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黒猫姫  作者: violet
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御玉様のお出かけ

孝明に一度会わねばなるまい、と思いながら御玉は華子の話を聞いている。

華子は頻繁に御玉の神殿に来ていた、神事の継承の為である。


「孝明は私を探す為に探偵を雇っていたらしいの。

黒猫を探せって、言われて探偵も大変よねー、世の中にどれだけいるんだか。」

ふむふむ、と聞きながら華子の持ってきたチョコレートを食べる狐。

「華子、これ美味いのぉ。

これから毎回これを持ってくるのだぞ。」

うんうん、と華子は首をふるが、

御玉(みたま)様、他にも美味しいものがありますよ。

試されますか?」

「もちろんじゃ!

昔は鹿鳴館でワインをいただいたのじゃ。

菓子も美味であった。

そうじゃ、華子、次は服を持ってまいれ。

美味しい店に我を連れて行くのじゃ。」

「御玉様、外に出れるんですか?」

なら、こんな神殿に(こも)っている必要ないじゃない、と思う華子。

「うむ、ただ空気が汚いからのぉ、すぐに戻らねばならん。

街の気は人の怨念やら、欲望やら雑念で汚れているからのぉ。」

苦手じゃ、と狐の目を細める御玉。


「孝明も呼ぶのじゃぞ。

幸子を探偵に探させているというのも聞きたいからな。」

「和泉沢以外の人間にも会えるんですか!?」

御玉様は和泉沢の最大の秘密である。

「そうじゃ、(おご)らすのじゃ。」

孝明は仕事で忙しい、は御玉に通じない。



孝明に連絡するとすぐに返事がきて、いつでもいいとあった。

残念ながら、奥宮ではスマホの電波は通じない。

御玉と孝明の連絡の為に奥宮に入ったり、出たりで忙しい。

神殿に戻ると御玉が先程持ってきた洋服を着ていた。

「御玉様?」

「そうじゃ。」

うりざね顔で細い眼、古典の平安絵巻にでてくる長い黒髪のお姫様がワンピースを着てそこにいた。

自分が黒猫になるのだ、狐が人間になってもおかしくない。

「孝明は何と言っている?」

「いつでもいいと。」

華子が言いきる前に、御玉が華子の手を取り外に向かう。

「これから、すぐに向かえに来いと言っておけ。」

そうじゃ、といいながら御玉は両手を広げて何かしている。

(わらわ)が外に出るには、準備がいるのじゃ。歳を取ると神力が増えてしまってな、周りに影響するらしい。」

その神力を押さえているらしい、1000年以上生きているとすごいんだろうな。

「すぐに孝明を呼べ。この靴は歩きにくいのぉ。」

では靴を買いに行きましょう、と和泉沢家の車をまわす。

「孝明には靴屋に来てもらいますね。」



靴屋に孝明だけでなく、父の靖親(やすちか)も飛んで来た。

「これは歩きやすいし、可愛いのぉ。」

次々と靴と洋服を買っていく御玉、とても華子のお小遣いでは足りないので父親に連絡したのだ。

嬉々として洋服を選ぶ御玉は目を輝かせている、いくつになっても女性だ。

孝明は誰だか聞きたいが、和泉沢靖親の様子で身分の高い人物であろうと判断はしている。

「靖親、ゆっくり話のできる(うま)い店がいいのぉ。」

(かしこ)まりました、とスマホで(みずか)ら予約する靖親。

店員も奇妙な客だと思うが、和泉沢家贔屓(ひいき)の店なので詮索(せんさく)などしない。



店を出て連れて行かれたのは赤坂にある料亭の個室であった。

老舗らしく、数坪ながら竹林を有し都会の喧騒(けんそう)から(さえぎ)られている。

孝明は来た事があるようだが、仕事でだろう。

もちろん華子は初めてである。

でてくる料理に歓声をあげるのは御玉、まるで子供のようである。

女将が挨拶にあがっているが、御玉のあまりのはしゃぎように顔が(ほころ)んでいる。

「女将、これは綺麗じゃ。しかも美味(うま)い。

料理長にとくと()めてたもれ。

これ、靖親、礼をはずめよ。」

和泉沢靖親がはい、と答えれば女将も上機嫌になる。

「お客様のお言葉に料理長も喜びます。」

と言いながら下がろうとする女将を御玉が止める。

「たまに馳走になりに来るぞ。

金は持ってないので、後で靖親が払う。それでいいな。」

御玉様、それほど会席料理が気にいったんだ、びっくりする華子。

女将と孝明はそれ以上に驚いて、これは誰だ、と思っているが聞く事はない。

「それでとりはかってくれ、女将。

突然変な時間に来るかもしれんので、よろしく頼むよ。

時間外は多めにつけておいてくれ。」

靖親が言うと、尚更驚くばかりだが、(かしこ)まりました、と女将は障子を閉めて下がって行く。


女将がさがり、靖親、華子、孝明、御玉だけになると急に肌寒く感じられた。

「孝明、妾はお主に会いに来たのじゃ。」

にっ、と御玉が口の端をあげる。その気配は今までと違い、寒々しい。

孝明が華子の方を振り向くと華子が言う。

「御玉様はご先祖様なの。」

「はあ!

幽霊が靴買ってご飯たべるのか!」

ははは、孝明は面白いのぉ、と御玉が笑い、空気が和らいだ。

和泉沢家に驚かせられる事には慣れた孝明だか、これは予想外であった。

「幽霊ではないわ!」

御玉の言葉に理解が追い付かない孝明に華子が説明する。

「1000歳を越えていらっしゃるの。」

それ、人間ではないだろう、と目で華子に問う。

「和泉沢の奥宮で暮らしておる、久しぶりに出てくると面白いのぉ。」

御玉は大好きなお酒を手酌(てじゃく)で飲んで上機嫌である。


「ほれ、孝明、はよ状況を話せ。」

一体何のだ?

「探偵の状況じゃ、幸子の手掛かりじゃ。」

お前も飲め、とばかりに御玉が華子に盃を渡す。

「状況は(かんば)しくありません。

警察も追ってますが、脱走方法もはっきりしないというのが現状です。

夜の見廻りの時にはベッドで確認されています。

その後、朝には居なくなっていた。扉の鍵もかかったままで。」

「内部に協力者がいるんじゃろうが。」

「それは間違いないでしょうが、見つからないのです。」

殺人犯が逃走したのだ、警察も躍起(やっき)になっている。

明日、探偵を呼ぶということで、御玉は靖親に連れられて帰って行った。

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