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第三十話

 二日後。

 遂に夢のマイホーム庭付き一戸建て完成まであと一歩。

 今日は余自らの手で風呂を錬成する。

 この世界の風呂は、基本的に五右衛門風呂式であった。

 風呂釜の下は鉄製で、そこで火を焚くことで釜の水を熱くする仕組みだ。

 

「遂に俺が製錬した鉄の出番だな」


 確かナイフか何かにする予定だった気がするが、予定は未定。こんなこともあるさ。


 五右衛門風呂と言えば、円筒形の風呂だが……やはり四角がいい。

 足を延ばしてゆっくり浸かりたい。

 そもそも釜の下で火を焚いて沸かすつもりもない。まぁ保温するために火は焚くかもしれないが。

 ではどうやってお湯を沸かすのか。


 簡単なことだ。


 ここは剣と魔法の異世界ファンタジー!

 魔法があるではないか!!

 水を張ったところに手を突っ込んで、火属性魔法をぶっぱなす。

 火は水に弱いので一瞬にして消えるが、練り上げられた魔力が熱を持ち、その熱でもってお湯が沸く。

 以前、余が魔王だった頃にも同じようにして温くなった風呂の湯を温めていたものだ。


 そんな訳で、五右衛門風呂に拘る必要はない。

 ガンドたちの反対を押し切って長方形の風呂釜にした。

 壁になる部分は木を使い、火傷防止対策を施す。

 床はすのこを作り、入る時にはこれを敷いて入ればOK!


「か……完成したたい。遂に完成したんばい!!」

「ぁう〜」


 これで今夜からでも風呂に入れるぞ。

 シャワーは無いが、それは諦めよう。


 家具も必要最低限の物は既に揃えてある。

 余とフェミアのそれぞれの部屋にベッドが、リビングダイニングにはテーブルと椅子、食器棚も設置済みだ。

 竈も完成している。これで料理だって作れるぞ!

 尚、作れるのと出来るのとでは、大きな違いがある。


 残りの作業は倉庫兼作業部屋の壁一面に棚を設置すること。

 あとは先日ゴブリンが開けた穴を塞ぐため、その部分の壁板を剥いで新しい物と交換して終了だ。

 今は雨風を防げる程度の簡易処置だけがされているが、せっかくの新築でこれは嫌だと駄々をこね、板を張り替えて貰うことになった。 


「ふぅ。思ったよりも早く終わったな。あとは明日、半日ほどで完成するだろう。お前の付与魔法のおかげだな」

「あぁ。これからも仕事の時にはあの魔法が欲しいもんだぜ」

「だな。はっはっは」


 家が無くてはスローライフも始まらない。

 故に彼らには"筋力増強マッスルパワー"と"体力増強ハッスルパワー"を付与して頑張って貰った。

 その甲斐あって、家は僅か六日でほぼ完成だ。

 もちろん耐震性だの耐火性だの、日本での建築基準など一切満たされていないだろう。

 電気の配線だってないし、そう考えれば一週間という期間も極端に早い訳でもないと思う。

 まぁおそらく、三週間ぐらいあれば普通に建つぐらいなのでは、と。


「ありがとうガンド。おかげでスローライフへの大きな一歩を踏み出せた」

「まだそんなこと言ってんのか。まぁ好きにスローライフでもなんでもすればいい。他に必要なもんがあったら遠慮なく言ってくれ。といっても、儂も本業があるからな」

「本業? 大工なのでは?」

「儂は木工職人。杖や弓といった、木を素材にした武具を作る職人だ。大工のほうは人手不足だから手伝ってんだよ」


 そう言って手を出すガンドと、友情を硬く誓う握手を交わす。

 いや躱された。

 え、お金?

 そういえばそんなモノモアッタカナー。

 ひとり金貨四枚ずつ?

 それを払うと一文無しになるんですけど鬼ですか。あ、はい。払います。


「フェミアよ、急いで森に行くぞ。森で今夜のおかずをゲットするのだ」

「あぁうぅぅ」

「あぁあぁ、わかったわかった。儂の分は半額の金貨二枚でいい。だが残り二枚は後日、金ができたらきっちり貰うからな」

「フェミア、今夜はご馳走だぞ!」

「うあぁ〜い」


 ガンドらと共に町へと向かった余たちは、肉、野菜、そして焼き立てのパンを買っいガンドらと別れて帰宅する。

 そして気づいた。


「フェミアよ……鍋がないな」

「ぁう」

「フェミアよ……フライパンもないな」

「う?」

「フェミアよ……食器もないな」

「うぁ!?」


 調理器具の全てがなく、食器もまったく用意していなかった。


 その夜、竈で肉を直接焼き、パンに挟んで食すのであった。


「明日は調理器具と食器を買おうな」

「あむぁむ……うぅ」

「明日にはこの家も完成するだろう。だったら完成祝いパーティーも開かねばな」

「むぐむぐむぐ、おおぉっ!」


 フェミア、食べるのに必死だな。

 最近ますます肉付きが良くなってきた気がする。

 いいことだ。

 しっかり筋肉をつけて、力仕事も手伝って貰わねばな。

 

 食後は待ちにまった入浴タイム!


「まず風呂釜に水を入れます」

「う」


 風呂釜まで水を引こうと思ったが、やはりここでも一度水を高い位置に上げる必要があった。

 だが水桶の高さを変えると、引き込みようの竹筒の高さを再調整する必要がある。

 面倒くさい。

 故に余は楽な方法を取ることにした。


 ここは剣と魔法の以下略。


「水の精霊よ。俺について来い」


 水桶に向かってそう命じれば、水がうねり、にゅ〜っと宙に浮かびあがる。

 

「あわぁっ」

「これを風呂釜まで持っていく」

「ぁ……あぁ……」


 風呂場には勝手口もある。ここから入って、風呂釜に水を置く(・・)

 うむ。ちょうどいい水量だ。

 次は竈に火を焚く。これは保温用だが、夏場なら必要ないだろうな。


「"ファイア"」


 建築に使った木材の切れ端を竈にくべ、火を点けたらここの準備はOKだ。

 再び風呂場へと戻ると、水を張った浴槽に手を突っ込む。

 そして――。


「"ファイア"」


 じゅわっという音と共に湯気が立ち上る。

 火力が強すぎると、せっかく張った水が蒸発してしまう。

 だが加減し過ぎればぬるま湯に……なかなか繊細な魔力操作が必要だ。

 一発目では若干温かったので、もう一度、先ほどより更に魔力を少なめに練って――よし、これで完璧だ!


「触ってみろフェミア。適温だぞ」

「ぁぅ……あっ」


 恐る恐る湯に触れたフェミアだったが、触った瞬間に表情は明るくなり、こくこくと頷く。

 ふ。余は素晴らしい風呂職人になれそうだ。


「では入るとするか。あ、フェミア、レディーファーストだから、先に入れ」

「あ……う、うぅ」


 嬉しそうにフェミアは頷くと、家の中へと駆けて行った。

 着替えを取りに行ったのだろう。

 あ、そういえば――。


 戻ってきたフェミアに告げる。


「バスタオル、なかったな」

「あわぁっ!」


 森と人類の領域の境目に建てられたマイホームに、冷たい静寂が訪れた。

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