第十七話『イチャラブセックスへの道』
「それにしても、二十五歳までしか生きられないのによく子孫を残していけるもんだな。 ディランは」
【ミナトさんだったら絶対に残せないですもんね】
まぁ童貞で子孫を残した人間はこの世に一人もいないからな。 やかましいぞ。
レオは甘いものが好きらしいので、ミスドナからいくつかのドーナツを盗ってやった。 げっ歯類のように頬を膨らませながら食べているが……。 ふむ、あまり喜んでいる様子ではないな、夢中ではあるが。
「ディランってさ、なぜだかとても容姿に恵まれた人が多い」
こいつもめちゃくちゃ可愛いしな。
「ほう。 モテるんだな。 すぐ結婚できるのか」
「いや、結婚はしてもらえない。 すぐに死んじゃうからな」
「ヤリ捨てか」
「まぁね。 そんで、性交に成功しやすい」
「どのくらいの確率で妊娠する 」
「ほぼ一発らしいよ」
「なんっ……だとォッ!? 」
ふむ、これはさすがの世界最強もたまげた。 とてもえっちだな……。 炎の精霊の影響なのか? 契約した者が確実に子孫を残して種が途絶えないよう、容姿に恵まれ、懐妊率が上がる。 そういうことか? とんだドスケベ精霊だ……まるで人間だな。
「お前は処女か」
食っていたドーナツを吹き出したな。 やれやれ、本当にかわいい奴だ。
「凄いこと聞くな……。 まぁ、そうだけど」
顔を赤らめながら下を向いてドーナツを齧ったか、照れ屋め。
「レオ、お前の処女を俺に捧げろ……! 」
またドーナツを吹き出した。
「なっ! 何を言ってるんだっ! 」
【ダメだ、狂ってやがる……】
「やれやれ、お前ら。 何を言ってるのかわからないか? つまり俺の子を孕めと言っているんだ。 もう一度言うか? 俺の」
「いやもういい。 わかったから」
【レオちゃん全速力で逃げてください。 お巡りっさーんっ! 手錠ぉーーーっ! 】
開いた口が塞がらない様子だな。 さて……ここからが勝負だ。 俺は何が何っでもこのさいかわ赤毛女剣士のレオと子作りイチャラブセックス確定の流れに持っていく。 いくぜ、腕の見せ所というやつだ。
「いいか? 耳の穴をかっぽじってよく聞け、レオ」
「お、おう……」
【レオちゃん聞かなくていいです。ミナトさん? お薬の時間ですよ。 脳味噌かっぽじって注入しましょう? ね? 】
「たとえばお前の念願が叶って、騎士団で地位を得る。 仲間とディラン部隊を立ち上げて魔王すらも討伐したとしよう。 しかしだ、お前らは二十二〜三で死ぬんだろう」
「うん……」
「気にするな。 死ぬ奴は一歳でも死ぬんだ。 ……そしてだな、『人族の英雄』になるのはお前と、その時一緒に戦ったディラン部隊。 次世代への差別意識は消えない。 わかるか? 」
しょげている。 だいたいこの歳の頃は現実を突きつけられるとしょげるか反発するかだ。 そこをしっかり見極めて、状況確認と要求に緩急を付ける。
「差別意識というのは根が深い問題なんだ。 時間をかけて、ゆっくりと偏見を薄めていくしかない」
「……うん」
「だからこそ、俺の子を産め」
「意味がわからないよ……」
【緩急どころの騒ぎじゃないよ……】
「俺は自分の精子を病院で調べたことがある。 とんでもなくイキがいいのが蠢いていた。 そいつらを実戦で使う機会はなかったが……。 レオ、双子三つ子も夢じゃないぞ」
「だから意味わからんって! 」
【レオちゃんどうして顔が真剣なんだろう? もしかしてあなたもバカなの? 】
「レオぅ……。 そんなに物分かりの悪い子に育てた覚えはないぞ」
「だってミナトの言っていることはめちゃくちゃだ」
「ちっともめちゃくちゃじゃない。 いいか、お前は騎士団長になるんだろう? そしたら俺の子……。 つまり強い赤毛の子を産んで、お前の後継者にしろ。 お前が死んでも、代々レオの家系が高い階級や『ディラン枠』をキープすることで、騎士団におけるディランの地位を盤石なものにするんだ」
よぉし手応えアリっ! レオが目を細めた。 考えているな……? よし、子作りイチャラブセックスまでもう一押しだっ。
【嘘でしょ……】
「はっきり言うが……。 レオのようなポッと出のディランが数人で国民を救ったところで、ディランは蔑まれ続ける。 あぁ、残念だがそれが現実なんだ。 お前個人の『英雄』という肩書きだけでは、先祖の過ちや民衆に根付いてしまった差別意識は清算しきれない……。 やれやれだがな……」
「そう……なの、かな? 」
【神様、どうかレオちゃんをお守りください。 誰よりも無垢なレオちゃんに神のご加護を……」
「あぁ、そこでだ! 騎士団で成り上がって身分差という壁をぶち破ったお前が先頭に立ち、この思想が子孫に伝わるよう仲間のディランにも説け。『子孫を気高く強く育て、世代が変わっても弱き国民を守り続ける』という気高い思想だっ! 」
「ディランが……。 みんなを守る 」
レオは自分の髪の毛をペタペタ触ってから、じっと俺を見つめてきた。 よし、釣れたか……? 来たか……? 焦るなミナト、まだ慌てる時間じゃないッ!
