七
その日、夢を見た。レオラの夢。
綺麗な顔に触れたくて、その体を抱きしめたくてたまらない夢。
目を覚ましてわたしは愕然とした。欲求不満なのかわたし。そうなのか。
今まで一度もレオラのことをそんな風に見たことはないのに、昨日の実技試験でレオラの笑顔を見た瞬間からこうだ。ドキドキして、まるで十代の恋する乙女のように落ち着かない。
今日は学校は休み。午後からレオラが遊びに来てくれることになっている。楽しみだ。……いや!あれよ?お話しするの楽しいから楽しみだなっていうだけで、別にラブ的な意味ではないよ!?そうだよねわたし!
侍女に身支度をしてもらい、約束の時間を待つ。そして約束の時間の数十分前、鈴が鳴った。
いつにもました軽やかな足取りで迎えに出る。
「おは、……」
「おはようございます、ローズマリアさん」
「……ルシファートさん?」
現れたのはレオラではなく、昨日の実技試験で対戦したルシファートさんだった。相変わらず可愛い。
「ちょっとお出かけしたいのだけれど、どうかしら」
「あ、けれどわたし約束があって……」
「大丈夫よ。サリシファさんには許可を得ているから」
「……え?」
ルシファートさんとレオラって仲良かったっけ?……でも、もう約束の時間は過ぎたけどレオラは来ないし、本棟なのかもしれない。
「分かりました。支度してくるので少しお待ちいただけますか?」
「もちろんです」
ルシファートさんに軽く頭を下げ、侍女へ伝える。もしレオラが来たら、今日は出掛けることにしたから後日にしてほしいと謝っておいてください、と。レオラがここへ来たらルシファートさんは嘘を吐いたことになるわけで、ならレオラにわたしを追わせるのは良策じゃない。
不安そうにする侍女へ微笑み、家を出る。ルシファートさんに連れられて来たのは、家から一時間ほど馬車に乗った先の湖だった。
「あの、ルシファートさん」
「はい」
「どうしてここへ?」
「ゆっくりお話しできるところに来たかったんです。ここなら邪魔は入りません」
左様ですか。
自分から話を振るのは諦め、ルシファートさんの言葉を待つ。
「あのね、ローズマリアさん。サリシファさんとの婚約を解消してほしいの。わたし、サリシファさんの婚約者になりたいんです」
「……え?}
「サリシファさん、とてもすごい魔力をお持ちでしょう?なのに他の方たちはサリシファさんを『闇騎士』などと言ってひどいことをするじゃない。わたしはそういったものからサリシファさんを守ってあげられると思うの」
……つまりルシファートさんはレオラが好きだと。それで婚約解消してほしいと頼みに来たと。すごい、ここまで堂々と真っ向から来るなんて。尊敬に値するね。
でも困る。本来のフェリーナの体を借りてるわたしが勝手に婚約者を降りることなんてできない。……わたし自身の意志としても、レオラの婚約者は譲りたくない。
「ごめんなさい、ルシファートさん。彼の婚約者を譲ることはできません」
「どうして?あなたは彼を守ってあげられるの?闇騎士と恐れられる彼を守ることができるの?わたしならできるわ。そのために攻撃魔法だって勉強した」
なるほど、それで昨日あれだけ強かったのか。
「……わたしは確かにレオラを誰かから守るような強さなんてないけど、ずっと傍にいます。傍でレオラの盾になる」
「そんなもの望んでない」
抑揚のない声が聞こえ振り返る。
「レオラ……」
「勝手に出掛けるな。探しただろ」
「ちゃんと侍女に伝えましたよ」
「それでおとなしく帰ると思ったか?」
「ええ」
「なるほど、見誤ったな」
呆れたように笑うレオラに小さく笑う。