第十一話『魔王グラスタの憂鬱』
「人族は転生者の現代知識と高ステータスを味方に付けて、一気に大陸の実権を握ったんだ」
まったく、転生者ときたら……うんざりするな。 やはり高ステで転生してきてイキり散らすゴミ屑ばかりなのか。 開いた口が塞がらん。謙虚さってのを持てないのか? やれやれだ。
「グラスタ。 過程はどうであれ、それは当たり前の流れだろう。一番力のある種族が実権を握って平和に導く。 簡単だし、力のない種族からしたらありがたい話だ」
「うん、まぁそうなんだけど……。 ところが、だミナト。 大陸で転生者の知力と武力を借りて、絶大な権力を持った現地の人族が何を始めたか……。 わかるか? 」
当然、この世界の全種族を脅かす魔王軍の討伐に力を注ぎ、世界を平和に導く。 英雄になれるし、人族の地位はさらに盤石なものとなる。 それしかないだろうと伝えると、グラスタはニヒルに笑った。
「……そう思うよな? 違うんだよ、全然違うんだ。 ……人族はな、魔王を討伐するより先に、同じ大陸に住む異種族を迫害し始めた」
「ほう……! 」
異種族の迫害……? 人間は元から他の種族に差別意識を持っていたということか? まぁ確かに、一つの種族が圧倒的に強かったら共存は難しいのかもしれないな。
「何かこれといった大きな理由があるのか? 差別意識が元からあっても、表向きは仲良くしていたのなら、迫害に至るトリガーがあったはずだ」
「事の始まりで言えば……。 静かな反乱と呼ばれた運動だな。人族に偏り過ぎた権力を、武力なしでフラットに戻そうとした勢力が存在した」
「無理だな。 武力で勝ち取った権力を話し合いで手放す筈がない」
「そう。 あっという間に弾圧だ。 そして今現在、大陸に残っている人族以外の種族はごく僅か。 人間に友好的だったり、容姿が整っていたり、戦闘に秀でていたりする選ばれた者だけ。 それ以外の異種族は全員……」
グラスタはそこまで言うと、世界マップが表示されたウィンドウに向かって指を振る。 すると、大陸を囲む八つの島、その全てに赤い矢印を表示された。
「島流しにされちまった」
……たしかに、つまらない話ではある。 人間に対して友好的な〝さいかわ〟や〝さいつよ〟だけを引き抜き、利用価値のある個人以外は外野に放り出したって事だ。
「まぁさっき言ったけど、人族が大陸で幅を利かせ始めた時、他の種族がピリついたってのがキッカケなんだけどさ。 迫害が始まってからは過激派も出てきてたくさん血も流れてる」
「……ふむ」
「今は大陸を囲むそれぞれの島で、追放された種族は独自の文化を築いてる……って建前だ」
なるほどな。 人間がこの世界の実権を握ってからは、人間以外の者たちは色眼鏡で見られ、反乱の意思がありそうな者や力のない者は全員島流しの刑を受けたと。 島流しにあった奴らが固まって、エルフの島だったり獣人の島だったり、各種族がそれぞれのコミュニティを築いているのか。
「お前はその現状を見て魔王になりたいと思ったのか? 」
「……まぁそうだなぁ。 つまんねぇじゃん、こんなの。 この異世界はたくさんの種族が手を取り合って陽気に暮らしてたのに、今は人族ばかりが世界のど真ん中で甘い蜜をちゅーちゅー吸ってんだぜ? 善人ヅラしてさ。 本当にウンザリだ。 クソほどつまんねぇよ」
魔王……。 クソほど悪態ついてるな。 だが、これから様々な種族のさいかわを抑えようとしてる俺としても、気持ちは分からなくもない。 色んな種族にネロレベルのさいかわがゴロゴロ転がっていると思うとトキメキが止まらないからな。
「ということは……。 貴様はあれか、迫害された異種族の解放運動的な意味合いも込めて大陸を襲っているのか」
「そんな高尚なもんじゃねぇさ。 人がゴミゴミしてウザいから殺すだけ」
「転生者の鑑だな」
「これからも立ち向かってくる人族は全て殺す。 イキってる冒険者は一人残らず殺すし……。 転生してきて浮かれてるようなゴミは問答無用で全員殺すよ」
「自由にやればいい」
「なぁ、ちょっと人間が減ったほうがいいと思わねぇ? 聞いてくれよミナト。 人族はよ、優秀な異種族の上澄みを一部だけ利用してな、差別なく友好関係を築いてるつもりでいるんだぜ? 異種族の代表者を必要以上に取り立てて、友好アピールの大規模な催しなんかやってやがる。 本当に反吐が出るぜ? 俺から言わせりゃハリボテさ、あんなもの」
「お前はこの世界の異種族がよっぽど好きなんだな」
