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第二話『始まりの草原で、最強の矛と盾を手に入れる』

 「四の五の言ってないで最強の魔法を放て。 自然破壊したくないなら空に撃てばいいだろう」


 「うーん、騎士団に俺の居場所が割れそうだけど……まいっか。 お前の頼みだしな」


 魔王は凄まじい攻撃魔法を空に放った。

 赤黒く火だか雷だかよくわからん波動砲みたいなやつがとてつもない轟音を立てて昇っていく。 ……よし、コピー完了! 魔王最強の攻撃魔法は俺のものだ。


 「ありがとうなグラスタ。 あと……お前の(しもべ)を俺に一匹回してくれ」


 「魔王軍から引き抜くのか? 闇取引にも限度があるだろ」


 「バレなきゃいいんだ。 どうだ? いいの居るか? 」


 「どんなのがいいの? 」


 「弱くていいから空飛べるやつ」


 「こいつでいい? 」


 ウィンドウにゲテモノが表示された。


 「ダメだ、見栄えが悪すぎる。 女が寄ってくるような可愛い奴がいい」


 「うーん、これかな」


 ドラゴンだが、顔が幼いというか、丸っこくて可愛らしい。 ピンク色なのも好印象だ。


 「可愛いな。 魔王軍とは思えんゆるキャラ感だ。 大きさはどれくらいだ? 」


 「このくらい」


 グラスタが手で示したのは、バスケットボールくらいの大きさだった。


 「ダメだ、小さすぎる。 あぐらをかいて背中に座れるくらいのサイズは欲しい」


 「ワガママだな。 魔法で大きくすれば? 」


 「魔法でデカく? お前俺をトラえもんかなんかだと思ってないか? いちいちそんな面倒な事をやってられるか。 さっさと次の候補を出せ」


 「俺が魔法でデカくしといてやろうか? 」


 「それが出来るなら最初からそう言え。 ……あ、おい待て」


 「なんだ? 」


 「でっかくなったりちっちゃくなったり出来るようにしろ。 デカくなるのは俺が乗るときだけでいい。 街を連れて歩くのに邪魔だからな」


 「えー。 まぁ……出来ないこともないか……了解。巨大化時は背中であぐらかけるくらいね……うん。 あー、でもミナトのとこに行く途中で死んじゃうかもなぁ」


 「どうしてだ? 」


 「弱いから。 メンタルも豆腐だし。 悪い奴に見つかったらミナトのとこまで行けないだろ、多分」


 「お前が俺のところまで送ってくればいいだろ。 そんな頭もないのか魔王には」


 「ってか、移動手段にするのか? ミナト自分で飛べないのか? 」


 「翼もないのに飛べるわけがないだろう」


 「いや浮遊魔法とかいけるんじゃね? 魔法で翼生やしたっていいし」


 「俺はもう自由と言う名の翼を広げてるからな。 これ以上欲張ればバチが当たる」


 「なんだその理屈。 ……だからってウチの魔物を使わなくたって——」


 「おうおう、そろそろ黙れこの畜生が。 とっとと言う通りにしないとご自慢の魔王城をお前の血で染め上げるぞ」


 「想像の百倍やべぇ奴だったわお前。 ってかさっき俺がぶっぱした魔法で王宮騎士団に位置バレしたと思うから……。 そろそろ帰っていい? 」


 「あぁ。 今日のところは勘弁してやる。 幸運を祈る」


 グラスタが漆黒の翼を大きく広げた。

 正直かっこよくて腹が立つから何かのきっかけがあったら()いでやろう。


 「あ、グラスタ待て! 言い忘れた」


 「あー? なんだよ 」


 「今度、仲間が集まったら魔王城にお邪魔していいか? 」


 「あぁ、いつでも来いよ。 最近暇だから。 手土産はワインでいいや……樽で」


 「生意気な奴だ。 それが最後の酒にならないよう、慎重にもてなせよ」


 グラスタが翼を広げ、飛び去っていく。 やれやれ、ほぼほぼ全クリだな。 ここからこの異世界をどう堪能し、あのPR映像で見た海に面する国のさいかわ王女……。 あの子をいかに堕とすかが(キモ)になってくるぜ。

 まぁ急ぐ旅じゃない。 気持ちもいいし、ちょっくら昼寝でもするか。



 ◇ ◇ ◇



 「キミィ! 大丈夫だったか!? ここに凶悪な魔族が来てただろう! 」


 なんだやかましいな……。 俺の昼寝を邪魔するとはいい度胸だ、消し飛ばすか。

 ほぉ、十人以上に囲まれている。 基本は同じコスチュームだが、仰々しく鎧をまとったやつ、魔法使い風のスカしたやつ。 なんだか偉そうな奴も後ろにいる。 こいつらもしかして騎士団ってやつか?


