第十二話
フェミアの服選びが終わったのは、ざっと二時間近く経った頃だろうか。
服三セットに下着が数枚、靴下と、それから靴も買わされ締めて150マニーなり。
「たっか! バリ高かっ」
愚痴ったものの、三着分の上下にポンチョのようなのも含め一万五千円とかんがえれば安いのか。
悩みに悩んだ末フェミアが選んだ服は、どれも動きやすそうなものばかりだ。
スカートは避け、ズボンを選んだ辺りは誉めてやろう。
今着ているのはベージュのシャツに茶色のオーバーオール。その上から茶色のポンチョというスタイルだ。
お子様っぽくて可愛いではないか。
だが財布の紐はきつく締めねばならぬな。
次に余の服を購入したが、着替えは無し。
簡素なズボンと長袖のシャツ。あとはまともなパンツを一枚買って終わり。
締め込みをここで脱ぐと三メートルの布を持ち帰るのが面倒なので、ひとまず締め込みの上からズボンを穿く。
次に買うのは……ベッドといいたいが、ここで買っても持ち帰る手段がない。
宅配だってしてくれる訳ないだろうし、あとで馬車を取りに帰るか。
じゃあ――。
壁や屋根の修理に必要な木材は、荷物の中にあった木箱を分解して代用しよう。
となると必要なのは釘と金槌か。
さて、どこで売れらているやら。
わからないなら人に聞けばいい。
幸いここはギルド近くだ。昨日のギルド職員に聞いてみよう。
「フェミア、馬を見ていてくれ」
「あぅ」
頷いたフェミアの頭を撫でてやり、余は建物の中へと向かった。
中は意外なほど賑わっていた。
「昨日も思ったが、冒険者というのはなかなか多いものだな」
そんなことを呟きながらギルド内を見渡す。
昨日のメガネくんを探す為にだ。
お、いた。どうやら接客はしていないようだ。
というかどの冒険者も女職員のところにばかり行っているようだな。
暇そうにしているメガネくんに声を掛け、釘や金槌を取り扱っている店、ついでにベッドを安く買えないかと相談してみる。
すると、一言目に彼はこう言った。
「どなたですか?」
――と。
いやいやいや、昨日会ったばかりではないか。
しかも中古物件を購入したのだぞ? さすがに覚えているだろう。
え、なに?
本当に知らない?
双子の兄か弟でもいるのだろうか?
え、いない?
「昨日、森のすぐ脇にあるアバラ家を紹介されて、分割払いで購入した者なのだが?」
「え? あの白い布を巻いただけな、随分と女性の視線を独り占めしていた卑猥な恰好をしていたあの人ですか?」
……卑猥……そんな風に言われたのは初めてだ。
あれは卑猥なんかじゃない。
れっきとした祭りのスタイルなのだ!
と、異世界で言っても仕方ないか。
余が誰だかわかってくれた職員は、こちらの求めた情報を提供し、ついでに金策話もしてくれた。
「お売りした小屋の裏手にある森ですが、薬草なども多く自生しています」
「薬草! まさにスローライフの定番お仕事ではないかっ」
「定番かどうかは知りませんが、とにかく薬草を摘み取ってきていただければ、こちらで買い取りいたしますよ」
朝、町に来るときすれ違った冒険者らは、薬草採取に向かった者たちなのだろうか。
それを聞いてみると、どうやらそうではないらしい。
「森の少し奥に入ったところに、遺跡ダンジョンがあるのです。彼らの目的地はそこですよ。危険ではありますが、実入りもいいですからね」
――と。
また、ダンジョンのほうが実入りが良いため、薬草を採取してきてくれる者が少ないのだとか。
薬草は必要品だ。
この町でも必要だし、別の町に出荷することもある。
故にいつでも欲しているのだ。
「魔術師でしたら、鑑定スキルなどは?」
「うむ。心得ておる」
「では、早急に欲しい薬草をメモしてお渡ししておきますね」
「助かる」
羊皮紙に書かれたメモを持って外へ出ると、フェミアが見慣れぬ冒険者と遊んでいるようだった。
「フェミア、遊んで貰っていたのか? よかったな」
そう言うと、余に気づいたフェミアが駆けて来る。
そのまま余の胸に頭突きをかまし、グリグリと追撃してきた。
それを見た冒険者たちが慌てて帰っていく。
なんだ、礼でも言おうとしたのにな。
まぁいい。さっそく釘と金槌を買って家に戻るか。
「さぁフェミア。家の修繕をするぞ」
「……ぁぐぅ……」
「ん、なんだ? 腹が減ったのか?」
「!?」
目を輝かせてこくこくつ頷くフェミアに、おかわり一回を約束させて屋台へと向かった。
約束通りおかわり一回を平らげ、職員に教えてもらった店で釘と金槌を購入。
すぐさま家に向かおうと、町の西側の門に向かうと――。
「おぉ、一昨日の晩に世話になった門番か。今日は西門の番をしているのだな」
門前のベンチに腰かけていた二人の門番に声を掛けると、余を見て首を傾げられてしまった。
「誰だ?」
「こんな奴、町にいたっけ?」
いやいやいや、一昨日入ったばかりではないか。
馬車を停めるスペースをくれたり、酒を買い取ってくれたりしたではないか。
え、余の顔に見覚えがない?
「あぁー、ううぅ」
余の隣でひょこっとフェミアが顔を覗かせる。
そんな彼女を見て、門番は思い出したようだ。
「そうだそうだ。口のきけない獣人の女の子を連れた奴がいたな。変質者のような恰好をしていたが、彼の国では日常的な服装だったようだが」
……つまり、服を着ているから、余だと気づかない、と。
「このお嬢ちゃんを連れているってことは……」
そうそう、余である!
「かどわかしか!?」
「ちっがーう!」
声を張り上げたあと静かにズボンを脱ぎ、締め込み姿に戻る。
「「あぁ、あんただったのか」」
そんな声を聞きながら、この世界では締め込み姿でいなければならないのか。
と、絶望にも似た使命感を抱くのであった。