7.和解……したはず?
「あぁ、それにしてもどうしたものか……。」
リリアやアンドレアたちと話している間も件の“ツチヌコ”は俺から決して目を離さず、声になる様なならない様な……そんなほぼ音が鳴ってない状態の喉を圧し潰したみたいな唸り語をあげていた。
「コイツ、かなり怯えてしまっているな……。」
「子供……ではないみたいだから、ただ単純に僕たちが怖いからって事だろうけど―――。やっぱり一番の原因はルカ様でしょうから、暫くこの場所から離れていただければ少しは……。」
アンドレアとピエトロはそう話しながら、二人で俺の顔をチラリと見やる。
「――ウッ! でも………。」
「でもじゃなく! 人間の間では違うみたいですけど――自然界で暮らす者らにとって、目を合わせるってことは敵意があるって意味ですからね。目を覚まして早々、ルカ様はどうされましたっけ?」
アンドレアが痛い所を衝いてきた。
確かに……俺は更にやらかしてしまっていたのだった。
地球に居た時は猫と仲良くなる為に常に気を付けていたはずなのに、ここではいつの間にか気が緩みっぱなしとなっている。
生まれた時から俺の家には常に保護猫が居て、だからこそ気を付けなきゃいけないことも分かっていたはずなのに、1つどころか2つも失態をおかしてしまっている。
「―――分かった。暫くちょっと離れた所にいるよ。その子が落ち着いたら呼んでくれるかな。」
「「は~い!」」
二人に促された俺は仕方なく、“ツチヌコ”の方からは見えないと思われる精霊の手の陰へと隠れた。
とはいえ、どうなるのか心配な俺はソーっと覗いて状況を見守ることにしたのだった。
すると俺が視界から去ったことでだいぶ落ち着いてきたらしく、この“ツチヌコ”と友好関係を築こうとまずもって最も社交性が高くて優しいイブが鼻を近づけている。
“ツチヌコ”の方もニューっと首を伸ばして互いの鼻をチョンと近づけて匂いを嗅ぎ合っているみたいだ。
鼻から顔、そこから首へと匂いを嗅ぐ位置が移動すると次は体の匂いを嗅ぎ合い、最後に頬と頬を一・二回すり寄せた後にスッと互いに頭を離した。
そこまですると場の空気が和み、感染する様にして“ツチヌコ”から発せられていたピリピリとした緊張感も消えてゆき、それを感じ取ったイブが柔らかな声で話しかけていた。
勿論、当たり前だが猫語でね。
それを俺はドキドキハラハラしながら見守っていたのだが、イブが話をすればする程に“ツチヌコ”の態度はさっきまでとは一変して「申し訳ない」という雰囲気を纏い、みるみるうちに縮こまっていっていた。
だからと言って誰かが怒っていたり叱っているだけではなく、あくまでも終始穏やかな雰囲気のままであったのだった。
まぁそうはいっても、アダムだけは俺の手に爪を立てて傷を付けたことが許せず、怯える“ツチヌコ”に向かって絶えず睨みを利かせて厳しい態度でいたのだが………当人からしてみればもうそんなつもりも無いだろう。
さっきはパニックになっていた故に爪を立てられたが、猫というものは自分が弱者だと分かっていながら喧嘩を吹っ掛けたり手を出したりするような愚か者ではない―――はず。
地球での知識と経験が、どれだけこの世界で通じるかと聞かれたならば100%ではないが、それでもこうしてたくさんの猫たちと日々を過ごしていると分かることも多くある。
もしかしたらこの子たちが特別なのかもしれないが、猫たちは賢いのでこの世界にいる皆がそうだと信じている。
そういう風に考え、目の前で起こっている次第を見つめているとリリアが俺の方に振り向いてニコッと微笑み、おいでおいでと手招きをしてきた。
「もう………大丈夫?」
確認の為に一応聞いてみると、リリアが「大丈夫!」と返してくれた。
「ルカ様。この子はルカ様が自分を助けようとしていたことだと、ちゃんと話したら理解したようだにゃ。さっきはパニックになってて……ごめんなさいって。」
ウナ~ゥと弱々しく鳴く“ツチヌコ”の言葉を翻訳し、イブがこの子が話していることを教えてくれた。
「いやいや、俺も悪かったし――。そんなつもりはなかったんだけど、怖がらせちゃってごめんね。君をあそこで見つけた時からグッタリと倒れていたんだけど………体調はどう? どこか痛い所とか――ない? お腹空いてたりしない?」
「それが……ですねぇ――――。」
目が覚めたからといってそれだけでは安心のできない“ツチヌコ”のことを心配し、刺激しないようにとさっきよりは少し距離をとりつつもゆっくりと動いて座り、俺が体調の事などを尋ねると猫たちがザワつき出した。
「―――? どうしたの?」
互いに顔を見合わせながらオロオロと狼狽え、猫たちは迷っているみたいだった。
「ルカ様。この者………どうやらアヤツらしいです。」
「アヤツ?」
「いや、正確には少し違うみたいですが……。」
口をモゴモゴとさせながらピエトロが最初に口を開いた。
「ん?」
言い澱んで話の進まない様子に業を煮やしたのか、パウロがズイッと俺の前に進み出て話を続けた。
「この子ね、黄色エルフの街に行く途中で出会ったあの女の子の魂の欠片みたいにゃの。その魂の欠片があの時の猫と融合しちゃって……こうなったらしいのにゃ。」
「―――――はい?」
何が何だか、俺にはパウロの言っていることが理解できなかった。
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