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28.なんか怪しいねえ


「なんか用スか?」

 俺がそう言うと教会の僧侶さん、バツが悪そうに入ってきたね。日本でいうと坊さんみたいなもんかね。ドアを閉めながら、振り向いてみんなを見回すねえ。

「失礼します。ライルスライムが出たそうですな」

「ああ」

 なんで坊さんがギルドに来るんだって感じで不思議そうにバルが返事する。

「ギルドの皆さんで倒されたとか」

「衛兵の手もだいぶ借りましたよ。それで? 勇者教会がなんの用ですかね」

「いや……アレをどうやって倒したのかと。今まで勇者様以外でアレを倒したなど聞いたことがありませんので、ぜひお話を伺いたいと思いましてな」

「さあてね、ライルスライムにしては弱かったんじゃないのかね? みんなで集中攻撃したら倒せたね。なにか疑問が?」

「そんなはずは……いえ、そうかもしれませんな。現に倒されたのですから」

「勇者でないと倒せないはずのライルスライムをハンターごときが倒しちまったんじゃ、勇者教会の面目は丸つぶれってわけですかい?」

 バルがイヤミを言うねえ。


「いえいえ、そんなことは申しませんよ」

「あとで悪魔の力を使っただの異端の力を借りているだの言い出したりしないでしょうね教会は」

「不信心なことを申しますな。私はただ、勇者様のお力を借りなくてもライルスライムが倒せたことに驚いているだけで……」

「なんとかなりましたよ。次もなんとかなるとか思わないでくださいよ? そんときは頼みますよ」

 バルがそう言うと僧侶が慌てるねえ。

「いえいえ、皆さんで倒せるなら倒せるに越したことはありません。皆様に歴代勇者様の加護と祝福があったのですな。失礼いたします」

 そう言って、坊さんが出ていったね。

 怪しすぎるだろ。

 ほらキリフさんが考え込んじゃってるわ。


「……おいバル、犯人あいつじゃねえの?」

「犯人ってなんだよ」

「だからライルスライムとかいうのを誘い込んだやつだよ。スライムを市内におびき寄せて、自分たちで倒して教会すげえ勇者教会やるなとか評判よくしたかったんじゃねえの?」


 ……。


「バカ言うな。そんなこと教会がやって何になる」

 お前やっぱり節穴だよバル……。



 あ、ワニの退治残ってたな。

 ハントと二人で矢五本、ライフル二発で仕留めたわ。

 泥だらけになって馬に引っ張らせて川から引き揚げて、農家から借りた荷馬車に乗せてギルドに持ち込んだら討伐料金貨五枚、ワニの買い取り五枚で金貨十枚になった。

 デカいスライムよりこっちのほうが儲かるじゃねえか。

 泥だらけになって帰ったんで都子に呆れられちまったけどな。


 今日の稼ぎはハントと山分けで金貨八枚。

「使ったお金をその日のうちに取り返してくるなんて、あなたも稼ぐようになったわねえ……」

 都子も喜んでいいんだか悪いんだか困ってるな。

「ハントさん、この人なにか危ないことやってないでしょうね?」

「イイエ、ソンナコトハナイデスヨ」

 なにその答え。



 翌朝、当主様を囲んでみんなで朝食にする。

「ふうむ、ライルスライムですか」

 それを聞いて当主さんが考え込むね。

「ライルスライムやっつけたの! すごーい!」

 ラトちゃんは大喜びだね。

「ライルスライムは青いんだけど怒ると赤く光るの。そうなったら武器も魔法も効かなくなるから絶対に逃げろってエルフでも言われるの!」

「そうですね……。匂いを追って執念深く追ってくるので、川や沼を渡るとか、匂いの強い植物を撒き散らすとかして村から遠ざけることしかしないことになってます。アレを倒しちゃうヘイスケさんに私もびっくりですよ」

