表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/35

第二十六話

 常駐当番も無事に終わり、翌日から薬草採取に着手した――かった。


「あぁん? 俺らを放って森に行くだー?」

「いやいや困るよ」

「こんな森の目と鼻の先なんだ。日中だってモンスターが出てくるかもしれない」

「「しっかり見張っててくれなきゃ困るんだよ」」


 と、大工のみなさんがそう仰る。

 結局、作業現場が見えるほどの距離にまでしか入れず、傷薬系の薬草を見つけるに留まった。

 まぁこの辺りはギルドに売ってしまおう。


 だが大工のみなさんが言うほどモンスターの姿も見ない。

 おそらくだが、この辺りは冒険者が遺跡に向かって歩くルート故、実は安全が確保されているのではなかろうか。

 なんということだ!

 金が必要だというのに、こやつらは余が採取に向かうことを許してはくれない。

 しかもだ。


「どこかからか水を引いて来ねぇとな」

「地下に水があればいいんだが、掘ってみるか?」

「あー、俺らはそっちの専門じゃねえ。別のを雇いな」


 おい、家を建てる(・・・)だけかよ。

 じゃあ風呂は?

 あ、水問題を解決しなきゃどうにもならないのね。うん、そうだね。

 温泉? なんだそりゃって、温泉を知らないのか!?

 まぁ温泉はおいといて、水問題か……。

 それを解決するためにお金が必要になる。


 集落を救った英雄への報酬として新築物件が贈られた。

 

 そういう話だったハズなのに、罠にはめられた気分になるのは何故だろう。

 こうなったら薬草を採取しまくってやる!

 この辺り一帯が枯れても知るものかっ。


 そうして建築現場が見えるギリギリ範囲をうろうろしていると、ふと水のせせらぐ音が聞こえてきた。


 冒険者が遺跡へと向かう道は開けており、そこからは離れた場所から聞こえてくる。

 音のする方へ向かうと、建築現場も見えなくなってしまいそうだ。


 湧き水でもあるなら、そこから水を引けるのではないか?

 集落の井戸から水を引くより、こっちのほうが断然近そうだ。

 夕方、ガンドたちが帰ってから調べてみるか。






 そして夕方。

 ガンドたちが帰るころ、集落の方からフェミアが駆けて来た。

 彼女が謎の物体を余に見せる。

 その物体からは、ほんのりハーブのような匂いがした。


「うーぁ」

「なんだ、これは?」

「あっ。あぁー」


 ぴょんぴょんと跳ね、しきりに物体をアピールする。

 乳白色の手のひらサイズの物体。

 それを見たガンドが、


「石鹸だろ?」


 と短く言う。

 な、に?


「石鹸だと!?」

「あぅー!」


 満面の笑みを浮かべ、再び跳ね回るフェミア。

 そうか……遂に石鹸の製作に成功したのか!?


 これぞ……これぞ自給自足のスローライフ!

 尚作ったのは余ではなく、フェミアだ。

 だが熊脂をゲットする機会を作ったのは余である。

 だから余とフェミアが協力して生産したものだ。そうに違いない。何も問題は無い。


 ガンドたちが町へと戻った後、さっそくフェミアと伴って森へと向かった。

 昼間聞いた、水のせせらぎがする場所を見るために、だ。


「もし小川でもあれば、それをなんとかして家まで引き込めれば水の問題は解決するのだ」

「うぅうぅ」

「そうだなぁ、竹でもあれば、節をくり抜いて水道管の代わりに出来るのだがなぁ」

「うぃおぅ?」

「あぁ、水道管とうのがわからぬか。水道管とはな、水が通る管のことだ。で、竹というのはな……ながーい木だ」


 そう説明すると、ファミアがその辺の木を指差す。

 あぁ、そうだな。うん、長いな。

 この森の木はいずれも立派なサイズの物ばかりだ。

 ガンドが欲していたモニラの木が珍しいぐらいに細く、そして小さい。

 だが余が欲しているのは細く長く……あぁ、説明が難しい!

 この世界に自生しているかもわからないのだ。諦めて別の方法を考えよう。


 それよりもまずは水場の確認だ。


 冒険者が通る道を歩き、水のせせらぎ音を探す。

 耳のいいフェミアがあっさり音を聞き分け、森へと分け入る。

 やがて余の耳にもせせらぎ音が入ってくると――。


「うあ」

「見つけたか?」


 フェミアが頷き手招きする。


『ギシャーッ』

「"サンダー"」

『ギベッ――』


 ふむ。夕方になって、ただでさえ薄暗い森の闇が濃くなってきたからか、モンスターが随分外側にも出て来たな。


「うぅ……あうぅーっ」

「お、フェミア、やる気か? だがお前、魔法は使えないだろう。武器だってないんだ、大人しく余の後ろに隠れておれ」

「あぅぅ」

「わかったわかった。明日にでも町に行って、石鹸の褒美に武器を買ってやろう」

「あうー!」


 確か"ハンドクロウ"というスキル持ちだったな。

 鉤爪状の武器がいいだろう。


 そして辿り着いた水場。

 湧き水か。

 しかし、どことなく人工的にも見えるな。

 

 草木の生い茂る森の中、そこだけぽつんと石が敷き詰められた場所があった。

 すり鉢状になったそこに、地面からぽこぽこと水が湧きだしているのが見える。

 その水は森の奥へと向かって、小さな流れを作っていた。


「飲めるかな?」

「うぅ?」

「鑑定してみるか」


 水を見つめ鑑定した結果『清らかなる水』『飲料水』と出る。

 よーしよしよし。

 この水をどうにかして余の新居まで引き込みたい。


 地球にいたときの知識を生かすとしよう。

 某アイドル番組でやっていた、水を遠くに運ぶ方法。

 一度高い位置まで汲み上げ、少しずつ傾斜をつけ流す方法……が無難だろう。

 高い位置まで汲み上げるのをどうするか。

 いちいちここまで来て自力で汲み上げるのは面倒だ。

 その点もテレビで見たな。

 風車を利用して……。


「せやけどここ、風吹いとらんし!!」

「ふぁっ!?」

「あぁ、すまんすまん。ちょっと残酷な現実を突きつけられて、テンパってしまっただけだ」


 どうも博多弁が抜け切れてないようだ。

 博多弁女子が萌え可愛いだのという幻想を、他県、とくに九州外の者は抱いているようだな、じゃあ博多弁男子にも萌えとか!?

 と、余は常々思っていたわけだが。

 まぁどうでもいい。


「フェミア。ここからまっすぐマイホームの所まで行けるか?」


 フェミアは頷くと、草木を掻き分け歩き出した。

 水を引く場合、少し整地せねばな。


 歩くこと五分程度で森を抜け、建築中のマイホームへと辿り着いた。

 マイホームから今お世話になっている集落まで10分ほど掛かる。その集落から町まで15分ほどだ。


「よし。あの湧き水を引くことにしよう」

「うぅー?」

「なに、心配するな。余のスローライフ未来計画は完璧である!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