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黒猫姫  作者: violet
16/24

広田の調査

「却下。

死んだって離れるものか。」

孝明は華子の別れ話に即答する。

ほれ、みたことか、と御玉が言うが、そこには広田もいる。

広田の状況報告を聞く為に、是枝の家に集まっているのだ。

孝明と二人なら決心が(にぶ)ると、御玉や広田の前で華子は別れを告げたのだが、孝明にとっては一寸の考慮の必要もない。


「そんなことより。」

御玉が広田の腕を取る。

「御玉様!

別れ話がそんなことなんですか!」

華子の声は無視して御玉が腕に包帯をしている広田に聞く。

「このケガはどうしたのじゃ?」


広田は、和泉沢一実の那須にある別荘の近くで花屋のバイトをしているらしい。

「一実君も那須に別荘があるの?」

華子は、また那須、と不信に思う。

「警察もすでに調べてあるが、一実さんの母親の実家が那須に放置されているんだ。

祖父母が亡くなった後は誰も住んでいず、一実さんが相続して別荘ということになっている。

幸子さんも子供の頃、那須に住んでいた、従姉弟同士が近くに住んでいて関係ないはずない。

近所で花屋のバイトという潜入捜査さ。」

配達の時にケガしたんだよ、と腕をみせる。


「広田、お主は運動が苦手そうじゃな。」

「御玉様、僕は普通ですよ。どちらかというと考える方が楽しいですけどね。

潜入捜査なんて探偵だからできるんですよ、かっこいいでしょ。」

広田がどうして探偵をしているのかが、わかった気がした。

「一実さんの別荘は、誰も住んでいないはずなのに花が咲いているんですよ。

しかも電気のメーターが動いているみたいなんです。

一実さんのお祖父さん夫婦は定年後、都心から那須の別荘地に引っ越して来たんですよ。周りは全部別荘地。あまり人は定住していない。

幸子さん逃走後に一度、警察が捜査に来ているが、その時は何もなかったみたいです。

働いている花屋は、そういう別荘のオーナーから時々、庭の手入れの依頼がはいるので別荘地によく行くんです。」

広田が出した書類には、別荘地の地図や写真があった。

今日は定休日だからここに来ました、と広田が説明した。

さらに出したのが、警察の動向の調査書。

孝明が、それを見て気が付いた事を言う。

「広田、警察が病院をまわっているようだが?」

「幸子さんの弁護士が言うには、幸子さんはかなり心臓が弱っていて、小さな発作でも薬がないとどうなるかわからない状態だそうだ。

警察もあの体力で逃げ切れると思っていないふしがある。」


急に華子が立ち上がった。

「御玉様、那須に行くわよ!

幸子さんが弱っているなら、今がチャンスよ!」

孝明と別れるなんて弱気になっていた、幸子さんと対決よ。

そうよ、攻撃は最大の防御よ!

いきり立つ華子は何かに燃えている、もう逃げない。

「そうだ、華子さん頑張ろう!」

何故か広田が同調している、不思議な男だ。


御玉にとって、華子も幸子も子孫にかわりはない。長い時間を奥宮でほとんど寝て過ごしてきたので世情には疎いが、喜ばしいことではない。

もうどれぐらいの年月を自分は生きているのかさえ、覚えていない。

ずっと一人で山に住まい、自分の力を試す為に様々な事をした。

いつしか、お山の鬼と呼ばれていた。

忠久は自分を退治に来た男の一人であった。

人間が何人来ようが、雷を落とし、足場を崩し御玉に敵うものではなかった。

御玉の姿を怖がることなく、近づいてきたのが忠久だった。

「寂しいのか、一人だものな。

ずっと一緒にいてやるよ。」

優しい男じゃった、人間の生活を一つずつ教えてくれた。

俺が死んだら玉が一人になるのが心配だ、というのが口癖で、子供達に、玉は寂しがりだから一人にしないよう、いつも言っていた。



「広田さんが那須で住んでいる部屋は広いの?」

華子の言葉に慌てたのは孝明だ。

「却下!

華子、那須に行って探ろうとしているだろう。

受験はどうした?」

バレたか、と華子が愛想笑いをする。

猫になれば、どこでも忍び込めるとの魂胆が孝明にはわかっているらしい。

「センター試験で受験するから、終わったのも同じ。」

ブイサインをしている華子は合格しているつもりらしい。

それよりも孝明が問題である。

先ほど、華子の別れ話から様子が変だ。

べったり華子に引っ付いている、もうそれはねっとり、という類いである。

「華が那須に行ったら、会えなくなるじゃないか!

仕事は辞める、仕事の時間に華に何かあったらと不安で仕方ない。」


全員がびっくりしたが、最初に反応したのは広田だ。

「是枝、依頼の支払いはどうなるんだ!?」



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