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34.剣士、ブランバーシュ


「一つご報告したいことが」

「何か……。ブランバーシュ殿! あなたもですか」

 ファアルさんがブランを見てびっくりする。有名人かよ。


「高名な剣士殿が滞在していてくれて助かりました。礼を申します」

 ファアルさんが馬を降りて握手する。

「いえいえ、三匹しか倒しておりません。この街の衛兵、ハンターは優秀ですな。感服いたしました」

 その「三匹」という言葉にハンターたちから「うおおお――」と声が漏れる。

 いや俺六匹なんだけど……。


「報告とは」

「これを」

 先輩さんが短機関銃を見せる。ボルトが開いてるってことは弾は空かな。全部撃っちゃったか。

「……これは?」

「おそらく教会の召喚勇者が持っていた神器、『ガン』ではないかと」

「召喚勇者がこの街にいたと?」

「はい」

「……ここではちょっと。詳しく聞きます。屋敷に来てください」

「しばらく見回りに同行します。明日の朝、ご訪問させていただきます」

 そういや教会の周りも見て回ったけど、あのブッ倒れてたあいつら、いなかったな。ふん縛っとけばよかったか。ま、縛って置いといても、どのみち教会の奴らが回収しちまっただろうがな。


 みんなから離れたところで、ファアルさんに駆け寄って声をかける。

「ファアルさん」

「ヘイスケ、ご苦労だった。その様子だとだいぶ倒したんだろ。礼を言うよ」

 見ると俺もけっこう返り血浴びて血だらけだね。

「それなんですが、あのブランバーシュと、それと一緒にいる女には俺のことは言わないようにしてもらいたいんで」

「……なんでだ?」

「関わりたくないんで。ほら俺も鉄砲使いだし、バレるといろいろ面倒なことになりそうで。こっちにも事情がありまして」

「ハッハッハ! わかったよ! 宿屋にでも戻ってゆっくりしてくれ。後で呼びにやるから寝てていいぞ。バリステスもな」


 はーはーはー……。よかった。これでやつらに関わらずに済むってもんだ。



 翌日、宿屋でバッタリ寝てたんでねえ、まいったねいろいろ。

 起きてから服、洗濯頼んで、俺は部屋着にしようと持ってきた都子が縫ってくれた作務衣着て、宿屋でM870バラして、徹底的に手入れする。べとべとになってたからねえ。こっちじゃあ機械油とか手に入んないんだよな。都子に頼んでガンオイル買ってもらってはいるんだけど、馬車に置いてきちまったからなあ。とりあえず水拭きしてからよーく磨く。ちゃんと手入れしないと錆びちまうよ。

 昼過ぎたころ、宿に使いが来てね、あのブランたちが表敬訪問して帰って行ったそうで、俺とハントとバリステスで伯爵様の屋敷に戻る。


「ヘイスケ、これなんだかわかるかい?」

 そう言って、例の短機関銃、俺の前にがしゃっと置くよファアルさん。

「実はですね、酒場でこいつらと夕食にしてたら、あのトカゲ野郎がひょいひょい外を歩いているのが見えまして、こりゃ大変だってことでみんなとすぐに武器を取りに戻ったんですが、その時教会裏で……」

 てなわけでその一部始終を全部、コイツを持ってたのは教会の召喚勇者だって話もした。


「教会勇者がこれを……」

「クソッ! そういうことかよ」

 バリステスのメンバーも驚くね。

「……ブランバーシュ殿も、同じことを言っていたよ。教会が勇者召喚して、『神器、ガン』を使うやつを使役していると。正教国の者にリトルドラゴンを召喚させ、自作自演の芝居をしてその勇者を持ち上げようとしているらしいとかな。ヘイスケの推理が全部あたったことになるな。たいしたもんだよヘイスケ」

「その勇者とやらも、嫌がってる様子でしたからねえ。かなりヘタレ、っていうか素人と見ましたがね」

「そうなのか? 強力な『ガン』を使うやっかいなやつとブランバーシュ殿は言ってたが」

「教会の連中に『はやくやれ』って言われて、嫌がってましたから」

「いくら勇者でも一人で十二匹のリトルドラゴンはさすがに怖いだろ」

 バーティールの兄ちゃんはそう言って笑うがね。ま、そりゃそうだな。俺だってみんなが盾になってくれてたから撃てたわけで、一人じゃ無理だね。


「ブランバーシュ殿はいろいろ事情を知っていそうだったが、詳しくは話してくれなかった。『証拠集めをしているところ』とね」

 そういやあいつ日本に来た時も、女神さんとかに頼まれてやってきたとかなんとか孫のシンが言ってたね。今も女神さんに頼まれてるってことかね。先輩さん、スマホで写真撮ってたけど、それってこの世界で証拠になるのかねえ……。

