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第二十五話『冒険記・其ノ弐〝チョリスの故郷、クラプトン〟


 コーヒーブレイクを終えてから、二時間ほどチョリスのペースで歩いてやっと頂上に着いた。 山に霧が出ているようで、眼下にはぼんやりとした街の灯りが見える。

 学ランチョリスは登山で体力を消耗し切ってげっそりとしていた。 岩の上でヒューヒューと間抜けな息を漏らしている。


 「オラ、すっげぇワクワクしてきたぞっ」


 「ゼェ、ハァ、ふぅ、どうしたんだ……。 急に」


 「ん? 主人公はワクワクしたらこういう口調になるんだ。 お前のようなクソモブ野郎にはわからんだろうがな」


 現世から栄養ドリンクを拝借して案内役のモブキャラに渡してやった。

 ——それにしても変わった夜景だ。

 街の輪郭はよく見えないが、LEDのような煌々とした灯りが一直線に集中している。 あとはその周りに、電球色の光がぼんやり点々としていた。


 「あの一直線の白い灯りはなんだ? もしかして街のメインストリートか」


 「あぁ、そうだ。 俺も久しぶりなんだが、随分と灯りが増えたな……。 あれはギルドロードって言ってさ、一番奥にクラプトンの冒険者ギルドがあって、冒険者達を相手に商売をしている店が一本道に集中しているんだ」


 なるほどなぁ。 酒場や宿屋、武器、装備屋なんかもあるのだろう。 街に着いたら異世界っぽいコスチュームを買って着替えてもいいが……。 紐とかボタンが無駄にたくさんついてたり、黒のロングコートだったりして大抵ダサいからな。 甚平のままの方が目立つしマシかもわからん。

 

 「ギルドロードは夜遅くまで活気があるのか? 」


 「今の時間ならクエスト終わりの冒険者で盛り上がってるんじゃねぇかな。 でも俺たちが着く頃にはきっと寝静まってるだろう。 ……ん? 何やってんだミナト」


 「ほらおんぶだ、俺の背中に乗ってくれ。 三十秒でこの山を駆け下りるぞ。 ここまではペースを合わせてやったが、お前はちょっと歩くのが遅すぎる」


 「三十秒って……。 ミナトなら本当にやりそうで怖いな。 いやしかし、確かにもう足が棒みたいだから助かるけどよ……」


 「振り落とされないようにしっかり掴まるんだぞ? ナメクジ野郎」


 「アハハ。 悪いな、失礼する。 よいしょっと。 う、ぅわぁああああああ! 」


 山を駆け下りる。 身体能力強化で全身に魔力が迸っていて、そのせいか全身が淡い光に包まれたので、途中で彷徨ってたゴブリンにランタンを恵んでやった。 そしてあっという間に山を降り切った。


 「何秒だった? チョリス」


 「ハァ、ハァ、し、心臓に悪いな……! 二十秒くらいだと思うが……。 二時間ぐらいに感じたよ 」


 近付いてみてわかったが、魔物避けなのか街は塀に囲まれているようだ。 それに沿ってしばらく走ると入り口が見えてきた。

 大きな階段だ。 横幅は10メートル以上ある。 袖には等間隔に松明の火が焚かれていて、なかなかいい雰囲気を醸し出していた。


 「おい! 身分を証明できるものは? 」


 なんだ? 階段を上がっていくと、最上段に座っていた弱そうな男が声をかけてきた。多分門番だな。


 「俺はクラプトン・ギルド所属の者だ」


 チョリスがそう答えて何かを見せている。 ギルドに所属している証明書でもあるのだろうか。


 「一体なんだぁ、その服は。 ん? なんだD級のゴミか、ふははっ。 普段はどんな任務をこなしてる? 子供のお守りか。 それとも墓掃除か? 」


 「へへ……。 いやぁ、俺は小さい村の用心棒で生計を立ててる。 細々とやってんだ」


 「……あん? 用心棒だとぉ? ここらの村の用心棒でもB級以上のランクが必要だろう。 嘘をつくな」


 「あぁ、嘘じゃないんだ。 今はクラプトン・ギルドを介さずに、村の長から直接雇われてる。 えっと、今日クラプトンに来た理由は……」


 「ふはははは! ヒィー! 」


 明らかにチョリスより弱い門番だが、チョリスの言葉を遮って半端じゃないくらい引き笑いをしている。 何様なんだろうなこいつは。


 「ヒィー、腹がよじれるぜ。 盗みでもしてクラプトンの街を追われたのか? 逃げ込んだその村にうまく馴染めたんだな。それともあれか……? 毎晩村長のチンポでも咥えてるのか? え? 」


