7.猟師の仕事スタート
翌日、さて大っぴらにやるのはどうか……いや、どうせいつかはバレることだしな。出し渋ってもしょうがないか。
都子のヘソクリから出してもらったからな。眼鏡まで買ってくれとは言えんかった……。空気銃用の眼鏡って使えるやつで最低二万、いいやつは十万円はしちゃうしな。
ま、このダイアナをわざわざ選んだ理由は、前世で使い慣れてるってのはあるんだが、照星、照門がついてて、眼鏡無しでも狙えるからだ。
今のプリチャージとかの良く当たる高性能な奴は最初から眼鏡使用が前提で、照門も照星もついてない。
要するにコイツは近距離用の威力が弱いやつってことになるが、馬の厩舎で使うならこれで十分だわ。これ以外の方式の空気銃だと撃った時の音がぱあんってデカくて、馬を驚かす。機械式スプリングのこのダイアナなら厩舎の扉をバタンと開け閉めしたときぐらいの音しかしないから馬を驚かせたりせんし、強力すぎないから屋根に穴も開かんしな。
ポンプ銃みたいに何度もポンピングしなくていいし、プリチャージみたいに十数発撃ったらチャージやり直ししなくていいし、撃ちたいときにすぐ撃てて安くて頑丈なスプリング銃は農家向きだよ。
そんなわけで15mぐらいでまず10発ぐらい試し撃ちして照準調整。
……驚いたんだけど、すげえよく見えるわ。
七十になった年寄りの俺は眼鏡無しじゃ鳥なんて撃てんかったけど、三十五歳のエルフの視力ってのは大したもんだ! コレなら眼鏡無くても十分行けるわ!
馬に干し草食わせて、水やって、馬場に放してから厩舎のハトを片っ端から撃ち落とす。
単発なんでな、一発ずつスプリングを圧縮する銃の横についたサイドレバーをカチカチカッチンと引っ張って弾込めする必要があるけど、鳥なんて一発撃てば当たろうが外れようが全員飛んで逃げるから連発することなんてまず無いんで単発でも別に問題ないわ。
数羽撃ち落としては麻袋に突っ込んで、たちまち十五羽はやっつけた。ハトってのは頭悪いから巣にものすげえ執着する。逃げないんだよ。必ず戻って来るね。
そのせいでカラスみたいに死体吊るしておけばもう寄ってこないってことがない。辛抱強く全滅作戦一択なんだよな……。大変だわ。
やってみて意外だったのは眼鏡使うより照星照門のほうが当てやすいってことだ。
眼鏡って4~5センチも銃身より上に付いてるだろ? だから30mとかで合わせた眼鏡で数メートルを狙うと外すことがある。銃身が眼鏡よりずっと下にあるから、近距離だと狙ったところより下に当たっちまうんだよ。急所を外して逃げられる。真ん中で狙っちゃダメなんだが、頭でわかっていてもついやっちまう。
でも照星、照門は銃身のすぐ上についてるから、狙った通りに当たるんだよな。ハト専用って割り切って15メートルに合わせておけば、5メートルでも10メートルでも15メートルでも狙う場所を変えなくてもいい。撃つときに頭使わんくても真ん中で狙えば当たる。楽でいいわ。年寄りにお勧めしたいけどコレ、目が良くないとダメなんだよな、残念ながら。
「おいおいおいおい、凄いじゃないか! なんだそれ!」
馬の師匠のハロンさんがやってきて、空気銃見てびっくりだわ。やっぱりこの世界には無いものなんだな。
「空気銃っていってね、鉛の弾を撃ち出すやつで、これでハトを獲るんです」
「ほえ――――。スゲエ……。エルフって弓使うもんと思ってたけど、そんなもんも使うんだな。大した技術だ。魔道具かい?」
「まどうぐ?」
「魔法を使う道具だよ」
「んーまあそんなもんです」
変わった道具を使ってても、エルフだって言えばたいていごまかせるのかい。
便利だわ。今後もそうさせてもらうとするわ。