 「魔族? 知らないな。 俺はここで魔法の練習を終えて、昼寝をしてただけだ」


 「魔法の練習? じゃあさっき派手に打ち上げられた魔族特有の暗黒魔法も……。 君が撃ったと言うのか? 」


 騎士団のメンバーがゲラゲラ笑っている。


 「あれは魔族特有の魔法なのか? 俺も使えるようになったって事は、魔族の仲間入りってわけか」


 まだ笑っている。 魔族に出くわして気でも狂ったのかと騒いでいるな。


 「キミはまさか、漂流者(ドリフター)なのかい? 」


 「そうだ。 さっき着いた」


 「これは驚いた! 来たばかりのドリフターに会えるとは」


 なんだ? 騎士団の連中がざわついている。 そんなに珍しいのか?


 「お前らその人数で……。 あの暗黒魔法を放った魔族とやらを倒せると思ったのか? 」


 「お前らとは何事だぁ! 口を慎め! 」


 東洋人っぽいスキンヘッドの青年が叫んだ。 よくもまぁあそこまで頭皮を露出しながら堂々としていられるものだな。 あっぱれだ。


 「ジロー、ムキになるんじゃない。 彼は混乱してるんだ。 いいかいキミ? 我々はね、宮廷直属の第十三師団だ。 ちょっとばかし名が知れているのだが」


 最初から一番偉そうにしてる奴だ。 こいつがリーダーだろうか。


 「手短に話せ。 話の長いやつは嫌いだ」


 「ははは! その様子だと高ステータスで転生してきたのだろう? わかる、わかる。 最初はイキってしまうよな」


 騎士団が楽しそうに笑ってるな。 なんか腹立ってきたし、そろそろ消すか?


 「第十三師団はね、この国では鉄壁の防御力を誇る。 光魔法のシールドで、魔族のいかなる攻撃も防ぐことが出来るんだ」


 「ほう、防御特化か」


 「あぁ、特に第十三師団の〝タートルズ〟と言ったら、この国で名を知らないのは赤子くらいだろう。 転生者(ドリフター)三兄弟の魔力を合わせて、暗黒魔法も防ぐ強固なシールドを作るのさ。 まぁ、まだ君に言ってもわからないかも……」


 スキンヘッドの三人が前に出てきた。 三人とも割と軽装だ。 二人は双子のように顔がそっくりだが、一人だけ系統の違う顔をしている。 こいつらだけがアジア系の顔で、それ以外のメンバーは全員西洋人っぽい。


 「俺が長男、泣く子も黙るカメダ・タロウだ」


 俺はカミダ、コイツはカメダ。 一文字違いだから親近感が湧くな。 たしかに面倒見が良さそうな、アニキ肌っぽい佇まいだ。


 「俺が次男のジロウ。 高ステなら慎重にレベルを上げろよ? 騎士団を目指すなら歓迎してやるぜ 」


 カメタロウ、カメジロウときたか。 いやしかし……俺が求めていた異世界ファンタジーで一番登場してはいけないタイプのキャラクターが早速出て来たな。 ゴリゴリの日本人でスキンヘッド。 雰囲気もクソもありゃしない。


 「あ……僕は三男の鶴太郎(つるたろう)です。 よ、よろしくねっ」


 「あぁよろしく……いや待て鶴太郎、お前だけ確実に親が違うだろう」


 「あ、はい……。 親父と不倫相手の間に生まれたんです、僕は」


 「業が深いな。 強く生きろよ亀田鶴太郎。 俺は三人の中ではお前を一番応援している。 ほら、キャラメルとレシートをやろう」


 「わぁ、キャラメルだ。 昔よくお母さんが買ってくれたなぁ」


 「どっちのお母さんだ? お前には二人いるからな。 ふふっ」


 誇り高き騎士団員が素人と馴れ合ってんじゃねぇ、なんて言われて俺の鶴太郎が引っ叩かれてるな。 やはり鶴太郎への風当たりが異常に強い。 まぁでも、この三人は俺と同じく転生してきて、コイツらなりに楽しんでいるのだろう。


 「なぁ、カメさんたち。 見せてくれないか? お前らのシールドってやつを」


 「ハハハ、こんなところで見せるわけがないだろう! 」


 俺に魔王の攻撃魔法を撃たれたら発動せざるを得ないだろうな。 そんなに強い防御魔法ならほしいし、いっちょ撃ってみるか。 ……しかしあの魔法の名前はなんていうんだろう。


 【『終焉を招きし狂宴』(バースト・レクイエム)です】


 おっ。 脳内に語りかけてくるヘルプ。 お前、名前あるのか?


