九
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「では、無事を祈る。レオラ・サリシファ。オリシア・グランドゥフ。ヨアリン・ルシファート。―――フェリーナ・ローズマリア」
なぜお前の名前がある、と思ったことでしょう。わたしも思ってます。今でも思ってます。
大恋愛映画のラストシーンのようなあのあとやってきた学園長と、魔法者集団の幹部、クレッツ・リューディヒさんによってわたしも訓練兵になることになった。たまたまかもしれないけどルシファートの周りに黒い煙を見ることができたと話したら、その力を使ってほしいと。そして、婚約者であるわたしにレオラのサポートをしてほしいと。
わたしより先に断ったのはレオラで、傷つけたくないから離れるんだ、と胸アツな言葉をくれた。けれどリューディヒさんはケロッと「守ればいいだろう」と。あのレオラが分かりやすく不機嫌な顔をするのにはびっくりした。そもそも敬語を使ってない時点でびっくりした。レオラは目上の人には完璧ボーイで接するのに。
よってわたしも参加することに。その次には目を覚ましたルシファートが加わった。何者かに直接闇魔法を使われたルシファートは貴重で、情報提供、加えて保護の意味も含めて。ルシファートを一人にしておくと口封じに襲われるかもしれないから、と。
最後はあのオリシアだ。オリシアは失礼だけど意外にもA組で、おまけに数少ない攻撃魔法を使える一人だった。そういえば木の枝を操ってたもんね。そうだよね。
というわけでわたしたち四人は魔法学園での後期期間の半年間を、魔法者集団の訓練兵として過ごすことになった。
アベルとリアネは心配そうにしながらも、頑張ってきなさい。レオラを支えなさい。と送り出してくれた。レオラのご両親も同様だったらしい。
魔法者集団の寮へと移ることになり、わたしはルシファートと同室。今のルシファートにはなにも見えないし、顔だって穏やかだ。あのあと何度も謝ってくれて、闇魔法を使われてた間の記憶は曖昧らしい。
うむ、一応女子として気になるのはレオラへの好意なわけだけど、そこは彼女も乙女なので、先回りして答えてくれた。
「お二人の仲を邪魔しようなんて絶対に思いません。わたしは確かにサリシファさまに憧れてたけど、わたしを助けてくれたローズマリアさんにも憧れます。感謝してます。お二人が仲良く暮らしてくださる姿を見ることの方が幸せです」
なんていい子……!
今回ようやく闇騎士がなんなのか、少し分かった。人の心にある闇を利用するのが闇魔法らしい。つまりレオラもそれを使えると。
実技試験のときは、軽く相手の戦意を奪って終わらせていたのだとか。
でも、闇騎士が人の心の闇を利用する人物だったとして、レオラは違う。闇騎士じゃない。だってレオラは人の心を利用したりしないから。誰よりも優しくて、誰よりもまっすぐだ。
「はっ、まさかお前と一緒に行動することになるとはな!」
なんて言いながらも少し嬉しそうなのは気のせいだろうか。
オリシアの大きな声にレオラはうるさそうに眉を寄せ、窓の外を見てる。
学園でお見送りをされ、馬車に乗り込んだわたしたちは一時間ほど移り行く景色を眺めてた。
「アンタたちとも仲良くしてやらんこともない」
「ふふ、どうも」
可愛い奴め。
ルシファートは気まずそうに視線を泳がせてる。そうか、怖いか。
「オリシア。怖がられてるわよ」
「はぁ!?なんでだよ!」
「その声の大きさだろ」
「あぁ!?お前みてぇにぼそぼそ喋ってるよりましだろうが!」
「うるさい……」
どうしたものかと視線を向けてくるルシファートに微笑む。
「大丈夫よ。なんだかんだ仲良くなるわ」
「ならない」
「ならねぇ」
「ふふ、ほらね。息ぴったり」
ルシファートと顔を見合わせクスクス笑うと、レオラとオリシアはそっぽを向いた。意外と似てるかもしれない、この二人。
馬車が到着したのは一時間半ほど経ってからで、案内されたのは普段わたしたちが暮らしてる家とはまるで違う、高層マンションのような建物だった。
ガラス張りになっていて、いつ攻撃されてもいいように絶対に壊れないガラスらしい。各部屋に抜け道があり、緊急事態はそこから外へ出るとのこと。
わたしたちはみんなお城での生活だったから、マンションでの暮らしは初だ。わたしは前ボロアパートに住んでたから多少馴染みはあるけど、他の三人は全くなんだろう。ぽかんと見上げてる。
そしてこの建物だけ浮いている。
周りは普通の住宅地で、大きさは違えど西洋的な建物が並ぶ中、このビルだけは異質だ。うん、わたしも中々慣れそうにない。
レオラたちと分かれ部屋へ案内される。白で統一されたシンプルな部屋にベッドが二つあり、お風呂やトイレは共同。それぞれのベッドの上には魔法者集団の制服が置いてあった。
「今日はゆっくりお休みください。明日の朝また迎えにあがります」
ここまで案内してくれた女性隊員の方が綺麗なお辞儀をして部屋を出て行く。深く息を吐き出して、ベッドに横になった。
「疲れましたね……」
「そうですね……」
二人ともぐったりだ。
レオラとオリシアは一個上の階で同室。喧嘩してそう。
「……あの、ローズマリアさん」
「はい」
わたしのベッドへと近付いてきたルシファートさんに首を傾げる。
「あんなことをしておいてこんなお願い、失礼だとは思います。でも……あの、ローズマリアさんのこと、フェリーナさんとお呼びしてもいいですか……?そ、それで、わたしのことはヨアリンと呼んで頂けたらと思って……」
……っ、かわいい!なんだこの生き物は!天使か!
「もちろんです!ぜひフェリーナとお呼びください。そしてぜひヨアリンと呼ばせてください!」
「い、いいんですか?」
「もちろんです!嬉しいです!どうかこの間のことは気にしないでください。あなたは利用されただけでなにも悪いことはしていないのですから」
「……ありがとうございます、フェリーナ」