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黒猫姫  作者: violet
17/24

孝明の幸せ

孝明の会社を辞める宣言から、不安、心配だと華子から離れない孝明。

御玉は面白そうに見ているだけで、広田は支払いさえしてくれるなら、好きにすればと言う。

「孝明と一緒に暮らしたいから、幸子さんのこと決着つけたいのよ。」

強行突破は無理だと思った華子は孝明を介入にかかる。

「そうだ、婚約指輪、新しいの買おうって言ってたでしょ。

ね、形が有るものがあるといいんじゃない?

孝明が仕事辞めたら、生活はどうするの?」

華子だって孝明に頼った生活は考えていない、父の後を継がねばならない。孝明が一時の感情で会社を辞めるのは、あまりに責任感が無さすぎる。

「このまま、華子がまた居なくなりそうで怖いんだ。

あの時、アメリカにいた自分を何度呪ったかわからない。

今度は側にいるんだ。」

昔はここまで、華子に依存していなかった、華子から離れてアメリカに留学したのだから。

8年で孝明はここまで壊れたのかと華子は思い知った。

自分が梅子ばあちゃんと暮らしていた間に、孝明は追い詰められていたのかもしれない。


バン!

「しっかりしなさいよ!孝明!

仕事を放棄する人間を私が好きでいると思っているの?」

華子が孝明の頬を打つが、孝明はされるままになっている。

パンパン!

「少しは抵抗しなさいよ、孝明!」

「しない。」

「無抵抗の人間を殴る私が悪く見えるじゃない!」

華子が、そういえば昔から孝明は反撃したことない、と思い出す。

残念ながら、知識や論述では孝明に勝てない華子はすぐに腕力にでていた。

「昔、幼稚園の時、華を振り払ったんだ。子供の1歳の力の差は大きい、そのまま華は後ろに倒れて頭をケガした。

2針縫う傷で、すごい血がでた。倒れて血まみれになっていく華を忘れない。

絶対に華に抵抗しない。」

ここ、と孝明が華子の後頭部をなでる。

それはトラウマになるだろう、と孝明の言葉に広田は思うが、華子は違うらしい。

「そんなの忘れたわ。昔の事、言っても仕方ないし。

今、同じようになるとは限らないでしょ。

8年前と今は違うわ、私が勝つわよ。」

あの時は心が迷っていたから、今とは違うと華子の決意は固い。

「華、カッコいい。」

クスリと孝明が笑う。


「だからね、会社辞めるとか、言わないの。

結婚してあげるから。」

はなー、と孝明が華子に抱きついてくる。

「大学の途中で、名前が変わるより、その前に変えておきましょ。

ほら、婚姻届出しに行くわよ!」

区役所に行くわよ、と華子に手を引かれて出ていく孝明を広田は不思議な気持ちで見ている。


「広田さん、御玉様の事お願いします。

和泉沢家に送り届けてください。」

華子が広田に言ってから、孝明と二人部屋を出て行った。

「ほんに、面白い二人じゃ。」

楽しかったのぉ、と御玉が広田に言う。

「あんな、是枝は初めてみました。

いつも自信ありげに堂々として、女の子達には優位なもの言いで対応していた。」

「そうかえ?

他には本気じゃないと言うことじゃ。

大切な者には気を回しすぎて、心配なんじゃろ。」

御玉は華子が持ってきた葛餅を食べている。

「御玉様、きな粉がこぼれています。」

広田が甲斐甲斐しく世話をする。

あ、そう言えばと広田がポケットから菓子を取り出した。

「可愛い包装だったので、御玉様が気に入るかと思って。」

広田からピンクのリボンと花で飾られた小さな箱を受けとり開けると、中には金平糖が入っていた。

一粒、口にいれると甘味が広がり、御玉の目が喜びで輝く。

「広田、ありがとう。」

可愛いのお、と御玉は頬を染めている。

可愛いのは御玉様ですよ、と広田は思う。


「御玉様は華子さんを手助けするんでしょ?」

広田は御玉がきな粉をこぼしたスカートの膝を拭きながら聞くと、御玉は首を横に振る。

「妾は、人間らしく暮らすように忠久様と約束したのじゃ。

力は使わん。」

和泉沢家の事は、広田も調べた。異形の能力者がでる古い家系としかわからなかった。

秘密の多い一族で、幸子の事件も一時期マスコミに騒がれたが、今は忘れられたようになっている。

殺人の時もそうだが、刑務所からの逃走ももっと騒ぐはずなのに、何かが動いていると思うしかない。

総領娘の華子の態度から、御玉も何かの能力があるのでは、と思っていたが本人の口から力という言葉が出た。

「忠久様とは?」

「妾の亡くなった夫じゃ。」

「御玉様結婚していたのですか!」

まだ、どうみても20代、夫を亡くしたとは辛いだろう。

もう、ずいぶん前のことじゃ、御玉が小さな声で言うのを広田は聞いている。

「和泉沢家まで送りますよ。」

広田が立ち上がり、コートを手に取る。

御玉は金平糖の箱を手に持ち、広田の後をついていく。





そうして2時間程して、孝明を伴って華子が和泉沢家に帰ってきて父親に報告を申し入れたのだ。

和泉沢家のサロンで靖親に対面して座る華子と孝明は手を繋いでいる。

「御玉様は無事にお戻りですか?」

「ああ、御玉様は広田という男を気に入っておられるようだな。」

とうに広田の事は調べてある靖親が華子に言う。

「お父様、先ほど婚姻届を出してきました。

夜でも出せるとは便利ですね。

結婚式は予定通りに行います。」

さほど驚いてはいない靖親に孝明が頭を下げた。

「大切なお嬢さんをいただき、これからも大事にして参ります。」

仕事の能力も折衝力も抜群と聞いているが、この男は娘にだけは能力を放棄する。相変わらずだな、と靖親は孝明を見た。

昔、華子がケガをした時に泣きながら謝りに来て、華子が死んだら一緒に死ぬと言い張った4歳児。

華子と婚約させて欲しいと家の前でハンストした小学生。

華子が行方不明になった時は頻繁に日本に帰って来ては探していた、スキップを繰り返して大学院まで4年で帰ってきた。

考えれば、華子に振り回されて哀れな男だ。

だが、大事な者をみつけた幸せな男なんだろう、嬉しさを隠せませんとばかりに笑う孝明。

この男がいるのが当たり前と思っていた我が娘も、8年で変わったらしい。

「そうか、入籍したのか、おめでとう。

だが、引き継ぎの事もあるので、しばらくは今のままで住んでくれ。」

27歳と26歳、今さら親が言う事もない、と靖親はしめくくる。


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