【神は居ないの……?】
「そう、ディランがみんなを守る。 それによって『いつの時代も騎士団には、とても頼りになるディランがいる』という印象を民衆に刷り込むんだ。『反逆者』のイメージを徐々に薄めて、塗り替えていく。 お前は『今』を塗り替えたいと言っていたな? ちがう、『これから』を塗り替えていくんだ」
「徐々に薄めて……。 塗り替えてゆく」
まだだ……! ミナト、まだ笑うな……! 釣れた、という感情を悟られた瞬間、ここまでの演説が水泡と帰す。 最後の仕上げを終えてレオがGOを出すまで笑うな……!
「お前の功績を持ってしても、差別意識で頭の凝り固まった大人や老害達には通じないかもしれない。 しかし、若い世代には必ず効いてくる。 この世界の騎士団は英雄扱いされているんだろう? 容姿に優れ、強く気高いディランを、無垢な子供や新しい世代が放っておく訳がない! ディランの支持者は年月と共に倍増していく! 」
大体同じ事をゴリ押しで繰り返しているだけだが……! どうだヤラせてくれるか……? 全身全霊の演説だ。 こんなに魂を削って演説する奴は現代の政治家にもいないぞ。
【性欲の化身、ミスター・オチンポヘッドに天罰を 】
「うん……。 そうか。 僕が一代でどれだけ頑張っても、ディランへの差別はなくならないから……。 次の世代に繋いでいけということなのか。 うん。 ミナトの言ってることは、なんとなくわかった」
【あぁ、これはもうだめかもわからん】
よし。 決まった! これは確実に堕ちただろう。
「でも……。 少し考える時間が……」
「待つぞ。 今日日イヌッコロでも飯を待てる時代だ、俺が待てなきゃ犬以下ということになるからな」
「………………。 」
「………………。 」
「どうだ? 答えは出たか? 」
「早いってぇ! まだ出ないよぉ! 」
「そうだな、焦るなミナト……。 しかし俺はなんとしてでもレオを抱きたい。 この心の綺麗さは俺の童貞卒業に相応しい相手だ。 きっとこれ以上は現れないだろう。 セックスから始まる恋もあると言うし……。 神よ……! レオよ……! 」
【あの、声出てますよ】
し、しまったっ……! 大事なところでつい本音が……っ!
「…………ふふっ! 」
レオめ、なぜ笑ったんだ? くそっ、未成年は決断が遅くてやきもきするな。 ところでリア。
【はい、ミナトさんの性欲にドン引きしてます。 もう言葉を交わしたくありません】
そうか。 でも性欲がドン引きするレベルじゃないと人類は繁栄できなかったからな。 仕方ないことだ。
【で、要件は? 】
「ディランの……。 炎の精霊との契約を解消するスキルはあるか 」
「ん……? 何言ってるんだ? ミナト。 そんなのあるわけないだろう」
また声に出てしまっていたか。 少々熱くなりすぎたな。
【……ないみたいです】
そうか。 わかった。
【ミナトさん、これは個人的な意見ですが】
なんだ? 手短に話せ。
【ディランの言う『精霊との契約』というのは……。 本当は、悪魔とかそういう類の『呪い』なのでは? 】
「どういう事だ 」
「ミナト、僕は何も喋ってないぞ……? 」
「気にするなレオ。 独り言だ」
【本当に個人的な意見ですけど。 私はレオの話を聞いて、『精霊との契約』よりも『悪魔の呪い』という印象を強く受けました。 ただそれだけです】
……確かに。 よく考えてみれば呪いと言い換えても不思議じゃないな。 俺は性欲で視界がぼやけていたようだ。 貴重な意見をありがとう、リア。
【さいかわポイント上がりました? 】
ん? レオのか? とっくに上限を超えているぞ。
【いや、私のです】
やれやれ……。 お前にもさいかわポイントを入れておく。 レオの印象は変わったか?
【……はい。 悔しいですけれど、私の中のさいかわポイントも既に上限を超えています。 己の運命を受け入れ、懸命に抗うレオ。 間違いなくさいかわです、負けました。 それでは本当にしばらく呼ばないでください】
情緒がおかしいなリアは。 まったく世話の焼けるヘルプだ。
「レオ」
「なんだ? 今考えてるんだよっ」
「一度思考を停止していい。 聞くが、お前の祖先、契約した最初の奴らは何故子孫を残していけた? 反乱を起こして死刑にはならなかったのか」
「え。 あぁ、当時の国王が慈悲を与えてくださった。 幹部達だけは処刑されてしまったけれど、それ以外は島流しで済んで……」
「島流し? では何故お前はこの大陸にいる? 」
「もちろん優秀で反省が見られたディランは大陸に残ったし……。 僕はね、母が島から連れてこられたんだ。 特別魔力が高かったりするディランは、島から引き抜かれるから」
やれやれ、闇が深そうだ。 まるで芸能界だな。




