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27.ザコとか言って悪かった


「うわ……。これは大変なことになってますね」

 上から衛兵が矢を射ったり、投げ槍を投げたり、城壁の外にいるやつらが衛兵もハンターらしい奴もいっぱい取り囲んで突き刺したり切りつけたりしてるけど全然刃が通ってない感じだな! ぼよんぼよんって跳ね返されてる。

 でもやっぱりスライムだな、動きが遅いんでなんとかなってるか。


 一番前で槍を振るってるのはあの大男だ。バーティールとか言ったか。

「おい兄ちゃんどうした!」

「キツネ頭のおっさんか! 見りゃわかるだろライルスライムだよ!」

 見てもわかんねえから聞いてるんだが。

 メンバーの剣とか弓とか魔法の奴も一緒に戦ってるが、全然効いてないね。

 顔見知りの兄ちゃん達以外のハンター連中も総出で、衛兵と合わせると三十人ぐらいで遠巻きに取り囲んではチョッカイ出してるって感じだ。

「……試しに一発撃ち込んで見るか。兄ちゃんちょっと避けてくれ」

「な? おっさん何とかなんのかよ。ハト殺しのくせに?」

 背負ってたレミントンM700のボルトを開いて、308ウィンチェスターの弾を四発押し込み、ボルトを閉じて、でっかいスライムの透明な体の中央にある、まるっこい核を馬上から十メートルの距離で狙う。

「はっ!」とでっかい声で叫ぶ。

 コレをやると馬のロードが耳を後ろにパタンとやるんだよ。これから撃つぞっていう合図だな。何度もやって教え込んだ。やらんで撃つとロードににらまれるんだよ……。馬は耳もいいからな、デカい音が苦手なんだよな。


 ドッコ――――ン!


 ぶすって5センチぐらいの穴開いてかなり衝撃与えた感じで中で空洞が膨らむが、シュルシュルと穴が閉じていく。弱点のあの核には届かない感じだ。

 孫のコンピューターで見たことあるあの弾の威力を見る寒天か? あんなのに撃ち込んだのとよく似てるわ。でもすぐ閉じちゃうのはマズいな。


「ダメじゃねえか!」

 バーティールが叫ぶ。

「いや穴開けただけでもすごいわよ! なによその魔道具!」

 おネエがびっくりだね。お前魔法使いだったっけか。


「兄ちゃん、俺が穴開けるからお前、槍ツッコめ!」

 バーティールがはっとした顔になるね。

 スライムが撃たれて怒ったのかこっち来る。馬を下がらせながらもう一発!


 ドッコ――――ン!


 俺が撃ち込んで、一瞬動きが止まったスライムに開いた穴にすかさず、兄ちゃんがスライムに乗り上げて思いっきり槍を突き立てた!

 真ん中の核まで届いたねえ!

 ぷしゅ――、どろお――ってでっかいスライムが平べったくなってぺしゃんこになる。効いたかね。


「よしこの調子でどんどん行くぞ」

「やってくれ!」

 馬を寄せてもう一発!

 そこに兄ちゃんが槍を突き立てる!

 槍の先煙吹いてるよ。酸かね。

「お前らも続け――――!」


 片っ端から俺が弾を撃ち込んで、空いた穴に衛兵共や他のハンター達も槍だの剣だの突き立ててるよ。十匹ぐらいいたスライムが半分に。

 正門に張り付いて登ろうとしていたスライムが、城壁の上にいた衛兵たちの槍に一斉に突き立てられて転がり落ちてくる。

 そいつにもライフル撃ち込んで、下で待ち構えてた槍兵たちに槍を突き立ててもらう。残り三匹!


 桃色に光ってた体が、青くなって、スライム後退しだした。逃げる気かね。

「逃がすなああああ!」

 城壁の上でなんかバルが叫んでるよ。

「報酬は出るんだろうな?!」

「今それ言うことかクソエルフ! いいからさっさとやれ!」

 この状況でクソエルフはないだろバル。しょうがねえなあ。まあここで恩売っとくのも悪くないか。

 馬に乗った俺と槍の兄ちゃんとで走って三匹のスライムを追う。


「撃つぞ――――!」

 ドッコ――――ン!

