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18.領主の息子はデキがいい ※


「そのハンター風の男、どんなやつでした?」

「ああ、大柄で、臭い服着て、禿げ頭で、ほほに傷がある……」

「間違いないです。そいつです」

 ハントが頷く。実行犯ってやつだな。


「そいつどうした」

射殺(いころ)しました。残りは川イルカの船だったもので逃げられました」

「ふーむ……」

 ムラクが考え込む。


「あったりまえの話だが、俺はそんな奴にペラペラ喋ったりはしない。せっかく取引できるようになった大事な顧客相手の情報をたとえ金積まれたって喋るわけがない。多分他の商人どもにも聞きまわっていただろうなそいつ」

「でしょうねえ」

「ハンターギルドに話はしたか」

「しました。身元も割れました。アランという五級ハンターです。四十過ぎてまだ五級でロクに仕事もできず食い詰めてはいたようで。そちらの線でも調べてくれています。ハンターが誘拐に手を出すのは重罪、永久追放ものだそうで」

「……トコル村か。一番人間の街に近いから手っ取り早かったか。要するにたいして腕の無いやつってことになる。腕のいいハンターなら足取りがつかめないぐらい遠くのエルフ村でやるはずさ」

「コポリとか?」

「いやあコポリ村にはサランちゃんがいるからね。あそこに手を出そうなんてハンターや野盗がいるわけないね」

「サランさんですか……鬼のような大女のエルフで、野盗を真っ二つにしたり頭を握りつぶしたりするコポリの守護神だそうで……」

 なんなんだよその女。ハントがそう言うとムラクがゲラゲラ笑うよ。


「はっはっは! そりゃあ俺が流した野盗よけの噂だよ! 実際に盗賊団退治出来るほど強いし、背はあんたより高いが、かわいい子だよ。誰か嫁にもらってやってくれないかねえ。あんたどうだい」

「……考えときます。でも人間の『かわいい』ってのはアテになりませんよ。人間にはエルフはみんな美男美女に見えるらしいですからね」

 贅沢言うねえ。コイツもエルフから見たらブ男に見えたりすんのかね。

 俺は都子でなんも不満ねえよ。こっちみんな。


「サランちゃんはおっぱいデカいぞ」

「!」

 ゴクリ。

 ……ハントがつばを飲み込む音がこっちまで聞こえたわ。お前そういう趣味だったのかよ。

「エルフはみんなほっそりして少女みたいな女が理想だもんな。妖精信仰ってやつか。逆に貴重だと思うがねえ。サランちゃんの胸はそりゃあもう……」

「ええええええ、エ、エルフはなにもそんな……。その、エルフの美しさというものはですね」

「太ももも、むっちりして尻もでかい。抜けるように色が白くて長い金髪を三つ編みにしてて、そりゃあもうエルフを見慣れた俺から見てもいい女だが……」

 ゴクリ。

「料理も上手いぞ」

「え」

「狩りの腕も確かだ。明るく素直で子供たちにも人気者だよ。エルフの男は見栄っ張りだから自分よりデカい女、男勝りな女は嫌がるだろ? あんたが見栄を張らなきゃいい嫁さんになるさ」

「……」


 なんなのその間。


「……あの、エルフではですね」

「ああ?」

「その……見栄っ張りとかそういうことではなくてですね、いえ、見栄なのかもしれませんが、エルフの男は、その、妻を、あの、要するに女を満足させられないと言うのは、大変な恥でありまして」

「知ってるよ」

「逆にソレができる男は、尊敬の対象でさえありますが、若い男女がなかなかそういうふうにならないのも、そういうアレがありまして」

「そんなこと気にしてるからエルフは過疎になるのさ。そういうのいいかげんやめたらどうだ。あんないい子を放っておくとか、エルフの男ってのはどんだけダメなんだよ」

「私がその、サランさんにですね、男と認めさせることができるのかとか……」

「あー、サランちゃん、そういうお前みたいな男、一番嫌いかもしれねーな」

「うぐっ」


 それぐらいにしとけハント。


「ちょっと商会で話を聞いてみよう。ここ数日の間に川イルカと船を借りた奴がいないかどうか」

 ムラクに付いてって、商人ギルドで話を聞くと、「ああ、いたねえ。一週間前に五日契約ぐらいで船と川イルカを借りた奴」と船着き場担当の奴が言う。

「どんな奴でしたか?」

「黒服の男だね。船と川イルカの保証金込みで即金で払ってくれたからよく覚えてるよ。『ちょっと遠出になるかもしれないから、万一返せない場合もあり得るんで』って言ってな」


