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35.勇者、襲来

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 キュィンッ! ドカン!

「 ! 」

 馬小屋で仕事してると、突然の甲高い金属音と、なにかが硬いものにぶつかる音。そして一瞬遅れて、

 ドッコオォォォォォォォンンン……。

 銃声だ!

 なにごとだよ!


 今の音、間違いなく銃声だ。撃たれてる!

 いったいどこのどいつがこんなこと……。いや、今はそれどころじゃないな。

 音がしたのは館の、南側。裏山からだ。この屋敷、南側に山があってそこから見下ろせるんだよな。

 部屋は全部南側にあって、北側は廊下と、正面ホール。部屋にいて窓側に立ってるとあぶねえ!

 当たった音からして着弾はたぶん壁だ!

 馬小屋から館に駆け込んで大声で叫ぶ!

「外に出るな! 窓から離れろ!」


 今の時間、都子は各部屋の掃除。どこにいる?!

「ちょっとヘイスケさん今のなんの音?」

 パールさんが掃除中の部屋のドアを開けて顔を出す。

キュィンッ! ドカン!

 ドッコオォォォォォォォンンン……。

「今鉄砲で遠くから撃たれてるんですよ! みんな部屋から出て! 廊下に!」

 二階に駆け上がる。

「都子――――! 廊下に出ろ!」

 当主さんの書斎のドアが開いてハタキを持った都子が出てくる。

「一階に行け。廊下にいろ! 当主さんは?!」

「と……トイレ」

「なにごとかね」

 館の奥のトイレから当主さんが慌てて出てくる。

「今館が、裏山から鉄砲で撃たれてます!」

 キュィンッ! ドカン!

 ドッコオォォォォォォォンンン……。

 大音響に身をすくめる都子と当主さん。

 裏山に面した南側の壁に次々と着弾してるな。

 間違いなく大口径ライフルだ。ライフルの弾速は秒速800m。音速の2倍ちょい。壁に着弾してから銃声が聞こえるまでけっこう間がある。ずいぶん遠くから狙ってることになるな。

 キュィンッ! カッコ――――ン!

 ドッコオォォォォォォォンンン……。


 ……試射してるな。今の着弾はなんか薄っぺらい鉄板に当たるような音だった。

「外から撃たれてます。裏山からです。一階に降りて! 表に出ないで!」

 都子と当主さんと一緒にドカドカと階段を降りて一階に向かう。

 一階の廊下にはもうハントとラトちゃん、パールさんとハロンさんがいる。

 全員無事か、よかった。

「どういうことだいヘイスケ」

 キュィンッ! カッコ――――ン!

 ドッコオォォォォォォォンンン……。


「全員ここにいてくれ、動かないで、南の壁、窓に近寄ったり館から出ると撃たれる。身を伏せて」

 全員言われた通りにしてくれる。床に這いつくばる都子の両足持って廊下の隅っこまで引きずる。

「あああああああああっ! ちょちょちょちょあなたなにすんの!」

「都子マジックバッグ」

「マジックバッグ?」

 ぼんって都子の黄色いかばんが飛び出す。コレみんなに見られたらさすがに面倒だからな。みんなに背を向けてコッソリだ。

「俺のレミントンM700と弾50発!」

 鞄を開けて銃と弾を取り出す。鉄砲盗まれたり無くしたりすると厄介だから、一丁取り出してる間は、他の銃は都子に預けてある。今、家に散弾銃置きっぱなしになってるからライフルは都子に預けてたんだよな。


「ガン使いの召喚勇者ですかな?」

 みんなの元に駆け寄ると当主さんが冷静に推測するねえ。

「そうですよ。ここは村の外れの見通しのいい館。周りに何もありませんので白昼堂々狙撃してきたことになります。ここの連中は遠距離から狙撃しても反撃もできんとナメてきたんでしょうな」

