33.ハンターVS恐竜
街の中央に向かったら、一匹、衛兵たちの盾を飛び越えてこっちに逃げてきやがった。
大したジャンプ力だ! トカゲ野郎!
さっと構えてどてっぱらに一発ぶち込む!
ドッガーン! 銃声が派手に夜の街に木霊する。
うわっと、飛んできたのをあわてて避ける。
映画だと銃で撃たれた奴は吹っ飛んだりするがなあ、実際にはそんなことねえんだよ。弾丸はずぶずぶ体に食い込むだけ。こんなデカブツが吹っ飛ぶほど散弾銃に威力あったら撃った俺も吹っ飛んでるわ。
ずざざざ――――っとすっ転ぶトカゲ野郎。すぐに駆け寄って第二弾のバックショットを目から頭に撃ち込む。
血を振りまいて悶絶してケイレンする。即死はしないか。生命力強そうだもんな。トカゲだし。でももう攻撃はしてこないだろ。
シャアアアアアア――――!
一匹がヘビみたいな声上げて衛兵たちに飛び掛かり、盾を押し倒して覆いかぶさる。走り寄ってこれも腹に一発ぶち込む。
ごろってひっくり返って足をブンブン上に振ってもがく。
足の先の爪すげえ。鎌みたいだ。あれに触れたらさっくり腕でも首でももっていかれそうだ。これも銃口を下に向けて、地面の頭に向かって撃ち抜く。
頭が破裂して吹っ飛んだね。バックショットの近距離発砲は恐ろしい。
キツネ撃ちのBBとかじゃこうはならん。もがいてるキツネにトドメでけっこう近距離から発砲したことはあるが、血まみれにはなるんだけど胴がちぎれたり頭が吹っ飛んだりはしないからな。
「助かった、その武器は……」
「それどころじゃねえだろ。お役目に戻んな」
シャキシャキと弾込めしながら悲鳴が上がっている方向に更に走る。
市民の死体が転がってる。やられたか……。
ハンターの死体も。クソ! なにしてくれてんのよ正教国!
タタタタタタタタタタタッ……。タタタタタタタタッ……。
反響してどこからかわからないが、数ブロック先で短機関銃の音してる。
先輩さんかね。いや短機関銃じゃ効かないだろ。短機関銃ってたしか拳銃弾使うんだよな。あんなトカゲ野郎に利くとは思えないし、弾だってすぐ無くなるだろ。
全弾撃ち尽くすのに1秒ぐらいしかかからないんじゃないのかねえ。そっちには近づかないほうがよさそうだ。俺に当たるわ。
シャアアアアアアア!
一匹、銅像の上に登って、逃げ出す衛兵に飛び掛かろうとしてる。
それを狙って胸元を撃ち抜く!
ばっしゃーん! 噴水池に落ちた!
バタバタ暴れて水面から顔を出す。そこをすかさず正面から吹き飛ばす!
ゆっくり倒れて、水に沈んだ。
三匹目!
こうして5メートルぐらいの近距離での発砲だとショットガンでもせいぜい5センチぐらいにしか広がらない。絞りの無いスラッグ銃身でもだ。
でも大したパンチ力だ。一匹、二発で片を付けられるのはやっぱりショットガンならではだ。ボルトアクションライフルだったらこんな速射はできねえ。ショットガン持ってきておいて正解だったわ。
矢が何本か突き刺さった奴がこっち向かって走ってくる。
市街地だ。流れ弾が他に当たると大変だ。
正面から、引き付けて、よく狙い、ほとんど目の前で発砲する。胴体の一番幅があるところ狙いだ。
俺を見て方向変えて横を走り抜けようとしやがったが、そのまま転んでゴロゴロ転がっていく。これも走り寄って頭を吹っ飛ばす。
四匹目!
バリステスのメンバー、いた!
二匹を取り囲んでけん制している。おネエが火の玉ぶつけて、ハントと弓男の矢が次々とブスブス刺さってるが、今にも飛び掛かってきそうで手が出せなさそうだ。口開けてくわっ、くわっと大槍の兄ちゃんを脅してるね。
俺は駆け寄って、しゃがみ、低い位置から上に撃ち上げるように顎の下からそいつの頭を吹き飛ばす。
五匹目!
みんなで取り囲んでるから、そのまま水平撃ちしたら誰かに当たるだろ。こういう場合は上に向かって撃たなきゃな。矢先確認、安全第一。ハンターの心得だ。
ジャキン! もう一匹!
「あぶねえヘイスケさん!」
矢を撃ち込まれて凶暴化してる一匹が俺に向かって大口開けて噛みついてきやがった!
咄嗟にショットガン、片手で前に突き出して口の中に突っ込んで発砲!
勢いに押されて一緒に転ぶ。ぎゃあああああ。
「この野郎!」
いっせいにメンバーが槍だの矢だの剣だの突き立ててソイツの動きを止める!
