表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/38

15.ハントの初仕事


「さて、何から始めましょうか」

 みんなで朝飯を食いながらハントがそんなことを言う。

「お前なあ……。それは自分で考えろって言ったはずだぞ」

「あなた……。そりゃあいくらなんでもちょっと無理だべさ。きのう人間の街に着いたばかりなんだからさ」

「ふむ……。じゃあ俺の意見でよかったらだが」

「お願いします」

 いやそんな目で見んなハント。俺だってこっちに来てまだ一か月たってないからな?


「俺がこっちに来て真っ先に考えたのは日銭を稼ぐことだ」

「お金ですか」

「そう、妹を探す、妹を取り戻す。何をやるにしたってまず必要なのはカネだ。毎日の暮らしがあるし食い物だって買わなきゃならん。その日食べられる分の金は自分で稼ぐ。これができない奴はなにやってもダメだ」

 北海道の開拓は過酷で厳しい。金持ってる奴なんて開拓になんて来やしねえ。

 畑を開墾して作物を植えて、それが育って売れるようになるまでどうやって食う? 日銭が稼げない奴は自分の畑も始められないんだよ。それができなくて行き詰まって離農していった奴が何人いると思う。俺は日銭が稼げることが人間が人間であるために最低限必要なことだと思うね。

「お前なにができる」

「狩りができます。闘うことも。魔物を討ち取ることも多少。モノによりますが」

「一応ハンターになったんだ。ハンターギルドで仕事を引き受けちゃあどうだ」

「……わかりました」


「あなた、少しぐらいだったらお金……」

「ダメだ都子。一文無しで街に来てあとは全部人任せなんてコイツのためにならんて」

「あなたがそれ言うのはどうかと思うけど?」

 ぐっ……。そういや俺こっち来てから都子に頼りっぱなしだったか……。


「厳しいのねヘイスケさん……。少しぐらい助けてあげてよ」

 パールさんもですか。

「ヘイスケ、今までも私らとミヤコさんだけでやってきてたんだ。なに、すこしぐらいサボってくれてもまだまだ大丈夫さ。当主様の許しもいただいてるんだ、少し付き合ってあげなさい」

 ハロンさんもこいつの味方かい……。

「よろしくお願いします!」

 図々しいなコイツ、エルフってそういうもんなのかい。

 なんでも助け合い。逆にエルフだったら助けてもらうのが当たり前。そんな文化なのかもしれねえな。


 そんなわけで、朝から都子に二人分の弁当作ってもらって、サープラストのハンターギルドに出かけることになったわ。

 散弾銃の装弾も補充して、都子に小遣いもらって、屋敷の馬はさすがに二頭は借りられないから歩いていく。


 ……なんか騒ぎになってたねえ。

 ケガしてるやつが四人。一人は起き上がれないぐらい重症だ。

 若いハンターたちが集まってて、節穴バルが怒鳴ってやがる。

「討伐隊出すぞ! お前ら志願しろ!」

 何があったんだかしらんけど、俺には関係ないかね。

「ビビるな! 数で対抗すりゃあ倒せない相手じゃねえ!」


 うーん、掲示板見るとクマが出てるな。クマかあ……。まあツキノワグマだったらスラッグでも獲れるか。ヒグマにゃあまったく効かんけどな、内地ではスラッグでツキノワグマ獲ってるからなあ。


「誰も志願しないのかよ! ハンターの意地見せろ!」

 ワニだってよ。ワニがいるのかこの辺の川……。革が高く売れるかもしれないな。ほらワニ革のバッグとか高級品で高いだろ? 日本の若いねーちゃんはそんなもんよりおフランス製だけど、こっちじゃまだまだ……。


「だってそんなん三級四級の仕事じゃん!」

「一人殺されてるんだぞ!」

「俺らの仕事じゃねえよ!」

「ぐっ情けねえ」

 やれやれ、若い奴はヘタレばっかりで意気地なしかい。ま、どこでも同じだな。


「いったい何が出たんですか?」

 ぎゃあああ。やめろやめろハント。かかわるなって!

「バカエルフには関係ねえよ。引っ込んでな」

 みんなの視線がハントに集中するよ。

「エルフ……」

「エルフだ……」

「初めて見た……」

 そんな声が若いハンターたちから上がる。へえ、そんなに珍しかったのか。


「聞かせてもらいましょう」

「……ゴブリンが出たんだよ。ストレイン村の裏山の水洞窟に巣を作ってるらしい」

 若い奴が一人答える。ゴブリンって何?

「そちらの皆さんが遭遇したと?」

 そういってハントがケガしてる奴らを見る。

「投げ槍を投げられて命からがら逃げて来たそうだ。一人殺された」

 投げ槍か。原始人かよ。いや、原住民か? 人間相手はゴメンだね。


「なんとかしてみましょう。ギルドマスター?」

「フザけんなよお前。昨日来たばっかりで土地勘もねえ、山奥の田舎にいたエルフが一人で立ち向かえる敵じゃねえだろ。どうするってんだ」

「どうするかはこっちで決めます。報酬は出るんでしょうね」

「……緊急だ。金貨二十枚ぐらいならギルドで出してやるが、できるのか?」

「もちろん」

「一匹二匹じゃねえんだぞ。十匹はいたはずだ」

「一人案内を付けてもらいましょうか」

「……俺が行ってもいい。とにかく斥候だけでもやっておきたい。三級四級クラスのハンター集めるにも時間がいる」

「いいでしょう。ヘイスケさんはどうします?」

「お断りだよ。人間撃つなんて冗談じゃねえ。猟師の掟破りだね」

「……ゴブリンは人間じゃありませんよ?」

「え? そうなの?」

「小鬼です。赤い肌して裸で、ヘイスケさんより背が小さくて、頭が赤ん坊ぐらいの大きさで小さい角が頭から生えてます。投げ槍を使うのがやっかいですが弓で射殺(いころ)せます」

