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黒猫姫  作者: violet
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華子の迷い

御玉は毎日のように奥宮で本を読んでいる華子にうんざりしていた。

華子が足の静養と称して逃避でここに来ているからだ。

「のぉ、華子。

妾は広田とお出かけしたいぞ。」

華子は御玉の方を見たが返事はしない。

「華子は孝明と出掛けないのかえ?」

奥宮に来ている限り靖親以外は入れない。

「孝明と何かあったのか?」

ううん、と華子が首を横に振る。


「私、行方不明になったり、車に()かれそうになったりして孝明に心配ばかりかけている。」

この間、病院で入院した夜に考えたの、と華子は言う。

はい、と華子から渡されたマカロンを一口食べて、気に入ったらしい御玉が次もと手を出してくる。

「孝明って、私でなくとも他にもいるし、嫌われる前に終わった方がいいかなって。」

「他にいたのは華子が行方不明の間のことだろう?」

箱もかわいいのぉ、とマカロンを箱ごと持つ御玉。

「うん、私がいなければ孝明は別の女性でもいいんだ、って思ったら私から解放してあげた方がいいのかも。」

そすれば、次代が産まれてこんではないか、華子は孝明以外と結婚する気にならないだろう、御玉は口にはださないが和泉沢が途絶えてしまうと思う。

「広田も警察も幸子を捜しておる、やがて所在がわかるだろう。

第一、華子のそれは孝明の思いを無視しておる。」

「所在がわかるって、御玉様にはわかるのですか?」

「妾は先読みはしとうない、広田が言うには、警察も大規模な捜索をしている、いつまでも逃げ通せまい。」

幸子は逃げる目的があるのじゃ、じっとしておるまい。きっと見つかる。


「私は猫になって逃げれる。

でも孝明が巻き込まれたらと思うと恐いの。

孝明が死んでしまうかもそれない。

もっと恐いのは、それでも孝明を放したくない自分。」

きっと孝明は華子を(かば)う、孝明はどうなるのだ?

今回、華子の側を歩いていた無関係の受験生のようになる、わかっていても離れたくない。


「華子は孝明が他の女と一緒でもいいのか?」

「孝明が死ぬよりいいと思う自分と、死ぬほどイヤだと思う自分がいる。」

少し時間をおきたいの、と華子は言うがすでに8年の時間をおいたカップルである。

御玉にすれば、勝手にやってくれ、どうせ別れられないと思うばかりだ。

「私が結婚しなくても、一実さんや浩さんがいるから和泉沢家は大丈夫。」

誰じゃ?と御玉の意を取ったのだろう、華子が説明をした。

「従兄よ。

お父様の弟の息子達。」

「華子にもしもの事があれば、得する人間じゃな。」

警察も和泉沢一実と和泉沢浩の事は十分に調べた、御玉の言う通りだからだ。

「一実さんが先妻の息子で25歳、浩さんが後妻の息子で24歳。」

先妻と後妻の子供が1歳しか違わないというのは問題ありそうだ。

「靖親の弟は最低の男か?」

「女性関係では、そうだと思うわ。一実さんのお母様と結婚しているのに、浩さんが生まれたから。」

妾の子孫は問題児が多い、と御玉が思うが、問題のない人間などいないことを忘れている。

一実の母親は一実が全てを相続することで、離婚に応じた。

それは和泉沢の他の全ての親戚の承認の元に行われたため、和泉沢家からの相続権は父親を飛ばして一実になっている。

「一実さんは、そんな複雑な家庭に育ったのに、とても優しいの。」


そうか、幸子も複雑な家庭というやつで育っている。

使用人を付けて金に不自由ない暮らしじゃが、幸せな暮らしであったのかのぉ、御玉は一実と幸子の暮らしに思いをはせる。

「幸子の暮らしていた離れの屋敷に行くぞ。」

幸子が捕まって、屋敷は閉鎖されている。

「そうね!現場100回!」

華子は何か間違っているが、やる気はあるようだ。


心配でついて行くと言う使用人達を本宅に置いて屋敷に向かうことになり、広い庭の林を抜けたところに屋敷があった。

「あっ。」

小さな声をあげたのは華子だ。

「クレマチスが咲いている。」

幸子が教えてくれた花だ。幸子は花の手入れをよくしていて、見事な花を毎シーズン咲かせていた。

雑草が生い茂った庭の中でクレマチスが咲いていた。

冬の花がない時期にクリスマスローズやクレマチス、椿が幸子の庭で咲いていた。

「御玉様、幸子さんはいつも綺麗な花を咲かせていたのよ。」

花を大事にするような人が、どうして呪術などするのだろう。

「妾が思うに、幸子の力は精神に感応するのだろうな。

植物は幸子の力に左右されないから、好きだったのかもしれん。」

精神に感応、脱走も簡単にできそうだ。

御玉が華子に釘をさす。

「幸子は和泉沢の傍系じゃ、直系の華子が猫になるようにはいかんのだろう。

和泉沢の能力があっても、力が足りんのかもしれん。

力を補うには対価が必要なのかもしれん、だから供儀(くぎ)をしたのかもなぁ。」

華子、と呼ばれて御玉を振り返る。

「妾から受け継いだ力は人の世で生きるには、はみ出るのじゃ。

幸子も能力がなければ違った道があったろうに。」

「御玉様も精神感応ができるのですか?」

華子の問いに御玉は細い眼をさらに細めた。

「妾は何でもできる。得手不得手があるだけじゃ。

いつか、華子も広田も妾を残して逝ってしまう、寂しいことじゃ。」

何でもできるが、しない方がいいことはたくさんあるのじゃ、御玉の呟きは華子には聞こえない。

忠久様は、妾に子供達を守ることで、たくさんの鎖をつけたのじゃ。



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