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第三十一話『決着と決意』


 【ちろちゃんはきっと連絡してきますよ】


 「そうだと良いんだがな」


 【高ステータスで容姿に恵まれていて、それでも死を望む転生者なんて居るんですねぇ】


 「俺にも全く理解出来ないが、ちろるにはちろるにしか理解できない葛藤があるんだろう」


 【可哀想な私を助けて! っていう、構ってちゃんタイプなのでは? 】


 「そのタイプなら現世で自殺しないぞ。 ポーズだけの自殺未遂を繰り返す」


 【未遂するつもりが死んじゃったとか】


 「その線はあり得るな。 いずれにせよ、もっとちろるを知らないとわからないことだ」


 【ですねぇ】


 「俺は別にどっちでもいいけどな。 本当に病んでても、構ってちゃんでも、可愛い奴だってことに変わりはない」


 【両方ともすんげぇめんどくせぇタイプの女だと思いますけど】


 「『めんどくせぇ女だ』なんて思うような機会が人生で一度もなかったからな。 俺にとっては新鮮でいい」


 【そこはかとなく悲しいですね。 まぁハーレム作るならめんどくさい女も必要ですね。 なんとなく、ハーレム映えしそうですし】

 

 「病んでるとか構ってちゃんではなく、本当に『めんどくさい病』の可能性もあるからな。 それが一番可愛い」


 【そうだったらどうするんです? 】


 「ちろるが『めんどくさい』と思ったことは全部お世話してあげる」


 【優しい】


 「ちろるから『めんどくさい事』を俺が全部排除してやる。 何一つ不自由のない暮らし、面倒ごとは全て『ミナト君』が処理してくれる穏やかな毎日を提供して、俺抜きでは生きられない身体にしてやるんだ。 そのうちヤらせてくれるだろう」


 【その優しさは性欲に支えられていた】


 どうなるかはわからないが、とにかく幽玄館で一発抜いとくか。 ギルド職員のブスが言うには、ギルドから見て左側に一本外れた道だったな。 今日は気の強い女冒険者に口汚く罵ってもらうとしよう……。本物の痴女、あるいは痴女の芝居を打てる器用な冒険者が居れば最高なんだが。


 「幽玄館を抑えろって言われてもなぁ! 」


 「おい、声がデカイぞ! ……たった一人のドリフター風情に宮廷直属の騎士団が動くなんて相当だ」


 「ギルドの受付に娼館の場所を聞いて去ったらしいけど……。 普通、あの状況で女を買いに行くか? 」


 「あぁイカれてるよな……。 ギルドにも登録してないドリフターだろ? 第一、幽玄館で遊べる程の金は持ってないんじゃないかな」


 「お前らバカか? あの状況でヌきに行く変態がこの世に存在してたまるかよ。 人探しか、娼婦の解放か……なんにせよ、目的は別にあるはず」

 

  俺の噂をしているな? また騎士団が俺を拘束しようとしてるのか。 いちいち相手にするのも面倒だ……。 幽玄館の楽しみは後回しにして、まずはチョリスと一杯やるとしよう。 夜は長いしな。


 【それにしても騒がしいですね。ただのド変態が娼館に向かっていただけなのに】


 あぁまったくだな。 絡むのもめんどうだ。 リア、姿を消せるスキルないか?


 【ありますけど、印を結ぶのがめんどうですよ。 それよりもタンスの中に『夜更かし不可視マント』っていう魔道具があるから使ってみたらどうです? 】


 スキル発動の儀式を『印を結ぶ』というのか。 まぁ今はどうでもいい、その用途が多岐に渡りそうな魔道具とやらを使おう。

 リアの指示で四段目の引き出しを開け、それらしきピンク色のマントを引っ張り出す。


 「おぉ、カッコいいじゃないかリア! 色が良い」


 【ミナトさんの肉体に作用して見えなくなるんですが、甚平は見えてしまいますね】


 「なるほど、洋服は消えないから全裸じゃないといけないのか……。 甚平は俺のトレードマークになっているから、見えてしまうのはマズイな」


 背に腹は変えられない。 全裸になってからマントを羽織る。


 「甚平を脱いで気付いたが、夜はちょっと冷えるなこの街」


 【オーケーです。 あらかた全身は消えますが、両乳首だけは決して消えません】


 「今後、そういう大事なことは先に言え。 ……つまりハタから見れば二つの乳首が闇夜に浮かんでいるという事になるのか。 幸い俺の乳首は黒いからな。 闇に紛れてくれるだろう」


