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24.そりゃあないだろ次男坊


 その夜はみんなでファアルさんの屋敷に帰って、泊めてもらったね。

 ラトちゃん、ハントのベッドに一緒に入って抱き着いて寝てるよ。

 いっぱい怖い目にあっただろうからな。やっと安心して眠れるってもんだ。


 翌朝、朝食を取って話を聞く。ラトちゃん食べる食べる。子供らしい遠慮のなさだが、手掴みはちといただけないな。フォークとスプーンの使い方ぐらいは教えたいところだわ。でも口の周りを汚してそれもめんこい。メイドのおばさんたちがもうめちゃめちゃ可愛がってるよ。

「で、あいつらどうなったんです?」

「朝食が終わったら見に行こう」

 見に行く? なんで? ファアルさんもおかしなことを言う……。


 ファアルさんに付いて行って街を歩いていくと、運河にかかる橋があるんだけど、そこにグルグル巻きに縛られた男どもが吊り下げられてるね!

 いやそこまでやるかい!


 さすがに逆さ吊りってわけじゃないが、男が全裸でち〇こ丸出しで縛られて、さるぐつわされてロープで橋から五人!

 ファルースはあーあーうーうー、もがいてるけどね。

 他の四人はもうあきらめ顔だねえ……。あの執事は勘弁してもらったみたいで、いなかったがね。

 あーあーあー、こりゃもうダメだわ。

 市民がみんなゲラゲラ笑いながら指さしてるよ。なぜか衛兵共がさっぱり来ないみたいでね、放って置きだわ。


 ファアルさんが苦笑いの顔で言う。

「貴族はね、恥をかかされたらもう終わりさ。どう言い訳しても、こんな目にあわされた時点で自分にはそれを防ぐ甲斐性が無く、自分を守らせる人望も無く、貴族としての義務も果たせぬ無能さをさらしたことになる。不注意極まりない貴族にあるまじき愚かな人間とね。領民からの信頼と人望だけが貴族の財産なのに、それを失ったらもう貴族としてはやっていけないよ」


「ここまでやるもんすかね……」

「殺すほうが簡単だと?」

「いや、それはさすがに」

「貴族としての兄を殺す。ま、それで十分だろう。身分を剥奪され、この街にいられなくなり、名を変え、どこぞの田舎に落ち延びてひっそり生きてくれればそれでいいさ……」


 身内が誘拐団の一味だったなんてことがバレたらハクスバル家にもめちゃめちゃ不名誉なことになる。なんで、この件は不問にする。だが、それとは関係なしにファルースには二度とハクスバル家の名を語ることができないようにする。これが罰かね。

 まあ俺がち〇こ丸出しで吊り下げられても、それがどうしたって感じで済むだろうけど、貴族がそれをされたらもう貴族として生きていけないってわけかあ。


「見ちゃダメだよラト!」

 ハントが笑ってひっくり返りそうになってるラトちゃんをあっちむかせて連れてっちゃったね。あっはっは。


 笑ってると、後ろのほうで一緒になって笑ってんのがあの大男だわ。

 ほら、こっち来るとき同行したあの商隊の護衛ハンターな。

 バーティールとか言ったか。

「おう兄ちゃん」

「お、キツネ頭のおっさんじゃないか。奇遇だな」

「もうその呼び名でいいわ……。俺らもう用事済んだんだけど、あんたたち帰りの護衛仕事見つかったか?」

「ああ、ちょうどいいのがあったんでちと予定より早いが、明日の朝出発。一緒に来るかい?」

「行く行く。ハントも一緒で頼むわ」

「了解、じゃ、明日の朝、宿屋で朝飯食ったらすぐギルドに来てくれ」

今頃になって衛兵共がやってきて、ロープを引き上げてるわ。

 全員そのまま歩かせてしょっぴかれてるね。領主の館に向かってる。

「なあおっさん、アレ、いったいなんなんだ? 知ってるか?」

 いやそんなこと言われても……。

「知らんね」

「あっはっは」

「ああ、いまどきの若いもんは知らんか」

 不意に隣で見物してた年寄りの爺さんが俺たちに言うねえ。

「『裸の領主様』だよ。昔話にもあるが、悪い領主や悪い貴族は、ああするんだ。領民のささやかな抵抗だね。貴族たる者、民衆にあんな目に遭わされるのは最高の恥辱でねえ、理由が何であれ、アレをされた領主や貴族は王様から爵位を剥奪されてしまっても文句が言えないのさ。貴族たる資格なしってね」