 「アハハハ……。 まぁそんなところだよ」


 どんなところだよ。 チョリスを見てると本当にヤキモキするな。 事情はよく知らんが、貶され慣れているんだろう。


 「それはそうとよ、後ろに居るのは俺の友人でさ。 昨日こっちに来たばかりの漂流者(ドリフター)だからまだ身分を証明できるものはない。 今日はギルドに彼を案内する為に来たんだ」


 「なに……!? ほぉ……! この付近でスタートしたのか? そりゃ珍しいな。 おい漂流者(ドリフター)、こっちに来い! ステータスを見せてみろっ」


 チョリスが俺の耳元で「乗らなくていいぞ」と声を掛けてきた。 しかし友を目の前でコケにされ、転生者としても値踏みされているようで激しく不愉快だ。

 まずは『月刊プロレス』の特集記事で覚えた関節技を極めて、と。


 「あだだだだだ! 何すんだドリフターっ!

はっ、離せぇ! 」


 「おいザコ。 身分証明が必要か? 満天の星空を見上げてみろ」


 「離せこの野郎……! ぶっ殺……」


 「ばーすとれくいえむ」


 美しい花火を、夜空へ。


 「ヒィィィイ!あ、悪魔ぁーーーっ! 」


 「今のが俺の身分証明書だ。 街に入るぞ? ……異論はないようだな」


 腰を抜かして小便を漏らした男の顔を踏んづけて街に入る。

 いやはや、なんとも素晴らしいな……。 レンガが敷き詰められた道や、お洒落な街灯、瀟洒な建物がいい雰囲気でロー村とは大違いだ。

 しかし様子がおかしい。 主に冒険者の身なりをした男たちが大勢いるが、数名がぽかんと口を開けて空を見上げている。 おっ、意外と女もいるな。 目に見える範囲はブスしかいないが。


 「キャーーー! 」

 「にっ、逃げろーーーっ! 今とんでもない攻撃魔法が入り口でっ」

 「お、おれさっきも山の向こうであの魔法が打ち上がってるのを見たんだ! 誰も信じてくれなかったが……! 」

 「私は昼間よ! 昼間見た赤黒い魔砲は見間違いじゃなかったのね!! 」

 「なぜこんな辺境の街に!? とにかくジェフ様と騎士団に報告だ! 早く走れーっ! 」


 一人が駆け出したら蜘蛛の子を散らすように逃げ惑っていく。 大半はギルドの方向、商店街のような一本道の奥へとまっすぐ走っていく。 ……楽しそうなので俺もあの集団に混じって逃げるか。 さいかわ探しも兼ねてな。


 「チョリス、悪いが先に宿を抑えてきてくれないか」


 「いや、それは構わねぇが……。 ミナトの魔法で集団パニック起きてるんだぞ。 お前はどうするんだ? 」


 「あぁ、俺もあの集団に混ざって逃げ惑う」


 「全く理解できないんだが」


 「いいから早く宿を探せよ。 そうだな……。 もし〝さいかわ〟が見つかって不慮のセックスに巻き込まれた際に、スムーズに事を運べるベッドがあればどこでもいい」


 「何言ってんだ……? 難しいな……。 でっかいベッドがあればいいってことか? 」


 「デカくて柔らかくて清潔なベッドだ」


 「不慮のセックスって……。 俺も途中参戦していいのか? 」


 「許可が下りると思ったならイカれてるぞお前。 童貞が初夜で複数プレイなんて聞いたことあるか? 」


 「わかったわかった、宿を探してくるよ。 何処で落ち合う? 」


 「ブスしか居なかったら適当に店を探して一人で一杯呑んでいる。 落ち着いたところで花火(バースト・レクイエム)を上げるから、宿を抑えたらお前も来い」

 