「……好きって訳じゃねぇけどよぉ。 みんな真面目で、ひたむきで……。 ちょっとバカだけど、誰も力に屈しない。 人間なんかよりよっぽど義理と人情に満ちてるよ」
ふむ。 グラスタの気持ちはわかった。
「となると、迫害された異種族にはお前の味方もいるんじゃないか? 」
「ほー、察しがいいなミナト。 大陸を囲む異種族の島々には、影で俺を崇める奴らが大勢いる」
人族に迫害された異種族が恨みを抱き、人族と敵対している魔族に肩入れする。 確実に弾圧対象だな。
「やれやれ、まるで悪魔崇拝だ。 じゃああれか? お前の仲間に入った奴もいるだろう」
「うん、ちょっとだけどな。 人族に大陸を支配された事に恨みを持ってる奴らがほとんどだし、島流しにされてる訳だから。当時の反乱分子や血の気の多い奴なんかは『とことん人族を殺してやれ!』 って気持ちで魔王軍を見てたりする」
「なるほどな」
グラスタがポカンとしているな。
魔王らしく引きしめろ、口角を。
「……なぁ、ミナト。 お前のような転生者が魔王の話を聞いて、どうしてそんなに冷静でいられるんだ」
「転生者は全員お前に刃を向けるのか? そういう訳ではないだろう」
「まぁ、うん……。 ステータスの低い転生者はさ、気に入った街で現世の知識を活かして商売を始めたりするよ。 いい暮らしが出来るし、可愛い嫁も貰えるからなぁ。 スローライフって奴だ」
テータスの高い者は野心を抱いて冒険者になったり騎士団に入って、魔王に刃を向ける形になると。
「俺は世界最強だ。 そんな小競り合いには微塵も興味がない。 『何者にも縛られず、自由にイキる』それしか考えられないのがすなわち、世界最強だ」
「いやよくわかんねぇけど。 俺はこれからも人間を殺すぞ? それでいいのか? ……ぶっちゃけた話、今すぐ俺を殺してもいいんだぜ? お前がいつでも俺を殺せることなんて、最初に会った時から知ってるんだからさ」
「ほう、よくわかるな! 」
「この異世界を何年生き抜いてきたと思ってるんだ。 俺はこの世界の魔王だからさ、相手の強さくらい一目でわかるよ」
「……いや、まだお前は殺さないことにした。 ちょっと様子を見る。 何しろ俺はチーターだが……。 頭はそんなに良くないからな。 学校の成績もかなり悪かった。 お前の話はなんとなく消化したが、ゆっくり考えてからだ。 明後日くらいまでにお前を殺すかどうか決める」
「そっか。 ミナトは結構優しい奴なんだな」
「全然優しくはないぞ。 頭の整理が終わった時にお前を殺すと決断したら、15分以内に血祭りに上げてブタの餌にしてやる」
「……おう。 魔王城でいつでも待ってるよ。 昼間は大抵いるから」
「夜行性なのか? 夜は何をしているんだ? 」
「そりゃあ……。 あれだよ、子作りで大忙しだ」
「ヤリまくりだと。 ったく 羨ましい限りだな……。 子供いるのか? 」
「うん、一人娘。 ララってのがいる」
よし。 魔王城に遊びに行ったとき会おう。〝さいかわ〟なら俺がもらう。
「まぁ、お前を殺すかはこの世界を見て回ってから決めたい所だな。 ……よし。 言いたいことを言ったならとっとと俺の視界から消えろ。 ……あ、さいかわドラゴンありがとな」
グラスタが翼を広げて飛び上がった。
「お前はこの異世界で出会った漂流者の中で、一番おかしな奴だ。 ミナト」
「お前は今まで出会った中で一番悲しい奴だ。 グラスタ」
「なぁ、あまり自由に縛られるなよ。 多少不自由さを身の回りに置いておかないと、そのうち自由なんて、嘘みたいに感じられなくなっちまうぞ」
「それっぽい事を言ってインパクトを残そうとするんじゃない。 早く帰れ」
グラスタはにっこり微笑んだ。 ふむ……。
笑うと人間だった頃の雰囲気がぐっと前面に押し出されるな。 こいつにもさいかわポイントを多少入れてやるか。
「おい待てっ、グラスタ! 」
「……なんだよー? 帰れっつったり待てっつったり」
「魔王城にもお前にとっての〝さいかわ〟が居るんだろう? 難しいことなど考えずにそのおっぱいをちゅーちゅー吸って子作りに励んでいろ。 肩肘を張らずにな」
「さいかわ……? 」
「グラスタぁ……。 これを言うのは二度目だぞ? さいかわとは『最高にかわいい』『最強にかわいい』それすなわち……『神』と同義だ」
「本当に……。 なんなんだ、お前は……」
「……俺か? 俺はミナト。 カミダミナト。 しがない一人の漂流者だ。 ……あんまりお前が暴れるようなら、嫁と娘を寝取りに行くからな。 わかったか? ぼうや」