そう言って、残り、厩舎から逃げ出して屋根の上に留ったハトも次々と撃ち落としていく。いいね、目が良く見えるようになったせいか、飛んでいく弾丸がたまにチラッと見えるから、着弾修正も簡単だわ。30mも狙えるね。
ま、空気銃、弾速遅いからなんだろうけどな。散弾銃やライフルじゃ、さすがに飛んでいく弾が見えるとはいかんだろう。
結局三十羽近く獲ったんだけど、「これどうしましょう」って言ったら、「何羽か食べてみるか」ってハロンさんが言う。
パールさんに渡せば料理してくれるってよ。
よく食う気になるなあ……。俺ら、役場に「伝染病予防」って言われてハト駆除やってたから、獲ったハト食うって発想は無かったな。
昔は食ったけど、今はもっと美味いもんいくらでもあるからわざわざ食うようなもんでも無かったんでね。
ほらあ、厨房に持っていったら、都子も「うええええー」って顔してるよ。
都子、シカ獲ってもクマ獲っても、いつもうえーって顔してたよ。
庭でシカの解体とかやってたら家から出てこなかったぐらいな。
喜んでくれんのはカモぐらいだったねえ。肉にすんのは俺がやってたけど。
パールさん喜んで羽根むしってるけど、大丈夫かね。
当主さんもやってきて、「コレ全部獲ったのですかな!」って驚いてるよ。
空気銃見せて、説明したら、「領内の農家のも全部やってくれませんかな!」って頼まれたわ。
「いいですけど、これ金かかるんですよ……。都子に貯金出してもらって、金貨五枚でやってるんです。道具代なんで一度出してもらえればずっと使えるし、カラスも獲れるんですが、できればその……」
「出す、出すよ。あっはっは。金貨五枚で領内のハトやカラスを全部駆除できるなら安いもんですな! ハロン、今日一日ヘイスケにヒマやって」
「わかりましたあ」
「領内に農家さんは何戸あるんです?」
「五十」
「そりゃあ一日で回り切れませんよ……」
「じゃあ午前中は屋敷仕事、午後はハト、カラス駆除で。何日かかってもいいですがな」
「それならやります!」
それから一週間かかって、村のハトを全部始末したね!
どこ行っても「エルフって珍しい」と驚かれたけど、当主さんの使いって言えば、ハト落としてくれるならどんどんやってくれって歓迎されたね。
牛の牧場も、羊の牧場も、それにどの農家も馬を飼ってるから馬の厩舎も、ハトだらけだよ。
ハロンさんに馬借りて、鞍載せて午後は毎日見回りさ。馬に乗って歩かせるのも四十年ぶりかねえ。これだけでもすげえ楽しいわ。
鉄砲背負って馬か。いっぱしのカウボーイ気分ってやつだわ。
カラスがたかってる農家もあって、そこでは数羽撃ち落としてから「死体を吊るしといて」って言っておいた。
カラスはハトと違って頭がいいから、一羽二羽落としただけで全部逃げちゃうし、死体を吊るしておけばもう寄ってこない。効果抜群だ。
なによりこれで村の農家さん全員と一通り顔見知りになれたのが一番よかった。
ハンターの仕事ってのは、農家さんあってのもの。役に立つんだとわかってもらって、良好な関係を結んでおくのはなにより大事。
話を聞くと、キツネもやっかいらしい。ニワトリが狙われるんだと。
金網で頑丈にニワトリ小屋を作っても、地面を掘って侵入してくるらしい。どこの世界でもキツネのやることは一緒だな……。
キツネは空気銃のダイアナじゃ獲れない。威力が足りなくて急所に当たっても逃げられちまう。
最低でもプリチャージの空気銃、あるいは散弾銃が必要だ。
それにコヨーテ。コイツは羊に子ブタ、時には牛までやられちまう。
散弾銃か、用心深くて近寄れないならライフルが要る。
これは何か考えないといけないな。っと、ここ日本じゃなかったな。
日本だとライフルで獲っていいのはシカとクマとイノシシだけなんだけどよ、ここ異世界だからライフルでキツネもコヨーテも獲っていいんだ!
