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第十二話『さいかわドラゴン、その名も〝まりも〟』

 

 ——はぁ。 もう当分グラスタとは会いたくないな。 この世界の情勢もごちゃっとしてそうだし、真面目な話は疲れる上に気が滅入る。 ノンストレスで無双したいだけの俺にキナ臭い話を振らないで欲しいもんだ。

 それにしても、俺とグラスタが話をしている間ピンクドラゴンはずっと俺の足元で大人しくしていた。 ……チェっ! 実に可愛いな。 頭を撫でたらまたクェックエ言い出した。 しかし、『マリリンモンロー』というユーザーネームは現世で既に使われているし、こいつには似合わない。 その名を使ってる女のインパクトが強すぎるからな。


 「マリリンモンロー……ふむ、略すか。 お前は今日から『まりも』だ。 このユーザーネームを現世で使ってるやつは意思のない緑の玉だが……。 イントネーションを変えれば可愛くなる。 『歯茎』と同じイントネーションだ、マリモ」


 【『パレオ』 のイントネーションですね? マリモ可愛いですね、ミナトさん】


 あぁ、リア。 随分大人しかったじゃないか。


 【あっはい。 ちょっと狩りに行ってて】


 ゲームか。 呑気で良いなお前は。

 

 【いや、ゲームじゃないんですけど】


 そうか。 お前のところにも魔物やらモンスターやらいるんだな、お互い大変だ。


 【いちご狩りなんですけど】


 呑気で良いなお前は。


 【そのドラゴン、魔王城に幽閉されていたようですが……。 ずっと世界を旅してみたかったと言っています。 ミナトさんにスカウトされて、最高に嬉しかったと】


 はいはい、もうわかったから狩りにでも行ってこい。 今度は紅葉狩りでどうだ? しばらく帰ってこなくていいから……な、なんだとッ!? お前ドラゴンの言葉がわかるのか!?


 【いえ。 魔道具を使用してます。 『翻訳きんちゃく』という】


 何だそれは、俺にもよこせリア。 早くよこせっ! 俺もさいかわドラゴンと喋りたいぞっ。


 【ミナトさん動物好きなんすね〜。 じゃあ翻訳きんちゃく、そっちに送りますね〜】


 「送る? 」


 ——ベチャ。


 リア、餅入り巾着が空から降って来たんだが……。 空島におでん屋でもオープンしたのか?


 【翻訳きんちゃくです】


 ……見事に砂だらけだぞ。 どうやったら使えるんだ。


 【笑顔で食べれば発動します】


 病院にぶち込まれるぞ。


 【抵抗ありますか? じゃあ無理しないでください。 ミナトさんには聖獣と話せるようになるスキルがありますから】


 失念していたな……! どうやる?


 【マリモに頬ずりをしながら、「かぁいいねぇ〜、お兄ちゃんとお話ししたい? お話ししたいねぇ〜。 じゃあお兄ちゃんがぁ、マリモに言語理解のスキルをあげようねぇ」と唱えてください】


 よし、わかった。 セリフが覚えられないからガイドしてくれ。


 【……かしこまりました、頬擦りは全力でお願いしますね】


 頬擦りなら任せておけ、得意だ。 ではガイドを頼む。


 【かぁいいねぇ〜、お兄ちゃんとお話ししたい? 】


 「かぁいいねぇ〜、おにいちゃんとおはなししたい? 」


 【お話ししたいねぇ〜。じゃあ、お兄つぁんが、あっやべ】


 「おはなししたいねぇ〜。 じゃあ、おにいつぁんが、あっやべ」


 【……言語理解のスキルをあげようねぇ〜】


 「げんごりかいのすきるをあげようねぇ〜」


 「クエー! クエックエッ! 」


 おい、なにも変わらんぞ。


 【すみません、途中でガイドを噛みました】


 その後二回挑戦するも失敗に終わった。 三回目は俺が噛んだな。 ふむ、なかなか難易度が高い。 リア、もうガイドは要らんぞ。 セリフは完璧に覚えた。


 【さすがミナトお兄ちゃん! 誰にでも出来ることじゃないよ】


 ……さて。 そろそろ全力の頬擦りも限界だ、俺はたいして痛みを感じないがマリモが摩擦で燃えてしまう。


 「かぁいいねぇ〜? おにいちゃんとおはなししたい? おはなししたいねぇ〜? じゃあー、おにいちゃんがぁ、まりもにげんごりかいのすきるをあげようねぇ〜! 」


 ……よし、今度はうまくいっただろう。


 「クェ……? あれ、ひとのことばが、しゃべれる! 」


 「まりも。 これからお前と俺は友達だ。 よろしくな」


 「ミナト様〜! うれしいよぉ! ご指名ありがとございましゅ〜! 」


 ふむ、可愛い。 こりゃたまらんな。


 「よし。 早速だがまりも、デカくなってみろ。 背中に乗らせてくれ」


 「了解でしゅっ! しばちおまちをっ」


 思いっきり息を吸い込んだな。 気を集中している。


 「ふぃー、行きましゅっ! ぐ……はぁあああ……ふぐぅっ、う、ををををぉ……ぐ、ぐぁ……どぅりああああああ……ふんっ、ぐぐぐふぅ……ばぁあああンガ、ギギギギギギギギ……」