 「うん、わかった。 花火をあげてしばらく経っても来なかったらもう一発撃ち上げてくれ」


 【あの、黙って聞いてますけど、両方イカレてたら収集つかないからな】


 「もう一発撃てだ? 随分とワガママになったなチョリス。 阿呆らしく常に空を見てろ、一発目で確実に俺の位置を特定するんだ」


 「いや頑張るけどさ。 ……でも俺が合流する前にあんまり飲まない方がいいよ。 多分だが、ミナトは酒癖が悪いぞ」


 「笑わせるなゴミムシが。 日本酒一升如きで酩酊して斜め上にイメチェンするようなザコ下戸に言われる筋合いはないぞ」


 チョリスと別れ、逃げ惑う愚民どもを全速力で追って即合流した。

 いやしかし、酒癖が悪いというのは現世でも少なからず感じていた事だ。 行きつけにしようと思った飲み屋は二、三回通うと何故か出禁になっていたからな。 一人でしっぽり飲んでいるだけのつもりなんだが。 ちゃんと指摘してくれるチョリスはやはりいい奴だ、友に相応しい。


 「おい、そこの女」


 最後尾を走っている女が振り返ったがブスだった。 後ろ姿はグッとくるのに顔を確認したらガッカリのパターンは現世で幾度となく経験してきたが、それは異世界でも変わらないか。


 「おい、そっちの女」


 「なっ! なによ!? 」


 「ハハッ。 お前もひどい顔面だな」


 「あぁっ!? なんなのよアンタ! こんな時に! 死ねっ! 」


 やれやれ、声が出てしまっていたか。 しかしブスに現実を突きつけてやるのも世界最強の役目というやつだ。 ダメなものにはダメだと言ってやらないとダメなまま突き進んで成長しないからな。

 ……さて、街にきたらひっくり返るほど呑むつもりでいたが、チョリスが来るまでは一杯をチビチビやるとしよう。

 しばらく品定めしながら走っていると、突き当たりの建物に愚民どもがなだれ込んで行った。

 あれがギルドだな? 勝手に木造を想像していたが、煉瓦造りの立派な建物だ。 最後尾のブスの後に続いて入ろう。


 「本当なんです! やっべぇ攻撃魔法が街の入り口で! 」

 「確実に上級魔人(ハイランク)以上の敵であります! あんなに凶悪な魔法は見たことがありません! 」

 「私ははっきり見ましたが、あれは暗黒魔法っぽかった……! 見たことはありませんが、あれこそ絶対に暗黒魔法です! 魔族がクラプトンに襲撃を……! 」


 冒険者たちが肩で息をしながら懸命に訴えかけている。 誰に訴えているのかと思えば、一番奥で女を(はべ)らせて酒を飲んでるゴツい奴だ。 茶髪の坊主頭で、オランウータンによく似ている。


 「黙れ」


 \ドンッ!/


 オランウータンがテーブルに握り拳を振り下ろした。 その音で周りにいる奴らがびくりと震え、静まりかえった。 弱いくせに威圧感だけは一丁前のオランウータンだ。 やれやれ、まるで現世のDQNだな。


 「お前らランクは? 」


 逃げ込んで来た有象無象が一斉に下を向いた。 元気よく報告していた三人がそれぞれ「Eです」とか「Dです」とか言っている。 構図としては、座って酒を飲んでいる十数名のイキり冒険者と、それに殺到している低ランク冒険者といったところか。


 「……このクラプトンギルドのトップは誰だぁ!? 」


 「「「英雄ジェフ!!」」」


 おっ?


 「魔獣・コラッタからクラプトン領を救った男は誰だぁ!?」


 「「「英雄ジェフ!!」」」


 「王国騎士団も頭を下げる、S級冒険者は誰だ!? 」


 「「「英雄ジェフ!!!」」」


 ほう……。 オランウータンの言葉にほぼ全員が応えて軽妙なコール&レスポンスをしている。 楽しそうだな、俺も混ざろう。


 「エルスター領最強の男は誰だぁ!? 」


 キタッ。


 「えいゆう、じぇ——」


 「「「英・雄・ジェフ!! ウィー! 」」」

 

 混じってみたが最後だけリズムが違くて仲間外れになったな。 クソつまらん。


 「クラプトンギルドの冒険者がピーピー喚くんじゃねぇ! 格が落ちるだろうがよ。 俺がいるんだ、ドッシリ構えてろ底辺ども」


 「「「はいっ!! 」」」


 ほう……! 本当にあいつがギルドのボスなのだな。 いやしかし、あのイキりオランウータン、パッと見ても実力は……。


 【チョリスくんの方が全然強いですよね? 】


 お。 リア、お前もそう思うか……。 というより、ここにいる冒険者達の中で、チョリスに敵う奴が居るとは到底思えないのだが。


 【私も同意見です。 楽しそうな街ですねぇ】

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