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第三話『冒険記・其ノ壱〝着ぐるみの村〟』

 異世界の大自然を堪能しながら歩いていたら、貧乏くさい変な村に着いた。 なぜかほぼ全員がフードに耳のついたもふもふの着ぐるみを着ている。 まるでキャラ縛りの仮装パーティーをしているようだ。


 「さてと……。 さすがに娼館はないよな。 まずは酒でもかっくらうか」


 ヘボ田舎の芋くさい乞食共の集まりかと思えば、人々の表情を見る限り随分と活気がある。 女のレベルも高いわけじゃないが低くもない。 及第点と言える。

 やれやれ、早速この着ぐるみ村のさいかわをお気に入り登録する事にしようか。 着ぐるみも可愛いしなぁ。


 「よぉ、この村に何か用か? ここらじゃ見ねぇ顔だな」


 「見ない顔だろ。 お前には見せたことのない顔だからな」


 若い男が木陰から現れて突然絡んできた。冒険者ってやつだろうか? 装備がすごいな。 見てるだけで重い。


 「俺ぁこの村の用心棒、チョリスだ」


 「そうか。 チョリッスゥ」


 「なんだ、いきなり呼び捨てか? 」


 「挨拶をしただけだろ」


 「よくわからないが……。 余所者なら入村料を払いな。 銅貨五枚だぜ」


 「ほう。 この俺から金を取ろうってか? では俺のステータスを見ても同じ事が言えたら払ってやる」


 「ハハ。 何を言ってやがる、ド素人が。 お前、転生者(ドリフター)だろ? 金を払えば俺が色々教えてやるぜ」


 「ステータス・オープン! 」


 「バカだなー、お前。 ステータスなんて絶対他人に開示するもんじゃない。 それに……出てこないじゃないか、ステータスウィンドウが」


 「間抜けめ。 お前の後ろにでっかいウィンドウが開いてるから見てみろ」


 振り返ったチョリスは十秒くらい動かなかった。 やれやれ、恐ろしさで声も出ないか。


 「……な、なんだこのガキくせぇステータス表記は……! ウィンドウくそでけぇし……! 」


 「……なんだと? お前のステータスを見せてみろチョリス。 こういうのは共通なのがゲーム的世界観だろうが」


 「嫌だ! 見せる訳ないだろステータスなんて! やめ、おい、なんで脱がそうとするんだよオイ! 」


 全力で拒否してくるな。 よっぽど見せたくないのだろう。 確かに言われてみれば、ステータスをバラすのは本来悪手だよな……。 能力バトルで得意げに能力の解説を始める自殺志願者と同レベルだ。 しかし他人のステータスはここらでいっちょ見ておきたい。 面倒なので手荒な真似をするか。


 「ばーすとれくいえむ」


 本日二度目の究極魔法。 ばーすとれくいえむを、空へ。


 「ステテッテ、テッテステッタスオ、オッオオッ、パ、パォーーン」


 「何がパオーンだゾウかお前は。 落ち着いてからでいいからステータスを開くんだぞ」


 (ひざまず)いて命乞いしてくる。 用心棒が聞いて呆れるな。 まぁ突然目の前に魔王が現れたようなもんだから仕方ないだろう。

 

 「落ち着いたか? 早くステータスを開いてくれ。 お前の恥ずかしいところを見せておくれよ」


 「スッ、ススス、ステテテステッ、プォーーーン」


 なにがプォーンだトランペットかお前は。 ったくもうしばらく掛かりそうだ、チョリスが落ち着くまで〝さいかわ〟探しでもするか。 村の愚民どもはバーストレクイエムに大騒ぎで混乱しているが、俺が放った事はバレてないな。

 むっ! 相当ポテンシャルの高い激かわ幼女がトテトテ走っている。 しばらく見ていたらコケてしまった。 声をかけてみるか……。 チョリスはまだ地面にデコを付けて震えているしな。 これが人生初ナンパになる訳だが上手くいくか。


 「おい小娘」


 「あわわわわわ。 はいっ!? ……冒険者様ですか? なんでしょうっ? いま、凄い魔法が……」


 「この村の愚民どもはなぜ揃いも揃って着ぐるみを着ているんだ? 」


 「あっ! もしかして漂流者(ドリフター)様ですか……? たいへん珍しいですっ! この村を知らないのですねっ? 」


 ふむ、可愛いな。 手に持ったザルに砂だらけの魚が二匹乗っている。 黄色と緑、見たことのないような気味の悪い魚だ。


 「あぁ、まだこの世界に来たばかりの新参だ。 さっさと質問に答えろ」


 「えっとぉ、この着ぐるみはぁ、この村の守り神なのですっ」


 ドヤっているが意味がわからないな。 意味のわからない奴は嫌いだが、可愛ければ許せるというものだ。 人間というのは業が深い。 しかし……思い出したように腹が減ったな。


