第二十一話『ミナト祭、スタート』
リア、頼むぞ。この複数の屋台を同時に捌けるほど熟練した『祭のプロ』の技術をトレースさせてくれ。
「ちちんぷいぷいっ! まじかるすきるはんたぁぁあ〜っ! ちんくるっ! ちんくるぅぅうっ! 」
我ながら相当板に付いてきた。 しかしこれをやると大体みな顔を赤らめて下を向く。
【広域指定暴力団・「明石組」構成員『真島源五郎(62)』の技術をトレースしました】
随分と物騒なやつの技をトレースしたな。 刃物を持たせて大丈夫か?
【大丈夫っす。 源五郎のテキ屋偏差値マジぱねぇっすから】
テキ屋偏差値か……信じるぞリア。 それではねじり鉢巻を装着して、と。
——調理、開始だ。
「なっ! なにぃィィィィィッ!? 五つの『屋台』の間を高速で移動しながら、的確にそれぞれの料理を進行させていくだとォォォォッ!? 」
「やかましいぞチョリス、誰に説明している? お前も手伝うんだ愚か者が」
「わっ……わりぃ、つい興奮しちまっ、あっづぁぁあ"あ"あ"あ"あ"ぁ"ッッッ! 」
「鉄板に手を乗せてる暇があったら客を捌けうつけ者。 お前の汚い掌ソテーなど魔物も食わんぞ」
今まで警戒をしていた貧乏人どもが、料理の匂いを嗅いで押し寄せて来た。 それをカルネが必死に制している。 「食いたいものの前で列を作らせろ」とチョリスに指示を出すとすぐに対応し、貧乏人どもは行儀よく列を作った。
ほう……! ソースと見た目のダイナミックさのせいか、お好み焼きがダントツ人気だな。
「よし、いいぞチョリス。 かなりストックが溜まった! 子供を最優先にして、順番に配ってくれ」
「よしきたっ! お前ら、ミナト祭の開催だぁっ! ほらっ持ってけ、持ってけっ! くっそ……! 美味そうだ、俺も早く食いてぇ、食いてぇっ! 」
がっついてるな。 みんないい笑顔だ……。 ん? お好み焼きを食いつつフランクフルトの列に並んでいる猛者もいる。 こりゃ忙しくなりそうだ。
手間の掛かる焼きそばや粉物を中心に屋台を駆け回る。 わたあめに関しては方々から差し出された子供の手に全対応した。
「みっ、ミナト様! これは何という食べ物なのですか!? うまい!こんなに香り高いものなど食べたことがありません! 」
やれやれ。 見窄らしい格好をした同い年くらいの男が声を掛けてきた。 大衆料理のお好み焼きがそんなにうまいか? それにしても、いきなり『ミナト様』ときたかこの貧乏人どもが……。
「これはな、ソースとマヨネーズとかつお節だ」
「ソーストマヨネズト……」
「かつおぶし」
「ソーストゥ・マヨネズト・カッツォビシ! はぁ……。 なんておいしい食べ物なんだ……!」
「ミナト様ぁ! この串に刺さった細長い肉……? は、なんですか? 何かの肉ですよね!? 」
こっちは痩せこけた若い女だ。 やはり女はフランクフルトが似合うな。
「それはフランクフル……じゃない。 フランケンシュタイン……のペニスだ。 澄んだ川にしか生息できない生物でな、お目にかかったことはないだろう? 」
「フランケンシュターン・ノペニスですか……! いつか見てみたいです……。 」
「幻の生物と言われている。 出会えるといいな」
「あの、ミナト先生! この奇妙な」
「お前が手に持っているのはソース焼きサバだ」
「そーすヤキサバっ……! 美味すぎます、ミナト先生っ! 」
やれやれ、俺が屋台を移動するたびに誰かしらが料理の解説を求めてくる。 さすがにもう出まかせが弾切れになってきたぞ。
「みなとさま! これのあけかたがわかりません」
「おう、ラムネか。 飲んでる大人がいるだろう」
「だぁれもあいてにしてくれません」
「ハナタレ坊主。 いいか、これはな……。 このピンク色のパーツをこう被せて……。 上から叩くんだ。 すると詰まっている玉が落ちて飲めるようになる。 叩いてみろ、ほら」
「はぁ〜! ぷしゅっていった! 」
「ぷしゅっと言わないラムネはラムネじゃない。 飲んでみろ」
「んっ! しゅわっとするぅ! あまぁい! 」
「しゅわっとしないラムネはラムネじゃない。 あとでお前を無視した大人を教えろ。 説教してやる」
俺の……いや、源五郎のテキ屋捌きにチョリスが追いつかなくなっている。 動き的には相当優秀だと思うが、源五郎のテクにはついて来れないのだろう。
「おいチョリス、オクトパスボールも続々仕上がってる。 列が消化できてないぞ。 馬車馬のように働けダボハゼが」
「おうっ! 今行くっ! 」
ほう、カルネが飲み物を配ってるな。 やはり缶ビールが飛ぶように売れている。 ……しかしネロの姿が見えない。
「ミナトお兄ちゃん! これおいしいですぅっ! 」
ネロが両手にわたあめを持っている。 屋台間を忙しなく動く俺の後ろをくっついて回っていたみたいだな。 わたあめに子供が群がっていたのは知っていたが……。 手元だけ見て渡していたからネロとは気付かなかった。
「ネロ? わたあめなど祭ではまやかしのようなものだぞ? ちゃんと他のもので腹を満たしたのか」
「いいえっ! ネロはきのうたくさん食べさせてもらったのです。 今日はみんなが先ですっ」
「ばかたれめ、子供が変な気を遣うんじゃない。 ほら、特製めんたいチーズマヨ・オクトパスボールだ。 これはお前だけにやる。 食べなさい」
「おほぉ〜〜〜! 」
俺のケツを追いかけるのを辞めて、極上の明太チーズマヨたこ焼きに夢中になったな。 よし、それでいい。
「チョリス休憩だ、お前も食う方に回れ! 」
「いやっ、俺はいい! イカヤキとフランクフルトなら出来そうだから任せてくれっ! 少しでもミナトの負担をあっづぁぁあぁあああああ"あ"あ"あ"あ"ぁ"ッッッ! 」
掌を炙るのが趣味なのかこの愚か者は。
それにしても、いつのまにかミナト祭の会場中央で火が上がっている。 チンケな太鼓みたいなものを叩き出す阿呆も出て来たし、踊りだすアホも出てきた。 まったく、辺境の貧乏人どもでも祭という概念を理解できる頭があったか……。
しかし、人を楽しませる、というのはこっちも心が暖かくなるな。 世界平和の鍵はエンターテイメントが握っていると言っても過言ではないだろう。
【ミナトさん、楽しそうですね】
お前も来るか? リア。
【行きたいなぁ】




