第十六話『レオの夢』
【おい、想像力の足りないミーハー野郎】
あ、リア? グラスタの件からな、俺に何かアクションを起こしてくれと言わんばかりの告白が続いてるけど一体なんだろうな。 チートの宿命?
【でも別に、何か頼まれている訳ではないですよね? 】
まぁそうなんだけどな。 俺は出会った人の悩みを知って片っ端から解決していくような、どこぞのインチキラブコメ臭のする冒険など望んでないからな。
【いいんじゃないですか? 自由にイキるって最初から言ってましたしね。 クズ行為さえ控えめにすれば誰も文句は言いませんよ】
「ミナト、着替えたぞっ! 代わりにはなってやれないが……。 妹さんを思い出すかっ!? 」
「おぅ……。 思い出すどころか脳内の妹が一瞬で消し飛んでしまった。 今夜は寝れんなオイ」
【そういう所だぞオイ】
「ミナト、どうした? 鼻血が出て……」
「むっ! これは鼻血ではない! お前の髪の毛と同じ……。 真っ赤な『情熱』だ」
【鼻血だよ】
「ところでレオ、お前は下の毛も赤いのか? 」
【よく前世で前科つかなかったなこの男】
「うん。 ディランは全部の毛が赤いよ、見る? 」
【セクハラ耐性S! 】
「いやしかし、俺がディランに生まれていたら自分の運命を呪うだろうな。 お前はよく自分の不幸を平然と語れるもんだ」
レオが立ち上がって伸びをした。 身長はそれほど高くないがスタイルは抜群だ。
「僕がディランに生まれたのは神様が決めた事だしね。 ご先祖様だって、大昔はそれが正しいと考えていたから戦ったんだ。 僕の知らない環境や状況の中で、必死に考えて出した答えだったんじゃないかなぁ……」
「先祖とはいえ、顔も見たことない奴らの気持ちを良くそこまで慮れるな」
「今を生きている僕に、かつてのディランが正義か悪かなんてわからない。 みんなが先祖様を悪だというならそれでもいい。 僕は自分の力で『今』を塗り替えていきたい。 そう思っているんだ」
おう……。 差別されてるくせに、なんて純粋で真っ直ぐなんだ。 言ってることはよくわからんが頭も良さそうだ。 これはさいかわポイントが一気にマックスを振り切ったぞ。
「お前は今の世の中をどう思う? 人族が大陸を支配して、差別も貧富の差もある現状だ」
「そんなの、昔に比べたら全然幸せさ。 現地の人族や転生者が大陸の国々と魔法の技術を発展させたお陰で、魔王軍の襲撃による犠牲者は激減してる! 昔はみんな、見たこともない魔王にビクビクしながら暮らしてたらしいよ」
「……そうか。 かつて脅威だった魔王はいまや、落ちぶれたんだな」
「そうさ。 騎士団やギルドの冒険者たちの活躍で最低限の安全は保障されている。 内戦を機に移住した異種族も、それぞれのテリトリーで平和に暮らしてるそうだし。 この世界はとっても安定しているんだよ」
「……なるほどな。 ところで、俺が潰したと噂の『夢』ってなんだったんだ? 」
レオは恥ずかしそうに足元の草を蹴り上げ、鼻の頭を人差し指で掻いている。
「僕の夢はねぇ、騎士団に入って活躍して偉くなって……。 仲間のディランを入団させて部隊を作る事だった」
「ほう! あのポンコツ騎士団じゃなくてもいい気がするが……。 いい目標だな」
「それから、『魔王討伐隊』に入って魔王を倒す! 僕はね、ディランに付けられている『反逆者』というレッテルを『人族の英雄』に上書きしたいんだよっ! 」
言い終わると恥ずかしそうに俺の表情を伺ってくる。 そして「まぁ、もう無理なんだけどさ……」と複雑な表情をした。
「 お前の赤い髪は俺が今まで見てきたどんな『赤』よりも高貴で、気高く、美しい色彩だ」
「……なっ!? 」
顔も真っ赤だ。 メイド服もうさ耳も可愛い過ぎて胸がはちきれそうだぞ。
「頭を撫でてもいいか? 」
「は、恥ずかしい……だろ。 僕はもう大人だぞ……? 」
無視して撫でる。 撫で回す。 ふむ……。 まずいな、いい匂いがするし、おちんちんがエレクト寸前だ。
