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第十四話

 フェミアの嗅覚のおかげで、薬草はとんとん拍子に集まり、小腹が空く頃には麻袋いっぱいになった。

 見張り塔にやってくると、何やら香ばしい匂いが漂ってくるではないか。

 その匂いに誘われ、主にフェイナが駆け出す。


 食い意地の張ったあのフェミアが……まさか15歳だとはな。

 背も低いし痩せ細った体はどう見ても12、3歳だ。

 獣人族というのはそんなものなのだろうか。


「たのもー」

「あぅあぅあー」


 塔の入り口で声を掛けると、さっそく中へと招かれる。


「おぉ、随分採取してきたようだな」

「うむ。こいつの嗅覚のおかげでな」

「なるほど。獣人族でも鼻が利くほうなのか」


 塔の一階部分は居住スペースにもなっていて、中は我がマイホームよりも広い。

 今朝渡した兎が一匹丸ごと姿焼きされ、テーブルの中央にどんっと置かれている。


「兎肉はスープにも入っているが、これでも六人分としてはかなり多いほうだ」


 という兵士の言葉を耳にしながら、あまることなんてないだろうと余は予測する。

 その予測通り兎の丸焼きもスープも、ただの一滴すら残らなかった。

 もちろんフェミアの活躍あってのことだ。


「よ、よく食べるな……育ち盛りか?」

「どうだろう? 獣人族のことは良く知らないが、15歳というとそういう年齢なのだろうか?」


 食後のお茶を啜りながらそう言うと、二人の兵士が首を傾げる。

 尚、もう二人いるのだが、先に食事を済ませ今は塔の上で見張りをしている。

 もし後であったなら……ご馳走は既になくなっているので、可哀そうなことになっていたな。


 話は戻って、兵士の反応だ。


「15歳? そのお嬢ちゃん、15歳なのか?」

「とてもそんな子には見えないが……え? 鑑定した? そうか、なら間違いないか」


 と、余と同じような反応をしている。

 ということは、やはりかなり幼く見えるのだな。


「だいぶん痩せてるからなぁ。小さい頃から栄養が足りてなかったのかもしれないな」

「どうりで随分と食うわけだ」

「尻尾の毛並みもあまりよくないし、しっかり食わせてやるといいだろう」

「うぉぉ!」

「そんなことをしていたら、俺の財布がいつまで経っても潤わないではないか」

「ぁぅぅ」


 兵士の言葉に目を輝かせ、余の言葉に耳を垂らし暗く沈む。

 喜怒哀楽が豊かな奴だ。


「さて、馳走になった。馬車を引いて買い出しに行かねばな」

「おぅ。また肉が取れたら持ってきてくれ。料理には自信があるんでな」

「だから嫁がこないんだよ、こいつのところには」

「うっさいっ。ほっといてくれ!」


 料理上手には嫁がこないのか。

 覚えておこう。


 馬を連れ家へと戻り、荷馬車に薬草を置いて町へと向かった。

 今日の門番はまた知らない顔だが、何故か余――の締め込み姿を見て、笑顔で素通りさせてくれるという。

 やはり締め込みが通行証変わりになっているな……。


 町に入ってからは御者台から降り、馬を引いて歩く。

 ギルドに到着してからフェミアに馬車の番をさせ、麻袋――これはギルドで借りた薬草入れ用の袋――を持ってギルドの中へ。


「メガネくん、薬草を持ってきたぞ」

「お疲れ様です。って、メガネくんというのは……」

「いや、名前知らないし」

「あぁ、そうですね。私もあなたの名前は聞いてませんし」

「そうだったか」

「そうだったんです」


 そこでお互いが名乗りあい、彼がコルトナという名で、しかもここの副ギルドマスターなのだと知る。

 あ、もちろん余は日本男児の名を名乗った。


「しかし、副ギルドマスターだったとは……」

「影が薄いとはよく言われます。人手不足なので、私もこうして表に立っているんですけどね……」


 だが冒険者はこぞって美人受付嬢の下へ走る。

