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黒猫姫  作者: violet
19/24

那須の朝

朝から、コーヒーの香りで目が覚めた孝明は隣に華子がいないことがわかると、あわててキッチンに向かった。

華子が、孝明を見つけると、

「おはよう、席について。すぐにできるから。」

孝明の前にコーヒーカップを置いてキッチンに戻った。

「おはよう、華。」

華の煎れてくれたコーヒーを飲んでいると、すぐにベーコンエッグとトースト、スープが出てきた。

華も向かいの席に座る。

ああ、なんて幸せな朝の風景、と孝明が浸っていると邪魔者の声がした。

「華子、これは何じゃ?

美味いのぉ。」

「御玉様、それはカボチャのスープです。」

新婚家庭に居座るご先祖様、御玉である。

「御玉様、私は孝明と出掛けますので、お留守番できますか?」

「もちろんじゃ。」

トーストを持ったまま、御玉様が孝明に向かう。


「孝明、よいな。華子を守れよ。」

御玉の目は先ほどまで。スープではしゃいでた様子と違う。

「靖親からじゃ。」

そう言って出したのは鍵。

「一実の別荘の鍵じゃ、靖親が一実から借り受けた。

昨日は、華子には渡さなんだ。無茶をするからのぉ。

孝明、お前がいるなら大丈夫じゃろう。

靖親は身内を調べておる。

一実は何も知らないだろうと言っていた。

浩に気を付けるようにと伝言じゃ。」

「浩君?」

華子が思いもしない人物の名に聞き返す。


「靖親とて、8年間じっとしていたわけではない。

ましてや犯人が幸子とわかってからは尚更じゃ。

華子が居なくなって喜ぶ人物をマークした。

まずは幸子、これは犯人じゃった。

次に一実、浩。

どちらも無関係のように見えた。

じゃが、幸子の逃走に手を貸していると警察がにらんだのは浩じゃ。

浩が幸子の協力者だろうと言っていた。

浩にすれば、上手くやっているつもりだろうが、どこかにボロがでるものじゃ。

浩にとって、一実は全てにおいて邪魔者じゃ。」

そうだ、和泉沢からいく財産は全てが一実のもの。

父親の財産の半分がいっても、たいした額にならないだろう。

住んでる地も家も祖父から父を飛ばして、一実に相続されている。

一実が幸子の協力者となれば、相続からはずされる。

幸子と一緒に一実を没落させれば、全てが浩の物だ。

華子がそれで、いなくなれば和泉沢の全てが手にはいる。

「それで一実さんの別荘なのか、浩さんが合鍵でも作ったのかもしれない。」

「孝明、よくわかったな。

靖親もそう言っておった。

一実に幸子の協力者という罪を被せようとしているつもりらしい。」

「警察は証拠がないとどうにも出来ないから、僕達が乗り込むのでしょう。」


「妾は見ているだけじゃぞ。」

ニヤリと御玉が笑う。

「あはは、御玉様、今さらですよ!

今まで何か役に立っていましたか?」

華子が失礼なことを御玉に言っているが、御玉の方も平気な様子で孝明を呼んでいる。

「華子は幼い頃、妾の洗礼を受けておるから子を成すまで死ぬ事はない。

じゃが、ケガはするのでしっかり守れよ。」

言われた言葉に孝明は、当然です、と答えながら納得することがあった。

華子が行方不明の時に、靖親が華子は死んでいない、と言いきったことはコレだと理解するが、ケガをするには納得できない。

「御玉様、華がケガもしないようにしてくれませんか?」

御玉は孝明を横目で見て答えた。

「それでは、人でなくなってしまう。それは憐れな事じゃ。」

黒猫になるだけでも、十分に人からは遠いが、御玉の中では人間の部類らしい。

もう話は終わったと、御玉は華子にお代わりをしている。



食事の後、華子と孝明はバイクで一実の別荘に向かった。

バイクは少し離れた所に隠すように駐車して、歩いて向かう。

別荘は高い塀で囲まれ、外からは内の様子を覗き見る事はできない。

門のアーチから玄関に向かう僅かな距離でも、庭がよく手入れされているのがわかる。

イングリッシュガーデンの庭は冬でも、水仙の黄色い花とパンジーがエントランスを彩っている。

誰かが手入れしている、それは一目瞭然だった。

合鍵を使って中に入る、静まりかえっているそこは人がいるようには見えなかった。

昨日は、猫の姿でも戸締まりされた屋敷は忍び込むことは出来なかった。

応接室に入る、冷たくカビの匂いの空気が人の気配があるように思えない。

思えない、華子の足が止まった。

「違う!」

華子が前を歩く孝明に抱きついた。抱きつかれた孝明の足も止まり、華子に振り返る。

「華?」

「どうしたらいいか、なんて知らない!

でも、この空気はおかしい。まるで誰もいないように最初から思わされている。」

「カッコいいな、華。この空気が幸子さんがいる証なんだろう。

な、幸子さん。」

孝明が誰もいない空間に話しかけた。


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