第二十三話『ズッ友アンカー』
「ネロ。 おい、ネロ起きろ」
「ふぇ……? 」
目を覚ました途端に無言で抱きついてきた。 幼女と絡む機会など現世では一度もなかったが……こんなに愛おしいムーブを決めてくる生き物なのだな。 世の親たちが大切に育てるわけだ。
「ネロ、いいか? 俺はこれから冒険に出る。 少し寂しいと思うが」
「やだ」
やれやれ、まだ喋ってる途中なんだがなぁ。 また抱きついて話を聞かない態勢に入ったな。 まったく……。 このまま朝までいける気分だが、仕方ない。 引き離すとするか。
「すまんな。 ちょくちょく様子を見に来るかもしれんが……。 いや、お前が大人になってエロくなるのが楽しみだから、あまり来ないようにする」
「やだ」
「どうしてだ? エロくなっていく過程を見てしまうと余計な情が湧いてしまうだろ。 『8年前に遊んだ地味な幼女がドチャクソエロくなって俺の前に現れた件』この方がファンタジー感あるだろ。 このタイトルで一本書けるレベルだ」
「や」
俺の首元に顔を埋めて、ぐりんぐりんと首を振っている。 なるほど、ネロはまだ寝ぼけているのだな。 仕方ないことだ、起こしてしまった俺が悪い。
おいリア起きているか?
……返事がないな。 この状況は起きてもらわないと困る。 リアリアリアリアリアリアリアリア。 起きろリアリアリアリアリア。
【……だぁ! うっさいなもぉ! 】
寝るところだったか? 悪いが俺のさいかわリアに頼みがある。 いつものごとくスキル検索だ、へそを曲げないでくれ。
【……なんですかぁ? 】
離れていてもネロと話ができるスキルはあるか?
【えーっと、ちょっと待ってくださいね。 あー、ありますね。 『ズッ友アンカー』というスキルです】
ふむ、どんな按配だ?
【アンカーを付けた相手と、ステータスウィンドウを通じていつでも通信ができます。 相手のステータスはもちろん、GPSによる位置情報、健康状態なども閲覧可能】
なんだそれは、最高に便利なスキルじゃないか。 しかし失敗したな、さいかわ剣士レオちゃんにも使えばよかったぞ。
まぁいい、騎士団に居ると分かればいつでも会いに行けそうだしな。 さてリア、発動ガイドを頼むぞ。
【では、寝ぼけているネロに向かって『ネロにおっちゃんのアンカー打ち込んでええか? お? ええのんか? 』と言い放ってください】
承った。
「ねろにおっちゃんのあんかーうちこんでええか? お? ええのんか? 」
「……へ? 」
【そのままネロに跪いてください】
……こうか?
【いいえ、片膝は立ててください。 あ、そうです。 そのまま、そのまま下を向いて、手を差し出します】
言われた通りに手を差し出す。
「へ? え? 」
ネロの小さな手が乗るのがわかった。
手のひらから優しい温もりが伝わってくる。
【ネロの手の甲に、優しくキスをしてください。 その後、『ズッ友だよ☆』と。 ウインクしながら笑顔で】
なかなかキザったらしい事をさせるな。
【絶対に唾液を付けないよう気をつけて下さい。 ネロの綺麗な手にミナトさんの汚い唾液を付けないように細心の注意を払って下さい】
了解だ、任せておけ。 キスは初めてじゃないからな。 デリヘル嬢で何度か練習した。 しかし幼女の手の甲へキスは初めてだから、深呼吸して口を乾かしてからにしよう。
「すぅー、はぁー」
……よし。
「ふへぇ!? な、なんですかっ! ミナトお兄ちゃんっ! 」
「ずっともだよ☆」
ネロの手の甲が青白い光に包まれた。
円に縁取られた『湊』という漢字が浮かび上がり、皮膚から吸収されるように消えていく。
「わわっ! なんですか今のはっ! 」
「ネロ、声のボリュームを下げろ。 カルネまで起こしてしまう」
「あっ、はい」
【ミナトさん、ステータスを開いて左に四回スワイプしてみてください】
よし、わかった。
「ステェィトゥス・オゥプゥェン」
【ネイティブな発音ですね】
「は、はわぁぁぁ! なんですかこのステータスウィンドウはっ! 」
ステータスウィンドウがデカすぎて室内からはみ出しているな。 やれやれ、規格外も考えものだ。 さて、四回スワイプしてみるか。
◇
ズッ友リストだお☆
↓
【ズッ友No.1☆】
⚪︎ネロロ=リオーネ・マスカルディア
◇
ほう、本名はネロロと言うのか。 二つも「ロ」は要らんしな、省略するのも無理はない。
【ネロの名前をタップしてみてください】
言われた通りにタップすると、ネロの手の甲が先ほどのように青白く光り、『湊』の文字が浮かび上がる。 すると、俺のステータスウィンドウには手の甲を覗き込むネロの可愛い顔がデカデカと映し出された。これは素晴らしい。 俺の『湊印』はライブカメラのように機能するのか。
「これはいいなリア! 今のは俺からアクセスしたが、ネロの方から俺にアクセスする事は出来ないのか? 」
「……ミナトお兄ちゃん? だれと喋っているのですか……? 」
「あぁ、声が出てたか。 気にするなネロ、独り言だ」
【ネロが手の甲に『ミナトお兄ちゃん』と話しかけると、ミナトさんのステータスウィンドウにアクセスできます。 ただし、ネロからミナトさんへアクセスする際はネロの魔力を消費することになります】
なんだと? どのくらいの魔力を消費する?