「さっきからなんで何発も撃ってくるの!」

 四つ足でばたばた駆け寄ってきた都子が震える声で言う。

「狙いを調整するためだ。距離は裏山からだとすると500ナールぐらいだろ。さっきカッコーンって頭の上で音がしたのはたぶん風見鶏が撃たれたからだわ」

「風見鶏?」

「鉄板が撃たれたみたいな音したから」


 ……。


「音が止みましたな」

 当主さんが上を見上げる。

「たぶん調整が終わったんでしょ。風見鶏に二発当てて満足したんだわ」

「どう来るのかな?」

「裏山から音がしてるんだから、何事かと窓から顔を出せばそれを撃ち、館から出る者があればそれを撃つつもりなんでしょ。この館全体が裏山から丸見えだから」

「じゃあ私たちは館から出られないと」

「そう」

 この世界電話が無いから、館から出る以外の方法でこの事態を外に伝える手段がない。助けを呼べないってこった。なるほど異世界ならではの襲撃方法だな。

「なんでわちら狙われるの――――!」

 都子が叫ぶ。

「そりゃあお前、俺らが召喚勇者の仕事、いろいろ邪魔してきたから仕返しだろ。いろんな情報集めれば、しまいには俺か、当主さんに行き当たるさ」

「なるほど、さもあらんですな」

 考えてみりゃあ俺けっこう大っぴらに鉄砲使ってきたからな。無理もないか。

 この状況でも落ち着いてるねえ当主さん。都子はガタガタ震えてるよ。


「私が裏山を登りましょうか」

 自分の使用人部屋から弓矢を取って来たハントが申し出る。

「撃たれるぞ?」

「隠れながら走ればそうそう撃たれますまい。獲物に近寄るのと同じです」

 ふーむ。ま、そこはハントを信頼してる。獲物に気付かれず接近する腕前は間違いなく今この国一番だろ。


「まず敵の位置だ。裏山なのは間違いないが……。よし、屋根裏部屋の通気口から山を見てみるわ。射手は今、窓と表だけ注目してるはずだしな。ハント来い。みんなはそのまま伏せて、地下の食料庫に移動して身を隠してくれや」

 ハントと二人で階段を駆け上がって、屋根裏部屋に行く。

 通風孔の穴からこっそり外を見る。俺たちゃエルフだ。目がいいから500mぐらい先なら人間は見逃さないぞ。


「……二本松の下を見ろ」

 裏山の頂上近く。木が数本しかないところがあるが、そこの下に一人、伏せってるようだ。

「……いますね。寝て、銃を構えています。ヘイスケさんとやることは似てますね」

「伏せ撃ちな。アレが一番安定する撃ち方だからな」

 思った通りだいたい500mってとこか。いい腕してるわ。

 俺は300mまでしか撃ったこと無いからな。500mだとどれぐらい上を狙えば当たるのかもわからんよ。


 孫のシンは距離、測ってコンピューターで計算した表見ながらやってたな。サボットスラグのハーフライフルだと、弾速遅いから弾がすぐ落ちるんで、50mと80mでもう当たる場所が変わるんだとか。要するにスラッグだからなあアレも。眼鏡(スコープ)の十字に目盛りが入ってる奴を使うんだよシンは。俺らが長年の経験とカンでなんとかしてたのを、あいつは理屈と計算で追いついてきやがった。腕前上がるの早かったよシンは。


 俺は150mで合わせときゃまあ100mでも200mでもシカには当たるんであんまり長距離撃ったことは無かった。北海道では一番距離のある射撃場でも300mだ。撃ったことのない距離を撃つってのは事故になるからやっちゃいかん。だから北海道のハンターは普通300m以上の距離は狙わないんだよな。

 内地のハンターのガイドをやったことがあるが、なぜか長距離を撃ちたがる。「今年は500メートルに挑戦してみようと思いまして」なーんて言ってな。雇われてる身だから止めたりはしないけど、半矢になるからあんまり感心しないねえ。ま、北海道に行って「500mを仕留めてきました」なんて言えばだいぶ自慢にはなるんだろうがね、500mシカ引きずってくる奴の身にもなってみろってんだ。


「相手は寝てる。すぐには身動きとれん。そこに賭けるしかないか」

「どうするんです?」

 ……人間撃つのか。まあ仕方ないか……。俺の家族、家族同然の人たちを殺そうってんなら、話は別だ。やってやるわ。

「お前馬小屋まで行って馬を出せ。馬小屋は裏山から見てこの館の陰になるからあいつからは見えん。屋根裏から俺が連発する。俺の銃声がしたら、馬の横腹に張り付いて馬を走らせ、山のふもとに取りつけ。そこから隠れてヤツに接近して矢を浴びせろ。相手たぶん片手でも撃てるようなちっちゃい鉄砲も持ってるから気を付けろ」

「了解です。それで行きましょう。ヘイスケさん500ナール、当てられるんですか?」

「まぐれ当たりに期待するさ。今から五百数える。そしたら俺の方から撃つからな」

「私は百までしか数えられませんよ……」

「ちゃんと勉強しとけよ……。百を数えるのを五回やれ」

「わかりました。いち、に、さん、し……」

 そう言ってハントが階段を駆け下りていくね。


 テレビや映画の銃撃戦でよく「援護しろ!」ってのがあるよな。

 援護しろって言われても、それで主人公を撃とうとして飛び出した敵をやっつけられれば苦労はねえよ。そりゃ援護じゃねえ。「俺がおとりになる!」ってやつだ。

 援護しろってのは、要するに弾を浴びせて敵の頭を引っ込めさせろって意味だと俺は思うねえ。

 誰だって敵の弾がたとえ適当でも、キュンキュン飛んできている間は顔出せないだろ? その間に援護されてる奴が接近するってことなんだろ。「弾幕張れ!」ってのも意味は似てるな。当てることを目的としてない、牽制のための射撃。

