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31.聞き込み、開始


 そんなこんなで、みんなでトープルスに行くことになった。

 俺とハント、キリフさん、それに護衛のバリステスのハンター連中。

 キリフさんはあんなことがあったばかりだから、衛兵は領の警備から動かせない。なんで臨時にハンターの護衛を雇い入れることに。

 道中なにもなく無事に到着し、キリフの坊ちゃんの顔パスで城塞門を通過し、先に館に使いを出して、明日会う約束を取り付け、まずは宿に普通に一泊。翌朝、領主の館へ向かう。

 バリステスのメンバーもハントも貴族と会うなんて面倒そうでな、庭の馬車で待ってるとよ。俺とキリフの坊ちゃんだけで執事に案内されて、サロン行き。

「キリフ、何かあったか?」

「はい父上、ファンデル伯爵にご報告いたしたき事がございまして」


 初めて会うが、ハクスバル家を表敬訪問中の、キリフさんの親父、キハル子爵がいた。ハクスバルの長男ファルースが廃嫡されて、次期当主はファアルさんになったもんだから挨拶に、というかおべんちゃらを言いに来てたんだっけ。ファアルさんの親父のファンデルさんは伯爵だからな。坊ちゃんの親父さんより数段偉いんだったっけな。


「キリフ君、久しぶりだね」

「やあキリフ、うまくやってるかい。ヘイスケも久しぶり」

 ハクスバル家のファンデル伯爵様、トープルスの御領主様だ。それに、今回次期当主として嫡子になったファアルさん。俺にも声をかけてくれて目くばせする。

 つまり兄貴のファルースのことは言うな、というこったな。エルフのラトちゃん誘拐して大騒ぎと不祥事だったからねえ。

 要するに今このサロンにはトープルス領主親子、サープラスト領主親子、そして俺の五人がいる。

 ……一人だけ平民の俺は異常に肩身が狭いわ。なんで俺つれてきたキリフの坊ちゃん。


「キリフ、なんだそいつは……。そんな奴を連れてくるのはいくらなんでも」

 ほらあキハル子爵がみすぼらしいハンターの俺の顔見てしかめっ面だよ。コイツ『金にがめつく欲深く貴族風を吹かせて鼻持ちならない』と弟の領主様にも酷評されてたわ。

 ファアルさんが笑いながら手を振って、かまわないよと言う顔をする。

「いえ、ちょっと(わけ)あってヘイスケは私とキリフの共通の友人ですよ。いろいろ仕事をしてもらっています。そうだね、キリフ」

「そうそう、今回のことにもいろいろ手を借りてます。叔父のジニアルの使用人をしていて信頼できる人物です。一緒に報告をさせてもらえませんか」

 貴族二人の領主の嫡男に、「友人」って言われちゃったよ。

 俺みたいな北海道のクソジジイがねえ……。俺も出世したもんだわ。

 しかし、やっぱりキリフ坊ちゃんと次男坊のファアルさん、仲いいんだな。

 隣の領だし、子供のころからの幼なじみだとか。身分を気にしないで付き合える友達とか、これぐらいの齢の子供には貴重だよな。


「楽にして。息子たちをいつも助けてくれているとなると礼を言わねばなりませんな。お世話になってますヘイスケ。さ、座りなさい」

 伯爵、人ができてるねえ! さすがはファアルさんの親父さんだね。

 ほらそれを見てさっき俺に文句を言ったキリフさんの親父の顔の面白いことったらねえよ。やらかしたー! って顔してるわ。


「で、報告したいこととは?」

「サープラスト正門がライルスライムの一団に襲われました」

 キリフさんの報告に一同びっくりだよ。

「で、で、で、被害は出たのか? 街はどうなっておる?」

 子爵、あわてるねえ。

「幸い全部正門前で駆除できました。ヘイスケのおかげです」

「ライルスライムを駆除できるとは、腕のいいハンターなんだねヘイスケ……」

「ヘイスケの腕は私も保証しますよ。しかしライルスライムをとは……」

 伯爵親子が感心してくれるよ。

「いえ、地元ハンターと衛兵さんたちがみんな総出でやりましたんで、俺一人の手柄っちゅうわけじゃないですわ」


「被害はどれぐらい出た! ハンターへの報酬は?!」

 食いつくとこそこでいいのかい子爵さんよ。

「大丈夫です父上。対応が早かったのでケガ人も出ていませんし門も壊れていません。ハンターには一人金貨三枚を報酬で払って納得してもらいました」

「三枚か……。仕方ないな。何人いた?」

「二十人で六十枚」

「ハンターどもめが吹っ掛けおって……」

「キハル、金貨六十枚でライルスライムが駆除できるなら安いではないか。激安と言っていい。本来なら教会に連絡して勇者様に駆けつけてもらって、その間に何十人も死者が出てるぞ。勇者不在の今はなおさらだ。わきまえろ」

