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黒猫姫  作者: violet
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ロビー修羅場事件

孝明の会社の1階正面玄関から入ったロビーで華子が孝明を待っていたが、それは周りの注目を集めていた。

女子高生がいるような場所ではない、もう1時間以上待っているのだ。

薄い青色の花柄のワンピースに身を包み、艶やかな黒髪に白いきめ細やかな肌、大きな黒い瞳、揃えて座るしなやかな手足。


エレベーターが到着する度に顔をあげるが、待ち人がいないとわかると長いまつげを震わせて(うつむ)く。

長い時間、ロビーで誰かを待っているのは目を引く、ましてや華子はストレートの長い黒髪で美少女と言われる部類である。

実際に何人かに声をかけられている。

「ずっと待っているけど、ご家族をまっているのか?

僕が呼んできてあげようか?」

声をかけるのは男ばかりだが。

「ありがとうございます。仕事が終わるまで待ちますので大丈夫です。」

やんわりと華子が断るが、華子の周りに男達が集まって来る。

「お父さんを待っているの?

部署と名前を教えてくれたら、待っているって教えて来るよ。」

名前をゲットしようとする輩まで現れる。

この時点で華子は既に注目を集めていたのだ。



エレベーターが次々と到着して、たくさんの社員が降りて来る。

「華!」

華子の動向を注視していた人々が振り向く。

「専務!」

誰かが声をだした。

エレベーターからロビーに孝明が走って来る。

いつも機嫌がいいのか。悪いのかさえわからない表情で、仕事人間と言われる孝明だ。

こんな慌てている孝明は社内で見た事がない、周りの人間が驚いてさえいる。

「お前ら男は華から離れろ!」

華子の周りの男達をかき分けるように孝明が華子の前に来た。

「ごめん、待たせた。」

「孝明。」

この美少女は専務を待っていたのか、イケメン御曹司はいいよな、と周りが思った時、信じられない光景がロビーに繰り広げられた。

パーン!!

辺りに響く小気味のいい音。

立ちあがった華子が孝明の頬に平手打ちを繰り出したのだ。

孝明は少しよろけただけだったが、ショックの大きさは頬を押さえ驚愕した表情にでている。

「華?」

華子はバッグから週刊誌を取りだすと孝明に投げ付けた。

孝明は当たって床に落ちる前に週刊誌を受け取る。

そこには、孝明がモデルとの深夜デートがスクープされた記事があった。

「違うんだ!華!」

「何が違うの?」

「華だけだ!華だけを愛してるんだ!」

孝明が出した手は華子に払い除けられる。

「華のいない間だけのことだ。」

後から追い付いた秘書の安川も目を丸くして見ている。

「私も同じようにしようかしら?」

ふふんと華子が孝明に言う。

「殺してやるからな。

華を僕から盗る男など殺してやる。」

周りの社員達は、普段の孝明を知っているだけに、どうなっているんだと当惑して見ている。

「華のいない8年は狂っていたさ!」

「孝明。」

「突然居なくなった華を探して探して。」

「孝明!」

「和泉沢家の華は生きている、という言葉だけが頼りだった。」

華子が孝明に駆け寄り手を取る。

「明け方まで何度も街を探した。

華が絞め殺される夢で眠れなかった。」

「ごめん、孝明。」

孝明が無言で華子を見る。

「置いていってごめんなさい。」

「華だけだ。華が好きだ。」

「わかってる、ごめんなさい。」

「ごめん、華が一番辛い思いをしたのに。」

孝明が華子の指を絡めとり、指にキスをする。

周りに悲鳴に似た声があがるが、孝明は気にする余裕などない。

「でも、浮気の件は許さない。」

論点が刷り代わりかけた話を華子が戻す。

「殴ろうが、蹴ろうが、華の好きにしてくれ。

僕が悪かった。」

「許さないと言いました。」

「許してもらうまで、謝り続けるよ。華が好きなんだ。」

華だってわかっている。

生死のわからない自分を8年も孝明が待っていたことも、その間、清廉(せいれん)でいろというのは無理だということも。

だが、心が痛いのだ。


「専務!」

安川の声に孝明も華子も周りの者達もハッとする。

「専務、ここ会社のロビーで、すごい人だかりに成っていますから。」

「華子、紹介するよ。秘書の安川だ。」

これだけの注目を集め、修羅場を見せたのに孝明は動じた様子もなく華子に安川を紹介した。

「和泉沢華子です。よろしくお願いします。」

挨拶はしたものの、華子は恥ずかしくて、早くこの場から離れたくて仕方ない。

孝明と話したいと待っていたのが、平和そうな孝明の顔を見たら手が出てしまったのだ。

冷静に戻ると、衆人の目が集まっているのに居た(たま)れない。

「僕の婚約者だ、華子に手を出そうとするヤツは僕に殺されるのを覚悟しておけ。」

周りを威嚇(いかく)するように孝明が言う。


安川は、孝明の言葉を頭の中で反芻(はんすう)していた。華のいない8年、華が絞め殺される夢、華子様は誘拐されていたのかも知れない。

それが昨夜解放された、そう考えると辻褄(つじつま)が合う。

和泉沢といえば、あの和泉沢家だろう。格式も財産も特別な家だ。8年に渡って交渉がされていたのか、黒猫はどんな関係があるんだろう。

華子様の姿から考えると8年前は小学生か、いやまて、先程専務は1つ下だと言っていたが、この容姿は26歳には到底見えない、女子高生にしか見えない。

「安川、後は頼んだ。

僕は華を和泉沢家まで送って帰る。」

「はい。」


孝明達が去ると、集まっていた人だかりも口々に、凄い修羅場だった、などと言いながら消え去った。

明日の社内はこの話で持ちきりになるだろう。

孝明の婚約者は尾ひれをつけながら噂となり、あっという間に社内に知れ渡る事になる。



是枝家では、帰って来た孝明によって週刊誌などの捜査が行われ、孝明の女性関係を華子の耳に入れないように厳重注意がされた。

だが、この後『破局!』とのスクープ記事が(しばら)くとりだたされ、華子の目からそれらを隠す作業がメイド達に課せられることになる。




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