 目の前の短機関銃。弾倉にも弾が残ってない。

 もう使えないね。こっちで弾が手に入るわけがないし、弾、なに使うんだか知らんし、関わらないほうがいいわな。

「ヘイスケはこれなんだかわかるかい?」

「見たこともありませんや」

 いや実際無いし。


「……そうか。これは国王陛下に届けさせて、調べてもらう。教会関係者がなにかやらかしてる証拠にもなるだろう。ご苦労だった」


「心配なのはね」

 ファアルさんの横に座ってたキリフさんが口を出す。

「ここまで、召喚勇者のことを僕らで二回も邪魔したってことだよ。今後、仕返しでも腹いせでも、なにかさらにやってくるかもしれない」

 そりゃ心配だな。

「ヘイスケ、ガン使いとしてどうだ? なにをやってくると思う?」

 うーん。

「召喚勇者とその仲間の教会関係者、捕まっていないので?」

「昨日から教会を見張らせてる。領からの出入りもチェックしてる。領から出た形跡もなく、教会にも出入りしてない。姿をくらませてしまったな」

「うーん、失敗でした。やっぱりあの場で縛り上げておけば」

「いやいやいやいや、アレを六匹も退治してくれたヘイスケにそれは言わないよ。どっちが優先だったかなんて誰でもわかるさ」

 ありがたいわファアルさん。


「何かやってくるとしたら長距離射撃でしょうな」

「長距離射撃!」

「例えばですな、ライフルってガンがあるんですが、そいつなら800ナール遠くからでも人間を撃てるんです。狙撃です」

「……信じられん」

「信じられんと思います。でもできるんです」

「それって魔法なのかい」

「まあそんなもんだと思ってもらえば」

「……ヘイスケさん、なんでそこで召喚勇者、殺しておかなかったんだよ」

 バーティールがそう言うね。物騒だわ。

「よしてくれや。俺は人なんて殺したこと無いって」

 そう言うと、みんなびっくりして俺を見るねえ。


「え、そうなのか?」

「てっきり……」

「いやあれだけの戦闘能力があってそれは無いだろ」

「俺は猟師なんだよ。人殺しじゃねえ」

 みんなあきれるわ。


「甘い。甘いわヘイスケさん。長生きできねえぞ」

「俺はお前らなんかよりずっと長生きしてるがな」

「エルフにそれ言われちゃ……。ま、そういうとこヘイスケさんらしいかも」

 ……その話は終わりでいいかね。


「で、どう対策すりゃいいヘイスケ?」

「窓にはカーテン閉めて、外から見えないように。窓際には立たないように。館からの出入りは馬車に乗って、馬車の窓にもカーテン閉めて」

「……わかった」

「そうして用心してりゃそのうちあのブランバーシュとかいうやつが、奴らをとっ捕まえるでしょ。そいつ追ってるんでしょあの男」

「そのようだったな」

「サープラストとトープルスで失敗してるんです。次の街に行くかもしれないし」

「そうだとありがたいが」

「他の反対派貴族さんたち連中にも、そう注意しておいてください」

「わかった」

「名前も見たカッコもわかってる。見つけたら逮捕して縛り上げて自白させたらどうですかね」

「そうなんだよ。あのブランバーシュさんの従者の魔法使いがね、すまほってやつを見せてくれて、やつらの顔はわかってるんだ。似顔絵を描いて手配することにしたよ。凄い魔道具持ってるよね、高名な剣士様ともなると」


 役に立つねえスマホも。ま、この話は、それでおしまい。

 キリフさんたちと、バリステスの護衛で、サープラストに帰ってきたよ。

 キリフさんの親父のキハル子爵さんと護衛一同も一緒でね。

 あとは、ハクスバルの伯爵様がうまくやってくれるってことだろ。国王とも話ができる人だからな。

 道中なにも無し。一安心だ。


 五日ぶりの我が家。帰ってきたわー!

 出迎えてくれた都子を抱きしめて、それからジニアル男爵に御報告だ。


「……召喚勇者、実在しましたか」

「はい、間違いないです」

「で、我々としては?」

「特に無しですね。伯爵様の領地で現実に大騒ぎがあったんです。あとはお偉いさん方がうまくやってくれるってことで」

「よくやってくれました。ご苦労様ですぞヘイスケさん」


 ファアルさんに金貨十枚、キリフさんに報酬金貨十枚、当主さんにボーナス金貨五枚もらって、今回は全部で金貨二十五枚になったよ。

 大した儲けだねー!


 ……いや、苦労した割には、そうでもなかったか。

 もうこんな貴族がどったらこったら、教会がなんたらかんたら、やめにしてもらいたいねえ。そんなもんと関わらず、静かに暮らしたいのよ俺は。

 都子と一緒にいられればそれでいい。

 裸で俺に抱き着いて眠る都子。

 これ以上何を望むね。



次回「35.勇者、襲来」    ※サブタイ変更しました

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