第四十話『ゴーレムを生成する儀式の代償がエグい』
小鳥チュンチュンの清々しい朝が来た。 薄く霧がかかっていて、ウィスキーみたいな色の朝陽がちらちら舞っているようでとても綺麗だ。
ちろるはまだ眠っているがテントの中にチョリスが見当たらない。 魔物に食われたか? ふむ、供養の準備をしてやるか。
「ミナトゥー! 見てくれ、大漁だっ」
ほう、チョリスが駆け寄ってきた。 見せられた木製の丸いカゴの中には気味の悪い魚が蠢いている。
「朝っぱらから気味の悪いものを見せるなダボハゼが」
「いやいや、これマジで美味いんだぜ。 今日の朝メシは俺が作るからよ」
「お前に出来るのはせいぜい焼くことくらいだろう。 期待はせんが、さっさと作れ」
「おはよぅ……」
お、起きたかちろちゃん。 目は覚ましたが身体を起こす気は全くなさそうだな。
ちろるにチョリスを紹介すると、ふわっとだらっとした挨拶を交わし合った。 まぁゆっくり仲良くなって貰えばいいだろう。
【はよざーます……】
おっ、起きたかリア。 元気がないな、二日酔いか?
【ちろちゃん……。 めちゃんこ可愛いですね】
だろう? 湊一家の看板娘だ。 とにかくこれで全員集合だな。
リア、昨日ジェフのゴーレムを見たがあれはコピー出来る類のものなのか?
【えと……。 あ、はい、コピーされてますね。 錬金術の類です。 基本は岩や粘土を使いますが、無機物であればなんでも魂を吹きこめるでしょう】
ふむ。 では朝飯を食ってからにするか。
【ちろちゃんエッチさせてくれました? 】
「……させてくれへんかったわ」
【今までで一番悲しそう】
しかし湊一家には加入してくれたからな。 いちゃラブセックスまでは時間の問題だろう、必ず到達してやるからな。
【おちんちんに脳みそ付いてるんですか】
お前はちゃんと『おちんちん』と言えるいい子だ……。 きっと育ちがいいのだろう。 ちろるは湊を『演奏の奏』だと思っていたし、あろうことか、おちんちんを『ちんぽ』なんて呼ぶ。 育ちが悪いのだな……。
【朝っぱらから愚痴りますねぇ】
「ミナトゥー! そろそろ焼けるぞ」
焚き火の周りにブサイクな魚がぐるりと突き刺さっている。 串は木の枝だが、魚の身を貫いている部分はしっかり表面を削っているな。 結構マメなんだなこのポンコツは。
ちろるも匂いにつられてダラダラ近付いてきた。
「背中からかぶりついて、こうやってな、歯で身を削ぎとるんだ」
チョリスが食べ方を指南している。
「腹側は苦い内臓があるからチロルは食べない方がいいかな。 ミナトは内臓も食ってみてくれ、酒飲みなら愛せる苦味だ」
……ふむ、チョリスの真似をして食ってみたが、旨いな。 ネロの家で食った魚とは段違いの風味だ。 日本の川魚に似ていて、脂は少なく淡白だが……魚のくせに少し粘りのある食感が独特で新鮮だ。 ちろちゃんは寝ぼけながらも緩慢な動作で口に運んでいる。 内臓も骨も御構い無しで噛み付いているようだ。 きっと避けるのが面倒なのだろう。
「なかなか旨いぞチョリス。 褒めてつかわす」
「食える魔物もたくさんいるからよ。 今後も振る舞うぜ」
ふむ、是非とも魔物を喰らい尽くしたいな。 しかし魔物を手懐けるスキルで懐かれたら殺すのも食うのも躊躇ってしまいそうだ。 ……ん? 待てよ、おいリア。
【なんすか親分】
始まりの草原の時、魔王を手懐けるスキルは勝手に発動したな。 あんなに強力なスキルなのに印を結ばなかったぞ?
