては滑るという動きを狂ったように繰り返している。 さいかわレオちゃんも同じような遊びをしていたが、レオとは正反対に無表情なので全く楽しそうには見えない。 しかしちろるなりに何かグッとくるものがあるのだろう。


 「おい、お前はいつまでも泣いているんじゃない。 これからBBQだぞ? ドラゴンを食べて元気を出せ 」


 「た、食べないでしゅ……。 ボクは食べないでしゅ……」


 まりもはちろるの水魔法という名の殺戮ビームを見てからというもの、ずっと俺の肩あたりに顔を埋めて震えている。


 「なるほどな……。 お前もドラゴンだから共食いになってしまうのを気にしているんだろう。 なに、人間が豚を食うのも大雑把に言えば共食いみたいなもんだ。 そんなことを気にしてたらこの先生きて行けんぞ


 「みなとしゃま……。 あのおん……ちろるおねぇたまは、ボクを一瞬であの世へ送れる魔法と精神を持ってるでしゅ……」


 「バカ者。 ちろる『おねえたま』ではなく、ちろる『姫』と呼べ。 『おねえたま』はパーティに綺麗なダブルSの年上お姉様が入ってくるまでとっておくんだ」


 「だ、だぶるえしゅ……? 」


 「ドS、ドスケベでダブルSだ。 わかるか? ぼうや」


 「わからないでしゅけど……みなとしゃま、ふ、ふるえがとまりゅましぇん……グズっ」


 「お前は本当に臆病だな。 ほら、ちろるを見てみろ。 蚊も殺せないような顔して滑り台に興じてるだろう」


 「む、無表情で血塗れのドラゴンから滑り降りていましゅ……」


 ちろるに悪意は少しもないと思うのだが、まりもから悪いイメージを払拭するのは難しいかもしれんな。 俺から見ればハラペコぐーたら美少女ちろちゃんでも、まりもから見たら


 「さいこどらごんすれいやぁでしゅ……」


 サイコドラゴンスレイヤーらしいな。 一つの結果や印象だけでレッテルを貼るのは非常に危険な行為だと思うんだが……まぁ今は仕方ないし俺もよくわからん。 少しずつ世の中の事や人間関係というものを学んで、お互いに成長していくのが一番だな。


 「おーい、待たせたなみんなぁーっ! 村のやつらからこんなに餞別を貰っちまったよぉ! 」


 ホモ野郎の帰還だ。 お? 目が真っ赤っかだな。 10年以上守ってきた村とのお別れだしな、触れないでおいてやるか。


 「まりも安心しろ。 ちろるがお前を仕留めようとしたら俺がちゃんと止めてやる。 ほら、ガチホモが帰ってきたからケツの穴にしっかり鍵をかけておけ」


 「なんだ、このデッカイのは……。 え……? ド、ドラゴン……? し、死んでる……! 」


 「遅いぞチョリス。 このドラゴンは食えるか? とりあえずそのうっとおしい荷物を全部下ろせ、BBQの火種にする」


 「しかもこりゃあ、ハーヴェス・ドラゴンじゃねぇか……! 一体誰がこんな……いやミナトしか居ねぇよな」


 目をひん剥いてドラゴンを凝視したまま固まったな。


 「そんなに驚くほど強いドラゴンなのか? 」


 「あぁ。 強いし、誰も手を出せねぇ人食いドラゴンだ」


 ふむ。 なんだ? ドラゴンの口をこじ開けて牙を観察している。


 「この牙から難病の特効薬が調合できると聞いたことがある」


 「そうか」


 「この角は魔力浸透率が高くて、良質の(ランス)になるらしい」


 「ほう、強すぎるから冒険者たちも手を出せなかったというわけか……。 じゃあ腹一杯食べたら売りに行くぞ。 お前の手柄にしていいからな。 感謝しろよ底辺三流冒険者」


 湊一家の知名度も上がり小遣いも稼げて一石二鳥というやつだ。 やれやれ。 ちょっとした戯れのはずだったのだが、強運すぎて心配になるレベルだな。


 「ただこのドラゴンは、農村に恵みの雨を齎らす益竜なんだ」


 「なんだ? えきりゅう? 」


 チョリスは抱えていた荷物をどさりと置いて座り込んだ。 まりもはその様子に目をくりくりさせている。 ちろるも近づいて来て「ちょりっさんおかえりー」と抑揚なく言ってあくびをした。