 「その魚は美味いのか? 」


 「え……? 美味しくはないですけど……。 いちばん安いのですよっ」


 「ふむ。 これを俺に食わ……」


 ん、なんだ……? チョリスが割って入ってきた。 ブルブル足が震えたままで両手を広げて、小便も漏らしている。


 「こ、この子は……この子だけは……! まだ、幼い子です……。 病気の兄を看病している、健気な子ですっ! どうか、どうかご慈悲をッ……!」


 「ちょりす様……? 」


 ふむ。 チョリス、コイツは俺を魔王かなんかだと思っているな。 しかし跪くでもなく、着ぐるみのさいかわ幼女を必死に守ろうとしてるように見える。 ……いい奴かもしれない、こういう奴は大好きだし尊敬できる。 俺が逆の立場だったら逃げるからな。


 「よく聞け。 俺はお前や村人に一切敵意はないぞ。 俺が敵意を向けるのは、俺を縛ろうとするものにだけだ」


 チョリスはヘロヘロと座り込んだ。 立っているのも限界だったか。 二人ともポカンとしているな。


 「おい、小娘。 兄の看護は大変か」


 「大変と思ったことはないのです。 ずっと……ただ心配なのです」


 「そうか。 さいかわポイントが急上昇した。 名前はなんという」


 「はいっ! ネロといいますっ」


 「兄はパトラッシュか? 」


 「え……? いいえ、カルネといいますが」


 なんだ? ジョークの通用しない奴だな。 惜しいが減点だ。


 「ネロ、俺はその魚に興味を持った。 食わせてくれ」


 「で、でも……これは今日の晩ごは……」


 ぎゅるるるる。


 「あ、あちゃぁ……お腹なっちゃったぁ」


 顔が真っ赤にして舌を出した。 腹ペコ幼女か……さいかわポイント再上昇だな。 今晩はこの娘の家で、こいつがたらふく食べている姿を(さかな)に酒でも飲むとするか。 名案だな。


 「ネロ、魚は物々交換ならいいだろう? 」


 脳内ヘルプのリア、聞こえるか。 俺にはアイテムボックス的なものはないのか?


 【はい。 まずは右手をキツネの形にしてください】


 ん? 片手でキツネの形……こうか?


 【あ、そうです。 親指、中指、薬指で構成された口の部分をパクパクさせながら、『アイテムボックス』と唱えてください。 腹話術のようなイメージで】


 この指で作ったキツネに喋らせるんだな?


 「あいてむぼっくす」


 大量の煙と共に、目の前に130㎝×130㎝くらいの箪笥(タンス)が出現した。 これは多分……昔ウチの実家にあったタンスだな。 俺が幼い頃に貼ったビックリマンシールがそのままついている。


 「え? アイテムボックスなのか……? これは……」


 「こっちが聞きたいくらいだ馬鹿野郎」


 チョリスの小便垂れが俺のアイテムボックスに度肝を抜かれてジロジロと眺め回してくる。 ……おいリア、この引き出しを現世に繋げるスキルとかあるか?


 【舐めないでください。 標準装備に決まっています】


 急に生意気になったな。 しかしさてはお前、俺の持つスキルや魔法の事を把握してやがるな? だとしたら今のところ頭が上がらないか。


 【下から二段目の引き出しを、通じさせたい場所をイメージしながら引いてみて下さい】


 よし、築地をイメージだ。 一度行ったことがある。

 念じながら引き出しを開いてみたら見事現世に繋がっていた。 ドローンで上空からの映像を見せられているイメージだ。 繋がった築地はちょうどセリをやっているところだった。 活気があっていいな。


 「チョリッス。 現世は蒸し暑いな」


 顔を突っ込んでみたら、俺に気付いた魚屋っぽいオッサンと目が合った。 このままオッサンを引き上げて異世界にご招待することも可能だが、希望の品はオッサンじゃない。


 【スティックの操作で任意の場所に動けます】


 スティック? スティックを操作すれば繋がっている穴の位置を微調整できるのか?


 【その通りです。 スティックでドローンを操作するように築地を動き回る事が可能です。 現世側からは空間に開いた異次元への穴が移動しているように見えますので、あまり派手な動きをすると目立ちます】


 それは便利でいい。 序盤から現世の物を盗み放題とはとんでもないチートだな。しかしスティックなんてタンスのどこにも見当たらないぞ? おい、リア。 スティックなんてどこにある?


 【ミナト様のお股にぶら下がっているスティックです】


 そう来るか、なるほどな。 すぐさま左手で股間をまさぐり、陰茎(スティック)操作でマグロのセリをやっている場所まで急ぐ。


 【へぇ〜、はじめてのおちんぽコントローラーの割には上手じゃないですか】


 俺の脳内に下品な言葉を響かせるな。

 さて、冷凍マグロに近づいた所でスティックから手を離し、身体ごと突っ込んで引き上げた。 重くてちょっと冷たかったが、チートステータスのお陰で楽勝だ。


 「なっ、なんじゃそりゃぁぁ! 」


 「こっ、これは魔物ですかっ!? おさかなの……バケモノっ! 」


 「二人とも、何を驚いている。 ただの冷凍マグロだ。 煮るなり焼くなり好きにしろ」

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ぶっ飛びヒロインと陰キャツッコミマシーンの主人公が織りなす入れ替わりコメディも書いてます。 『隣の席の美少女と身体が入れ替わってしまった件』 ←よかったらこちらも覗いてみてください!
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