第二十一話
ローゼらが到着する頃、夜間常駐担当の冒険者もやってきて集落の安全は確保された。
彼らが見回った結果、残っていたモンスターの数は皆無。
逃げ帰ったような足跡もあったとのこと。
そこまで聞いてようやく櫓の住民たちは降りて来た。
眠ったフェミアは農家さんのお宅で寝かせて貰うことに。
そして余は、念のためにと徹夜で集落の警戒に当たらされ――。
そして夜が明けた。
「ふわぁ〜、おはようカミキ」
「……おはよう」
「ご機嫌ナナメですね、カミキさん」
「何故俺は寝ていないのに、君たちは寝ていたのだ?」
「「徹夜はお肌の大敵」」
ずるい。女ってずるい。
余の肌だって徹夜すれば荒れるのにーっ。
タブン。
「朝になったし、モンスターももう出て来ないでしょ」
「森の生息するモンスターのほとんどは、夜行性ですからね。薄暗い森の中だからこそ、日中でも活動していますが」
そう言ってローゼとシンシアの二人は、町に戻ってギルドへ行こうと言う。
今回のモンスター襲撃によって集落が受けた被害状況の報告と、そして冒険者らの手で積み上げられたモンスターの屍の処理を依頼するためにだ。
もちろん、素材になるようなものは捌いて金にする。
その報酬は――。
「あんたひとりで片付けたんですもの。あんたの物よ」
「こういった襲撃の際の討伐報酬は、現物か、素材をギルドに買い取って貰ったお金になるんです。そのお金を討伐参加者全員で分けるのですが、今回は私たちが到着前にカミキさんが倒してしまわれましたので」
「ほほぉ。ではこの金で家具やらなにやらを揃えるかな」
ふっふっふ。きっとたんまり貰えるだろう。
積み上げられたモンスターの数はざっと見ても五十体近い。
まぁ雑魚ゴブリンなんかがゴミだろうが、素材に化けそうな個体もいる。
ちょっと豪華なふかふかソファーとかも買えたりしないだろうか。
いやするでしょう。
「冒険者様。獣人のお嬢ちゃんの意識はまだ戻らないようですが」
そう言いながら農家の方がやってくる。
「フェミアちゃん、大丈夫なの?」
「うむ。眠いのを我慢し過ぎたのだろう。そのまま寝かせて貰って構わないだろうか?」
「そりゃあこっちは一向に構いませんよ。ここを助けてくださった方のお連れの方ですし」
「そう言って貰えると助かる。ギルドに寄ったら戻ってくるのでな」
余はローゼとシンシアと共に町へと向かった。
ガンドはとうに町へ戻っており、森で倒したモンスターの素材も運んでくれている。
そっちの稼ぎも合わせると、結構いいんじゃないか〜。
くふふふふ。
「英雄の帰還だぞ〜」
冒険者ギルドに入るなり、突然聞こえたその言葉。
どうやら英雄の登場に立ち会えたようだ。
どこのどいつだ、英雄というのは。
「よくやったー」
「大したもんだ。たったひとりで集落を救ったって言うじゃないか」
「恰好はアレだが、実力は相当らしいな」
ほほぉ。アレな恰好をした英雄なのか。
「お疲れ様です、カミキさん。いやぁ、あなたがいてくれて良かったですよ」
「やぁコルトナ。どうやら英雄がご帰還らしいな。どこにいるのだろうか。せっかくだし、ひと目見ておきたい」
ニコニコと笑顔で余を出迎えてくれたコルトナに、誰が英雄なのかと尋ねる。
コルトナは首を傾げ、それからニコニコ顔で指差した。
余を。
「は?」
「いや、ですからあなたですよ。カミキユウトさん。英雄はあなたなんです」
「何故?」
「何故って……だってひとりで大量のモンスターを倒したじゃないですか!」
「いや、あれは他の冒険者がいなかったから、結果としてはそうなっただけで」
「いやいやいや。だからってたったひとりでモンスターを撃退できるなんて、普通無理ですからっ」
そうなのか?
首を傾げたままの余に、周囲から拍手喝さいが送られる。
知らない者たちから受ける賛辞に、余は生まれて初めてのことで戸惑った。
余が余として――魔王として君臨したあのころから数えても、こんなことは初めてだ。
誰かの役に立ったのだろうか。
人類の恐怖の対象でしかなかった余が、誰かを救ってやれたのだろうか。
救えたのだろうか。
それが出来たのなら、これほど喜ばしいことはない。
元魔王である余がこんなことを思うのは、おかしいだろうか。
「それはそれとしてカミキさん。ご自宅を破壊したそうですね」
コルトナがそう言った瞬間、拍手も歓声もピタりと止む。
そして解散してゆく冒険者たち。
「まだお金も頂いていないっていうのに、何故そんなことに」
「こ、これには深い訳があってだな」
「家が崩れようが破壊しようが、払ってもらうものはちゃんと払って貰いますから!」
え、英雄である余に向かって、それはないだろう!?
だって倒壊したんやけん。
住めんとやけん。
住めんとにお金払うとか、おかしーやろ?
「っというのは置いといて」
「え、置いとくと?」
「はい。実はご相談がありまして、今回襲われた集落からほど近い場所に、移住して頂けませんか?」
手に入れて早々、余はマイホームを手放さなくてはならなくなるのか。
小さいが暖炉もあって気に入っていたのに。
家の裏手は薬草の宝庫で、採取による自給自足の定番スローライフが出来るはずだったのに。
家庭菜園も出来る庭付き一戸建て……理想のスローライフ物件。
「新築物件ならよろこんで」