 俺は晴れやかな気持ちでギルドに向かって歩き出す。


 「ん、なんだこれ……? 浮いてる」


 しばらく歩いていると、乳首が冒険者に見つかった。 頭の悪そうな若造が俺の乳首を人差し指で突こうとしている。


 「おい、俺の乳首だ」


 「だっ、誰だっ!? 姿を現せっ」


 キョロキョロしている冒険者を颯爽と、華麗に置き去りにする。


 「……なぜこんなにおちゃめな仕様にしたんだ魔道具職人は。 ん……? 」


 気付けばギルドは目の前だ。 だが様子がおかしい。 静まり返っているし、建物が完全に消灯している。 ふと広場を見ると、隅っこの方に全裸で仰向けに寝ている男がいた。 腕も足も不自然なところで折れ曲がっているな。


 【……ミナトさん、あれチョリス君じゃないですか? 】


 「なんだと……? 」


 ……近づいてみたらチョリスだった。 全身に無数の深い裂傷がある。 腕も足もへし折れていて、顔は所々腫れ上がりほぼ原型がない。 しかし、たとえ首を刎ねられていてもチョリスだと分かる。 そう、おちんちんにゾウさんの入れ墨が入っているからだ。


 「まきしまむひーりんぐぶらすたぁっ! 」


 酷いな……。 これはさすがに時間がかかるか。


 「この馬鹿野郎が……。 わざと負けたのか」


 【集団でリンチされたのでは】


 「明らかに一対一(サシ)()る空気だっただろう。 チョリスが瞬殺して周りがビビる所まで見えていたぞ」


 【私もそう考えていました。 フィクションのようには行きませんね】


 「クソッタレめ。 よし、あの場にいた全員八つ裂きにして血祭りに上げてこの辺り一帯を三秒で更地にする。 ついでに俺を探してる騎士団も身ぐるみ剥いで——」


 「ミナト、いる、のか……」


 やっと顔の腫れが引き始めたみたいだな。


 「いるぞ。 そうか消えているからな。 この可愛らしい乳首が見えないか」


 「ちく、び……? あぁ……こりゃ幻聴か…… 」


 仕方ない。 このマントは気に入ったが一旦脱ごう。


 「あ、ミナトだ……。 あれ、また? どうして節目節目で全裸になるんだ……? 」


 少し寒いのでタンスを自宅に繋ぎ、パーカーとジャージをサルベージした。 うーむ、やはりしっくりくるな。 このパーカーは俺が小学生の時に好きだった『パッとカツ丸』という、やる気のないペンギンのキャラクターがプリントされている、お気に入りのやつだ。 裾の詰まったジャージは学生時代のやつ。


 「ミナト……」


 「これか? これは『パッとカツ丸』と言ってな。 やる気のない顔をしているが、とんかつをパッと揚げさせたら右に出るものはいない」


 「そうか……」


 「……ギルドで飲んでたゴミ冒険者たちにリンチされたのか? 」


 チョリスは答えない。 YESと取っていいだろう。


 「安心しろ。今からあの場にいた奴らを全員ミンチにして特大のハンバーグを作る。 完成したハンバーグがジェフの最後の晩餐だ。 全部平らげて奴が満腹になったら、生ハムくらいの薄さでじっくり削いでいく。 足の先から頭の先までな」


 ……ん? 行こうとしたら足首を掴まれた。

 

 「なんだチョリスぅ……。 どうしてもminato'sキッチンのアシスタントをやりたいのだろう? 仕上げのオリーブオイルは絶対に俺がかけるからな。 大人しく治癒魔法(ヒール)を浴びながら待っていろ。 食材を調達してくる」