こりゃぜひともライフルが欲しいねえ。もっと稼がないとダメだけどな。
当主さんが馬に乗っての遠乗りついでに、すっかりハトのいなくなった領を見て回って戻って来て、たいそう褒めてくれたよ。
こういう農家の不満を少しでも解決してやるのが、領主の仕事なんだと。
農家の連中もみんなハト持ってって、食べるって言ってたな。
食うのかよ……。
俺が屋敷で落としたハトも、結局一日吊るしてからパールさんが料理した。
ハトの丸焼き。ローストチキンみたいなもん? 一人一羽って感じで。
まあマズいとは言わないけど美味くはなかったな。何度も食べたいとは思わん。
ニワトリに比べれば小さい鳥だから、食う所あんまりないし。肉も固かった。油で、から揚げにしたら食えるかと思ったけど、都子が言うにこっちじゃ植物油は貴重品だからそんな料理はしないんだと。
意外と当主さんが喜んで食ってたから、これから落とすたびに作ることになるかな。ま、野生の鳥肉だから脂身もほとんどなくて、いくらでも食えるだろ。
「ニワトリの被害は聞きましたかな?」
ボーナスの金貨五枚を渡してくれながら言う。これで都子に金が返せる。
頭を下げてお礼を言ってから、そっちのほうは「はい。まあ」と返事しとく。
「コヨーテは羊も襲う。なんとか手はありますかな?」
「うーん……。金貨二十枚あればなんとか……」
そうすりゃライフルも買えるかもしれんからな。
「うーん二十枚か……」
当主さんも考えこんじゃうな。大金だよな。二十万円だもんな。
「これも道具代です。何年も使えますから、駆除のたびに二十枚必要ってわけじゃないんですが……」
領主って言っても田舎領主。たかだか五十戸の農家の税収だし、この人、別に贅沢してるわけでもなく税も安くしてるみたいで農家さんからの領主の評判はとてもよかった。金貨二十枚は俺みたいな使用人に使うのは大金か……。新しい農機具買えちゃうもんな。
「ま、しばらくは罠でも作って対処してみますよ」
「頼みます。あー、そうだ。金稼ぎたかったらハンターギルドに登録するって手もありますな」
「なんですそれ?」
猟協会みたいなもんか?
「ここは大きくサープラストという市の中の村ということになってましてな。大きい街で、ハンターを取りまとめている組合がありますな。それがハンターギルドで、獲物を持っていくと買い取ってくれるし、それで生計立てているハンターが何人もおりますな。サープラストの領主は私の兄で、キハル・ド・アルタースといいまして、子爵ですな」
「はあ」
爵位の順序とか知らねえから、偉いのかどうかさっぱりわからん。まあうちの当主さんが分家筋ってこったろうな。
「そこのハンターギルドに登録して仕事をすると大した稼ぎになるはずでして。ま、腕があればの話ですがな」
「お休みを頂かないといけませんな……」
「うーん……それもそうですな。ハロン、どうするね?」
「んー、まあ、週に一度ぐらいだったら」
「よし決まりだ。紹介状を書きましょう。それ持ってサープラストに行きなさい」
うひゃあ、なんか厄介なことになってきましたよ?
いいのかね俺仕事サボってそんなことやってて。
とりあえず次の休日まで、馬を三頭分、全部蹄鉄を打ち直した。
何年も使ってなかった鍛冶場があってさ、そこで昔を思い出しながらやったよ。
「そんなこともできんのかいヘイスケさんは!」ってハロンさんが驚いてたな。
炭火を起こして、ふいごで吹いて、出来合いの蹄鉄を馬のひづめの形にぴったり合わせてトンカンとハンマーで打ち直し、馬を枠に縛り付けて足を固定してひづめを刃物とヤスリで形を整え、焼いた蹄鉄をジューって押し付けてから釘を打つ。
うん、やればできるわ。
昔は農家で共同で鍛冶場作って、みんなで一緒に作業したからな。
汗まみれになったけど、馬、みんなカポカポ軽快に歩くようになってよかったわ。これサープラストの職人にやらせるとかなり金取られるらしくて、もう歳で自分でできなくなったハロンさんが喜んでたな。
次回「8.ハンターギルドに入ってみるか」