 余計なこと言うなよハント、都子が心配するだろ。


「パールさん、私の書斎から聖書を持ってきてくれますかな」

 パールさんが持ってきてくれた聖書を開いて当主さんが調べ物だね。

「私どもでもライルスライムというのは討伐ができませんでね、故事によれば、馬に乗って攻撃し、ライルスライムの群れをおびき寄せてですな、馬を追わせ、安全なところで馬をつないで逃げるということをやっていたようです。馬は食べられてしまいますが街は安全というわけです」

 なるほど、馬には非情だが背に腹は代えられんな。

「聖書では歴代の勇者様がこれを倒した記録があります。村を守るためにライルスライムを討伐したという逸話がちらほらと」


「そもそも勇者ってなんなんすかね」

「あなたねえ……。すいません皆さん。主人も記憶を無くしてから最近まで碌に人と話すようなこともなかったみたいで」

 都子が慌てて言い訳するね。こっちじゃ常識の話ってことかいね。

「勇者っていうのはこの世界に現れる魔王と戦う人のことなの。この世界ではね、魔王っていう大きな魔物が百年に一度ぐらいに現れてね、人間を襲うの。そうすると人間から勇者と呼ばれる強い人が現れて、魔王と戦って倒してくれるのよ」

八岐大蛇(やまたのおろち)を倒した素戔嗚尊すさのおのみことみたいな?」

「……それ誰にもわからないと思うけどそういうのだと思えば」

 こっちじゃだれも知るわけないか。全員ぽっかーんだね。


「ま、まあ、民族ごとに英雄伝説はいろいろあるのはどこも同じでしょうな。この聖書によればこれまでに現れた魔王を倒した歴代勇者は五人いまして、実は今、勇者は不在なのです」

「?」「?」「?」「……」

「私たちにとっては言われるまでもないことなのですが、エルフさんが四人もここにいるとなると説明せねばなりませんな。ミヤコさんはご承知でしょうが、勇者教会というのはですな、魔王を倒した歴代の勇者たちをたたえる教会でしてな、その勇者様たちの善行と崇高なるご意志を後の世に伝える役をしております」

 神様みたいなもんかね。うん、まあ日本の神話も、外国の古い神話も、英雄伝説みたいな話はあるからな。

 俺たち現代人だとキリスト教とか仏教とか、ちゃんと教祖様みたいなのがいて、教えというか、教義がある、完成された宗教ってのがあるが、それと比べると英雄伝説的な、古臭い宗教って感じがするな。日本神話やギリシャ神話みたいな。


「その勇者教会が毎年、武闘会でトーナメントを行いましてな、国一番の強者(つわもの)を決めるのです。優勝者は一年、勇者として国の保護を受け、魔王復活の予兆がないか調べたり、各所に現れる魔物を倒したりします。大変名誉な職ですな」

「なんだ、神様みたいなもんと違って、人間なんですねえ」

「そうなのです。ですが、魔王が現れると、勇者はなぜかものすごく強くなって魔王をも倒せる神がかり的な力を得るのです。その凄まじい力をもってして、神格化され歴代勇者として名が残るのですな」

「魔王が現れた時だけ、神様みたいになると」

「まあそうです。百年に一度あるかないかというものですがな。魔王のいないときの勇者はまあ、国一番の強者ということであります」

 なんだ、じゃあ今いる勇者ってのはたいしたことがないと。

 言ったら失礼になるだろうから言わないけどな。


「その勇者がね、ここ半年ぐらい行方不明なの。クロス・レンチっていう人で五年連続で勇者やってたんだけど、ある時からぷっつりと行方が知れなくなって」

「へー。都子よくそんなこと知ってるな」

「そりゃあいい男らしくて市場の奥さんたちにもよくウワサになってるから。今は悪い噂しか聞かないけどねえ」

 奥さんたちが井戸端会議で芸能人の話するようなもんかね。


「どこかで亡くなったのか、新しい勇者を決めようなんて話もありましたが、現大司教の反対もあって今勇者は空席、不在の状態なのですよ」

 へー。

「勇者も続けて五年もやっておりますといろいろ悪い噂もありまして、評判は良くありませんでしたな。勇者人気イコール教会の信仰度みたいなものでありまして、教会の堕落、俗物化と合わせて教会の権威はここ数年ガタ落ちでして」