 列がついていようが女の職員に対応して貰おうと、その列の後ろに並ぶのだとか。


「男の性か……馬鹿だな」

「えぇ。同じ男が言うのもなんですが、馬鹿ですよね」


 たまに女性だけの冒険者グループもいて、そんな人たちの対応をたまにするぐらいなのだ、と彼は話す。


「で、薬草でしたね。拝見しましょう」

「うむ。よろしく頼む。何かと物入りなので、少しでも高く買って欲しい」

「はは、善処はしましょう。あぁ、家具関係を買い揃えたいなら、こういう手もありますよ」


 と、コルトナは提案する。


 マイホームの裏にある木を伐採し、それを材木屋に持っていって加工。それを大工の所へ持っていって、家具を作るか出来上がりと交換という手もある――と。


「周囲を森に囲まれているので木には困らない――と、他所から来た人には思われるんですが、この森の木は大量に切り出せないのですよ」

「ぬ、何故だ?」

「切り過ぎて森が裸になってしまったら、森に生息するモンスターたちが町を襲ってしまいますからね」


 あぁなるほど。

 地球でも似たようなことがあるな。

 山を切り開くと、山に住んでいた動物が人里に降りてきてゴミを漁るようになる――と。

 だがこちらの世界だと、それだけじゃないようだ。

 

 1:木を伐採し森が剥げてしまうと、そこを隠れ家としているモンスターたちが隠れる場所を求めて町に攻め込んでくる。

 2:禿にしないまでも、木を伐採して移動しやすくするだけで、やっぱりモンスターが森から出てきやすくなる。

 3:山向こうの隣接する国が攻め込みやすくなる。

 4:これ割と大事。森の生態系が変わって、薬草関係の資源がなくなる。


 もろもろの理由があって、年間の伐採本数は町が管理しているのだという。


「だったら余が勝手に伐採してはマズいのでは?」

「あの小屋の周辺は、元々もう少し開けていたんだよ。それが見張り小屋として放棄してから、またにょきにょき生えて来てね。見晴らしも悪いし、数本伐採するぐらいならいいよ」


 とのことで、少しでも安く家財道具を揃えるならそれがいいかと。

 うむ。ベッドにテーブル、それに椅子。あと馬小屋も必要だ。

 買い取って貰った薬草は締めて300マニー。

 半日で三万円と思えば、いい商売だ。


 さっそく家に戻って木を伐採しよう。

 そういえば斧は無かったな。ツルハシとスコップ……あぁそういえば、ゴブリンが装備していた手斧があるな。

 使えるかもと取っておいたのだが、さっそく役に立ってくれそうだ。


 ギルドを出てフェミアの下へ戻ると、またもや彼女は冒険者に遊んで貰っていたようだ。

 いやだが待て。

 人に遊んで貰うような年齢か?

 見た目はアレでも、一応16歳だしな。


 まぁ相手が子供だと勘違いしているのだろう。

 なんて優しい冒険者たちだ。


 そう思ってみると、あの者らは昨日と同じ……。


「やぁやぁ。フェミアと遊んでくれている冒険者たちよ。昨日は礼をいそびれたが、随分と子供好きのようだな」


 そう声を掛けると、彼らは一瞬ビクリと体を震わせたが、直ぐに笑顔を返してきた。


「あぁ。あんたがこの獣人の飼い主か?」


 保護者だが。


「労働力にしては痩せ細っているし、やっぱりあっちか?」


 あっち?


「けど俺としてはもう少し肉付きがいい方が好みだけどなぁ」


 そう言って男がフェミアの頭を撫でる。

 フェミアは余にそうされる時とは違い、怯えたように震え、助けを求めるようにこちらを見つめた。


 あぁ、察した。


 つまりこの冒険者どもはフェミアを性奴隷だと思い、あわよくばお零れ――つまり……つまり……。


「セ、セセセ、セックスしたいとかっー!」


 そんな恥ずかしいセリフ、余に言わすなパーンチ!

 もちろん"筋力増強マッスルパワー"付き♪

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