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第二十五話

 フェミアは朝から石鹸作りの続きをするようだ。

 竈の脇に置かれた鍋には、どろっどろになった熊脂は放置されたままだ。

 それをどうするのか余にはわからない。教えてもくれないようだ。

 なので余は昨日の続きで集落の修復作業を手伝わされることに。


 基本、余は材料運びに木材を支える担当である。

 大工仕事はやったことがないからな。スキルもないし。


 採掘や製錬、あと錬成、錬金。

 この辺りにはスキルというものが存在する。

 もちろんスキルを使わず、手間暇掛けた本来の手作業でも行える。

 スキルを使用すれば短時間で簡単に作り上げることが出来るが、弊害もあった。

 手作業によるソレに比べると、質の悪いものが出来るのだ。


 余が魔王として君臨していた頃、何度かポーションを錬金スキルで作成したことがあった。

 部下に試飲して貰ったのだが、以後、誰ひとり余のポーションを飲もうとしなかった。

 効果はある。傷の回復も確認された。

 しかし、絶望的なまでに激クソマズいのだ。

 余も味見したが、あれは無理だ。


 まぁポーション作成の弊害が飛びぬけて悪質なだけで、他は普通に使えるスキルだな。

 若干質が低下はするが、それによる対策も施せる。

 あの奴隷生活中に行った、製錬した鉄に更に製錬を上乗せする。

 それを繰り返すことで純度の高い鉄に仕上げられるのだ。

 デメリットとしては、手作業で行う作業より素材を多く必要とするぐらいだろう。


 そしてこの手の【物造りスキル】だが、余が魔王であった世界ではスキル習得も難しく、たとえ習得できても質が悪いせいで需要も低かった。

 余の記憶では、数百年も前に失われたスキル扱いにされていたっけかなぁ。

 この世界でも物造りスキルが存在するようだが、弊害はあるのだろうか?


 そんなことを考えながら復旧作業の手伝いをしていると、町のほうからガンドと他数人が荷車を引いてやってくる。

 おい、その荷車は余の物ではないか?

 荷車を引く馬も余の馬ではないか。いや元は奴隷商人のものだが。


「おいカミキ。家を建てる前にだな、ちょいと図面を作ったから見てくれ」

「お、みるみる」


 ガンドたちがやってきて、竈の横に設置された台の上に羊皮紙を数枚広げた。

 羊皮紙は茶色く、白いチョークのようなもので線が引かれている。


 

 デザインはこの三つ、平屋タイプの長方形、正方形で二階建てタイプ、L字平屋タイプ。

 どれも2LDKになっている。

 

「風呂は?」

「そんな贅沢なもん、必要か?」

「え、風呂って必要ないのか?」

「みんな湯浴みで十分だろう?」


 おぅ……異世界は外国仕様かよ。

 余が魔王だった頃だって、魔王城には大きな風呂があったんだ。

 風呂は欲しい。絶対欲しい。

 そう駄々をこねると、追加予算を払えばということに。

 

 二階建ては時間が掛かるというので選択しから除外し、長方形だと風呂を設置する余裕がないので最終的にL字デザイン一択となった。

 ただガンドが想定したサイズより、やや大きな家になりそうだ。

 羊皮紙に描かれた間取りがちょちょいのちょいと書き直される。

 他の大工たちと、木材があーだ、素材がどーだと話し合われる間、ふと余の目に冒険者の姿が入った。


 森に向かってはいるが、町から出てまっ直ぐ森に行くのではなく、一度こちらに――町から北に歩いて、この辺りから森に進路を変えているようだ。


「ん? どうした、カミキよ」

「あぁ、いや。冒険者が森に向かっているのだが、町を出てまっ直ぐ西に進んだ方が近道ではないのかと思って」


 わざわざ北に進み、途中で進路を西に進めたのでは、遠回りだろ、と。


「あぁ、奴らの目的地は森ん中にある遺跡のダンジョンなのさ。町から見ると遺跡は北西にある。確かに直線距離にすりゃあ、町から北西に歩いた方が近けぇよ。けどな、森ん中はモンスターだらけだ。少し歩けばすぐに戦闘になる」

「森の移動距離が長い方が、モンスターとの遭遇回数も増えるからなぁ。遺跡に到着する前に、息切れするってもんだ」

「その間に怪我でもしようもんなら、貴重なポーションを消費することになる。無駄な消費を失くすため、森での移動距離が最短になる場所から入っていくのさ」


 と、他の大工も交えてそう説明された。

 なるほど。

 ここからまっすぐ西――その先から冒険者らは森へと入るようだ。


 ポーションは貴重なアイテム……か。

 確かにポーションは傷薬と違って、魔法と同様、瞬時……とまではいかないが、裂傷なんかを治す作用がある。

 それ故に、必要となる素材は貴重だし、作る技術もなかなか難しい――と、余の部下が言っておった。

 この世界のポーションも貴重だと言うが、これは儲けのチャンスかもしれない!?


 余の激マズポーションは、元々余が住んでいた世界での話。

 この世界であればもしかして!

 それを確かめるためにも、ポーションを作成せねばならない。


「誰ぞ、ポーションの材料を知らぬか?」

「あぁん? まさかポーション作りをしようってんじゃ。やめとけやめとけ。ありゃあ繊細な魔力操作が必要なんだ。腕のいい錬金術師でなければ無理なんだよ」

「大昔にはスキルでポーションを作ったりもしていたそうだが、激クソマズなせいで誰も買わなくって、スキル持ちもいなくなったって話だったか?」

「あぁ。そのせいでポーションの供給が減って、今じゃあ高級アイテムだからな」


 ポーションが激クソマズ?

 なんだろう。どこかで聞いたことのあるような話だな。

 もしやこれは……余が作成しても激クソマズになるフラグか?


「ま、ポーションの材料になる薬草を採取して金儲けするってんなら、ギルドで聞けばいい。喜んで教えてくれるだろう」

「だがガンドよ。あの手の薬草はかなり森の奥まで入らねえと、生えてねえんじゃないのか?」

「なぁに。こいつは変な恰好をしているが、腕は確かだ。心配いるまいて」


 変な恰好だけ余計ですけど?


 その後、ガンドたちと実際に家を建てるという場所へと向かう。

 フェミアに声を掛け、すぐに戻るといったがガッツリ掴んで離さないので連れて行くことに。


 ガンドたちは真っ直ぐに進む。

 その前方を冒険者グループが歩いていた。

 ガンドたちは真っ直ぐに進む。

 森へと向かう冒険者の後ろをついて行くように。


 冒険者が森へと入った。

 ガンドたちは……立ち止まった。


「よし、ここにお前の家を建ててやる」

「そこからあそこの畑まで、全部好きに使っていいんだとさ」


 そこ――まさに森の入り口。

 そこから畑まで、サッカーのグラウンド程もあるここに、余の新たなスローライフの第一歩を建設することになった。


「……うああぁぁぁっ!」

「ちょ、おい、なんだフェミア。何がそんなに不満なのだ!」

「まぁそうさなぁ。普通は不満ちゅうか、不安だよなぁ」

「誰もこんな森のすぐ横になんて、住みたがらねえよ」

「だな。毎日のようにモンスターから襲われそうだしな」

「「さて、仕事に取り掛かるか」」

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