 俺が空けた穴にすかさず、兄ちゃんがジャンプして槍を突き刺す!


 もう一匹!

 そいで、最後の一匹!


 後ろじゃスライムの空いた穴に、おネエが火の玉撃ち込んで止め刺してるね。

 じゅわーって煙上げてスライムがのたうち回ってるわ。

 そうして、みんなで寄ってたかってやっつけてやっと動いてるやついなくなったわ。一応、全滅させることに成功ってとこかねえ。


「終わったぞバル。門開けてくれや」

「……よくやった。待ってろ」

 他の衛兵の奴らが別の門から駆けつけてきて、辺り一帯を調べてる。

 残党がいたら大変だもんな。そんなわけでタップリ待たされて、城壁門が開かれるまで一時間はかかったわ……。



 ハンターギルドの二階の会議室。

 今回立ち合ったハンターが全員集められて、ガヤガヤだよ。

「いやいやいやいや……」

 バルが頭掻いて困り顔だね。

「ライルスライムってのはどこで発生するのか知らんが、手を出した奴を執念深く追いかけてくる。アレに手を出した奴がいるってことだが、お前ら誰か心当たりはあるか?」


 ハンター連中がみんな顔を見合わせるが、心当たりはないようだな。

「……正直に白状しろ。今ならハンター資格停止だけで罰金までは科さないぞ」

「いやあ俺らは仕事ないか見に来ただけだし」

「俺らもこれから護衛やる所だったし街にいたよ」

「俺たちもだ」

「あんた出ろって言った時、俺らいただろ」

「チームエルファンもまだ療養中だしな」

「それもそうか」

 そう言ってバルが不機嫌になるねえ。いやバルが機嫌いい所なんて見たこと無いがね。


 バンとドアが開いて、領主の坊ちゃん、キリフさんが入って来たね。

「待たせたな、諸君。今回のライルスライム討伐ご苦労。街を守ってくれて感謝する」

 そう言って、バルに並ぶ。

 足が軽いねえ坊ちゃん。跡を継いだらいい領主になりそうだ。

「御足労申し訳ありませんキリフ様」

「いや、いい……。バル、どういうわけでこうなったのか分かったかい?」

「いいえ、誰かがアレに手を出して、逃げてきて、その匂いを追って来たのは間違いねえと思いますがね、街にいたハンターじゃなさそうで」

 ふーむとキリフ坊ちゃんが考え顔になるね。


「……まあいい。ハンター総出で撃退したんだから、それはもう問わない。そのかわり今回の報酬は安くさせてもらう。連帯責任って言うわけじゃないが、そこは負けてくれ。一人金貨三枚だ。申し訳ないが緊急の事態でそう額を出せるわけじゃないのはわかってくれ、頼む」

 ぶーぶー抗議が出そうになったが、きっちり頭を下げるキリフさんにみんな黙ったね。

 まだ十代の若い跡取り、その貴族の坊ちゃんがハンター風情に頭を下げる。

 なかなかできることじゃないよ、うん。


 みんな、金貨を三枚ずつ、キリフの坊ちゃんから受け取って退出していく。

 全部で二十人ぐらいになるか。金貨六十枚の出費。まあ坊ちゃんが独断で動かせる金としては大金かもな。

「あーお前らちょっと待て」

 そう言ってバルが俺を呼び止めるね。ハントもだ。まあハント今回なんにもしてないが。

 大槍の兄ちゃんたちは帰る気無しみたいでその場にいたがな。

 全員の目がランランとして俺の背中のM700に釘付けなんだよな……。


 他のハンターがいなくなったところで、バルが切り出す。

「……で、お前のソレ、なんなんだ」

「ナンノコトデショウ」

「だからその魔道具だよ! ハトしか獲れなかったくせになんでそんなに強力になってんだよ! ゴブリン殺るぐらいまでは俺でも頭が付いていけるけどな、ライルスライムに穴開けられる武器なんて聞いたことねえよ!」

