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第二話

「お待ちしておりました勇者の皆様」


 そう言ったのは、俗に言うビキニアーマーなる恰好にマントを羽織った女である。

 女の後ろには玉座に座った、どう見ても王様ですみたいな渋めの人物がいた。

 他にも雑魚いっぱい。


「こほん。えぇー……ここはそなたらからすれば、異世界にあたる」


 よく見ればなんともまぁ、ここは既視感のある場所ではないか。

 謁見の間、もしくは王の間。そう呼ぶに相応しい広い室内には、中央に赤い絨毯が敷かれ、その先には玉座が。

 王冠を被った渋めの王様であろう男が、余たちが何故ここにいるのか説明を始めた。


「この世界は今、未曽有の危機に瀕しておる。故に異世界より召喚せし勇者殿に、この世界を救って頂きたいのだ」

「世界を支配しようとする魔王が現れ、その魔王を貴方方に――」


 ここでビキニアーマーが余を見る。

 そして眉をしかめ、鼻で笑った。

 何を笑う、何故笑う。ビキニアーマーを着た場違い女に笑われるとは、余は納得いかん!

 玉座に座る王様も、どこか余だけを見ぬようにしておるようだし。

 勝手に召喚しておきながら、なんたる態度か。


「陛下。ひとり妙な恰好の男が混じっておりますが、予定通り鑑定してよろしいので?」

「う、うむ。今回は四人も召喚できたのだ。ひとりぐらい変なのが混じっておっても、ステータスが良ければ問題なかろう」


 ビキニアーマーが言う「妙な恰好の男」とはいったい。

 ここにいるのは余と……あ、他にも日本人がいるではないか。


「っぷ。なんだよこいつ」


 男がこちらを見て鼻で笑った。

 男の後ろには学生服の女が二人、男に隠れるようにしてこちらを見ていた。

 三人ともの余と変わらぬ年齢であろうか。


「ふんどしとか、マジかよ」


 ぬ?

 ふんどし……だと?

 男の口から発せられた言葉に、余の眉がピクリと動く。


「貴様っ。今言うた言葉、訂正しろ!」


 聞き捨てならぬ言葉に、余は怒りを覚えガラにもなく声を荒げてしまった。

 だが訂正させる必要はある。

 何故ならば――。


「ふんどしとは下着やけん! これは締め込みという儀礼装束。つまり下着では――あれ?」


 あれ……締め込み?


 余は……締め込み姿で……異世界に召喚された?


 改めて他の召喚者たちを見る。

 男は薄いグレーのスラックスに、黒のTシャツというラフな格好だ。

 女二人は学生服か。

 三人とも、日本人の若者としてはいたって普通の恰好だな。


 対する余は――。


 上半身は水法被という、まぁ法被はっぴスタイルだ。下半身は局部を布で隠す締め込み。

 さらしで腹部を巻いた腹巻に、足は地下足袋。

 本番前だったので、ねじり鉢巻きだけは締めていない。


 お、おぅ……完全に不審者スタイルではないか。

 なんたることか……穴があったら入りたい。


 項垂れる余を完全無視し、ビキニアーマーと王様がステータスを鑑定すると言い出す。

 む、鑑定?


 そうだ。

 熱くたぎる博多っ子魂も冷めてきたし、冷静に考えてこれはチャンスではないか?

 勇者召喚に巻き込まれてからのスローライフというパターンも、ネット小説にはあったはず。


 巻き込まれ召喚からスローライフへと展開を動かすには……そう、追放だ!

 ここで余が追放されれば、念願のスローライフへの道が開かれるかもしれない。


 ではどうやって追放されるか……。


 答えは簡単。

 無能であればよいのだ。

 幸い、余が魔王として君臨していた世界にも、ステータスは存在していた。

 ステータスが意味することもある程度は理解できよう。


 さて、では余の今のステータスは――。



 神木 裕斗:人間 18歳

(元魔王ディオルネシア:魔族)

 職業:魔王


 力強さ:C+∞ / 頑丈さ:D+∞

 素早さ:C+∞ / 魔力:B+∞

 統率力:D+∞


 習得スキル

 全て


 固有スキル

 魔王化



 ……おぅ……これはマズい。非常にマズいぞ。

 元魔王ってしっかりステータスに出ているし、職業も魔王ではないか!

 こんなん見られたら、真っ先に討伐対象にされったい!

 と、思わず博多弁まで出たではないか!


 このまま鑑定されたら、スローライフどころではないな。

 書き換えねば。


 まぁ鑑定によるステータスの観覧表示を書き換えるなど、暇を持て余した魔王人生を送った余にとって朝飯前以前である。

 追放されるためには無能でなくてはならない。

 習得も固有も、スキル欄は消そう。各種能力は……急いで弄った結果、AからGまで触れるようだ。

 余が魔王に君臨しておった世界では、余のステータスは全て∞《むげん》であったが、部下のステータスはSだのSSだの、時にAもいた。

 聞くところによると、最底辺がGであると。

 同じ仕組みであってくれればよいが……ひとまず全てGに――っと。

 

 と、ここで歓声が上がる。

 どうやら三人の鑑定が終わったようだ。

 余も見ておくか。



 坂本 龍也:人間 18歳

 職業:召喚勇者


 力強さ:D / 頑丈さ:D

 素早さ:B / 魔力:C


 習得スキル

 剣術LV1 / フラッシュLV1


 固有スキル

 成長速度×2


--------------------------------


 如月 琴音:人間 16歳

 職業:聖女


 力強さ:E / 頑丈さ:E

 素早さ:F / 魔力:B

  健気:D


 習得スキル

 ヒールLV1 / 祝福LV1


 固有スキル

 聖女の接吻


--------------------------------


 真壁 麗奈:人間 17歳

 職業:女騎士


 力強さ:D / 頑丈さ:C

 素早さ:C / 魔力:C


 習得スキル

 剣術LV1 / チャージLV1


 固有スキル

 くっ殺

 


 聖女の接吻?

 くっ殺?

 いったいなんのスキルだ……。


 三人の鑑定が終わったことで、ビキニアーマーは最後に余の前にやってくる。

 頑なに余を見ようとせぬなこの女……。

 くっ。締め込みか!? それほど締め込み姿を見るのが嫌か!?

 

「つ、次は君です……な、名前は?」

「む。余の名前は、ディオ――いやすまぬ、間違えた。俺の名前は神木 裕斗だ」


 そうしてビキニアーマーは余から視線を背けたまま、ぶつぶつと呟く。


「で、出ました陛下……このカミキユウトには……あら?」


 ビキニアーマーの眼前に浮かんだステータス画面には――。



 神木 裕斗:人間 


 職業:


 力強さ:G / 頑丈さ:G

 素早さ:G / 魔力:G

 統率力:G


 習得スキル

 なし


 固有スキル

 なし



 と、余が手を加えたモノが映っていた。


「職業もスキルも、何もありません! ステータスはオールGの最底辺です!」

「ぬぅ……ただの……ただの変質者であったか!! 追放じゃー、追放してしまえぇーっ!」


 こうして余はスローライフに向け、円満スタートを切ることができたのであった。 

*水法被とは――

読み方は「みずはっぴ」

そう、お祭りで着るはっぴなんです。

山笠をかく(舁く)場合、垂れ流しにしていると危ないということで、

左右をお腹のところできつく結ぶそうです。

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