 ファンデル伯爵様にそう言われてしゅんとなるキハル子爵様。ざまあ。


「で、わざわざ来たのは?」

 伯爵様がキリフ坊ちゃんに改めて用件を聞く。

「そのライルスライム、おびき出されたものかもしれないのです。ライルスライムは攻撃してきたものを執念深く匂いを追います。城塞に出入りしたものを調べましたが、その中に怪しい者が三名」

「ふむ」

「勇者教会の修行僧と称する者たち、王都教会修行僧 アルフ、ビル、カールと名乗っているようで」

「教会の巡回修行僧か。どう怪しい?」

「二人は、はあはあぜえぜえと息も切らして明らかに走ってきた様子でしたと門番が」

「なるほど、ライルスライムから逃げてきたと。だが魔物に追われてきた市民、旅の者を保護するのも城塞を構える領主の務め。それだけでは」

「修行僧の巡礼する(ほこら)にライルスライムの生息地はありません。わざわざそんなところに近づいたはずもなく、攻撃しなければライルスライムも追ってきたりはしないはずなんですよね」

「わざわざ生息地に近づいて攻撃してきたと。なるほど、それで?」

「ハンターギルドに教会の僧が来て、『どうやってライルスライムを倒したのか』とご丁寧に聞きに来まして」

「ますます怪しいと、なるほどねえ。で、どういう理由が考えられるのだ?」

「教会が申し立てている新税の発布に反対している僕ら領主貴族に、嫌がらせ目的ではと。街が襲われたところでそのライルスライムを倒して見せ、教会の重要性を改めて市民に知らしめてやろうという教会の自作自演の事件ではと」

「……飛躍のし過ぎではないかな? ライルスライムを倒すなど勇者クラスだ。今の勇者はクロス・レンチという男だが現在行方不明。教会がライルスライムを倒して見せるのは無理ではないか」

「そこなんですよね……。確証は無いんです。ヘイスケは、古い資料を調べて、今、勇者不在の穴を埋めるため『召喚勇者』ってのを教会が使ってやらせてるんじゃなかと推測してるんですが」


 銃持った召喚勇者がいる。そこんとこは全く俺の想像だからな。

 実際に会ったわけでも見たわけでもねえ。街に入った修行僧の一人が、なんか袋に入れた長い物背負ってたってだけだ、今のところは。ちと先走り過ぎてるのは俺も認めるよ。

「『召喚勇者』か。今は教会でも禁呪になってる(いにしえ)の召喚術だ。今更それはどうかと思うが」

 伯爵様がそう言って首をひねるね

「とにかく奴らが次に向かうのは当然このトープルス、この三人の修行僧が入領しているはずなんです。出入りの記録を、調べてもらえませんか?」

「調べさせよう。ここ二、三日の出入領記録で良いのだね。千人を超えると思うが」

 少ねえな! 北海道だってちょっとした市なら一日の出入りは数千人できかねえよ! ま、物流ってやつがそう発達してないこの世界、旅してあちらこちらの領に行く奴なんて限られてるってことなのかもしれねえな……。


「さ、せっかく来てくれたんだ。みんなで昼食にしよう」

 記録が届けられるまで時間がかかる。行政スピードってやつがなんでも遅いんだよなこの世界……。書類一つ届けるにしても電話もできずファクシミリも無し、若いやつみたいにメールをやり取りするなんてこともないから仕方ないねえ。


 俺は場を下がらせてもらって、馬車に戻るよ。護衛の連中と合流して館から出て街で昼飯だ。昼間やってる宿屋のレストランにみんなで入る。

「伯爵様の屋敷って、やっぱり凄いかい!」

「いやあ豪華で金がかかってるねえ。絵とか、回廊にかかってて立派なもんだよ」

「いいなあ……。俺たちもそんなところで雇われてえよ」

 バリステスのメンバーに質問攻めにされてウンザリだ。


「俺たち午後は街を見て回ってていいかい?」とかバーティールの兄ちゃんが言うんだよな。

「そりゃダメだろ。キリフさんの護衛なんだからよ、ちゃんと働けよ。待つのも仕事のうちってもんだわ兄ちゃん」

「リーダー、そういうところをちゃんとやらないといつまでたっても宮仕えなんてできないわよ」

「賛成です」

「だったら貴族のお抱えなんてゴメンだね俺は」

「さっき言ってたことと違うじゃねえかリーダー……」

 ……しょうがねえなあこいつらは。


 戻ったらすぐメイドさんに呼ばれたねえ。リストが届いたってさ。

 サロンでみんなで見比べる。

「いた、王都教会修行僧、アルフ、ビル、カール」

「ホントだ。まだ滞在中だな」

 キリフさんとファアルさんが名前を見つける。

「……ラルトラン正教国の修行僧も二人。トリスティス、パウル」

「正教国もか……」

「正教国って?」

 伯爵様の言葉がわけわからんので聞いてみた。いや、俺が直接聞くのはかなり無礼か。子爵様が口を出すなとばかりににらみつけてくる。しまった。

「いや、いい。かしこまるなヘイスケ。非常時に情報共有は大切だ。言いたいことがあったら何でも言ってくれ。ラルトラン正教国というのは初代勇者の正統な出身を主張している宗教国家でね、わがジュリアール王国に隣接している小国だ。なにかといちゃもんを付けてくる面倒な国で友好関係はあって無いようなもんだが、勇者が魔王を封印した(ほこら)の巡礼は慣例として受け入れている。彼らが出入りすることそのものはそう珍しくは無いよ」

 そう言って伯爵様御自らご説明して下さる。できた人だねえ!

