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黒猫姫  作者: violet
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和泉沢家

系図の勉強から始まり、家に伝わる史書、神事と和泉沢家の勉強は多岐にわたる。

特に神事は宝物庫に眠る多数の器や道具、装飾品ら全ての扱いがある。

華子は神具の一つを持ち、父の後に付いて屋敷中庭の神殿の中に入って行った。


「お父様、ここは?」

「華子に引き継ぎをしておかねばならない。」

父の指さす方を見る華子。

「ここは和泉沢の奥宮(おくのみや)になる、昔は上社、下社もあったようだが、現存するのはこの(やしろ)のみだ。

御神体(ごしんたい)は地下の祭殿にある、いや、おられるというべきか。」

靖親は御簾(みす)をあげ、書が奉納されている前に座った。

「靖親でございます。」

誰もいない空間から返事があった。

「華子を連れて参ったのじゃな、入れ。」

靖親は立ちあがると掛け軸の書をめくった。そこには下に続く階段があった。

「ここは御玉(みたま)様がお許しにならないと開く事はない。」

御玉様?なんだそれ?

薄暗い足元に気を付け階段を降りきると祭殿と呼ばれる広間に出た。


「よう来たな、靖親、華子。」

名を呼ばれた華子は目を見張った。

そこには高座に寝そべる狐、尾がたくさんあるのが見える。

九尾の狐と言うやつかもしれない。

「人の子は(わらわ)を忘れて困るのお。

華子は首が座る前にここに来ておるぞ、妾が洗礼したからのお。」

「そんなの覚えてませんよ、無理。」

「これ華子、御玉様になんて口をきくんだ。」

頭を下げろと靖親が言う。

「よいよい、靖親は硬すぎる。

皆、(わらわ)の子の子じゃ。」

あはは、と狐が笑って言う。

つまり、御先祖様ってことか、狐の嫁って本当だったんだと意外に冷静な華子である。

自分が猫に変化(へんげ)する以上に驚くことなどない、華子の根性はすわっている。


「華子は面白いのう、皆、最初はびっくりするものじゃ。」

「いろいろあったもので。」

「そうじゃ、それじゃ!

まさか、妾の血で幸子のようなのが生まれるとは思いもしなんだ。

許してたもれ。」

「まさか!

幸子さんを許すことなどできません。」

孝明の浮気を許すのとは訳が違う。


「当然であろうな。」

御玉は華子を見つめた。

(わらわ)はこの神殿を結界で閉じておる。

こちらの様子が外からはわからんが、外の様子もわからん。

幸子の禍々しさを気づくことが出来なんだ。

たくさんの苦労をかけたのう、華子。」

思わぬ言葉に華子の瞳から涙がこぼれる。

「それ、華子泣くな、その手に持つ(さかずき)をこちらによこせ。」

御玉は華子から盃、靖親から酒の入った徳利(とっくり)を受け取ると酒を飲み始めた。


上機嫌になった御玉は話が止まらない。

「それでのぉ、忠久様は妾に言ったのじゃ、嫁に来いとな。

もぉ、男らしくてな、玉はこの人しかいないと。」

ずっと忠久の話が続く。

どうやら、玉が嫁いだ相手で、靖親、華子の先祖らしい。

1000年以上前に亡くなった忠久をずっと想って、子孫を守っているんだ、と思うと感動してくる。

孝明なんて、8年留守にしていたら、あっちの女優、こっちのモデルと浮気だよ。


もしかして、選択を間違えた?

もっと大事にしてくれる人はいるんじゃないか?

他の男と比べてみるべき?

暗い衝動が華子の中に渦巻く。

今ならまだ間に合う?



祭殿を辞して奥宮に戻った華子は靖親に聞いた。

「御玉様に拝謁(はいえつ)しましたが、何も変わった気がしません。」

「和泉沢は御玉様を守るのが仕事だ、御玉様が我々を守るのではない。」

なんですって、御玉様から力をもらって悪を退治とかじゃないんだ!?

狐の姿を見て、ここは闇の世界に繋がっている入り口、などと思ったとは言えない華子である。


「すでに和泉沢の者は生まれた時から力を持っておる。

次期総領として生まれた者は特に大きな力となる。

私は雷を呼ぶことができる、使わないが。

華子は猫になるだろう。

次期総領のみ赤子の時に御玉様に洗礼を受ける、それを受けた者は次代を残すまで死ぬことはない。」

それで、私が行方不明になっても和泉沢の家では死んでいないと思っていたわけか。

確かに、普通じゃないよね。黒猫になる自分、尋常じゃない、これが和泉沢の血か。狐が化けるってやつ、もしくは、吸血鬼が蝙蝠(こうもり)になるというのと同じ?

この目で御玉様見たけど、人外っているんだ。

お父様のは狐じゃないよね、和泉沢って他にも妖怪の類が混じっているのかも。

ちょっと待て、子供の頃からケガとかは普通にして普通に治っていた、特に治りが早いとかではなかった。

死なないけど、大ケガとかはするってことだ、うわー。

もし、幸子さんの呪術が成功していたら、死なないけど生きてない、仮死状態ってこと?

御玉様の洗礼って単純に自分のお世話係をキープするだけのことだ。



「御玉様には清涼な気が必要だ。

周りがどんなに変わろうとも、和泉沢家の本宅は広大な敷地と庭である木立(こだち)を守らねばならない。」

常々、庭じゃない林だと思っていた事に納得する。

御玉様じゃなく、この土地を単純に狙っている、ということもあり得る。

今のままじゃ、和泉沢何代変わろうとも土地を売ることはない。


相続税、払えるかなぁ・・・





穏やかな日々は短かった。

幸子が医療刑務所を脱走したとの連絡が入ったのだ。

和泉沢家、是枝家に緊張が走る。

ニュースでも取り上げられたが、他の事件が起きるとすぐに扱われなくなった。



「居所はわかってはいないが、父親の運営する団体にいると思われる。

多分、彼は御玉様がいる地を狙っているのだろう。

和泉沢の血をひく幸子の能力を高める何かが彼にはあるのかもしれない。」

でないと、あれほどの呪術はできないだろう。

警察から連絡があったと父親が言う。

「じゃ、幸子さんは和泉沢をまだ狙っているということね。」

「そうだ、2年前の事件で私の命を狙ったことは立証されている。

たとえ私や華子になにかあっても、幸子は相続欠格で相続権はない、まだ何かあるのかもしれん。

十分に気をつけるように。」

つまりは、相続権のある親族が協力者にいると疑うべしということね。

御玉様は総領のみの秘密だが、漏れている可能性もある。

あの姿を見れば大きな力があるのはわかる、欲しがる人間もいるだろう。



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