【今のネロの魔力ですと……。 おそらく満タンの状態でも、15秒喋ったら卒倒しますね】
なるほど……。 電話をかけた方が通信料金を負担するというシステムか。 やれやれ、まるで大手通信事業だな。
しかし15秒で魔力が切れるとは。 俺はチートだからまったく感じないが、本来ならかなりの魔力を注ぎ込まなくては成立しないスキルということだな?
【御名答。 ちなみに本日ミナトさんが消費した魔力は数値にすると約58万9千です。 チョリスくんのステータスに表示されていた魔力は2500くらいでしたね。 覚えていますか?】
ふむ。 言いたいことはわかった、俺の魔力消費割合はほとんど『ばーすとれくいえむ』が占めているんだろう?
【いいえ。 現世とこの異世界を繋げるスキルが魔力消費総量の八割以上を占めています】
ほう……! タンスのアイテムボックスがこの世界においてはもっともチートな能力ということか。 ありがとうなリア、俺はお前が好きだぞ。
【……あ、あんたのためにやってるわけじゃないんだからねっ! 】
ツンデレは流行らないぞ? 今はツンとデレくらいの落差じゃ読者は満足しない。 その他のテンプレ外属性かツン→デレへ変換時の特殊な環境が重要だ。
【何言ってるんですか? 】
気にするな独り言だ。
「ネロ、頭を撫でさせてくれ」
「へ? 」
「すきるぶーすと」
「えっ? なんですか? 」
「なんでもない。 気にするな」
さて……。 チョリスは支度ができた頃か。 いいスキルがあったものだな。 これで遠く離れていてもさいかわを守れるってもんだ。
「ネロ。 いいか? どうしようもなく寂しくなった時、辛いことがあった時。 右手の甲に『ミナトお兄ちゃん』と話しかけろ。 他の何を捨て置いても俺がすぐに駆けつける」
「ミナトお兄ちゃん」
ネロが右手の甲に喋りかける。
「バカもの。 いま実験するな」
【ズッ友からの着信です】
【ズッ友からの着信です】
ネロからのアクセスが脳内に響き渡る。 これは、リアが受信して俺に伝えるシステムなのか?
【いえ。 私の声ですけど、録音したやつですね。 他のパターンも聞いてみます? 】
何通りもあるのか? 今のはちょっと味気なかったし、パターン2を聞かせてくれ。
【ミナトくぅん。 起きてよぉ〜。 ズッ友からのぉ……着信だよぉ! もぉ〜。 私以外の女の子とぉ、あんまり長く喋ったらぁ、焼いちゃうんだからねっ】
『やいちゃう』は嫉妬の方で間違いないんだろうな?
【もちろんですよ。 リアは嫉妬で焼いちゃういたいけな女の子ですから】
さっきの味気ない方に戻しておけ。
……どれ、じゃあ早速テストしてみるか。 ポチッとな。
ステータスウィンドウに表示された通話アイコンをタップしたら、ネロの泣き顔が映し出された。 隣を見ると、ネロの手の甲から光が放たれ、俺の表情がホログラムのように空中へ投影されている。
「おぉ、こりゃいいな。 もしもし、ネロ。 こんな風にな、俺たちはいつでも喋れるようになったぞ。 俺が冒険に出て遠く離れても、いつでもお前の手の甲に召喚される。 少々気味が悪いかもしれんが……。 寂しくなったらいつでもアクセスしろ」
ネロはホログラムで喋っている俺の顔を見て目を丸くしている。 瞳をウルウルさせながら俺の実体に視線を移した。
「いっ! いま、今ですぅ……! いま、ネロは寂しいのですっ……! 」
やれやれ……また泣くか。
「ミナトお兄ちゃん、行かないでくださいぃ! 冒険に、行かないでくだざいぃ……! ずっと、ずっどごの村でいっしょにっ! 」
「簡単に泣くんじゃない、泣くほど俺を専属コックにしたいか? ……いいかネロ、世界最強は自由に世界を旅し、誰にも縛られずまっすぐな目で世界と向き合い、世界最強としての答えを出さなくてはいけない。 こんなヘボ田舎でセックスも出来ない貧乏な小娘など相手にしている暇はないんだ。 わかるだろう? 」
「ぢっともわがりまぜんっ……! ミナドおにぃぢゃぁんっ……! うわぁぁぁん! あぁーぅ、あ。 あぅ……」
……ふむ。 リアの言う通り、俺との通信に魔力を根こそぎ持ってかれて卒倒した。
やれやれだ、幼女の扱いは難しいな。 しかしこれ以上泣き顔を見られたらこっちも堪えるから、ちょうどよかったかもしれない。
本当にありがとうな、ネロ。 お前は必ずエロかわいくなれるポテンシャルを秘めてる。
八年待ってな……。 そん時はハチャメチャに抱いてやっからよ……!




