一
重たい瞼を持ち上げれば、視界に映ったのはボロボロと涙を流す男性と女性、そして、とんでもなく整った顔の少年だった。
何事だ、というのが率直な感想で。いやだって誰、この人たち。よく見れば泣きじゃくってる男性もキラキラした金髪がイケてるダンディーな人だし、女性は神話に出てくる女神のような可愛らしい顔をした美人さんだし。
「フェリーナ、よかった……!本当に、よかった……」
おおおおおう女神さまに抱きしめられてるいい匂いする!
華奢な腕でしっかりと抱きしめられてるわたしは、その腕の中で、柔らかな花の香りを堪能した。
「申し訳ありませんでした、フェリーナ様。僕の配慮が足りず、こんな目に……」
そう言ったのは美少年。本当に綺麗な顔だ。
サラサラの黒髪に艶のある白い肌。少し長めの前髪から覗く二重の目はくっきりと大きく、長い睫毛に覆われた瞳は透き通った赤色。ルビーのように輝いてる。
そんな美少年が申し訳なさそうに眉を下げ、わたしの顔を覗き込んできた。美男子はどんな顔をしても絵になるなぁ。
「フェリーナ様?」
反応のないわたしに首を傾げたのは少年だけでなく、泣きじゃくってた男性も女性も、わたしを心配そうに見つめる。
……うん、きっとすごく驚かれるんだろうけど言おう。それしか道はない。
「……あの、どちらさまですか?}
そしてここはどこですか、と続けたかったけれど、それはわたしの目の前に立つ女性が震える手を口元に当てた様子を見て断念した。
今のわたしの一言でこの人たちを傷つけたのは明確で、なのに更に畳みかけるなんてできそうにない。
「フェリーナ……?わたしたちのこと、分からない……?」
「……すみません。皆さんのことも、自分のことも、分かりません」
「っ」
顔を歪める女性に胸が痛くなる。
けどごめんなさい。本当に意味が分からないのだ。
わたしの記憶にあるのは、こんなお城のような部屋じゃなくて砂壁のボロアパートの一室だし、こんなフカフカのベッドじゃなくぺったんこの布団だ。
そして、わたしの家に人はいないはず。
それがなぜ、三人もの美形に囲まれ、こんな豪華な部屋で、豪華なベッドで寝てるのか。頼む、誰か詳しく教えてください。