「大丈夫かいヘイスケさんよ」
「んー、あー、大丈夫大丈夫」
起き上がって血でぬるぬるするM870を六匹目のトカゲ野郎の口の中から引きずり出す。あーあーあー、血とツバかなんかの粘液でベタベタだよ。
改めてみると前足の爪もすげえ。刃物じゃねーか。
先に口で突っ込んできてくれて助かったか。この前脚の爪か、とびかかられて後ろ足の爪で襲い掛かれてたら俺もどっかぱっくり斬られてたね。怖いわ。
あちこちで怒声が上がってる。悲鳴じゃ無くなってるんだよ。だいぶ駆除できたかね。残り僅かかな。ケガして倒れてるどっかのハンターを、バリステスのメンバーの帽子被った賛成くんが手当てしてるよ。魔法で治療とかするんだったか。すげえよな。
盾をそろえて衛兵の奴らも長槍持って走って行ったし、だいぶ収まってきたかね。
「タオル無い?」
「ハンカチならあるわよ」
そう言っておネエがハンカチをくれる。それでベタベタになったM870をふき取る。ベタベタのまんまじゃ、手を滑らせちまうからな。
「悪い、後で新しいの買ってやるから」
「いいわよ、あげるわそれ」
「なんとか収まりそうだな……」
バーティールの兄ちゃんが周りを見回して様子を探る。
「全部で何匹いたんだ?」
「十匹以上じゃね?」
召喚勇者たちがそんなこと言ってたからな。俺たちで六匹倒したし、半分はやっつけたってところか。
向こうでもハンターたちが一匹取り囲んで、斬りつけたり矢を射立てたりしてる。時間の問題って感じだ。ああ固まられてると銃で出しゃばれねえよ。人に当たるわ。
先輩さんの短機関銃の音も聞こえない。弾が無くなったかね。
ま、あの伊達男がいるんだ。何匹かやっつけてくれたはず。アイツ確か北海道では、日本刀でティラノサウルス一頭仕留めてたよな……。キザっぽいところは気に入らねえが、腕は確かなんだよな、たぶん。
関わらないように、見つからないようにしなきゃあな。
「ヘイスケさん、いくつやった?」
「今のを入れて六」
「……さすがだよ」
盾男が感心してくれるね。
「もう休ませてくれ……。俺の鉄砲のことは誰にも言うなよ」
「言わないよ。俺たちのお約束さ」
そう言って全員、笑ってくれるのがありがたいねえ。
M870のマガジンキャップを緩め、銃身を外しておく。
肩に背負って、ポンチョをかぶりなおして隠す。銃身はズボンに差す。
背負って背中から銃身突き出してりゃ、どう見たって鉄砲としか思えないもんな。見られたらやっかいだからねえ。特にあのブランバーシュと先輩さんには。
ハンターたちと、衛兵と、協力してかがり火をたき、たいまつを持って街を一通り見て回ったが、残党はもういなかった。全部で十二匹だ。
あのブランバーシュと先輩さんが手の上に明るい火の玉出して、マントヒラヒラさせて先頭歩いてやがる。面倒くせえ。俺は例によってキツネの帽子かぶって顔にスカーフ巻いて目だけ出して離れてるよ。俺にはまったく気が付かないみたいだ。さっき会ってるんだがな。
「俺たち三匹しか狩ってないよ……。ここの衛兵たちも、ハンターも優秀だな」
「あんまり出番なかったねえ!」
「他にも銃声がしてなかったか?」
「してた。あの召喚勇者、気が付いてうろちょろしてたのかも」
「そうだとしても、今更『勇者でござい』とか言い出せないだろ。ま、なんにせよ騒ぎは沈静化できたんだ。奴らの作戦はある程度阻止できたってことで今回はよしとしよう」
先輩さん、スマホ出してトカゲの死体の写真撮ってるよ。趣味悪いねえ。
領主の嫡子、ファアルさんがたいまつ持って馬を走らせてきた。鎧着て剣下げてる。領主ってやつはこういう場合戦闘もするんだな。ま、最前線に立ったりはしないだろうが。
「ご苦労。被害は?」
「市民の死亡者が七人、ハンターが一名。けが人は衛兵合わせて十名ほどであります!」
衛兵のリーダーらしいおっさんが報告するね。大惨事だよな……。
「リトルドラゴンか……何匹いた?」
「十二匹であります!」
「残党は?」
「今のところおりません!」
「よくやった。引き続き市内の警戒に当たってくれ」
ま、よくこの被害で収まったと言うべきか。
「ハンターの諸君も協力ご苦労。この災難によく緊急で動いてくれた。礼を言う。ハンターギルドに報告して取りまとめをしてもらってくれ。討伐に参加してくれた諸君らに手柄にかかわらず一律金貨十枚の報酬を払う。死亡した一名はこちらで引き取り、身元を確認して遺族に慰労金を送る。名誉市民として葬る。それで許してくれ……」
三十人ぐらいいたハンターたちも、死亡者が出てるんで、喜ぶ顔も無く沈痛だな……。仲間が死んだんだし、仕方ないか。
次回「34.剣士、ブランバーシュ」