 中東のどっかの国になんか聖地みたいのがあって、信徒は一生に一度はそこに行かないといけなくって、世界中から信徒の巡礼を受け入れてたな。あのへん、戦争ばっかりしてるのにそれは話が別なんだとか。それと似たようなもんなのかねえ。


「ラルトラン正教国……ラルトラン正教国……、なんか聞いたことあるような」

 孫のシンの話にそんなやつらが出ていたような……。確か、馬稲町にゾンビだの恐竜だの出たのはそいつらのせいだったとか。病院に見舞いに来た時、ヒマだったのでそんな話をしてくれたっけ。

「そいつら、ゾンビを作ったり、でっかいトカゲを呼び出したりできるやつらじゃなかったですかね?」

「よく知ってるねそんなこと」

「ヘイスケ、正教国に行ったことがあるのかい!」

 伯爵親子がびっくりする。いや子爵親子もだけど。

「いえ、ちと昔にゾンビだのでっかいトカゲだのに街が襲われたことがありまして」

「エルフ村でかい!」

「いや、エルフ村じゃあ、ないんですが」

 まずいまずいまずい。口が滑ったな。


「ラルトラン正教国がゾンビを兵として使役してるのはよく知られている。最新の召喚術も研究していて、ドラゴンの召喚にも手を出しているのはこちらでも調べが付いていて王国でも警戒しているよ」

「ドラゴン?」

「ヘイスケの言う『でっかいトカゲ』さ」

 ファアルさんが言うに、こっちじゃ恐竜のことを(ドラゴン)と呼んでるわけか。口を滑らさないように覚えておかなきゃいけねえな。


「……このあたりにライルスライムや魔物の生息地は無い。サープラストみたいにおびき出してくるって手は使えないと」

「それで正教国と何らかの手を組んでこの街でゾンビか、ドラゴン召喚をして騒ぎを起こしてやろうと……」

 ファアルさんとキリフさんが盛り上がる。お子様脳だねえ。若いから仕方ないか。

「いや、そう簡単に正教国が勇者教会に手を貸すとは思えん。正教国と勇者教会は古くに袂を分けた敵同士、対立してるからな」

 そう言って大人の伯爵様はたしなめるね。常識人だ。

「しかし、テロや軍略の実験台には良い所です。こんな城塞都市は国内にあちこちありますからね。利害が一致すれば、修行僧のレベルでは共闘するようなことがあるかもしれません」

「とにかくそのような人物、市内で見かけないか調べさせよう。特に教会を重点的に。もし発見したら手を出さず監視だ。衛兵に連絡しておく」

 外交上、デリケートな問題ってことになるんですかね伯爵様。

 まあ、今できるのはそんなことぐらいですかねえ。


 ……パラパラパラと入領者名簿をめくる俺、手が止まる。

 とんでもない名前を見つけちまったよ。


『巡礼騎士 ブランバーシュ』

『従者 サラ』


 ……見たことあると思ったら、コレ、あの北海道の恐竜騒動の時にさんざん邪魔してくれたあのクソ外人とシンの先輩さんのことじゃねーの?!

 いやブランバーシュって名前はこの国に他にもいるだろうけどよ、「サラ」ってのがもうアレだよ!

 ()()()()()()()で書いてあんだよ!!


 俺もこっちの世界に来てこっちの言葉もなぜか喋れるし、なんでも読めるけど、書くのは苦手だ。

 なにしろこっち来てから「字を書く」ってことがあんまりねえんだよ。読んだり喋ったりするのと違って、「書く」ってのはどうしても手習いが必要だからな。

 読み書きできない人間が多いせいか、日本にいた時と違って「書け」って言われることがまず無いし、ここまで当主さんの手紙だの紹介状だの見せるだけで済ませてきたからな。どうでもいいなら日本語でそのまんま書いちゃえとか、そう思ったんかねえ。俺も自分用にメモしたり都子とやり取りする時は日本語で書いてるから、おんなじだな。

 あの二人、一緒に異世界に帰っちまったとかシンは言ってたけど、ここにいたんかい!



 ……絶対関わらんどこ。

 そう思って俺は、ぱたりとリストを閉じたねえ。



次回「32.ヴェロキラプトルズ」

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