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13.クソエルフとバカエルフ ※


 目の前のエルフの若い男。いや、ほら耳長いもんな。

 長い金髪で目も青くて、背は高くてすらっとしてて、メチャメチャ美男子だよ。若い娘がキャーキャー言いそうなぐらい。都子もクラクラしちまいそうだ。エルフはどいつもこいつも美男美女ってどっかの誰かが言ってたけど、確かにそうだな。


「さっきから一文無しのくせにギルドに入れろ入れろってうるせえんだ。おまえ同じエルフだろ。このバカエルフ何とかしてくれ」

「クソエルフにバカエルフかよ。お前エルフになんか恨みでもあんのかよ」


 背の高い美男子なエルフが俺を見てびっくりするわ。

「ちょっと待ってくれ。ホントにエルフなのか? 私はあんたみたいなエルフ見たこと無いが……。髪は黒いし背は小さいし、そんなブサ……平らな顔のエルフどこにもいないが」

「お前今ブサイクって言おうとしたな? そう言おうとしたな? もう知らんわ。勝手にしろや」

 腹立つわー。どいつもこいつも失礼なやつばっかりだなオイ。


「帽子を取れ」

「お前に命令される筋合いはねえよ節穴バル」

「いいから取れ」

「ヤダよ。余計面倒になりそうだ」

 そう言うとバカエルフが俺の帽子掴んですぽんと引っこ抜いたね。

 当たり前だが俺の長い耳が飛び出したわ。


「しっ、失礼しました!」

「わかったら帽子返せバカエルフ」

 どうでもいいわ。俺だってエルフエルフ言われても困るわ。

 耳が長いだけで中身は北海道の農家のオヤジなんだから何喋ってもボロ出るわ。


「お前金も無いのにどうやってこの街入った? 衛兵が止めるはずだろ」

 そう言って節穴バルが聞く。

「川からカヌーに乗って、桟橋に勝手に停めてきましたが?」

「なにやってんだ商人ギルド……。さっさと追い返せこんな奴……。川から来たってことはタトンか、コポリか?」

「タトン村です」

「ハンターになってどうするってんだ」

「村長に『人間の街でエルフでもできる仕事がハンターぐらいしか無い』って聞いたからです」

「なんで村から出てきた」

「妹が人間の野盗に誘拐されたんです。その後を追って来ました」

「……奴隷狩りか」


 節穴バルの目が細くなる。

「……奴隷なんていんのかよこの世界」

「いねえよクソエルフ。俺ら人間はそんな野蛮人じゃねえ」

「さらったのは人間なんだろが」

「五年前に奴隷制度は完全に撤廃した。今は違法だ。重罪だぜ?」

「やってたんじゃねえかつい最近まで」

「うるせえ」

 とんでもねえ世界だな。しかし娘をさらうとかどうしようもねえやつもいるってわけか。警察もいねえ世界だもんな……。


「証拠はあるのか」

 バルがそう言うと、エルフの兄ちゃんが胸のポケットからカードを出す。

「一人、射殺(いころ)すことができました。そいつが持ってたカードです。これハンターのカードでしょう」

「寄こせ」

「イヤですね。ハンターもこの件に噛んでるってことになるでしょう」

「見せろ」

「見せるだけですよ」

 エルフの兄ちゃんがカードをバルの前にかざす。

「アランが……」

「やっぱり知ってるんじゃないですか。ハンターギルドもエルフの奴隷狩りに手を貸してるってわけですね。だから協力できないと」

 そう言ってカードを胸のポケットに戻す。

「バカヤロウ! そんな奴はハンターの面汚しだ。そんなもんに手を出した奴はギルドから永久追放だ! 口には気を付けろバカエルフ!」

「じやあこっちで勝手にやらせてもらいますよ」

「こっちでも調べる。カードよこせ」

「イヤですね」

「だったら協力しないが」


「バカエルフ、今ここでそのカード渡すと証拠無くなってあとでとぼけられて知らん顔されるぞ? それでもいいのか?」

 俺がそう言うと節穴バルが余計なこと言うなとばかりに俺をにらんだねえ。

「アランは除名処分にする。二度とハンターになれねえようにしてやる」

「コイツが射殺したって言ったじゃねえか。もう死んでるよ。意味がないね」

「調べるにしたってこっちにも証拠が要るんだよ。口出すなクソエルフ」

「お前みたいに人のことをクソだのバカだの言う奴信用できるか」

「私も信用できませんね」

「……」

 全員で睨み合う。


「……おい節穴、こいつハンターにしてやれ。手数料はタダ。そのかわりバカエルフはそのカード渡す。それでどうだ」

「……いいでしょう」

「……ついてこい。腕見てやる」

 折れたなバル。


「弓も矢もカヌーに突っ込んでありますけど……」

「貸し弓でいいだろ」

「自分の弓でないと当たらないに決まってるじゃないですか」

「そりゃそうか。おいクソエルフ」

 バカエルフとクソエルフのコンビ扱いかよ。いいかげん撃つぞお前。


「付いてってやれ、ハンターカード無しで武器持って歩いてると衛兵に止められるからな。武器の不当携帯で牢屋行きになる。衛兵に止められたらお前のハンターカード見せてやれ」