【親分が気付かぬ間に発動してるスキルなんてゴマンとありますぜ? 親分ときたらマイナースキルばっかり求めてくるじゃねぇですか。 そら発動条件も複雑になりやす】
ふむ、なるほどな。 まぁいいだろう。
「チョリス、ロー村を守るゴーレムを生成するぞ。 お前と同等か、それ以上の強さの奴をな」
「ゴッ、ゴーレムゥ!? 錬金術もいけるのかミナトは……」
無機物ならなんでもいけると言っていたな。 俺はそれを聞いた時からどんなものにロー村を守護させるか頭を悩ませていた。 しかしもう決定済みだ、タンスを行きつけだったアダルトショップに繋いで……と。
お、あったあった。 この店の看板娘だ。
「コレを使う」
「なんだ、その気味の悪ぃ人形は……」
「これはダッチワイフと言ってな。 近年ではラブドールとしてハイクオリティなものが販売されているが、コレは旧式の不細工なバルーンタイプだ。 アダルトショップの店長がウケ狙いで店内のど真ん中にディスプレイしていたものを拝借した」
「い、意味が……。 何を言ってるのか一つもわからねぇ」
「ミナトくん、その人形なんで裸なん」
「あぁ、これは本来観賞用ではなく、擬似性交を体験するための人形なんだ。 つまり自慰の道具だな」
「そんな悲しい自慰がこの世にあるんか……」
「チョリス、不安そうな顔をしているな? 俺がこいつをゴーレムにしたら、全力で戦って腕試ししてやってくれ」
観戦にも熱が入りそうだしな。
朝っぱらからダッチワイフとホモの壮絶な死闘が見れるのはこの異世界くらいだろう。
さて、まずはこのダッチワイフのおデコに『ちょりす』と書いて……いや、『ちょり美』の方が趣が深いな。 このゴーレムの名前は『チョリッス! ちょり美ちゃん』で行こう。
……よし。 おいリア、コイツにロー村の守護とチョリスに劣らぬ強さ、そして村人への挨拶『おっす、オラちょり美! おめぇらぜってぇ守ってやっぞ! 』をプログラムするぞ。 どうすればいい?
【はい、まずはそのダッチワイフを使用してください】
「なん……だと……? 」
「どうしたミナト……やっぱ無理か? ロー村を守れるくらい強ければ、見た目に文句は言わねぇよ」
「ミナトくん、その人形とチョリッさんの闘いはよ見せてや」
リア、冗談はよせ。 世界最強がこんなもので抜くなんて、プライドまで根こそぎ持っていかれてしまうぞ。
【ではまず、紙かなんかにプログラムしたい事を箇条書きにしてください。 その後、別の紙にチョリスくんのステータスを丸写しして、ダッチワイフに貼り付けます】
別の方法もあるのか、一安心だ。
現世からノートを取り出して言われた通りに箇条書きした。
リア、結構ワガママ書いても通るか?
【大抵は通りますね。 ミナトさんの命令は絶対だとプログラムすれば、後からいくらでも指示が可能ですよ】
なるほど。 『三つ願いを叶えてやる』と言われて、一つ目の願いで『無限に願いが叶うようにしてくれ』と頼むようなものだな。 まさにチートの極致。
チョリスにステータスウィンドウを開かせ、ノートに丸写しにした。 これで完璧だ。
【では、射精と同時に『よろしくお願いっしまぁーっす! 』と叫びながらダッチワイフの】
「結局ちょり美とヤらせるのかっ! 」
「ど、どうしたミナトっ! 誰と喋ってる!? 」
「ミナトくんどうしたん」
「いや、すまん……。 独り言だ」
【ミナトさん落ち着いてください。 射精と同時にダッチワイフの乳首をダブルクリックしてください。 それでロー村を守るゴーレムが完成します】
チョリ美の顔をちらりと見る。 不細工だ、とんでもない不細工だ。 果たしてこんなゴミ人形でイけるか? なんてこった、ダッチワイフと戦うチョリスが見たいばかりにとんでもない沼に足を取られてしまった……。
「ミナトくんどうしたん? 無理しなくてええよ」
「ミナト、無理なら無理でいい。 お前には負担をかけ過ぎてると思ってんだ……」
「お前ら……。 しばらく待っていろ、世界最強として情けないが、この儀式は一時間くらいかかるかもしれん。 絶対にテントの中を覗くなよ? 錬金術は人に見られると効果が薄れる」
「わかった……。 頼むぞ、ミナト」
「楽しみにしとるよミナトくん」
◇
『よろしくお願いっ! しまぁーっす! 』
◇
「びっくりした。 ミナトくんえらい叫んだなぁ」
「あっ、出てきたぞチロル! ……人形が後ろを付いてきてる! すごい、成功かミナト!? 」
「待たせたなチョリス、ちろる……」
「待っとらんよ。 三分で出てきたやん」