 「えきりゅうってなんだ? さっさと説明しろ」


 チョリスが神妙な面持ちで語り始めた。 そのあまりにも真剣で切実な雰囲気の語り口に、俺とちろるは思わず体育座りで聞き入るハメになった。


 —— —— —— —— —— ——


 ①ハーヴェスドラゴンは『ハーヴェス』と呼ばれる巨大樹の頂上付近(雲の上)に営巣する。縄張り意識が強く、非常に獰猛。


 ②営巣した『ハーヴェス』の果実が主食。特定の泉の水しか飲まない。その泉までの空路と、巣から半径十数キロメートルの空域に外敵の侵入を確認すると即座に攻撃を開始する。


 ③主食である『ハーヴェスの実』の育成期間中、周辺の降雨量が一定量を下回ると人里に降り、人間(魔術師)を攫って捕食する。


 ④人間を捕食してから数日中の間に、人間が攫われた地点を中心とする広範囲にわたって『紫雨』と呼ばれる魔力が混じった尿を撒き散らし、農作物に豊穣を齎らす。


⑤豊穣の神に使役されたドラゴンとされ、『五大賢龍』の一体として信仰の対象になっている。


 —— —— —— —— —— ——


 「ふむ。 なるほどな……。 小便が効果抜群の肥料になるわけか」


 リア、応答せよ。


 「ほなら毒とかはないんやな? おしっこが肥料になるくらいやし、毒にはならへんよな? うちな、これな、フライドドラゴンにしたいねやんか」


 リア、はやく応答しろっ! 間に合わなくなっても知らんぞっ!


 【………………カタン】


 起きてるだろリア。 物音が聴こえたぞ、早く答えろ主人のピンチだ。


 【………………やってしまいましたなぁ】


 「あんなミナトくん。 ウチな、シッポ食べたいねん。 シッポ先切ってみようや。 な? シッポって脂っこくなさそうやんな。 わははっ」


 「ちろる……! そんな子に育てた覚えはないぞ。 チョリスの話を聞いていなかったのか? この国の人間にとってこのドラゴンがどれだけ……」


 「うん、うん。 聞いとったよ。 このドラゴン人間食うてしまうんやろ? 悪い奴や 」

 

 「それはそうだが、よくある生贄というやつだろう。 レベルの低い文明にはありがちで重要な文化だ。 チンケな神頼みレベルではなく、実際に豊作になるのなら犠牲よりも恩恵の方が圧倒的にデカイ」


 「ミナトくん時々サイコパス感出してくんねんな。人が死んでんねんで」


 「寝ぼけてゴブリンを大量虐殺する女にだけは言われたくないぞ」


 「残された家族の気持ちを考えてみや」


 「自殺しようとしてた奴に言われても説得力がないぞ」


 話にならん。 ちろるはドラゴンを食いたいが為に自分を正当化して精神を守りに入っている。

 おいリア、このドラゴンを蘇らせるスキルはあるか?