「しょうがねえなあ」


 バカエルフと商人ギルドの裏に回ると、一番隅っこに丸太削ったカヌーが停めてあったね。そこからでっかい弓と矢と剣、取り出してるわ。

 衛兵、見張り小屋で居眠りしてやがる。まじめに仕事しろよ……。


「おいバカエルフ」

「……エルフ同士でその呼び方は勘弁してくれませんかね。ハントです」

「俺はヘイスケだ」

「よろしくお願いしますヘイスケさん。そちらはどこの村の御出身で」

「説明が面倒だからそいつはやめにしてもらおうか」

「後で聞かせてください」

 面倒な奴だな。


 で、弓持って腰に剣下げて、ハンターギルドの的場行って、腕前のテストだな。


「構え!」

 ギリギリギリ……。おう素人の俺から見ても綺麗なイイ構えしてるわ。

 日本の弓道に通じるものがあるな。

「放て!」

 30m先の30cm四方の板のど真ん中にカツーンと当たって矢じりが貫通するね。いい腕してるわ。


「……合格。これ以上やる必要ないだろ。さすがはエルフ、そっちのクソエルフとは大違いだ」

 そう言って節穴バルがニタッと俺を見て笑う。

 面白くないね。


 ここで散弾銃あの的にぶち込んで的ごと吹き飛ばしてもいいが、さっきどうやってスライム獲ったのかはお前には教えてやらんって言ったばっかりだしな。

 見せると面倒になりそうだし、やめておくか……。



「六級スタートだ。有効期限は一年。一年間なにもハンター仕事やらなかったら資格は抹消するからな。一年経ったらまた……おおい! 待てよ!」

 もう帰ろうとした俺をカウンターの節穴バルが大声出して呼び止める。

「なんだよ。もう用は済んだだろ。次は来週だ来週!」

「こいつ連れてって事情を聞いてやれ。同じエルフだろ」

 俺はエルフじゃねえよと言いかけたが、それを言うともっと面倒になりそうなんだよな……。しょうがないかねえ。


 バルの長い説明が終わって、死んだ野盗ハンターのカードと交換で、ハントが自分のカードを手に入れた。

 ギルドを出る俺にハントがついてくる。

「こっちのことはなにもわからなくて……。御迷惑をおかけします」

「こっちのことはなんにもわかんねえのは俺も同じだ。あてにされても困る」

「そうなんですか。最近なんですかこっちに来たのは?」

 あーもう説明がいろいろ面倒くさすぎるわ。


 ぎゅるるるるる。

 ハントの腹が鳴る。腹減ってんのか……。

 もう夕暮れになりそうだ。面倒だがしょうがない。

「屋敷に帰るぞ。今夜一晩ぐらいは泊めてやる。あとは自分で考えろ」

「はい!」

 ギルドの前につないどいた馬にまたがり、そのまま東門からサープラストの街を出る。テキトーに流したが、走ってついてくるねえ! 若いからかねえ!


「おかえり! 心配したよう――――!!」

 もう日が沈んだ屋敷、都子が出迎えてくれてぶっちゅーだな。まああれだけ弾持ってけば何事かと思うよな。

「ほらお土産」

「金貨十枚も! どうしたのこれ!」

「だからスライム駆除してくるって言ったろ。報酬」

「あなたそんな危ないこと……」

「馬と散弾銃があるんだ。なんも危ないことないわ。それともう一つお土産」


 弓とリュックみたいなかばん背負って、はーはーぜーぜー息切らしてハントがやって来たわ。

 途中で振り切ってもよかったんだが、まあ馬のロードもだいぶ年寄りだしな。


「あらあらあらあら。いい男ねえ……」

 その芸能人見るような目やめてくれねえか?

 テレビの映画に出てくる海外スターみたいにいい男なのは確かだけどよ。

「……こいつにも晩飯食わせてやって」



「あらあらあらあら、いい男……」

 パールさんあんたもかい。

 当主さんの食事も済んで、屋敷の使用人全員で厨房のテーブルで夕飯を食う。

「こっ、これは旨いですね! 人間はいいもの食べてますね!」

 こっちの人間も大したものは食ってねえよ。都子の腕がいいんだよ。


「お客さんを連れてきて、私に紹介無しとはいただけませんな」

 そういって当主さん来たよ。ワイン持って。

 ほんっといい人だよアンタは……。

「すいません勝手なことして。ハント、俺の雇い主でこの館の当主、ジニアル・ハン・アルタース男爵様だ。礼をしな」

「夜分申し訳ありません。一宿一飯のお世話になっております。ハントと申します。この度はヘイスケさんに身元を預かっていただきまして、お礼を申し上げます」

 そう言って起立し、きっちり頭を下げて礼をする。礼儀作法はちゃんとできるんだな……。俺がかすんじまうわ。

 その様子を惚れ惚れするように見る都子とパールさん。

 やめてくれやアホらしい。


「ふむ、見たところハントさんもエルフ。奇遇な縁ですな。こちらにいるミヤコさんは十年前、近くで行き倒れになっているところを保護されまして、身元もわからず記憶もないということでしたので、私の屋敷でメイドとして働いてもらっております。そちらのヘイスケはミヤコさんのご主人でしてな、行方不明になった奥さんを探し続けて、つい先日、こちらにたどり着いてミヤコさんに再会を果たしたばかり。故郷も捨てて来たとのことで、今は一緒に働いてもらっております」


「そうだったんですか……」

 こっちみんなハント。いろいろとウソがバレそうだわ。



挿絵(By みてみん)

次回「14.面倒くさい説明は女房に任せるに限る」

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