 「周りは、関係ねぇ……。 ジェフと、一対一(サシ)で、負けた……」


 ……べっしゃべしゃに泣いてるな。 一旦心を鎮めて座るか。


 「……俺の前でくだらん嘘をつくな。 ジェフよりお前の方が明らかに強い。 そんな事は俺もリアも最初から分かっている」


 「リア……? 」


 「あぁ、気にするな。 俺の心に棲んでいるさいかわ守護天使の名だ」


 【うへぇっ!? 】


 急に変な声を出すな。


 「ミナト。 わりぃ、せっかく場を……用意してくれたのに。 ゴフッ! 」


 「もう喋らなくていい。 お前は俺の治癒魔法が終わるまで寝てろ」


 「違うんだ、ミナト」


 「何が違うんだ? お前の片手がなくたって、一対一でジェフに負けるなんてありえないぞ。 邪魔が入ったんだろう」


 魔法で治療中のチョリスを引きずって、民家の間の路地裏に放り込む。


 「……待ってくれ。 ……んが、けんが」


 さて……。 暴れるか。 ギルドで飲んでたジェフ派のバカどもは問答無用で叩き潰す。 俺はチョリスの問題に口は出しても、手を出すつもりはなかった。 火をつけたのはバカどもの方だ。


 「……剣がっ! 振れなかったんだぁ! 」


 なんだ? 叫べるまでに回復したか。


 「ジェフをぶっ飛ばしてやろうと思った……! ギルドでジェフを挑発したミナトに心底感謝したよ……! 俺はあいつをぶっ飛ばして、お前が言った通りに過去を清算してやろうと思ったっ! 」


 大泣きしている。 大の字で仰向けに寝そべって、ズルズルと鼻をすすりながら泣いている。


 「もう泣くな、チョリス」


 「でも、ダメだったんだぁ……。 ジェフに剣を振り上げるたびに……リリィの顔がよぉぉ! 笑ったり泣いたりしてる、リリィの顔が、ぐひっ! 頭にっ、浮かんじまってえぇえぇぇ……! 」

 

 「女作家が書く漫画の主人公かお前は。 いつまでもウジウジと悲劇のヒーローぶってるんじゃないぞ、気色悪い」


 「リリィが、あいつが死ぬ直前の、何度も夢に出てきたあの顔が、頭に浮かんだ瞬間……。 心がポッキリ折れちまったぁ……」


 メソメソと本当に陰気臭い奴だ……。 そろそろめんどくさくなってきたな。 治癒魔法を打ち切りにして気絶させるか。


 【ミナトさんも同じ状況でネロちゃんが死んだら、こんな風になってしまうのかもしれませんよ】


 まるで童貞にチョリスの気持ちは分からないみたいな言い草だな。


 【そんなこと言ってませんよ。 しかしミナトさんの童貞卒業は楽しみですねぇ。 初セックス見ててもいいですか? 】


 いい訳がないだろうデリカシーのない奴だな。

 まぁどちらにせよ、リリィの死と激しい迫害が合わせ技でコイツのトラウマになっているのだろう。 PTSDってやつかもしれんな。 やれやれ……。 現世からワインでもスティールしてやるか。


 「涙を拭け。 起きてこれを浴びるほど飲めば忘れられる」


 「葡萄酒(ワイン)か……? 」


 ——路地裏。 乞食がゴミ箱を漁った跡がある。 ムカデのような虫も這っている。 空は狭く、生温い風が肌に触る。 なぜか社畜だった頃の帰り道を思い出した。


 「チョリス聞いてくれ、心に決めた事がある」


 「……なんだ? 」


 「俺はこの街でパーティを結成する事にした。 何にも属さず、誰にも縛られない。 気の向くまま、自由にこの世界を大冒険するパーティだ」


 この野郎……。 大事な話を切り出したのに俺がスティールしてやったワインを瓶ごとガブ飲みしているな。 目がギョロギョロしていて気味が悪い。


 「ぷひゃぁー! うめぇ! 」


 「……『非合法(イリーガル・)旅団(パーティ)・〝湊一家(ミナトいっか)〟』を立ち上げる」


 「うめぇ。 悲しくても、辛くても、こんなに惨めでも……。 うめぇもんはうめぇんだよなぁ」


 「話を聞けアル中トラウマ野郎が」

 

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