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2.メイドなばあさん ※


「どういうことだか俺にはさっぱりわかんねえ。なあ都子、どうなってんの?」

「ここねえ、異世界っていうのさ」


 そう言って、泣き止んだ都子が……、俺のなんか若返ってる女房が、俺の横に座ってる。信じられんわ。お前死んだはずだろ。


「わち死んだときのこと覚えてる?」

「覚えとるわ。忘れたこと無いわ。保育園に孫迎えにいって事故に遭ったろ」

「トラックに突っ込まれて」

「そうそう。居眠り運転の」

「あのとき孫守ったって言われて、女神様に褒められてねえ」

「ああ、舞子、今でも元気に学校通ってるぞ。もう高校生だ」

 農家継いでる長男の三番目の娘な。

「そうだったんだー。いやあよかった。とっさに突き飛ばしちゃって、あとどうなったか心配だったの」

「よくやったよ都子。さすがは俺の自慢の女房だよ。俺は悲しかったけど、お前がやってくれたこと考えたら我慢できたな。偉いよ都子」

「とっさのことだったからさあ、わちもあんまり覚えてないんだけど」

 そう言って笑う。昔の、若かった時の顔で。


「でね、偉いから異世界でもっと長生きさせてあげるって言われて」

「女神さんか。俺も死んだとき女神さんに言われたなあ」

「そうなんだ。わちとおんなじだねえ。あなたなにやったの?」

「話すとすげえ長い。面倒だからぼちぼち後で話すわ」

「やっぱりあなただわ。いつもそう」

「まずそっちの話聞きたいわ。お前なんで若返ってるの?」

「あなたもそうだべさ」

「なんでお前耳長いの?」

「エルフだから」

「えるふ? いすゞのトラック?」

「違う違う、そういう種族なの。長生きなの」


 そう言って黒髪から飛び出してる自分の長い耳を指でひっぱる。

「この世界ではね、人間と、それ以外の種族がいっぱいいてね、その中でもエルフって言う種族は人間の倍以上長生きでね、だから六十で死んだわちはエルフの六十歳で生きかえってさあ、だから見た目が実際の年の半分ぐらいに見えるわけ」

「へー。言われて見りゃ確かにお前三十過ぎぐらいの時の都子だわ。長男が中学入るかどうかぐらいの時かねえ」

「あなたもよ」

「俺も?!」

「ほら」

 そう言って身を乗り出して俺の耳をひっぱる。

「いてっいててて!」

「ほら長い」

 自分の耳を触ってみると確かに長いわ。

「ひええええええ。なんだこりゃ!」

「だからあなたもエルフになったの!」


 自分の手や、足や、体を見る。

 確かに若いわ俺。腕とか太くてたくましい。言われてみれば三十ぐらいの感じするかも。

 着てる服はなんかボロ布を適当に縫い合わせたみたいな粗末な服だな。靴も皮を巻きつけたみたいな。貧乏臭えったらないわ。


「あなたいくつで死んだの?」

「七十」

「だからあなた半分の三十五ぐらいに見えるわよ」

「俺も若返ってんのか!」

「そうそう。わち、転がって寝てるあなた見てものすごくびっくりしたもん。若い時の平助さんそっくりな人が倒れてるって!」

「そりゃあびっくりするわなあ……。本人だもんなあ」

「なんで死んだの?」

「ガンで入院して、二回目の手術したとこまでは覚えてるけどな、それっきりさ」

「そうなんだ……。みんな元気?」

「元気元気。俺は畑、全部息子と孫に任せて悠々自適だったよ。なんも心配すんな」


 目も赤く涙ぐんで俺を見る女房見て、俺もだんだん理解できてきたわ。


「で、ここどこ?」

「異世界」

「そんなこと言われてもなあ」

「とにかくわちの家に来て。もっとゆっくり話ししよ」

「お前ここで何やってんの」

「山菜集めてた」

「……貧乏くさい。どこいってもやるこたあ同じだな都子。家あんのか? 一人なのか?」

「ホントに貧乏なんだからしょうがないべさ。ぼろい家だけどあるよう」

「じゃ、そこ行くか」

「うん、ついてきて!」


 いやあ、若い女房、嬉しいねえ。

 女神さん、気を利かせてくれたってわけかい。大感謝だわ。

「都子」

「なに?」

「そのカッコなんだ? 白黒でフリフリでヒラヒラで若作りしすぎじゃね?」

「……悪かったわね。メイド服って言うの。わち、大きな屋敷で家政婦やってるの。こっちじゃメイドって言うの」


 ……女神さん。冥土で女房に会わせてくれとは頼んだけどさ、メイドの女房に会わせろとは言ってねえよ。なんか勘違いしてねえか?


 森と言っても、街道からすぐそばの所だな。ちょっと歩くと道に出た。

「ほら、あれがわちの家」

「すげえ! でっかい屋敷だなオイ!」

 屋敷って言っても洋館だな。レンガ造りで二階建てですげえでっかい大邸宅じゃねえか! 都子どんだけ稼いだんだよ!

「違う違う、それ当主様の屋敷。わちは使用人だから離れのボロ屋に住んでる」


 屋敷を取り囲んだ柵の扉を開けて、中に入る。

「あらミヤコさん、その方だあれ?」

 えらく年寄りのバ……オバサンが声をかけてくる。外人さんじゃねえか!

 俺より背でかいし。

 都子とおんなじ白黒の服着てるわ。

「あー……」

 都子、少し考えてから「わちの主人です! 生き別れになってた主人が、訪ねてきてくれたんです!」とか言ってる。


 えええええええええええ。

 いや何がびっくりしたって、都子が喋ってるのが日本語じゃないってことだよ!

 外国語かよ!

 ……いや、それにしたって、なんで俺、その意味わかんのかねえ?

 英語でないことぐらいは俺にもわかるぞ? どこの外国語だよ!


「ええっ……。ミヤコさんて記憶が無くなっていたんじゃあ」

「あっ、さっきこの人とバッタリ出会ったとたんに記憶が戻りまして!」

「そりゃあよかった! あんたー! あんた――――!」

 そういってばあさんが小走りに屋敷に駆け込む。


「なんだ記憶って」

「わちも十年前になんだかわからないままこの屋敷の近くで拾われてねえ、どう言い訳したらいいかわかんないから、『記憶喪失』ってことにしたんだあ」

「よくそんな言い訳思いついたな」

「テレビのサスペンス劇場で、困ったときはそう言い訳するべさ」

「お前そんなもんばっかり観てるから……」

「あら、あなたが観てた刑事ものだって年に一度はそういう被害者出てくるべさ」

「あるなあ……」

 人のことは言えねえな。

「でもお前外国語よくわかるな。びっくりだよ」

「あら、あなたもそうよ。『異世界言語翻訳能力』っていってね、異世界に生まれ変わる時、女神様が持たせてくれる能力なの。あなたも喋れるはずよう」

「そういや意味、わかったな」


「おうーい」

 そんなこと話してるとさっきの外人のばあさんがこっちを呼ぶ。

「当主様が話聞きたいってさ、おいでよ」

「行くわよあなた。わちがうまく話すからあなた調子合せてね」

「お、おう、わかった。まかすわ」



挿絵(By みてみん)


次回「3.女房の就職先」

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