 怪しいねえ。危ないことに使うに決まってるって感じだな。俺もいろいろ聞いてみるか。

「保証金ってのは、船もその川イルカってやつも返せなかったら取り上げられるカネなんだろ?」

「そうですよ」

「船とイルカは無事に帰って来たのかい?」

「まあ。三日前にはしけにつないでありましたから。イルカは放してやれば勝手に戻ってきますし」

「そいつ保証金返してもらいに現れたかい」

「まだ来てないんですよ。金貨五十枚とけっこうな金額なんですから無事に戻してくれるなら保証金を受け取りに来るはずなんですが」

 捨て金か。相当金持ちってことだな。いくら金かかってもいいからエルフを手に入れたいってことかね。


「そいつに心当たりは?」

「無いですね」

「もう一回見たらわかるかい?」

「わかるかもしれませんが、保証はできませんね。帽子を深くかぶってまして顔まではよくわかりませんでした。歳は五十ぐらいで杖ついてました。仕立てのいい服でお金持ちには見えましたが」

 ふーむ……。貴族か富豪か大商人か。

「無いと思うが、もしそいつ金を受け取りに現れたらハンターギルドのバルにすぐ教えてやってくれ」

「いいですよ」


 ……マズいなあ。ちょっと面白くなってきちまったわ。

 俺、刑事ドラマとか大好きで、畑仕事隠居した後は昼間はいつもテレビで再放送見てたからなあ。

 自分もあんなふうに事件解決してみたいとか、正直あこがれてたからよ。

 都子はサスペンス劇場派だけどな。

「刑事ものとサスペンス劇場は何が違うんだよ」って聞いたら、「男が主人公なのが刑事もので、女が主人公なのがサスペンス劇場」だってよ。

 わかりやすいわその分類。



「黒服で帽子かぶって杖持った初老の男か……」

 ハンターギルドに戻って、裏の事務所でバルとハントと俺とムラクで頭をひねる。手がかりといやあ手がかりだが、まだ雲を掴むような話だわ。

「その船見せてもらおう」

 俺がそう言うとみんな、「あっそれやらんといかんな!」って言う。

 現場検証ってやつだな。ワクワクしてきたぞ。


 さっきの貸し出し担当連れてきて、船を見るとハントが声を上げるね。

「これです! 見覚えあります!」

 五人ぐらいが乗れる足が速そうな小船だね。荷物を載せることよりも、速さを優先した感じのスマートな船だ。

「これを見てください」

 船尾に矢じりが食い込んでるのをハントが指さす。

「私たちエルフの矢です。突き刺さって抜けないんで折ったんですね」

 間違いないってことだな。

 船を隅から隅まで調べてみたが、他にそれらしい証拠は何もない。

 血の跡とかもな。

 ましてや八歳の女の子の痕跡なんてあるわけないな。

 (かい)とか(かじ)棒からとか指紋なんか取りたいねえ……。


「あんたたち指紋って知ってるか?」

「しもん?」

「手の指先の模様のことだ。ほらグルグルの渦巻き模様してるだろ」

 みんな一斉に自分の手を見る。

「ホントだ」

「気にしたこと無かったな」

「何かに触ったり、握ったりすると指の脂でその跡がモノに着くんだよ。その模様は一人一人全員違ってて同じものが一つも無い。だからそれを見比べると、犯人が特定できるんだぞ」


