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黒猫姫  作者: violet
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探偵広田

「お主は金に困っておるのかえ?」

御玉が探偵を見て最初に言った言葉だ。

今日の御玉は髪を編み込み、昨夜買ったピンクのワンピースと靴を履いている。

迎えに行った時にお化粧道具が欲しいと言われた。

昨日の外出で街や人々に興味を持ったらしく、時代が変わってわからんと言っていたらしい。


孝明が連れてきた探偵は広田といい、孝明の高校の同級生だそうだ。

大学を出て会社務めをしたが合わずに探偵になったらしい。

「学生時代から変わったやつで、推理小説ばかり読んでたな。

親がアパート経営しているので、金はあると思うが、本人がこんなやつなんですよ。」

孝明が広田の説明を御玉にしている。

広田が着ているヨレヨレのコートは質のいいものであっても、そうは見えない。

「昨日は風呂に入ったのかえ?」

「いいえ。」

細い眼をさらに細めていやみぽく聞く御玉に、平然と答える広田。

獣系の御玉も華子も鼻がいい、広田本人より着ているコートが(にお)う。

クンクン、華子が孝明に鼻を寄せている。

「どうした?」

孝明が華子がいつもと違う事に聞く。

「やっぱり、孝明の匂いはいい。」

さすがに孝明が赤くなった。

「いちゃつくのは、あっちでやってくれ。」

机に資料をドンと置いて広田が孝明に言った。


ふーと息をはいて御玉が言う。

「仕方あるまい、お前が(くさ)いのじゃ。」

「御玉さまー!

本人にむかって言っちゃいけない!

匂いはデリケートな問題です!」

さらに華子が広田に言葉のパンチをくりだす、全然デリケートじゃない。

「それは悪かったのぉ。」

たいてい男はデリケートで、時として女は残酷だ。


「それで、是枝、この女性達は?」

多少の自覚はあるらしい、広田が話を戻す。

「和泉沢家の御令嬢達だ。」

和泉沢と聞いて広田も察したらしい。

「婚約者、黒猫、逃走者といろいろ探したが、全てが和泉沢家だ。

一番探しやすいのが、今探している逃走者だ。」

机に置いた資料を広田が指さす。


孝明が華子を婚約者、御玉を華子の親戚と紹介する。

「婚約者も黒猫も見つかったと聞いたが、僕が何年も探しても手掛かりすらなかった。」

しかも婚約者は8年前に渡された写真と姿形が変わってないように見える。

高校の時から是枝孝明の婚約者は有名だった。

婚約者に会ったことはなかったが、孝明は部活もせず、授業が終わると一目散に婚約者の女子校に迎えに行き、婚約者と早く結婚したいからアメリカの大学でスキップをすると断言していた。

あの当時も近隣の学校の女学生達にもてていたが、婚約者一筋だった。


ふと視線を感じて広田が振り向くと御玉と目が合った。その視線の強さに悪寒がはしる。

「面白いやつよのお。」

クスッと御玉が笑うが空気は(なご)まない。

「そのうちに教えてやる、今は幸子のことじゃ。」


広田の差し出した資料には、推測される逃走経路から始まっていた。

「僕がわかる程度は警察もわかっているが、(おおやけ)に出来ないものだ。」

看護師が逃走に関わっているというものだった。

看護師が受刑者と単独で看護することはない、常に刑務官と一緒である。

ほんの数秒、刑務官の気が散ったら、看護師は受刑者に何かを渡すことは出来るのではないか。

それが複製された鍵であったなら、部屋を鍵をかけてから逃走できる、部屋に鍵がかかっていた状態をつくれる。

「密室の謎にしては、ずいぶん簡単だな。」

「あくまでも推測だ、証拠はない。

幸子さんが不整脈で心臓に問題があることで医師の診察回数が増えた。

怪しい看護師がいる。だが、この看護師が幸子を看護したのは、逃走の3日前だ。」


「幸子さんは和泉沢家の離れで一人で暮らしていた。

母親が亡くなった時は高校生だ、何故母屋に引き取らなかった?」

黙って御玉は聞いている、答えたのは華子だ。

「母屋は、直系の家族しか住めない。

離れには使用人を付けてあるわ。

跡継ぎ以外の兄弟姉妹も成人になると出るか、離れで暮らす決まりです。」

華子は今なら理由がわかる。

母屋は御玉の奥宮を守る砦だ。

中庭の林の中に社があるのは子供の頃から知っていたが、行く気にならなかったのは、御玉の結界がそうさせたのだろう。

「それは厳しい決まりですね。

和泉沢家というのは、かなり古い家系だ、それと関係が?」

広大な敷地に立つ母屋は大きい。

「他にもたくさんの古いしきたりがあります。

それを守ってきたから家系が繋がっていると考えてます。」

ちゃんと誤魔化すことが出来るかな、と思いながら華子は答える。

聞いている孝明も、猫になる華子、1000年以上生きている御玉、と和泉沢の秘密を守る為であろうと推測する。

それを知っている自分が直系の配偶者として認められている自覚はある。


「幸子さんは、和泉沢家を狙う為に逃走したと考えてます。

もう相続権のない幸子さんは、どうしてそこまで狙うのか不思議なんですよ。

婚約者の華子さんが8年前に行方不明になったことも関係があるのでは?」

「最初に命を狙われたのは、私だからです。

逃げるのに誰かに連絡を取る余裕などなかった。」

「呪詛ですか?」

広田の言葉に頷く華子。

それまで、広田の資料を読んでいた御玉が声をだした。

「この、那須というのはどこじゃ?」

華子がスマホで地図を出しわたす。

「おお、これは便利じゃ。妾も欲しいぞ。」

「御玉様のお住まいのところでは電波が通じません。」

結界で閉じているでしょう、と華子が暗に言う。

「これ、探偵、明日は那須へ妾を連れて行けよ。」

広田よりも華子が驚いた。

「なりません!御玉様!!」

華子の言葉に御玉の目が見開いた、もう誰も反論することはできない。


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