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黒猫姫  作者: violet
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広田の仕事

遠くでサイレンの音が聞こえ、幸子が一瞬気を取られたのを孝明は見過ごさなかった。

幸子に飛びかかってナイフを取ろうとしたが、一瞬早く、華子が孝明に飛びかかった。ミャー、と黒猫が飛び付いた孝明に登り始めて肩に飛び乗った。勢いのまま、猫の華子が孝明にキスをする。

思わぬ華子の攻撃に躊躇(ちゅうちょ)した孝明だか、目の端に幸子がナイフを振りかざすのを見ると、華子を抱えて横に飛び退いた。

「華、」

言い掛けた孝明は言葉につまる、華子が裸だからだ。サイレンの音が近づいてきている、この家に来るに違いないのに華子は裸だ。

「服着て!」

ナイフを振りかざす幸子を上着を振って対応する孝明、自分の後ろで華子に服を着させるためだ。


「こちらです!」

外から広田の声が聞こえ、たくさんの足音がする。

孝明達がいる部屋を探しているようだ、扉を開ける音があちらこちらからする。


バン!

大きく扉が開け放たれ、飛び込んできた警官達は、華子を背に庇い応戦する孝明と幸子を見つけた。

「こんな危険なところで止めてよ!新婚だからって!」

叫んだのは広田だ。

華子はほとんど服を着ていたが、外から来た人間には脱いでる途中に見えたのだろう。

広田の言葉で、警官達には孝明と華子が遊んでるところにナイフを持っている女が来た、と先入観が植え付けられた。


元々、身体が弱っていた幸子は、孝明との一戦で体力は無くなっていた。飛び込んできた警官達に抵抗することも叶わず取り押さえられた。

警官に向かい、孝明が言う。

「その女は、逃走中の和泉沢幸子です。」

え、と声をあげたのは警官の一人だ。

急に現場は緊張が走り、障害事件から大事件になった。署に連絡で人出を呼べ、大声が聞こえる。


「大丈夫ですか、お怪我は?」

数人の警官が孝明に駆け寄ってきた。

「大丈夫です。

僕は是枝孝明、こちらは妻の華子。

妻の旧姓は和泉沢華子。その幸子さんの従妹にあたります。

ここは和泉沢の親族の別荘なんです。」

孝明が説明している間に服を完全に着た華子が前に出て来た。

「お二人とも事情を署でお聞きしたいので、御同行願えますか?」

警官の一人が孝明に言うが、聞かれていない広田が返事をする。

「もちろんです、僕も行きます。」


後ろ手に手錠をかけられ、連行される幸子と華子の視線がかち合う。両方とも目を逸らさない。

「幸子さん。」

声を出したのは、華子だ。

「貴女はもう、何もできない。」

幸子に言い放つ華子の瞳が、猫の目の様な光彩になっているのに、孝明は気付いた。

和泉沢家の次期総領の力が動いた瞬間だった。

幸子は僅かに震えたが、警官にうながされ、言葉もなくパトカーに乗せられた。


「私は和泉沢華子、その立場が無くなる事はない。」

そういう華子の瞳は、人のものに戻っていた。



孝明と華子もパトカーで警察署に向かったが、華子が泣きだしたのだ。

運転席と助手席に座る警官達は、怖かったのだろう、と思いながら華子と孝明の会話を聞いている。

もちろん、全て記録に残るのだが。

「ケガは?本当に大丈夫?」

華子は確認するように、孝明の腕や足を触っている。

「大丈夫だよ。」

孝明が返事しても華子の心配は止まらない、袖をめくって確認している。

「ごめんなさい、ごめんなさい。

孝明、守ってくれてありがとう。」

「今度は守れた。」

孝明の言葉は、8年前をいっているのだが、それは華子にしかわからない。

和泉沢家では、華子が行方不明になった8年前に失踪届けを警察に出していない。

後部座席でいちゃつく新婚カップル、警察署に着くまでそれは続く。


警察署では先に着いた広田が待っていた。

「幸子さんは発作を起こして、病院に搬送された。

ものものしい護衛だったよ。」

「二度と逃がす訳にいかないからな、未だに逃走手段が見つからないのだろう。」

科学的に捜査するかぎり、みつける可能性は低い。それを孝明もわかっていながら言う。


「華子さん、御玉様が待っている。

早く事情聴取を終えて帰ろう、寂しがっているよ。」

広田が、御玉様が心配だ、と言う。

声にはださないが、華子にしてみれば、御玉は1000年以上一人なのだ、寂しがっている?

今頃、のんびり寝ているにちがいない。

「チーズケーキを買って帰りましょう。」

とりあえず妥協案をだしておく、心配はないが、退屈しているであろう。



「孝明が幸子さんを殺して、殺人者になるのは耐えられなかった。

たとえ、正当防衛が認められても。」

飛びついてごめんね、と華子が言う。

「ありがとう。」

孝明はそっと華子を引き寄せた。

二人でコソコソ話しているのは聞こえないが、甘い雰囲気いっぱいだ。

これから事情聴取なのに、緊張感のない取調室である。

一緒にいる広田は警官に、いつもこんなのです、と説明している。



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