 そう言ってじいさんが笑う。

 うーん、それはわかる。侍で言う「士道不覚悟」ってやつだ。たとえ自分に非が無くても、こんなことされたら侍なら切腹物の不祥事だね。全く言い訳できねえよ。

「そうされたくなきゃ善政を敷き、領民に尊敬される領主たれってこったな。わしも実際にこうして見るのは初めてだが」

「へー」

 お国の伝統かねえ。

 まあ日本の昔話にも、殿様の横暴に平民がこれをこらしめる話はいっぱいある。似たようなもんかね。

 てな話して、バーティールの兄ちゃんとは別れたね。


「君らはしばらく私の屋敷に寝泊まりするとよい。ラトちゃんもね」

「いやあ帰るあてできたんで、明日の朝にはもう出ます。お世話になりました」

 ファアルさんにはそう言っとく。

「ハント、明日帰るぞ。例の護衛ハンターに混ぜてもらって」

「私はすぐにでもラトを連れて村に帰りたいですからちょうどいいです」

「お土産とか買ったり、食べ歩きしたり観光したり、やるんだったら今日中にしとけ」

「いえ、私はラトと昼寝してますよ。もうこんな街歩きたくもありませんね」

「じゃあ俺は好きにさせてもらうわ」


 街をあちこち見て回って、店にも入ってみたけれど、都子が喜びそうなもんというと、いろいろ珍しそうな調味料とか、乾物とか、そういうのかね。

 農協で旅行に行ってお土産買ってくると、都子がいつも「あなたお土産買うのがホントにヘタねえ」と呆れてたからな。なんでも、地元でもどこでも買えるものを買って来ちゃうらしいんだよ、俺は。

「なに買ってくりゃあいいんだよ」と聞くと、「こういうのは食べ物でいいの。凝っていいとこ見せようとして飾ること以外に使えない物を買ってくるのが一番困るの!」って念を押されたな、あんときは。

 そうそう、一応ラトちゃんの帽子も買わなきゃな。耳が隠れるぐらいのやつな。残念ながら狐の毛皮は無かった。あとで都子に作ってもらおう。


 夜、夕食が終わってから、ファアルさんが来て俺らに革袋を渡してくれたね。

「これは迷惑料、それと口止め料だ。いろいろとすまなかった。今回のことは内密に願いたい。兄上は夜遊びが過ぎて暴漢に襲われ取り巻きの仲間ともども身ぐるみ剥がれてさらし者、下手人は不明ってことで、決して口外しないようにお願いできるかい」

「そりゃあまあ、そうしますが。言いふらして得のある話でもありませんで」

「すまない。私はこれから本邸で父上と関係者とで話がある。明日は見送りに出てこれない。これでお別れだ」

「お世話になりました」

「いやいや。今後もなにかあったら遠慮なく声をかけてくれ。今後はこの屋敷じゃなくて、本邸のほうになるが」

 間違いなく長男のファルースが廃嫡で、跡継ぎはファアルさんになるってわけか。ま、そっちのほうがどう考えたっていいわな。

 数えてみると金貨百枚もあったねえ。

 俺とハントとラトちゃんで三等分ってことにした。ハントは「妹を取り戻せただけで十分です」って言って二人の分を遠慮したが、めんどくせえこと言うなって黙らせたよ。今回一番ひどい目にあったのはラトちゃんなんだからな。

 ラトちゃん金貨じゃらじゃらやって喜んでる。お金の価値がわかんないよな、エルフじゃね。無くすなよ。とりあえずハント預かっとけそれ。



 朝、朝食いただいて、メイドさんたちに見送られて館を出た。

 ハンターギルドに行くと、チーム・バリステスのメンバーが待ってたね。

「おいおいおいおい! このかわいいお嬢ちゃんはなんなんだ!?」

「かわい――――!」

「いやこりゃすげえ美人になるわ」

「いっ、いや、俺は、俺は断じてロリコンじゃないが……萌え――――!」

「賛成です」

 意外とあぶねえなお前たち。

「私の妹ですよ」

「ラトちゃんて言うんだ。お兄さんと一緒の馬車に乗るかい?」

「イヤ!」

 こええよお前ら。

 俺が元居た世界じゃな、小学生の女の子に声かけただけで事案発生。通報されて社会的に抹殺されるぞ? 俺らいい歳した男からしたら幼女とか女児とか、むしろ恐怖の対象だね。怖くて近寄れないわ。おかしな時代になったもんだねえ。


 ラトちゃんお兄ちゃんにひっついて離れないね。

 先頭のハントの馬の前に乗ってはしゃいでる。めんこいねえ。

 ま、俺は眺めておくだけにしておこうかね。


「よーし、出発!」


 バーティールの一声で、馬車隊が動き出した。

 俺の女房、都子が待つ、サープラストへ。


 早く会いたいわ。話して聞かせることがいっぱいある。寝かせないぞ。


次回「25.働かざる者食うべからず」

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