 ……ふむ。 二十分くらい黙って眺めていたが、やっと1.5メートルくらいか。 まりも……。 可哀想に、酷く憔悴しきった顔面だ。 このままだと三メートルを越える頃には天に召されてしまうだろう。


 「まりも、ストップだ。 巨大化というのは魔王に付与されたスキルみたいなものなのか? 」


 「ゼェ、…………は…………い……ゼェ、」


 すでに虫の息だな。 おいリア、相手のスキルを強化する方法はないか? もっとすんなり巨大化しないと話にならん。


 【ずるるっ。 ずるるっ。 もぐもぐ。 ゴクン。 っあーっと……。 そうですね】


 そばでも食ってたのか、すまんな。


 【スキル強化のスキル、ありますね。 ミナトさん、マリモの頭に手を置いて「スキルブースト」と唱えてください】


 ん、それだけでいいのか? 語尾は伸ばすのか? 勢いは?


 【あ、ちょっとラーメン伸びちゃうんで一旦切ります】


 なるほど、簡単なスキルは手順も楽なんだな。 やれやれだ。


 「すきるぶーすと」


 それから……。


 「まきしまむひーりんぐぶらすたぁ」


 「あれっ! 治癒魔法……。 ミナト様、ごめんなしゃい……。だめなどらごんで」


 「気にするなグラスタのスキル付与の腕が悪いからだ。 今度バチコリ叱っておく。 そんな事より、もう一度巨大化してみろ」


 「でもぉ……」


 「デモもストライキもあるか。 まりも、間違いやみっともなさを恐れていたら何一つ成長せんぞ。 現世で俺がそうだったからな。 早くやってみろ」


 「……はいっ。 ん〜……ぐお……あっ? 」


 ふむ、二十メートル以上あるか。 あまり背中が広いと落ち着かないだろうし、この半分以下で充分だな。


 「みっ、ミナトしゃまぁ〜〜!! こんなにデッカくなれましゅたぁ!! 」


 声までデカすぎるな。 拡声器どころじゃない、山を越えて隣の街まで響き渡っただろう。 やれやれ、咆哮してもらいたいわけじゃないんだがなぁ……。 今ので俺の左の鼓膜が破れたようだ。


 「おいまりも。 そこまでデカくなった時は囁くように喋れ。 うるさくてかなわんぞ」


 「はいっ!! わかりましゅたっ!! 」


 最後の『たっ!』で右の鼓膜もいったな。 ふぅ、まったくこいつは手を焼きそうなドラゴンだ。 しかし手を焼けば焼くほど愛情が深くなるのが俺だからな……。 現世で飼っていたトカゲもそうだった。

 ……やれやれ、まぁよしとするか。 グラスタには感謝しないとなぁ。


 【そういえばミナトさんも巨大化や縮小化のスキルありますよ】


 デカくなりたい願望はないからな、全く必要ない。


 【え……? でも……。 例えば巨人や小人に〝さいかわ〟を見つけたら、どうするんです? そのままの身体では、肝心のエッチが物理的に不可能ですよ】


 謎は全て解けたッ。 ……なるほどな、一理ある。 それは相当優秀なスキルだ……。 今までで一番かも知れんな……! 種族差は性欲さえあればいくらでも乗り越えられるが、物理的なサイズ感というのは気合いで解決するものではない。 ふむ! テンション上がってきた! 一度試しておくか。


 【キモ。 では「てへ、でっかくなっちった☆」と言いながら『てへぺろ』してください。 拳を右側頭部にコツンと当てて、片目を瞑り、舌を出す、あれです】


 了解だ。 一時流行ったあれだな? サイズは二十メートルくらいがいい、あのデカマリモと肩を並べてみたいからな。


 【設定を完了しました】


 「てへっ、でっかくなっちった☆」


 ……うむ。


 「う、うっわぁ〜! ミナト様もおっきくなりましゅたぁ〜!」


 ヒューッ! これは眺めがいいな。 最高だ。

 しかし……デカくなったはいいが、服は全て弾け飛んでしまった。 これでは全裸の巨人だ。 やれやれ、進撃する気などさらさら無いのだがなぁ。

 しかしたまには大自然の中で、生まれたまままの姿に戻るのもなかなか乙なもんだな。 かつて無い爽快感だ。 ここなら手錠をかけられる心配もない。

 

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ぶっ飛びヒロインと陰キャツッコミマシーンの主人公が織りなす入れ替わりコメディも書いてます。 『隣の席の美少女と身体が入れ替わってしまった件』 ←よかったらこちらも覗いてみてください!
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