 ほー。

「教会の収入が減っていることもありまして、教会が新たに領民に課そうとした新税なども各所貴族たちの反対もありまして進んでおりません」

 ふむふむ。

「わたくしたち、サープラスト、トープルス、その他五領地合わせて北部連合と呼んで同盟関係にありますが、教会の行き過ぎた権威主義をよく思っておりません。教会の提唱する新税……、全ての売り買いに税を課そうという売買税なのですが、反対しております。そのような細かい税制、平民が理解できるわけがありません。また、それを元に教会がうまく騙して多く取るようなトラブルも多発するでしょう。税を安くして国の経済の発展にあててきた現国王の意向にも反します。この新税への反対運動は全国に広がりつつあります」

 消費税みたいなもんかね。

 税金を安くすると経済は発展するが貧富の差は拡大する。

 税金を高くすると平等な社会は実現できるが、経済は停滞し不況になる。

 この匙加減は世界中どこの国でも悩みの種だよ。やってることは同じだねえ。


「さてここでなんですが、教会はなんとか権威を取り戻し、民衆、信者の支持を取り付け、国政の主導権を握りたい。国王に意見するだけの権力も手に入れたい、早い話金も欲しい、そう願っていることは間違いないのですが……」

「……それってやっぱり教会の自作自演なんじゃないですかねえ。わざわざ教会の奴がギルドまで来て、いったいどうやって倒したんだって俺ら睨まれましたしねえ。あれは怪しかったと思いますよ」


「うーん、つまりですな。もしヘイスケが言うように、教会が『ライルスライムが現れた! それを教会の力で倒した、追い払った。やはり勇者教会は無くてはならないもの、信仰に励まねば』という一芝居打ったのだとしたら、ライルスライムを倒す役の者がいたはずなのです。今回は出る幕なかったようですが」

「なるほどねえ」

 俺の考えすぎかな。ほら先日あの貴族のクソ長男がラトちゃん相手に自作自演でひと芝居打とうとしただろ。そのせいかどーもそういう考えになっちまう。


「ヘイスケ、現場でライルスライムの撃退に参加なされたとのことですが、スライムをその場で倒したような者、おりましたか?」

「いや、いませんでしたわ」

「だったら、ちと考えすぎかもしれませんな。ま、用心しておくに越したことはないでしょうが」


 教会かあ。

 いやギルドにまで様子を探りに来たあの僧侶はいかにも怪しかった。

 当主さんは頭は回るが善人だ。教会の連中が市内の人間にまで害をなすなんてことは考えないだろうさ。でも、アレが芝居で、教会はスライムが正門を突破して市内に被害が出るほど暴れさせてから討伐しようと城壁内で、あるいは教会で待ち構えてたんだとしたら? まさか正門前で全部駆除されちまうってのは想定外だったとしたら?


 ……一度教会に様子を探りに行ってみるか。


「当主様、その聖書、貸してもらえませんかね。読んでみたいんで」

「……読み書きできたんですかヘイスケ! それだったらもっといい職に就いてくれてもよいのですぞ? 執事でもやりますかこの館で」

 前に王国通信誌だかのファイルを見せてもらったときは、俺眺めてただけだもんな。読み書きできると思われていなかったか。

「いやあ俺は野良仕事のほうが気楽でね」

「ミヤコさんと同じようなことを言う。エルフってそういうモンなんですかなあ……惜しいですな」

 そう言って、当主さんが聖書を貸してくれたね。

 ちょっとよく読んでみるとするかね。



次回「29.教会の様子でも見てみるか」

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