「……」

 みんな黙る。

「冗談言うなクソエルフ。そんな笑い話誰が信じるよ。もっとまともな証拠持ってこい」


 ……バル、お前やっぱり節穴だわ。


 指紋が証拠にならない世界か。やっかいだねえ。

 この世界あの指紋取るポンポンとか粉とか、写し取るテープとか無いだろうな。

 DNAだの血液検査だのそういう科学捜査が無い世界ってわけだ。

 うーん、銭形平次かよ。

 岡っ引きの平次も、科学捜査なんてものはなかったが、それでも聞き込みと状況証拠の積み重ねで推理して、人情を絡めて下手人に自白させるのまでがお約束だね。そのあと裏で操っていたやつらを十手で捕り物して投げ銭して捕らえるまでがテレビだとワンセットなわけだが、原作の銭形平次は正真正銘、まごうことなき探偵もので派手な捕り物は滅多にないんだがな。

 俺も十手でも用意しとこうか。この世界も悪いやつが剣持ち歩いてるような世界だし。散弾銃だと、問答無用で相手殺しちゃうからな。殺傷能力が高すぎるわ。


「さて、次は領主様の息子かね。ハント、手紙預かってたよな」

「はい。じゃ、次はそれ行きましょうか」

「まてまてまて。お前らだけじゃ話がややこしくなりそうだ。俺も一緒に行く」

「……バル、お前面白がってないか?」

「こんなことが表沙汰になったらハンターの面汚しなんだよ。自分たちの始末が自分たちで付けられなかったら大恥だ。一緒に話を聞かせてもらうぞ」

「好きにしろや」


 急がないと昼飯時間になっちまうわ。

 歩いて領主さんの屋敷に行き、正門で番兵に当主様から預かっていた手紙を渡すと、執事さんが来て案内してくれたねえ。

 まあ俺らみたいな下人は通用口からだけどね。

 サロンとか言う茶室に案内されて、しばらくして若い金髪の兄ちゃんが入って来たわ。これが息子のキリフ君かい。

「手紙は読みました。楽にして座ってください」

 俺一応バルとかハントに倣って立って頭下げてたんだけど。

 貴族に会う時ってのはまあこれが礼儀なのかね。覚えておこうかね。

「……待たせてすいません。さて、ジニアル男爵様からの紹介ですね」

「はい」

 なるほどよくできた息子のようだ。俺らみたいな下々の者にもちゃんと敬意を払う感じがいいね。


「あなたたちはエルフということですが?」

「はい」

 そう言ってハントが帽子を脱ぐ。俺も脱いでおくか。

「ふむ……エルフと言ってもいろいろ種族の違いがあるようですね」

 ちょっと驚いた顔になるなキリフ君。


「そちらのエルフの方。ハントさんと申されましたか」

「はい」

「奴隷狩りに誘拐された妹さんを探しに来たと」

「そうです」

「ふーむ。そのような犯罪、我が領で起こったとなると大問題です。御承知とは思いますが、五年前に国王の勅令により奴隷制度、奴隷差別は撤廃されました。現在でもそのようなこと行っている人物は大罪とされ厳罰に処せられます。国王陛下が進められている他民族、他種族との友好、融和政策にも反するもので、諸貴族、領主にも厳重に取り締まるよう通達されています。ハンターギルドもそう認識していますね」

「もちろんです。そんなことにかかわった奴はギルドの資格を永久追放して衛兵に突き出すことになってますし、通知を徹底していますが」

 そう言ってバルが返事する。この点ギルドが一枚かんでるなんて絶対思われたくないってわけだな。


「このサープラストはエルフの里に一番近い所にある市です。まあ誘拐の拠点に使われただけだとは思いますが、犯人の一味がここに潜伏しているという確証はありますかね」

「今のところは」

「みなさんはある程度、目星がついてこちらに来たのではないのですか?」

 さあて、これどうするかね。

 言っちゃっていいものかどうか。


「……言いにくいことですか? 例えば、これをやっているのが貴族じゃないかとか」

「……」


 みんな黙ったね。




挿絵(By みてみん)

次回「19.証拠はないけど怪しいやつ」

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