「すきるぶーすと」
「えっ? なんて言ったの」
「気にしなくていい。 お前は必ず騎士団に入れる。 あのポンコツ供など全員引き摺り下ろして、お前がトップに立て」
「……そんな、でも、あ、ありがとう。 お世辞でも嬉しいよ」
「ちょっと待ってろ」
タンスを現世に繋げ、目についたアパートの郵便受けからチラシを引っこ抜く。 ついでに油性ペンも拝借。
——— ——— ——— ———
差別主義者のフォント=チンコスコ君へ
今回、第十三師団に襲撃を受けたカミダミナトと申します。 今回あなた方が世界最強のドリフターに働いた狼藉は、決して看過できるようなものではございませんでした。
よって、一週間後未明から、報復の王都無差別爆撃を決行に移す事を、この書面にて表明させていただきます。
——ただし、私も人の子。 鬼ではございません。
以下の条件を了承の上、実行を確認出来た場合に限り、王都無差別爆撃の中止を約束致します。
・今回の任務に参加したレオナ=スティア・トラスフィードへの深い謝罪。
・騎士団における、ディランへの不当な差別行為を禁止する掟の制定。並びに希望者への入団許可。
・カミダミナトへの命令、拘束、進路妨害行為の永久放棄。
以上。
世界最強のドリフター・カミダミナトより、愛を込めて。
——— ——— ——— ———
「この手紙を騎士団の偉い奴に渡してくれるか」
「え? なにを書いたの? 」
「仲良くやりましょうと一筆書いた。 頼むぞ」
「うん……。 わかった」
「レオ。 いいか? もし騎士団に入れなかったり……。 騎士団のメンバーがまだガタガタ抜かすようなら、迷わず俺のところに来い。俺が騎士団を作ってやる」
「め、めちゃくちゃ言うなぁ。 あれ? え? ミっ、ミナト? どうして泣いているの」
「泣いてなどいない」
「ハハハ。 ミナトって、本当は優しい人なのか……? 」
「優しくなどない。 たった今もお前とキツく抱き合いながら濃厚なディープキスをしている妄想を膨らませている」
「何言ってだ……? 」
【ミナトさん、妄想はいいけどおちんちんも膨らんでますよ】
しまったな……。 やれやれ、さすがにエレクトしたイチモツを晒し続けるのはレオにとっても酷だろう。 服を出すのも面倒だが……ふむ、あとで現世からジャージでも引っ張り出すか。
「まりも! もう出てきていいぞ」
ガサガサと音がしたと思ったら、思い切り地面に落下したな。 あちゃあ、だと? 可愛い奴め。
「ミナトしゃまぁ〜! 強かったぁ! カッコいいでしゅ〜」
「勘違いするなマリモ。 強さは、かっこよさではない」
「そうなのでしゅか? 」
「大人になればわかる」
「はい! はやくおとなになりちゃいでしゅ! 」
「大人になるための一歩、お前に初めてのミッションを与える」
「はいっ! なんでしょか」
「俺のエレクトちんぽを、このレオという少女から見えないように隠し続けろ。 ミッション1、『マリモザイク』だ。 頼んだぞ」
「了解しゅましゅたっ! 」
レオの前に立つ。 マリモは懸命にホバリングしてちんぽを隠している。 ふむ、少し難易度を上げてみるか。
腰を横に振ったり、反復横跳びをしてみた。 やるじゃないかマリモ。 縦横無尽に動くちんぽへ完璧についてくる。
ん? レオが目をぎょろぎょろさせながら俺のちんぽを追ってくる。 いやちがうな、マリモを追っているのか。 まぁコイツは誰が見ても可愛い生物だしな。
「その子は……! カヌーラ山脈にある〝聖域〟の〝守護聖獣〟『マリリン』の幼体じゃないか!? ど、どうして昨日来たばかりのミナトがそんな聖獣を!? どうしてそんなに懐いてる!? 」
「やれやれ、うるさいぞレオ。 新たな設定を一気に放り込んでくるのはお前の悪い癖だ、俺は少しずつ、ゆっくり咀嚼しながらこの世界のことを知りたいんだからな」
「一体何者なんだ……。 ミナトは……」
「俺か? 俺はミナト。 カミダミナト。 しがない一人の漂流者さ」




