第二十四話
ガッツリ肉体労働をやらされた晩。
今日から避難櫓のある家の二階を間借りすることになった。
家賃はタダである。
「いやぁ、カミキくんだっけ? 変わった名前だけんど、あんたのおかげで明日には修復作業も終わりそうだねぇ」
「肉体労働なら任せてくれ」
「ほんと、若い子は体力があって羨ましい」
「でもカミキくん。あんた魔術師さんじゃなかったのかい?」
「体育会系魔術師ですから」
「「はぁ?」」
体育会系。この単語がわからないおじさんとおばさんが首を傾げる。
食卓を囲うのは、ここに住む夫婦とその長男、そして余とフェミアの五人だ。
長男は20代半ばで、未だ独身の絶賛お嫁さん募集中だ。
ここの集落には他に五家族が暮らしているが、残念ながら若い女はいらいらしい。
その六軒が肩を寄せ合って建つこの集落を襲った悲劇。
人的被害はなく、襲われた家畜も僅か一頭だけであったらしい。
ただこの家の納屋、そしてお隣さんの家、家畜小屋の一部などは破壊されており、早急な修復を必要とされる。
集落を囲む柵も、そのほとんどがぶっ壊されたので、これも修復が必要だ。
今日一日で柵を全て立て替え、お隣の家の修復も済んだ。
納屋も半分ほど完成しており、家畜小屋の石も積み上がり、あとはセメントの役割をしている樹脂が固まれば完成する。
いやぁ、よく働いた。
働いたあとのご飯は実に美味い。
衣食住を手に入れた。
まぁ仮初の住であるし、食に関してもご馳走になっているだけではあるが。
「そういえば、俺の新しい家っていうのはどの辺に建てられるのだろうか? その集落の中だったり?」
「いや、ギルドの職員の話だと、もう少し北の森寄りだという話だったぞ。まぁ明日から作業に入るようだから、その時確認すればいい」
とは息子さんの話。
つまり土地は選べないってことなのか。
そしてまた森寄り……。
余のスローライフはいったいどこへ向かうのであろうか。
就寝時刻。
余たちに貸し与えられた部屋には、ベッドがひとつ置いてあった。
「いやぁ、悪いねぇ。娘が使っていた部屋なんで、ベッドは一つしかないんだよ」
「あの子寝相が悪かったから、ベッドのサイズは大きいのよ。二人でも十分寝れると思うから、仲良く使ってねぇ」
そうおじさんおばさんは言いながら一階へと降りて行った。
確かにベッドは大きい。ダブルサイズだろう。
「ぁうぁう」
そわそわしてベッドを見つめるフェミア。
もしやこやつ……。
「寝相が悪いのか!?」
「あうっ!?」
「俺を蹴るなよっ」
「うぅ……」
部屋にはおあつらえ向きのつい立などもあり、その後ろでごそごそとパジャマ――という名のパンツにシャツ、そしてズボンをはく。
そのままごそごそとベッドに潜り込み、絶対落ちることのない壁際をゲット。
「あぁ……久々のベッドだぁ……幸せぇ……zzz」
ぬぅ……重い……。
な、何かが……何かが余に上にっ。
息苦しい。
いったい何が余を苦しめているのだ。
悪霊か!?
ぼんやりとした意識の中、毛布を捲って余を苦しめる悪霊の姿を確認する。
もさもさとした毛が余の顎をくすぐった。
ふわさっと伸びたそれは――。
「……尻尾……」
器用に余の上で丸くなった、フェミアの尻尾であった。
重い……。
抱きかかえるのではなく、胴の上に全体重を掛けられると流石に重いんですけど!
「ぐぬぅぅ、おのれ悪霊めえぇ」
跳ねのけようと全身に力を加えたとき。
「ふぅうぅぅ。ふぅぇぇ」
寝言だろうか。
体をふるふると震わせ、余のシャツをきゅっと握る。
その頬を伝う涙を、余は見てしまった。
「……寝よう」
捲った毛布を戻し、余は苦しみの中眠りについた。
そして朝。
やはりフェミアを下ろせばよかったと後悔する。
「あらカミキくん。どうしたのさ? 随分と体が痛そうじゃない」
「えぇおばさん。昨夜は頑張り過ぎたせいで、体の節々が……」
「んまっ。さ、昨夜頑張り過ぎたのかい!? そ、それはそれは。ほほほほほ。若いっていいわねぇ」
いいことなど何も無いわっ。
寝返りもうたず、頑張って耐えた結果がこの全身疲労と肩腰の関節痛、それにあばらの痛みなのだ。
まったく、フェミアの寝相の悪さにも困ったものだ。
今夜はベッドの下で寝よう。
「ふああぁぁぁぁ……うー」
「あらあら、フェミアちゃんおはよう。大丈夫かい? 体はきつくなかい? ゆっくりしてていいんだよ」
何故かおばさんはフェミアに優しいのであった。