「ワタシハ記憶ガアリマセンノデ、ワカリマセン」

「最初から持ってたんだろ!?」

「記憶ニゴザイマセン」


 いや実は都子と練習してたんだよね。

 鉄砲のこと、いつか誰かにそれ何だってしつこく聞かれるに決まってるから、もしそうなったらどう答えるか何度も打ち合わせしてたんだよな。

 都子はもうサスペンス劇場好きなもんだから、何を聞かれても記憶喪失、記憶にないで通せって言ってたわ。

 俺も色々考えたんだけどやっぱそれがいいかなーって。難しいこと聞かれてうまいこと誤魔化すなんて、俺の頭じゃちっと無理だわ。


「マスター、ハンターの手の内をあれこれ聞くのはご法度だろ……」

 バーティールの兄ちゃんが助け舟を出してくれるね。

「商売上の秘密ってやつは誰でも持ってるでしょ。こんな魔道具を使うのをマネされたらおっさんだって商売あがったりよ。利用されて使い捨てられるでしょ。ハンターがみんなそんな目に遭うのを防ぐために、ハンターギルドってやつが設立されたんじゃない。そう言ってたよねマスター」

 おネエもそう言ってくれる。

 なるほどね、ハンターギルドってやつがあるのはそういうことかい。

「だいたいよお、おっさんは穴は開けたかもしれないけど、そこに槍突っ込んで倒したのはうちのリーダーだからな、そこは評価してもらいてえな」

 そりゃそうだ弓男の言うとおりだよ。頼むからそっちに話しそらしてくれ。

「時と場合によるだろ。今回、ソレを使うのを衛兵とか大勢に見られちまった。ライルスライム倒せるなんて武器持ってる奴が現れたらそれを利用しようとタカって来る奴らがわんさかいるぜ。それを守るためにも俺はそれを知っとかなきゃいけないんだよ」


「利用しようとするやつってのは、僕のことかい」

 不意にキリフさんが口を挟む。

「……」

 みんな、キリフさんを見るね。

「まあ貴族だの領主だの、そういう俗物な人間だったら、デキるやつがいたらさっさとお抱えにして、独り占めして、自分の都合のいいことだけに使うとか、そう思っているわけかい?」

「いや、そう言ってるわけじゃねえですが……」

 いや内心そう思ってるのはバレバレだわバル。

「へイスケはね、僕の叔父のジニアル男爵の使用人だよ。僕は叔父にもヘイスケにも恩がある。迷惑もかけている。僕が勝手に取り立てるなんてことはできやしないね」


 そう言ってキリフさんが肩をすくめる。

「今回はハンターギルドと衛兵で総出でライルスライムを撃退した、それでいいだろ。誰がなに悪いことしたって言うんだい。僕に損になる話なんて何もないじゃないか。このままヘイスケが叔父の元で害獣の駆除仕事、続けてくれるなら僕にはありがたいだけで何の不満も無い。そうだろう?」

「キリフ様がそうおっしゃるなら……」

「父上にも同じように報告しておくよ。今回のことはもう終わったことだ。大げさに騒ぎ立てるな。はいこの話は終わり終わり。ヘイスケ、一番働きだったとは思うが、今回はなにも聞かないということで金貨三枚で我慢してくれ。ご苦労だった。下がっていいよ」


 素晴らしくできた坊ちゃんだねえ!

 びっくりだよ!

 いや、安く済まそうとしてんのか? ま、どっちでもいいけどよ。

「そいじゃあ、失礼させていただきます」

 そう言って、頭下げて出口に向かう。

「俺はまあ二番働きでいいんスけど、槍がスライムの酸にやられてダメになっちまったんで、金貨三枚じゃ大損っすよ。御曹子、もうちっと色つけてくれませんかね」

「わかった、わかったって」

 キリフさんとバーティールがそんなこと言って笑ってるね。

 ま、この件も、これで一件落着かとほっとするね。


 帰ろうとドアを開けたら、びっくりしたね。

 こっちの教会の服着た僧侶さんが立ってるよ。



次回「28.なんか怪しいねえ」

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