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第五話

 欲しい。

 そう思ったら余の目はもう木箱のみを追っていた。

 白い腕に抱かれた木箱は、そのまま鉱山脇の小屋へと運ばれていく。

 あの小屋はこの鉱山を仕切る、頭領が寝泊まりする小屋だったな。

 

 少女が近づくと中から戸が開かれ、剛毛だらけの太い腕が強引に彼女を引き寄せ――。


「ああぁぁぁぁっ! き、木箱があぁぁぁっ」


 細く白い腕から落ちた木箱が落下し、乾いた音と共に砕ける。

 そ……そんな……。

 余の……余の鉄入れがあぁぁぁっ。


 許すまじ。

 マジ許さんたい!


「きっさん俺の大事なもん奪っちょって、ただで済むと思うなや!」


 地面を蹴り、一瞬で頭領の元へと駆け寄るとまずは少女を引き離す。

 邪魔だからだ。

 ひとまず少女を小脇に抱えると、"筋力増強マッスルパワー"込みで頭領の顔面をワンパン。

 吹っ飛んだ頭領がそのまま小屋の壁を突き破り転がってゆく。

 メキメキっという木板が砕ける音が、木箱の粉砕音に聞こえて心に突き刺さってくる。


「て、てめーっ。頭領に何しやがる!」

「何……しやがるっちか? そっちこそ何してくれとんや!!」


 背後から迫ってくるガチムキ監視どもを、振り向きざまワンパン!

 こっちもワンパン!


 ふぅー、ふぅー。

 お、馬車の中に手ごろなサイズの木箱、残っているではないかー。

 もう、それ早く言ってくれよー。


 馬車まで進む間も武装したガチムキ男たちが襲ってくる。

 流石に鉄の剣とガチンコ勝負する気にはなれん。痛いだろうし。

 右手を突き出し、短く唱える。


「"サンダー"」


 ほとばしる稲妻が男たちを駆け巡り、ひとり残らず痺れさせた。

 よし、邪魔する者はいないな。

 こうしてようやく手に入れた木箱には野菜がたっぷり入っていて……お、美味しそうだ。

 最近まともな食事にはありつけてないし、野菜たっぷりの炒め物とか食べたいな。

 捨てるのは勿体ないし、これも貰っておこう。

 もう一つの木箱は酒か。これはいらない、捨ててしまえ。


 ぽいぽいと瓶を投げ捨て空になった木箱を担ぎ……ん? 両手が塞がって持てないぞ。

 右手に野菜いっぱいの木箱が。

 左手には少女が。


 あぁ、そうか。抱えたままだったのか。

 あまりにも軽すぎて、抱えているのも気づかないほどとは。

 このままでは木箱を持てない。

 少女を地面にそっと下ろし、空いた左手で空になった木箱を掴む。

 うん、いいサイズだ。早速鉄を入れよう。


 と振り返ったところでハタとなる。

 奴らが全員気絶している今がチャンスなのではないか?


 スローライフという名の自由を勝ち取るための!


「よし。鉄を回収したら、こことはおさらばするか」


 独り言を呟きながら寝床へと向かい、床板をひっぺがして隠してあった鉄を拾い集めてゆく。

 ついでだ、何かの役にたつかもしれないし、ツルハシも持っていくか。

 作業道具が片付けられている大きな木箱を覗き、余はほくそ笑む。

 ツルハシ以外にも、ここにはスコップがあった。

 貴重な鉄だ、これも貰っていこう。

 そのうちこれらを打ち直して、鍬や鎌、スコップに――。


 ん?

 スコップをスコップに打ち直す?

 はっはっは。余は何を言っているのだ。

 打ち直す必要などないではないか。

 はっはっは。


 いや、むしろ鉄鉱石を製錬せずとも、最初からツルハシやスコップを頂いて、打ち直せばよかっただけなのでは?


 そのことに気づいた余は、この五日間の糞まずい飯のことが脳裏に過り、全ては無駄だったのだと改めて知る。

 その落胆たるや、おわかりいただけるだろうか?

 

 膝をつき、項垂れる余の前に白い足が見えた。

 顔を上げると、あの獣人の少女が震えながら立っているではないか。


「どうした?」


 そう尋ねるが、少女は「あうあう」言うだけで言葉を発しようとはしない。


「口がきけぬのか?」


 質問内容を変えると、少女が僅かに頷いた。

 ふぅむ。このままここに置いていけば、そのうち意識を取り戻したあの者らにどんな惨いことをされるやもしれぬな。


「これも何かの縁。余――俺と一緒に来るか?」


 再度質問内容を変えると、少女は安堵したかのように微笑み、そして大きく頷いた。


「よし、ではお前。スコップを持て」


 そう言って余は、満面の笑みとスコップを少女に向けるのであった。


お読みいただきありがとうございます。

お楽しみいただけたら、ぜひぜひブクマやツッコミ感想をお願いします。

それが執筆欲に繋がる大きな餌となりますので。

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