 【死んだ者を生き返らせるなんて自然の摂理に逆らうような傲慢なスキルがあるわけ無いでしょう。神にでもなったおつもりですか?】


 ずいぶんトゲがあるな。 そんな言い方しなくたっていいだろう。

 そうだな……。 ではこのドラゴンの尿と同じ成分の化学肥料を作るスキルはあるか? パッケージしてこの辺りの愚民共に安値で売り出そう、小遣い稼ぎにもなるしな。


 【ではまず手足を拘束して処刑台の上に跪き、腹部に短刀を当てがって自分の犯した罪と薄汚れた心を】


 もういい黙って見ていろリア。 二度と俺の脳内にその忌々しいクリアボイスを響かせるな。


 【神とか信仰が絡むと人は怖いですよ〜。 神様のためなら悪魔になれるのが人ですから。 なんとかしないといけませんね〜〝神殺し〟湊一家のみんなで力を合わせて】


 湊一家に物騒な通り名を付けるんじゃない。 もう引っ込んでいろ。

 ……しかしまぁどうしたもんかと思ったが、よくよく考えれば目撃者はここにいる湊一家のメンバーだけだ。 証拠隠滅すれば問題はないだろう。


 「お水カッタ〜。 とりゃっ」


 ふむ、良いタイミングでちろるがドラゴンの死骸を八つ裂きにしたな。 文字通り八つのパーツに分けたバラバラ死体になった。 周囲は血の海だ。


 「おえ"え"ぇぇえっ! おろろろろろっ」


 まりもが盛大に嘔吐した。 まさかウチのお姫様が神の心臓を撃ち抜き、味方のメンタルまでクラッシュさせるとは……。 まりもがそのままふらふらと離れていくが今はそっとしておいてやろう。 ん? チョリスが何やら一人でぶつぶつ喋っている。


 「ミナトは何も知らない転生者だし……仕方ないよな……。 けどまさかハヴェドラ様の心臓を貫くなんて罰当たりにも程が……いやいや、でもミナトなりに何か理由があったはずだし……。 しかし村のみんなは悲しむだろうな。 農作物の収穫は人間生活の根幹。 不作時に齎されるハヴェドラ様の聖水はこの地に生きる民にとって精神的支柱であり……」


 このクソホモ……! 最底辺のFラン冒険者の分際で上級転生国民である俺やちろるの精神を遠回しに追い込もうとしているのか。 100%俺とちろるに落ち度があるとはいえ、ここまで露骨にねちっこく嫌味を言われるとこの虫ケラの心臓も貫いてやりたくなるというものだ。


 「おいそこのクソったれ、いくら嘆いてもドラゴンの命は返ってこないぞ。 グチグチ文句を垂れる暇があったら証拠隠滅方法の提案でもしたらどうだ無能単細胞生物の権化が」


 「ミナトくんドラゴン(さば)いたから火ぃ焚こうや。 ほんで油と鍋が欲しいなぁ」


 「ちろるぅ……。 お前はもう少し殺害犯としての自覚を持て」


 「へ? 殺したのはミナトくんやろ」


 「寝言をぬかすなよ? 俺は狙いを定めただけだ」


 「ミナトくんが狙い定めへんかったら殺すこともなかったと思うで」


 「いつからそんな小賢しい口を利くようになったんだ。 いいかちろる、チョリスお前もよく聞け。 これは俺一人の問題ではなく湊一家全体の問題で、言うなれば連帯責任というやつだ。 俺たちは結成した瞬間から運命共同体であり、仲間とはそういう……」


 こいつら露骨にそっぽ向いてるな。 ちろるは生死も分からないくらい虚ろな瞳を虚空に泳がせているし、チョリスに至っては肩に止まった小鳥にパンみたいな物をちぎっては食べさせる善人ムーブをぶちかまし始めた。 とことん俺一人に罪を背負わせる気だ。

 ……いいだろう、受けて立ってやる。


 「とにかく……。 まずはこのドラゴンの亡骸を火葬する。 美味しく食べてやるのがせめてもの供養だしな。 ただしチョリス、どれだけ美味くても絶対貴様にだけは食わせんぞ。 お前は村人が来ないように見張っていろ」


 さて、まずはケンチャッキーで働いているパートリーダーの技術をトレースするか……。

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