「お前の弓で射殺せるなら散弾銃で楽勝だよ」

 異世界で鬼退治か。なんだか桃太郎みたいだねえ……。


「クソエルフも来んのかよ! ハンター舐めんなよお前! ハトしか獲れねえくせによ」

 節穴バルが怒鳴るねえ。

「まだそんなこと言ってんのかよこの節穴野郎。シカ皮三頭分いっぺんに持って来ただろ。スライムも百匹駆除してやったよな」


 ギルドマスター、しかめっ面になるねえ

「……いいだろう。ただし、役立たずだとわかったらその場でゴブリンに食わすからなクソエルフ」

「クソはやめてもらう約束だぞ節穴バル」

「生きて帰れたらやめてやるよ。ちょっと待ってろ!」


 ギルドから馬借りて、三頭で街道を走っていく。

 バルもハントも剣下げてるんだよな。それで鬼の相手すんのかい。

 ハントはまあ弓も背負ってるし、そいつでなんとかなるかねえ。

 それにしても小鬼か。いったいどんな奴だ……。


 ストレイン村って所に着いて、裏山に近い農家に馬預けて、三人で登る。

 バル、ハント、俺の順だな。

 だいぶ藪もかき分けて、けもの道らしいところも選んで歩いて、洞窟ってやつの所まで案内してもらう。

「……お前一応狩人なんだな。生意気についてきやがる」

 山歩きなら慣れたもんだからな。七十になっても孫には負けてなかったわ。

「臭いですね。近いです」

 ……俺にも臭う。野生動物に共通する、一生風呂に入ったことのないツーンと来るションベン臭いにおいだな。エルフは鼻もいいみたいだ。


「さて水洞窟なら俺も知ってるわけだが、お前らどう攻略する」

「近くに川はあるんですね」

「そうだ、川の流れで削られて自然に空いた穴だからな。川の流れは変わって今はただの洞窟になってるわけだが」

「ならば洞窟まで斜面になってるでしょう。少し高いところから降りて見下ろせる場所から弓をかけて、近づいてきたやつは斬りましょう」

「……賛成だ。お前はどうする?」

 バルとハントは勝手に相談するがな、俺は別にどうでもいいや。

「好きにしろよ。俺は隠れて片っ端から撃たせてもらうわ」

「……隠れてコソコソ闘うのかよ。腰抜け野郎」

「あのなあ、猟ってのは安全第一、わざわざ危ない方法取る必要は無いんだよ。安全にやれる方法があるならそっちがいいに決まってるわ。素人じゃあるまいし獲物と真っ向勝負してどうするよ」

「その大口いつまでも叩けると思うなよ」


 お前ギルドマスターだろ。猟協会で言えば会長だろ。

 その会長がメンバー危ない目にあわせてどうすんだよ。無理だと思ったらさっさとやめる。そういう分別の無い奴は事故起こしたり違反したりするんだよ。

 ハンターだったら覚えておいてもらいたいね。


「……静かに。音を立てるなよ」

 木立を抜けながら山の斜面を下っていく。

「いた……」


 俺にもわかった。

 まさに小鬼……。なんちゅう気持ち悪い生きもんだ。鳥肌立ったね……。

 九匹……、かな。



 距離100m。さすがにスラッグじゃちと不安な距離だな。

「弓で射かけます。もう少し接近しましょう」

「そうだな……。斜面にいるとやつら登ってきて俺たちを取り囲む。お前の弓で何匹か倒し、開けたところに出てそのまま順に斬るのがいいだろうな。お前剣はどれぐらい使えるんだ」

「オーク相手でも二対一で勝てますね」

「信じるぞその言葉。クソエルフはどうする」

「まあしょっぱな四匹ぐらいなら。あとは援護すっから任すわ」

 俺のM870は五連発だからな。薬室に一発残した状態で弾込めするとして最初に連発できるのは四発だ。

「四匹って、お前……」

「距離50mでまず俺から撃たしてもらおうかね」

「メートルってなんだ」

「わからんか……。まあ、今の距離の半分ぐらいだ」

「そんな距離で殺せるのかよ!」

「ハント、最初にやるならどれだ」

「あの一番デカいやつ。リーダーでしょう」

「わかった。じゃ、前に出るとするかね。でっかい音がするからお前ら驚くなよ」


 そう言って、三人でコッソリ斜面を降りて、50mまで木に隠れながら近づく。

 音を立てないようにそっとスライドを前後させ、追加で弾倉に一発装填し、木に寄り掛かるようにしゃがんだ膝撃ちの姿勢から狙う。五発全弾スラッグ。

 今日の銃身は20インチスラッグ銃身だ。


「耳をふさげ」

 ちらと横目で見てバルとハントが両手で耳をふさいだところで、俺は耳を下にぱたんと畳んだ。

 できるようになりましてねえコレ! 都子に特訓させられたわ!


 ドォン! ジャキッ!

 デカい奴が頭を撃たれてぶっ倒れる!

 ドォン! ジャキッ!

 横にいた小さい奴が胸を撃たれてぶっ倒れる!

 ドォン! ジャキッ!

 こっちを向いた奴が腹を撃たれてぶっ倒れる!

 ドォン! ジャキッ!

 仲間に駆け寄ったやつが胸を撃たれてぶっ倒れる!



次回「16.鬼退治」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