 俺がハントにやろうとしてるのはその援護だね。俺が奴にあてずっぽうに弾を撃ち込む。相手はこっちも銃使ってるのは知ってるかもしれんが、撃ち返されたらそりゃあ手が止まる。こっちは500mなんて距離は当てられねえだろってタカをくくっての、この作戦なんだろうが、それでもすぐそばに弾が飛んでくりゃビビリはすんだろ。その間にハントに山に取りつけって作戦さ。


 孫に聞いたことあるわ。俺の鉄砲って本当だったらどれぐらい当たるんだって?

『308ウィンチェスターは、ベトナム戦争まで米軍でも使われてた弾だから、800mは当たるよ』って言われてびっくりしたわ。元々は軍用弾ってのは知ってたけど、そんなに当たるもんかい。

 屋根裏の通風孔のところにテーブルを引きずって行く。

 百まで数えた。


『相手人間だったらの話。シカとかクマとかそんな距離じゃ致命傷にならないからおじいちゃんのいう通り300m以上は撃たないほうがいいと思う。どうせ当たらないし』

『どれぐらい落ちるもんかね』って言ったらコンピューターでぱっぱと計算してたな。なんでもやるわ俺の孫は。

 二百! テーブルの上にカビ臭い古い鞄を載せ、その上にライフルを置く。


『おじいちゃん何メートルで合わせてるの?』

『150mだ』

『だったら200mで7cm下、300mで40cm下、400mで1m下、500mで2m下に当たるよ』

 三百! 通風口を開ける。少し下がって俺もテーブルの上に寝る。


『そんなに弾って落ちるのかい!』

 300mの時は俺はシカの背中の線ぐらいに合わせて撃つ。そうすりゃ急所に当たる。

 なんとなく経験でそうしてたわけだが、コンピューターの計算でもそうなるわけかい。そりゃ信じるしか無いな。

 四百! 308ウィンチェスターを四発込めて、伏せ撃ち姿勢で構える。


 目標、裏山の寝てるクソ野郎。

 一応聞いといてよかったわ。孫に教えられることもあるんだわな。


 五百! そろそろハントが馬を出してタイミングを計ってるところだな。


 ドッコ――――ン! 2m上!

 ドッコ――――ン! 2m30cm上!

 ドッコ――――ン! 1m70cm上!

 ドッコ――――ン! もう一度2m上!

 狙いどころの高さを変えながら速射で4発撃ち込む! 高さはまあ勘だ。それは長年の経験だ。獲物の大きさで判断する。今は寝てるアイツが立ったらどれぐらいの高さになるかを想像して撃ち込んでる。

 500mで2mってのだけはしっかり覚えてた。だからそれに合わせて2mで、ちょい上下をずらしながらで、まああてずっぽうだがどれかは当たるか、あいつのすぐそばに飛んでいくと思うわ。弾丸がこっちに向かって飛んでくる音ってのは「キュイン!」ってカン高い、かなりでっかい音だからな! おっかねえよ!

 テーブルから転がり落ちて、銃を上にして床に伏せる!


 いてててて……。ぺっぺっぺ。屋根裏部屋だから上から埃が落ちてきて部屋が埃だらけだわ。


 ……撃ち返しては来ないようだな。

 床を這って部屋を出て、別の屋根裏部屋に移動してそこの窓からこっそり覗く。

 奴は寝たままだね。スコープ無しのオープンサイトで適当に高さをずらして連射。当たったとも思えんけどな。ハントうまくやったかな。

 牽制にもう一回撃ち込んどくか。

 今度は小窓をゆっくり開けて、椅子を引っ張ってきて、背もたれを前に向けて銃を置き、椅子に片膝ついてもう一度!

 ドッコ――――ン! 2m上!

 ドッコ――――ン! 2m30cm上!

 ドッコ――――ン! 1m70cm上!

 ドッコ――――ン! もう一度2m上!

 どうだっ!


 ……ヤツに動きが無い。当たったのかな?


 ひゅるるるるるるるるる……。

 しばらくして、ハントの鏑矢(かぶらや)が音を立てて裏山から放たれた。

 もう大丈夫ってことか?



次回「36.警告」

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