 【申し遅れました。 私は、リアと申します】


 これからもサポート頼むぞ、リア。

 ……さて。 どうやったらあの魔法を撃てる?


 【はい。 まずは掌底(しょうてい)を合わせ、お花のような形を作ります。 そして、撃ちたい方へ横向きに突き出して下さい。 『バーストレクイエム』と唱えれば発動します】


 ふむ。 ハメカメハの形ではではなく、ビックバーンアタックということか。


 「おい、お前らが見た暗黒魔法ってやつを撃つぞ。 死にたくなければシールドを出しておけ」


 「……へ? 」


 「くらえ。 ばーすとれくいえむ」


 ちょっと上に向けて撃った。 赤黒い波動砲は遠くの山を(かす)め、空の彼方へ消えていく。 騎士団の連中は顎が外れるくらい口を開けて、呆然としていた。


 「カメさんたち。 威力を調整してやるからシールドを出すんだ。 シールドの耐久テストを実施するぞ。 三、二、一……。 ばーすとれくい……」


 ふむ。 三兄弟が声を合わせてめっちゃ早口で詠唱したな。 透き通った青色の大変綺麗なシールドが展開された。 よし! コピー完了、俺のものだ。 まさかスタート地点で世界最強の矛と使えそうな盾を手にしてしまうとはなぁ。やれやれだ。


 「ま、まさか貴様ァ、魔族が人間に化けているのかっ……? みんな! 総攻撃だ! 陣形を……」


 「待てジロー! 彼は魔族じゃない。 魔族の操る暗黒魔法とは全く異なる……。 純粋で悪意のない、美しい魔力だった」


 また一番偉そうな奴だ。


 「君、名前は? 」


 「俺はカミダ。 カミダ・ミナトだ」


 「私はこの十三師団を率いるフォント=チェンスコという者だ。 君ならこの世界を救えるかもしれない! どうか、騎士団に入ってもらえないだろうか! 」


 「悪いが興味ないな」


 「そうか、良かった。 では早速だがこれから我々と王都に……あれ? 」


 「騎士団になど入らんぞ、ホント=チンコスコ。 俺は自由に楽しくイキたいだけだ。 組織なんかに縛られてたまるか」


 「え? いや……。 騎士団だよ? 成り上がれば富、名声が手に入るし……。 何不自由ない暮らしが約束される」


 「そっ、そうだぞカミダっ。 お前正気か? 実を言うと我々三兄弟もS級冒険者を経てチェンスコ様に引き抜かれたんだぜ。 この異世界では騎士団が一番の花形だ、断る理由がどこにあるっ」


 「断る理由はもう全部話したぞ」


 「頼む、カミダ君。 まずは王都に来て見学だけでも……。 きっと騎士団に入りたくなる筈だ」


 「しつこいぞチンコスコ」


 「そ、そうだよカミダくん! 騎士団のメンバーは皆優しいし……ゲスい話になるけど、美味い物も食い放題、いい女も抱き放題、酒池肉林の毎日だよ! 」


 「そうか……。 それはちょっと(そそ)られ……ちょっと待て鶴太郎、お前大人しい顔してとんだゲス野郎だな」

 

 「貴様ァー! 我らが十三師団を率いるチンコスコ様が頭を下げているんだぞ……。 これがどういう意味を持つか分かっているのか無礼者っ! 」


 「よせ、ジロー! 」


 カメジローはずっとやかましいな。 吹き飛ばしておくか? いや流石に可哀想か、同じ人間だし……何より次男坊だからな。


 「カメジロー、騎士団で活躍して充実してるのはわかる。 お前らが成り上がって楽しんでいるように、俺は俺なりのやり方でこの異世界を堪能させてもらうと言っているんだ」


 「いいか、転生初日で騎士団にスカウトされるなんて……。 前代未聞なんだぞ」


 「そうなのか。 気持ちはありがたくいただいておく」


 カメジローは腑に落ちない顔で引き下がった。


 「しかしカミダくん……。 私の誘いを蹴るというなら、先ほど凶悪な魔法を私たちに向けた事は、この国を守る騎士団として無視する事が出来ないぞ。 きっちり上に報告をさせてもらう」


 「あぁ、そうだな。 王様にきっちり報告してくれ。史上最強クラスの転生者(ドリフター)が降臨したとな」

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